大手事務所と個人・小規模事務所|規模による違いと選び方

若井亮

若井亮

テーマ:一般

弁護士を探していると、テレビや検索広告でよく見かける大きな事務所と、弁護士が一人、あるいは数人で運営している事務所の両方が候補に上がります。そのとき多くの方が「大きいほうが安心なのだろうか」「個人の事務所だと力不足なのだろうか」と迷います。

 結論から申し上げると、事務所の規模は、依頼者にとって確かめるべき項目の一つではありますが、それ単独で優劣が決まるものではありません。規模によって実際に変わることと、規模とは関係がないことがはっきり分かれているためです。

 この記事では、「大手」「個人事務所」という言葉が何を指しているのかを整理したうえで、弁護士法や日本弁護士連合会の規程を手がかりに、規模で何が変わるのかを具体的に見ていきます。

「大手」「個人事務所」に決まった定義はない


法律が区別しているのは規模ではなく「法人かどうか」


 まず前提として、弁護士の世界には「大手」「中堅」「個人事務所」といった規模の公的な区分はありません。何人以上を大手と呼ぶ、という基準も存在しません。求人情報や比較記事で使われている呼び方は、あくまで慣用的なものです。

 弁護士法が制度として区別しているのは、規模ではなく、その事務所が弁護士法人という法人格を持っているかどうかという点です。弁護士個人が営む事務所は「法律事務所」と称し(弁護士法20条1項)、法人化した場合は名称の中に「弁護士法人」の文字を使うことになります(同法30条の3)。

 したがって、「大手かどうか」を確かめようとするより、「何人の弁護士がいて、法人かどうか、拠点はいくつあるか」という具体的な事実を確かめるほうが、判断の材料としては確かです。

数字で見ると「小規模」のほうが標準


 日本弁護士連合会が公表している弁護士白書2025年版によると、2025年3月31日現在、全国の法律事務所は18,591か所あります。その内訳は次のとおりです。

事務所の規模事務所数に占める割合所属する弁護士に占める割合
弁護士1人62.17%24.99%
弁護士2人17.11%13.76%
弁護士3〜5人14.28%20.87%
弁護士6〜10人4.32%12.82%
弁護士11人以上2.13%27.56%


 弁護士が5人以下の事務所が、事務所数の93.56%を占めています。他方で、所属する弁護士の数で見ると、101人以上の事務所は全国に14か所しかないにもかかわらず、そこに全弁護士の約1割が在籍しています。

 つまり、事務所の数としては小規模が圧倒的多数であり、大規模事務所はごく少数に人が集中している、という構造です。「個人・小規模事務所」は例外的な形態ではなく、日本の法律事務所の標準的な姿だといえます。

東京でも一人の事務所が約6割


 同じ白書の弁護士会別の集計では、東京の三つの弁護士会(東京・第一東京・第二東京)に所属する弁護士は23,107人で、事務所は7,356か所です。このうち弁護士1人の事務所が4,400か所と、約6割を占めます。101人以上の事務所は9か所です。

 弁護士が最も集中している東京でも、多くの事務所は少人数で運営されています。「都心には大きな事務所しかない」という印象は、広告で目にする機会の差から生まれているものと考えられます。

「大手」と呼ばれる事務所には二つの系統がある


 一口に規模の大きな事務所といっても、依頼者から見ると性格の異なる二つの系統があります。ここを混同すると、比較の前提がずれてしまいます。

企業を主な依頼者とする大規模事務所


 一つは、企業の取引や国際案件、企業間の紛争などを中心に扱う事務所です。所属弁護士が数百人規模になることもあり、順位表の上位に並ぶのはこの系統です。個人の相続、離婚、交通事故、刑事事件といった相談を日常的に受ける体制になっていない事務所も少なくありません。

個人からの依頼を広く受ける大規模事務所


 もう一つは、個人の方からの依頼を広く受けることを前提に、広告と複数拠点で規模を拡大してきた事務所です。一般の方が「大手」と聞いて思い浮かべるのは、多くの場合こちらです。

