マッチングアプリで会った相手から被害届|経緯の記録が意味を持つ理由

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

マッチングアプリで知り合った相手と会ったあと、相手本人から「被害届を出した」と告げられたり、警察から連絡が入ったりすることがあります。身に覚えがないと感じている方も、思い当たる場面がある方も、まず知りたいのは「これから何が起きるのか」「今のうちに何をしておけばよいのか」ではないでしょうか。
 この記事は、被害の申告を受けた側、あるいはその可能性を不安に感じている方に向けたものです。性犯罪の被害は現実に存在するもので、捜査を逃れるための方法を説明するものではありません。ここで扱うのは、出会いから別れるまでの経緯がどのように見られるのか、そして、その経緯を裏づける記録がなぜ意味を持つのか、という点です。

「被害届を出された」とは、手続のどの段階か

 被害届は、被害を受けたとする人が、その事実を警察に申し出るものです。犯罪捜査規範61条1項は、警察官は犯罪による被害の届出をする者があったときはこれを受理しなければならないと定めています。受理されたということは捜査の入口に立ったということであり、その時点で犯罪があったと認定されたわけでも、処分が決まったわけでもありません。
 その後の進み方は一通りではありません。任意の事情聴取から始まることもあれば、逮捕状が請求されることもあります。逮捕には、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由に加えて、逮捕の必要性が求められます(刑事訴訟法199条、刑事訴訟規則143条の3)。身柄を拘束せずに捜査が進む在宅事件になることもあり、その場合は数か月単位で時間が流れることもあります。

問題になる罪名は一つとは限らない

 アプリで会った相手からの申告というと不同意性交等罪(刑法177条)や不同意わいせつ罪(同176条)が思い浮かびますが、実際には、暴行、傷害、住居侵入、撮影に関する罪、金銭のやり取りをめぐる罪などで申告されることもあります。いずれの場合も、当事者の説明が食い違いやすいという点は共通しています。

アプリでの出会いで「経緯」が問われやすい理由

 共通の知人がいない、知り合ってから会うまでが短い、その日限りで連絡が途切れている。アプリ経由の出会いには、当事者以外に事情を知る人がいないという特徴があります。二人だけの場面について双方の説明が食い違えば、判断の材料は、会うまでのやり取りと、会ってからの行動の流れに向かうことになります。
 もう一つ理由があります。現在の条文は「同意した」「していない」という一言の有無だけを見ているわけではありません。相手が同意しない意思を形成し、表明し、あるいはそのとおりにすることが困難な状態にあったかどうか。そして、行為をした側がその状態を認識していたかどうか。この二つの段階で判断されます。どちらも、その場の一瞬ではなく、前後の経過の中から読み取られるものです。だからこそ、経緯の記録が意味を持ちます。

記録は「同意の証明」ではなく「経緯の裏づけ」

 この点は誤解されやすいところです。メッセージ履歴が残っていれば同意を証明できる、と説明されることがありますが、記録が示すのは、あくまでその時点で何が起きていたかという事実にとどまります。
 たとえば、会う前の「楽しみです」というやり取りは、会うことに前向きだったことを示す材料にはなりますが、その後の性的な行為への同意まで示すものではありません。反対に、翌日に「楽しかった」というメッセージが残っていれば、被害を訴える側の説明と整合しにくい事情として扱われることはあるものの、どのような状況で送られたものかによって読み方は変わります。
 記録の本当の役割は、供述を確かめるための物差しになることです。何時にどこで会い、どこに立ち寄り、いつ別れたのか。動かしにくい点が時系列に並ぶと、双方の説明のうちどこまでが事実に沿っているのかを検討できるようになります。
 したがって、記録は自分に有利な方向にだけ働くとは限りません。それでも残しておく意味があるのは、事実に沿った説明を組み立てられるかどうかが、記録の有無で大きく変わるからです。

どこに、何が残っているのか

 「記録」と聞くとアプリ内のメッセージだけを思い浮かべがちですが、実際には所在ごとに性質が異なります。

残っている場所残りやすいもの注意点
自分の端末トーク履歴、写真、通話履歴、通知、位置情報自分で確認し、控えを取れる唯一の場所
相手の端末同じやり取りの相手側の控えこちらからは手を出せない
アプリ事業者登録情報、マッチングの日時、アプリ内メッセージ、ログイン履歴退会や規約によって表示や保有が変わる
決済・交通・施設カードの利用明細、交通系ICの履歴、店舗や宿泊施設の記録、防犯カメラ保存期間が短いものがある
通信事業者通話やアクセスの記録本人が自由に取り出せるものではない


 このうち、自分の意思で今すぐ確保できるのは、実際には一段目と四段目の一部だけです。

アプリの中の記録は、思ったほど手元に残らない

 アプリによっては、相手が退会したりブロックしたりすると、それまでのやり取りが自分の画面から見えなくなります。自分が退会した場合も同じです。「あとで確認すればよい」と考えているうちに、参照できなくなることがあります。
 事業者側にどれだけ残るかは、各社のプライバシーポリシー次第です。大手アプリのポリシーには、正当な事業目的のために必要で、かつ法令が認める期間に限って情報を保有する、退会するとポリシーに従ってデータを削除する、一定期間活動がないアカウントは自動的に閉鎖される、といった定めが置かれている例があります。
 本人が自分のデータのコピーを請求できる仕組みを設けている事業者もありますが、対象はあくまで自分に関するデータです。相手方の会員に関する情報については、その会員本人に請求してもらう必要があるとされている例もあります。相手とのやり取りの全体を、自分の側からまとめて取り寄せられるとは限らないということです。

