チェンジ・キャンセル料・延長料金でのトラブル|支払い義務の有無
風俗店でのトラブルが起きたあと、多くの方が最初に知りたいのは「これは何罪になるのか」「どのくらい重いのか」という一点ではないでしょうか。ところが、店やキャストから金銭を求められている場面では、その説明が相手側からしか届きません。「本番は懲役5年以上だ」「盗撮は前科がつく」といった言葉だけが先に耳に入り、示談金の金額が妥当かどうかを判断できないまま支払ってしまう例もあります。
この記事では、風俗トラブルで問題になりやすい罪について、法律が定めている刑の幅(法定刑)を場面別に一覧にまとめました。まず全体の地図を持ったうえで、ご自身の状況がそのどのあたりに位置するのかを落ち着いて確認するための資料としてご覧ください。
早見表を読む前に押さえておきたい3つの前提
法定刑は「幅」であり、科される刑の予測値ではない
法定刑とは、その罪について法律が定めている刑の範囲のことです。実際にどうなるかは、起訴されるかどうか、起訴された場合にどの程度の刑が言い渡されるかという別の段階で決まります。捜査の結果として不起訴で終わることもあれば、罰金で終わることも、執行猶予付きの判決になることもあります。上限だけを見て絶望する必要はありませんし、下限だけを見て軽く考える理由にもなりません。
刑事の重さと、請求されている金額は別のレイヤーの話
法定刑は、国が科す刑罰についての定めです。これに対して、店やキャストから求められる示談金や、店の規約にある「罰金」は、当事者間の金銭のやり取り(民事)の問題です。刑が重い罪だからといって高額を支払う義務が自動的に生じるわけではありませんし、逆に刑が軽い罪だから払わなくてよい、という関係にもありません。請求されている額と、法律上支払う義務がある額は一致しないことがあるという点は、早見表を見るうえでの前提になります。
2023年と2025年に、罪名と刑の呼び方が変わっている
2023年7月13日施行の改正で、強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪(刑法176条)に、強制性交等罪は不同意性交等罪(刑法177条)になりました。同じ日に、いわゆる盗撮を正面から処罰する性的姿態撮影等処罰法も施行されています。さらに2025年6月1日からは、懲役と禁錮が「拘禁刑」に一本化されました。インターネット上には旧名称・旧表記のまま残っている解説も少なくないため、日付の新しい情報かどうかを確かめながら読むことをおすすめします。
【早見表1】性的な行為をめぐって問われ得る罪
| 罪名 | 根拠となる条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 不同意わいせつ罪 | 刑法176条 | 6月以上10年以下の拘禁刑(罰金刑の定めなし) |
| 不同意性交等罪 | 刑法177条 | 5年以上の有期拘禁刑(罰金刑の定めなし) |
| 上記2罪の未遂 | 刑法180条 | 未遂として処罰され得る(刑が減軽される余地あり) |
| 不同意わいせつ等致傷罪 | 刑法181条1項 | 無期又は3年以上の拘禁刑 |
| 不同意性交等致傷罪 | 刑法181条2項 | 無期又は6年以上の拘禁刑 |
| 公然わいせつ罪 | 刑法174条 | 6月以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金、又は拘留若しくは科料 |
176条と177条には罰金刑の定めがありません。そのため、起訴された場合は書面手続きではなく正式な裁判になります。また177条は法定刑の下限が5年であるため、酌量減軽などの事情がなければ執行猶予の対象となる範囲(言い渡す刑が3年以下)に入りにくい構造になっています。もっとも、そもそも起訴するかどうかは検察官が判断する事柄であり、起訴される前の段階での対応が結果を大きく左右し得る点は押さえておきたいところです。
なお、成人同士で合意のある本番行為について、売春防止法は買う側を直接処罰する規定を置いていません。同法が罰しているのは、勧誘(5条)、周旋(6条)、場所の提供(11条)、管理売春(12条)といった行為が中心です。ただし「客への罰則がない」ことと「同意があった」ことはまったく別の問題で、後から同意がなかったと申告されれば176条・177条の枠組みで検討されることになります。
【早見表2】撮影・データをめぐって問われ得る罪
| 罪名 | 根拠となる条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 性的姿態等撮影罪 | 性的姿態撮影等処罰法2条 | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金(未遂も処罰) |
| 性的影像記録提供等罪 | 同法3条1項 | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 同(不特定・多数への提供、公然陳列) | 同法3条2項 | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又は併科 |
| 性的影像記録保管罪 | 同法4条 | 2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金 |
| 性的姿態等影像送信罪 | 同法5条 | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又は併科 |
| 性的姿態等影像記録罪 | 同法6条 | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 迷惑防止条例違反(東京都・のぞき等) | 東京都迷惑防止条例5条 | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(常習の場合は2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金) |