 いずれの系統であっても、自分の相談内容を扱っているかどうかは、規模とは別に確かめる必要があります。人数が多いこと自体は、その分野を扱っていることを意味しません。

弁護士法人と法律事務所は何が違うのか


支店を出せるのは弁護士法人だけ


 弁護士法20条3項は、弁護士はいかなる名義をもってしても二か所以上の法律事務所を設けることができないと定めています。個人で営む事務所は、支店や分室を持てないということです。

 複数の拠点を構えるには、弁護士法人の形をとる必要があります。法人化の実務上の大きな利点は、この20条3項の制約を受けずに拠点を増やせる点にあるとされています。「駅前に何店舗も見かける」という印象が生まれる背景には、こうした制度上の事情があります。

弁護士法人だから大きい、とは限らない


 もっとも、「弁護士法人」という名称は、規模の大きさを意味しません。弁護士白書2023年版の集計では、全国の弁護士法人1,567法人のうち、所属弁護士が1人の法人が386法人、2人の法人が305法人で、1〜2人の法人が全体の4割超を占めていました。

 法人化の理由は拠点の増設だけではなく、事務所運営の継続性や会計処理の都合など、さまざまです。名称に「弁護士法人」とあることは、規模を推し量る手がかりにはなりません。

支店に弁護士が常にいるとは限らない


 弁護士法30条の17は、弁護士法人はその法律事務所に社員である弁護士を常駐させなければならないと定めています。ただし、従たる法律事務所(支店)については、その地域の弁護士会が周辺の弁護士の分布状況などを考慮して許可したときは、常駐しなくてもよいという例外があります。弁護士が少ない地域への進出を可能にするための仕組みです。

 したがって、近くに拠点があるという事実だけでは、そこに弁護士が常時いるとは限りません。近さを重視するのであれば、相談や打ち合わせが実際にどこで行われるのかを、予約の段階で確認しておくと行き違いがありません。

規模で変わること・変わらないこと


 依頼者から見て、規模によって差が出やすい事柄と、規模とは関係のない事柄を並べると、次のように整理できます。

項目規模による差
受付・予約の体制、折り返しの速さ差が出やすい
平日夜間・土日の対応差が出やすい
複数の分野を同時に扱えるか差が出やすい
担当者が途中で交代する可能性差が出やすい
事務所内で他の弁護士の確認が入るか差が出やすい
相手方が先に相談していて受けられない可能性差が出やすい
適用される法律と手続の期限差はない
裁判所が判断する枠組み差はない
守秘義務と広告に関するルール差はない
受任できる地域差はない


変わらないことのほうが多い


 表の後半に挙げたものは、事務所の規模にかかわらず共通です。守秘義務は弁護士法23条に基づくもので、一人の事務所でも数百人の事務所でも同じ内容の義務を負います。広告の表示に関するルールも日本弁護士連合会の規程で共通です。相続の期限や時効、刑事手続の流れも、依頼先の規模では変わりません。

弁護士に「管轄」はない


 弁護士には、医療機関のような地域の割り当てや、税理士の区域といった制約はありません。どの事務所でも、全国の裁判所の事件を受任できます

 ただし、遠方の裁判所に出向く場合には日当や交通費が生じるのが通常で、期日の日程調整にも影響します。近さは、能力の問題ではなく費用と時間の問題として考えると整理しやすくなります。

規模で最も差が出るのは「誰が担当するか」


相談した弁護士がそのまま担当とは限らない


 弁護士が一人の事務所であれば、相談を受けた弁護士がそのまま事件を担当することになります。一方、複数の弁護士が所属する事務所では、相談を担当した弁護士と、受任後に実際に事件を進める弁護士が別になることがあります。

 これ自体は不適切な運用ではありません。ただ、依頼者にとっては誰と何度もやり取りすることになるのかが大きな関心事ですから、確かめずに進めると後から違和感が残ります。