法令上、メッセージの保存期間は決められていない

 インターネット異性紹介事業には、出会い系サイト規制法と施行規則による規制があります。もっとも、そこで定められているのは、事業の届出の手続や、利用者が児童でないことの確認方法などです。会員同士のメッセージを一定期間保存しておくことを事業者に義務づけた規定は置かれていません。「アプリに聞けば残っているはずだ」と考えるのは、前提として確かではありません。
 他方で、事業者のポリシーには、裁判所の命令や捜査機関からの要請といった法的手続に応じて情報を開示することがある旨が書かれていることがあります。自分では取り出せない記録が、捜査の側には出ていくということも起こり得ます。

今の段階でしておけること

  1. 端末のデータをそのままにしておく(削除、初期化、機種変更、アプリの退会を急がない)
  2. アプリやメッセージのやり取りは、日付と相手の表示名が入る形で画面の控えを取る
  3. 自分用に時系列を書き出す(何日の何時に、どこで、誰と、何をしたか)
  4. 覚えていること、覚えていないこと、推測を、分けて書く
  5. 自分で確認できる客観的な記録(カードの明細、交通の履歴、位置情報など)をあたる
  6. 相手には連絡しない

 三つ目と四つ目は、地味に見えて効いてきます。時間が経つほど記憶は整理され、あとから聞いた話や自分の推測が混ざります。早い段階で分けて書いておくと、のちに供述が変わったと見られる場面を減らせます。

避けたほうがよいこと


記録を消すこと

 自分の刑事事件に関する証拠を自分で消す行為は、刑法104条の証拠隠滅罪の対象にはならないと解されています。同条が対象としているのは「他人の刑事事件に関する証拠」だからです。ただ、犯罪にならないことと、不利にならないことは別の話です。削除や初期化は、罪証を隠滅するおそれがあるという評価につながり、逮捕状の請求(刑事訴訟法199条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3)、勾留(同60条1項2号)、保釈(同89条4号)、起訴するかどうかの判断(同248条の「犯罪後の情況」)に影響し得ます。加えて、自分の説明を裏づける材料まで一緒に失うことになります。

相手や周囲に働きかけること

 相手に直接連絡して説明を求めたり、共通の知人を介して事情を伝えたりする行為は、口裏合わせと受け取られることがあります。連絡の内容によっては、別の罪が問題になることもあります。

あとから記録を作り足すこと

 辻褄の合うメッセージを送って残そうとしたり、あいまいな記憶を断定的に書いた文章を作ったりすると、記録全体の信用性が下がります。作られた記録は、送信の時刻という形で作った時期が残ります。

警察から連絡が来たときに

 逮捕も勾留もされていない段階では、出頭を拒むことも、出頭後にいつでも退去することもできるとされています(刑事訴訟法198条1項ただし書)。もっとも、連絡に一切応じないことは、逃亡や罪証隠滅のおそれという別の評価につながることがあります。日程の調整を申し出るなど、応じ方を考えるほうが現実的です。
 供述調書については、内容を読み聞かせるか閲覧させて誤りがないかを確かめる手続があり、増減変更の申立てができます(同198条3項から5項)。署名押印を求められても、拒むことができるとされています。記憶があいまいな点を「たぶんそうだと思います」と答えると、その表現のまま残ることがあります。

弁護士に相談したときにできること

  • 手元の記録を時系列に整理し、説明の骨格を組み立てる
  • 消えるおそれのある記録について、早い段階で保全の方法を検討する
  • 身柄を拘束する必要がないことを、捜査機関に対して書面で伝える
  • 取調べで聞かれる事柄を想定し、答え方の準備をする
  • 相手方との連絡窓口となり、本人が直接接触しない形で話し合いを進める

 示談についても、相手の連絡先を弁護人限りで伝えてもらう形が取られることがあります。ただし、示談は相手の意思があってはじめて成立するもので、申し入れれば当然にまとまるというものではありません。当事務所では初回無料の相談を24時間受け付けており、身柄を拘束された場合には即日の接見にも対応しています。

立場が逆の場合

 この記事は申告を受けた側を想定して書いていますが、被害を受けた側にとっても、経緯の記録が持つ意味は変わりません。アプリのやり取りは相手の退会などで見えなくなることがあるため、早い段階で控えを取っておくことが、その後の説明を支えます。性犯罪・性暴力に関する相談窓口としては、全国共通短縮番号「#8891」で最寄りのワンストップ支援センターにつながります。

まとめ

 被害届が出されたという知らせは、それだけで結論が決まったことを意味しません。この先に何度も問われるのは、出会いから別れるまでに何があったのか、という経緯です。
 その経緯を語るとき、記憶だけを頼りにするのか、日時と場所の裏づけを添えられるのかで、説明の重みは変わります。記録は同意を証明する魔法の道具ではなく、自分に不利に働くこともあります。それでも、事実に沿って話すことを可能にするのは記録です。消さないこと、控えを取ること、覚えていることと推測を分けること。手が届く範囲でできるのは、まずこの三つです。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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