無料法律相談はどこで受けられるか|法テラス・弁護士会・自治体・事務所の違い
法律事務所に相談の予約を入れると、用件を話し始める前に「お名前をフルネームで」「お相手のお名前も教えてください」と聞かれることがあります。まだ弁護士と話してもいないのに、なぜ相手の名前まで必要なのか、戸惑う方は少なくありません。中には、名前を出すことで話が大きくなるのではないか、相手に伝わってしまうのではないかと不安になる方もいます。
この確認は、事件の中身を知るためのものではなく、その相談を受けてよい立場にあるかどうかを先に確かめるための手続です。実務では「利益相反チェック」「コンフリクトチェック」などと呼ばれます。
この記事では、何を、なぜ、どの範囲で確認しているのか、伝えた名前がその後どう扱われるのか、名前が分からないときや言いたくないときはどうすればよいのかを、問い合わせから受任後までの順を追って整理します。
最初に聞かれるのは「事件の中身」ではなく「受けられるかどうか」
受付の段階で終わる確認作業
電話やフォームで問い合わせをすると、多くの事務所では、弁護士に取り次ぐ前に受付の担当者が氏名や相手方の名前を確認します。ここで行っているのは、法的な見立てではありません。先に相手方やその関係者から相談・依頼を受けていないかどうかを照合する作業です。
弁護士には、一方の当事者から相談を受けた後に、その相手方から同じ件の相談を受けてはならないというルールがあります(弁護士法25条、弁護士職務基本規程27条・28条)。これは「断ってもよい」という裁量ではなく、「職務を行ってはならない」という形で定められているものです。そのため、相談に入る前の段階で該当の有無を確かめる必要が生じます。
何を聞かれ、それぞれ何のために聞かれるのか
問い合わせの時点で尋ねられる項目は、おおむね次のように整理できます。事務所によって範囲は異なりますが、目的は共通しています。
| 聞かれること | 何のために聞かれるか |
|---|---|
| 相談者ご本人の氏名(フルネーム) | 同姓同名と取り違えないため/連絡と本人の特定のため |
| 相手方の氏名・会社名 | 先にその方から相談・依頼を受けていないかを照合するため |
| 氏名の漢字、生年月日、住所など | 同姓同名や表記違いを見分けるため(必要な場合に限られます) |
| 関係者の氏名 | 相手方以外にも利害が対立し得る人がいるかを確かめるため |
| 相談したい内容のおおよその概要 | 同じ人物でも別の事件かどうかを区別するため |
| 希望する日程・連絡方法 | 担当と時間の調整のため(利益相反の確認とは別の目的です) |
この中で戸惑われやすいのが、相手方の氏名です。ただ、照合は名前を手がかりに行うため、相手方の名前が分からないままでは、確認そのものが成立しません。「事件の内容だけ先に話す」という順序では、確認を済ませたことにならないのです。
利益相反とは何か[必要な範囲で]
一方の側にしか立てないという前提
弁護士は、依頼を受けた側の立場に立って主張を組み立てます。同じ事務所が対立する双方から話を聞いてしまうと、一方のために聞いた事情を他方のために使う余地が生まれ、先に相談した方の信頼が損なわれます。利益相反の規律は、この事態を避けるためのものです。
典型的な例としては、次のような場面が挙げられます。
- 離婚を検討している夫婦の一方から相談を受けた後、他方から同じ件で相談の申込みがある
- 交通事故で一方の当事者から依頼を受けている事務所に、もう一方の当事者が相談に来る
- 会社と元従業員が争っている件で、会社側の依頼を受けた後に元従業員から相談がある
- 相続で一部の相続人から依頼を受けている件について、他の相続人から相談がある
「相談だけ」でも対象になり得る
依頼(受任)に至らなくても、事情を聞いたうえで具体的な法的手段を助言する段階まで進んでいれば、その相手方からの相談は受けられなくなると解されています。最高裁も、相談を途中で断った場合や特に意見を述べなかった場合と、事情を聴取して具体的な法律的手段を教示した場合とを区別して判断しています(最高裁昭和33年6月14日判決)。
つまり、契約書を交わしていなくても、一度の法律相談が確認の対象になり得るということです。これが、受任中の事件だけでなく過去の相談まで照合される理由でもあります。
名前だけでは足りないことがある
照合が難しくなる場面
利益相反チェックは名前の照合を軸にしていますが、名前は思ったほど一意ではありません。実務では、次のような場面で確認が難しくなります。
| 特定しにくくなる場面 | 補うために確認されることがある情報 |
|---|---|
| 同姓同名の人がいる | 氏名の漢字、生年月日、住所、おおまかな年代 |
| 旧姓・通称・屋号で呼んでいる | 戸籍上の氏名、以前の姓、屋号と個人名の対応 |
| 会社名の表記が揺れている | 正式な商号、「株式会社」の位置、旧商号、所在地 |
| 相手方が名乗った名前しか分からない | 知っている連絡先、勤務先、やり取りの経緯 |
| 相手方が複数いる、まだ確定していない | 関係している人の一覧、それぞれの立場 |
追加で生年月日や住所を尋ねられることがあるのは、相手を詳しく調べるためではなく、別人と取り違えないためです。分かる範囲で構わない、という前置きが添えられることも多いはずです。