訴訟や刑事弁護は、依頼者が担当者を選任する仕組み


 弁護士法人に依頼する場合、契約の相手方は法人です。しかし、訴訟の代理や刑事事件の弁護人など一定の事務については、弁護士法30条の6により、法人は依頼者に、その社員や使用人である弁護士のうちから代理人・弁護人などを選任させなければならないとされています。

 つまり、訴訟や刑事弁護の場面では、担当者は自動的に割り当てられるものではなく、依頼者が選任する形をとるのが制度の建て付けです。「誰が担当するのですか」と尋ねることは、遠慮すべきことではありません。

「指定社員」の通知を求めることができる


 弁護士法人は、特定の事件について業務を担当する社員(社員弁護士)を指定することができます(同法30条の14第1項)。指定した場合、法人は依頼者に書面で通知しなければならないとされ(同条4項)、依頼者の側からも、相当の期間を定めて指定するかどうかを明らかにするよう求めることができます(同条5項)。

 この指定は、後で述べる責任の所在にも関わります。委任事務が終わる前に指定社員が抜けたときは、法人は新たに指定しなければならず、指定がされないときは全社員を指定したものとみなされます(同条6項)。

相談の場で確認しておきたいこと


  1. 受任後に実際に手続を進めるのは誰か(相談担当者と同じか)
  2. その方と、どのような方法・頻度で連絡が取れるか
  3. 担当が替わる可能性がある場合、どの時点で、どのように知らされるか


続けられるかどうか(継続性と責任の所在)


個人で営む事務所の場合


 契約の相手方は弁護士個人です。相談から解決まで同じ弁護士が担当することが多く、経緯の共有に手間がかかりません。その反面、その弁護士が長期の病気や事故などで職務を続けられなくなった場合、事件の進行が止まりやすいという面があります。

 気になる場合は、契約の前に、連絡が取れない状態が続いたときの取り扱いをどう考えているかを尋ねておくとよいでしょう。答えにくい質問ではありません。

弁護士法人の場合


 契約の相手方は法人ですから、担当する弁護士が交代しても委任契約そのものは続きます。事務所運営の継続性という点では、法人化の利点がここに表れます。

 責任の面では、弁護士法30条の15が、法人の財産で債務を完済できないときは各社員が連帯して弁済の責めに任ずると定めています。指定社員がいる場合は、その指定事件については指定社員が連帯して責任を負います。法人だから責任があいまいになる、という構造ではありません。

見落とされやすい「利益相反」という論点


 規模によって最も確実に変わり、しかもあまり知られていないのが、利益相反の当たりやすさです。

同じ事務所の別の弁護士が相手方についていたら


 弁護士は、相手方から相談を受けて助言した事件や、相手方から受任している事件については、職務を行うことができません(弁護士法25条1号から3号)。

 さらに、複数の弁護士が事務所を共にする場合について、弁護士職務基本規程は次のように定めています。所属弁護士は、他の所属弁護士が職務を行い得ない事件については、職務を行ってはならない(57条)。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りではないとされています。また、他の所属弁護士の依頼者について知り得た秘密を漏らしてはならず(56条)、受任を防ぐために依頼者・相手方・事件名を記録するなどの措置をとるよう努めることとされています(59条)。

 予約や相談の際に相手方の氏名を聞かれるのは、この照合を行うためです。答えたくない気持ちが生じる場面もありますが、確認しないまま進めると、後から受任できないことが判明して時間を失うことになります。

弁護士法人の場合


 弁護士法人については、法人が業務を行えない事件が弁護士法30条の18に列挙されています。相手方の協議を受けて助言した事件や、法人が受任している事件の相手方からの依頼などが対象で、社員の半数以上が個人として職務を行えない事件も含まれます。所属する弁護士の側にも、法人が相手方から受任している事件などについて制限があります(同法25条8号・9号)。