分からない情報は「分からない」と伝えてよい
相手方の氏名を正確に把握していない相談は、実際には珍しくありません。ネット上のやり取りだけの相手、勤務先の担当者名しか知らない場合、相手が名乗った名前が本名かどうか分からない場合などです。
こうしたときは、分かる範囲を伝えたうえで「これ以上は分からない」と伝えるのが確実です。曖昧なまま伏せておくよりも、後の段階で行き違いが起きにくくなります。事務所側も、氏名が判明していない事案があることは前提にしています。
どこまでの範囲が照合されるのか
担当弁護士だけでなく事務所全体
照合の対象は、相談を担当する弁護士1人ではありません。同じ事務所に所属する他の弁護士が受けられない事件については、原則としてその事務所の弁護士は職務を行えないとされています(弁護士職務基本規程57条)。弁護士法人については、弁護士法30条の18などに同様の規律があります。
したがって、「担当の弁護士を替えてもらえば受けられる」という形では解けないのが基本です。所属弁護士が多い事務所ほど、相手方が先に接触している可能性は相対的に高くなります。同じ地域で複数の事務所に問い合わせた際、ある事務所だけ受けられないと言われることがあるのは、こうした構造によるものです。
「相手方」以外も確認されることがある理由
利害が対立し得るのは、正面の相手方だけとは限りません。次のような立場の人が確認の対象に含まれることがあります。
- 相手方が法人の場合の代表者や担当者
- 連帯保証人など、支払をめぐって関係してくる人
- 相続で、まだ請求し合っていない他の相続人
- 同じ出来事に関わっている複数の当事者
- 交渉の窓口になっている第三者
「関係者のお名前も」と尋ねられるのは、相談を進める中で相手方になり得る人まで含めて先に見ておくためです。
事務所の外で受けた相談も対象になり得る
弁護士は、自分の事務所以外でも、弁護士会や自治体が開催する法律相談を担当することがあります。そこで受けた相談も、利益相反を判断する材料になります。事務所に来たことがない相手方について「受けられない」となる場合があるのは、このためです。
確認は一度では終わらない
三つの時点で見直される
利益相反の確認は予約時に行われますが、そこで完結するわけではありません。事情が具体的になるにつれて、新しい名前が出てくることがあるためです。
| 確認の時点 | そこで確かめていること | 該当が判明したときの扱い |
|---|---|---|
| 予約・問い合わせ時 | 相談者と相手方・関係者の名前で照合する | 相談の予約自体をお受けできない旨が伝えられる |
| 相談当日 | 話の中で出てきた関係者を含めて確認する | 途中で相談を中断し、他の窓口を案内されることがある |
| 受任後 | 事件の進行に伴って現れた当事者を確認する | 依頼者に事情を伝えたうえで、辞任その他の措置が検討される |
受任後に判明した場合の取扱いについては、弁護士職務基本規程58条・67条(受任後に職務を行い得ない事件と分かったとき)や42条(受任後に依頼者間で利害が対立したとき)に定めがあります。いずれも、分かった時点で速やかに依頼者へ事情を告げ、辞任その他の適切な措置をとるという枠組みです。
予約の段階で済ませておく意味
相談当日に初めて相手方の名前を伝えると、その場で該当が判明し、事情を詳しく話す前に相談を打ち切らざるを得ない場合があります。時間と交通費をかけて来所したうえで引き返すことになりかねません。
予約時の確認は形式的な手続に見えますが、相談者の側から見ると、無駄足を避けるための工程でもあります。
伝えた名前はその後どう扱われるのか
相手方に連絡が行くわけではない
「名前を伝えたら相手に知られるのではないか」という心配は、相談前の段階でよく聞かれるものです。弁護士は、職務上知り得た秘密について守秘義務を負っており(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)、共同事務所の他の弁護士や弁護士法人についても同様の規律があります(同56条・62条)。事務職員についても、弁護士が指導監督する義務を負っています(同19条)。
実務上も、相手方へ連絡が行くのは、依頼を受けて代理人として通知を出す段階に至ってからです。相談の予約を入れただけで相手方に何かが届くことは想定されていません。
もっとも、「何があっても外部に出ない」と言い切れる制度ではありません。守秘義務にも例外にあたる場面があり、事件が裁判手続に進めば、主張として相手方に伝わる事実も出てきます。どこまでを相手方に出すかは、相談の中で相談者自身が確認しておける事項です。
記録として残る
利益相反の照合を将来にわたって行うためには、過去に扱った事件の依頼者・相手方・事件名を記録しておく必要があります。共同事務所や弁護士法人については、こうした記録などの措置をとるよう努めるべきことが定められています(弁護士職務基本規程59条・68条)。
これらの条文は、規程82条2項で行動指針または努力目標として解釈適用すべき条文に挙げられています。そのため、記録の方法や照合の精度には事務所ごとの差があり得るという点は、前提として知っておいてよいでしょう。ある事務所で受けられなかった相談が別の事務所では受けられる、という事態が起こる背景の一つでもあります。