 なお、共同事務所に関する規程57条の違反にとどまる場合について、最高裁は2021年(令和3年)4月14日の決定で、懲戒の原因となり得ることとは別に、訴訟行為の効力そのものには影響しないという判断を示しています。弁護士法25条1号違反の場合に相手方が排除を求められるとした判例(1963年の大法廷判決)とは、扱いが異なります。

早めに動くことが選択肢を残す


 実務上の意味は単純です。所属する弁護士が多い事務所ほど、すでに相手方が相談・依頼している可能性は高くなります。裏を返せば、先に相談しておけば、相手方はその事務所に依頼できなくなる場合があるということでもあります。

 これは「大きい事務所は避けたほうがよい」という話ではありません。規模によって断られる理由の種類が変わるというだけのことです。断られた場合も、その事務所に問題があるわけではなく、制度上そうなっているのだと理解しておくと、次の候補に落ち着いて移ることができます。

費用は規模では決まらない


 弁護士報酬について、日本弁護士連合会の統一基準は2004年に廃止されており、現在は各事務所がそれぞれ定めています。したがって、規模が大きいから高い、小さいから安いという一律の関係はありません

 また、日本弁護士連合会の業務広告に関する規程3条5号は、特定の弁護士や事務所と比較した広告を禁じています。「他の事務所より安い」といった横並びの比較が広告に出てこないのは、この規律があるためです。金額の高低を外から比べる材料は、そもそも用意されていないと考えたほうが実態に合います。

 確認すべきなのは水準ではなく、費目と、それが発生する時点です。相談料、着手金、報酬金、実費・日当がそれぞれいくらで、どの段階で支払うのか。途中で終了した場合にどう精算するのか。この四点は、規模にかかわらず同じように確かめられます。

規模ではなく「この事件の進め方」で選ぶ


 ここまで見てきたことをまとめると、規模は選択の出発点ではなく、確認事項の一つという位置づけになります。実際の手順としては、次の順で確かめていくと整理しやすくなります。

  1. 自分の相談が、その事務所の扱う分野に含まれているか。同じ分野でも、どちらの立場からの依頼を想定しているか
  2. 受任後に手続を進めるのは誰か。連絡方法と頻度はどうなるか
  3. 相手方の氏名を伝え、利益相反の確認を先に済ませられるか
  4. 費用の費目と発生時点、途中終了時の精算の考え方
  5. 自分にとって不利になり得る事情まで説明があるか


 そのうえで、重視したいことごとに、規模より先に確かめるべき点を挙げると次のようになります。

重視したいこと規模より先に確かめたい点
最初の連絡が早いこと受付時間、折り返しの目安、担当者に届くまでの経路
同じ人に最後まで見てほしい受任後の担当者、交代の可能性、交代時の連絡方法
夜間や休日にも連絡したい時間外の連絡手段と、その範囲でできること
複数の問題をまとめて相談したいそれぞれの分野の取扱いの有無と担当の分かれ方
費用の見通しを先に知りたい費目、発生時点、実費の扱い、途中終了時の精算


 これらはいずれも、規模を尋ねなくても答えが得られる質問です。逆にいえば、規模だけを見て決めると、この五つがすべて未確認のまま契約に進んでしまうことになります。

おわりに


 大きな事務所には受付体制や人員の厚みという特徴があり、少人数の事務所には担当者が変わりにくいという特徴があります。どちらにも成り立ちの理由があり、一方が他方より優れていると一般化できるものではありません。

 規模の違いが依頼者に実際に及ぶのは、主に連絡のしやすさ、担当者の決まり方、利益相反の当たりやすさの三点です。適用される法律も、手続の期限も、裁判所の判断の枠組みも、規模では変わりません。

 迷ったときは、事務所の大きさを比べるより、「自分のこの問題を、誰が、どのように進めるのか」を尋ねてみてください。その質問への答え方こそが、規模の情報よりもはるかに多くのことを教えてくれます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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