名前を言いたくないとき、言えないとき
ためらいの中身を分けて考える
名前を伝えることへの抵抗には、いくつか異なる理由が混ざっています。分けて考えると、対応が見えやすくなります。
- 相手に伝わるのが怖い……守秘義務の対象になり、予約段階で相手方へ連絡が行くことは想定されていません
- 名前を出すと事が大きくなる気がする……確認は照合のための作業で、手続が始まるわけではありません
- まだ相談するかどうか決めていない……相談と依頼は別で、確認をしたからといって依頼したことにはなりません
- そもそも正確に分からない……分かる範囲を伝え、不明であることをそのまま伝えれば足ります
完全に匿名のままでは進みにくい
一般論としての法律知識であれば、名前を伏せたまま尋ねることもできます。一方で、自分の事案について具体的な助言を受けようとする場合には、利益相反の確認が前提になるため、氏名を伏せたままでは相談自体をお受けできないという取扱いをしている事務所が多いのが実情です。
確認への協力が得られない場合に相談を見合わせる方針を、あらかじめ明示している事務所もあります。これは相談者を疑うためのものではなく、先に相談した別の方との関係で職務を行えない事態を避けるための運用です。
名前を伝えることは相談者の側にも働く
先に相談した側から見た効果
利益相反の規律は、双方向に働きます。相談者が先に相談していれば、その相手方は同じ事務所へ相談することができなくなります。トラブルの相手が先に動いていた場合には、その逆のことが起きます。
早めに相談しておくことには、期限の確認や証拠の保全といった理由のほかに、こうした側面もあります。ただし、相手に使わせないことを目的として複数の事務所に形式的な相談を持ちかけるような使い方は、制度が想定しているものではありません。弁護士法25条2号が「協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」という限定を置いているのは、こうした濫用を避ける趣旨と説明されています。
本人の名前を聞かれる理由は利益相反だけではない
三つの目的が重なっている
相談者本人の氏名を尋ねられる理由は、相手方の氏名とは少し事情が異なります。おおむね次の三つが重なっています。
- 利益相反の照合……本人が過去に相手方として記録されている場合もあるため、本人の名前も照合されます
- 連絡と特定……予約の管理、当日の呼び出し、書面の送付先の確認に必要です
- 受任時の本人確認……一定の事件を受ける場合や一定の資金を預かる場合には、日弁連の会規に基づく本人特定事項の確認が求められます
三つ目は、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づき、日本弁護士連合会が「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程」等を定めていることによるものです。相談の段階ではなく、一定の事件を受任する場面などで運転免許証等の提示を求められる仕組みで、利益相反チェックとは根拠も目的も別です。窓口で本人確認書類を求められた場合、この二つが混同されやすいため、目的を尋ねて差し支えありません。
窓口によって聞かれ方が違う
どこに相談するかによって、確認の形は少しずつ異なります。
- 法律事務所……予約時に相談者と相手方の氏名を確認する運用が一般的です
- 法テラス……担当者がすでに相手方やその関係者から相談・依頼を受けている場合には相談を受けられない旨が案内されています
- 弁護士会の法律相談……申込時に当事者名を確認し、担当弁護士との関係で調整が行われます
- 自治体の無料相談……担当する弁護士が交替制であることが多く、当日に確認が及ぶことがあります
いずれの窓口でも、確認の目的は共通しており、名前を尋ねられること自体は特別な扱いではありません。
問い合わせの前に整理しておくとよいこと
次の点をあらかじめ整理しておくと、最初のやり取りが短く済みます。
- 相手方の氏名を、分かる範囲で正確に(漢字、会社名は正式な商号)
- 相手方以外に関係している人がいれば、その名前と立場
- 名前が不明な場合は、代わりに分かっている手がかり(連絡先、勤務先、やり取りの経緯)
- 自分の側の氏名は、戸籍上の氏名と現在使っている姓の両方
- すでに他の事務所や公的な窓口に相談したことがあれば、その事実
最後の点は見落とされやすいものですが、同じ件で別の弁護士に相談済みかどうかは、進め方の判断に関わる情報です。伏せる必要はありません。
おわりに
相談の入口で相手の名前を尋ねられるのは、事件の中身に踏み込むためではなく、その相談を受けてよい立場かどうかを先に確かめるためです。確認は担当弁護士だけでなく事務所全体に及び、予約時・相談当日・受任後の各段階で見直されます。伝えた情報は守秘義務の対象として扱われ、照合のために記録されます。
名前が分からない、あるいは正確でない場合もありますが、その状態をそのまま伝えれば足ります。伏せたまま話を進めるより、最初に分かる範囲を出しておくほうが、結果として相談者にとって無駄が少ないといえます。
当事務所でも、ご相談の入口で相手方やご関係者のお名前を確認させていただいています。目的や扱いについて分かりにくい点があれば、その場でお尋ねください。