| 建造物侵入罪 | 刑法130条前段 | 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 |
| のぞきの罪 | 軽犯罪法1条23号 | 拘留又は科料 |
この領域で見落とされやすいのは、撮った行為と、その後に転送・保存・公開した行為が別個に評価され得るという点です。友人に送った、クラウドに保管したといった行為が、撮影そのものより重い枠組みで検討される場合もあります。また、撮影機材を用意したうえで店舗やホテルに立ち入った経緯があれば、建造物侵入の成否も問題になり得ます。音声の録音は映像の撮影とは扱いが異なりますので、この点は別のコラムをご覧ください。
【早見表3】相手が18歳未満だった場合に問われ得る罪
| 罪名 | 根拠となる条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 児童買春罪 | 児童買春・児童ポルノ禁止法4条 | 5年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 児童ポルノ製造罪 | 同法7条3項ほか | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 児童ポルノ所持罪(自己の性的好奇心を満たす目的) | 同法7条1項 | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 児童ポルノの不特定・多数への提供、公然陳列 | 同法7条6項 | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又は併科 |
| 青少年健全育成条例違反(東京都) | 同条例18条の6・24条の3 | 2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 16歳未満の相手方との性交等 | 刑法177条3項 | 5年以上の有期拘禁刑 |
このグループは、成人が相手の場合とは構造が違います。相手が同意していても、店を通じた正規の利用であっても、成立し得る罪が並んでいるためです。「18歳未満だとは知らなかった」という説明がどう評価されるかは事案ごとの判断になり、年齢を確認しなかった経緯そのものが不利に働くこともあります。年齢に関わる事案は、自己判断で見通しを立てにくい領域だといえます。
【早見表4】お金・言葉・実力行使をめぐる罪(立場が入れ替わり得る領域)
| 罪名 | 根拠となる条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 恐喝罪 | 刑法249条 | 10年以下の拘禁刑(未遂も処罰・250条) |
| 脅迫罪 | 刑法222条 | 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 |
| 強要罪 | 刑法223条 | 3年以下の拘禁刑 |
| 詐欺罪 | 刑法246条 | 10年以下の拘禁刑 |
| 窃盗罪 | 刑法235条 | 10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 暴行罪 | 刑法208条 | 2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金、又は拘留若しくは科料 |
| 傷害罪 | 刑法204条 | 15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 器物損壊罪 | 刑法261条 | 3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料 |
| 名誉毀損罪 | 刑法230条 | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 威力業務妨害罪 | 刑法234条 | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 不退去罪 | 刑法130条後段 | 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 |
このグループは、客の側が問われる立場になることも、店やキャストの側が問われる立場になることもある領域です。「今日中に振り込まなければ会社に連絡する」「払わないなら警察に行く」といった言い方を伴う金銭要求は、内容や経緯によっては脅迫罪や恐喝罪の問題を生じ得ます。
もっとも、正当な権利に基づく請求であれば、強い口調であることだけを理由に直ちに違法とされるわけではありません。要求の根拠、金額の相当性、告知された不利益の内容といった要素を積み上げて判断される領域ですので、「脅された」と感じたからといって支払いを一方的に拒む、逆に怖いから全額を即座に払うという両極端の対応は避けたいところです。
表の数字だけでは結果が決まらない3つの理由
罰金刑があるかどうかで、手続きの入口が変わる
書面のみで進む略式手続では、100万円以下の罰金又は科料しか科すことができません(刑事訴訟法461条)。そのため、罰金刑の定めがない176条・177条の事案は、起訴されるとすれば正式な裁判になります。一方、撮影罪や条例違反には罰金刑の定めがあり、略式で終わることもあります。処分の種類そのものについては、別のコラムで詳しく整理しています。
起訴されるかどうかの判断が、その手前にある
検察官は、犯罪の軽重や情状、犯行後の事情を考慮して、起訴しないという判断をすることができます(刑事訴訟法248条)。被害弁償や示談の有無が考慮され得るのはこの段階です。ただし、性犯罪は2017年の改正で親告罪ではなくなっているため、告訴が取り下げられたり示談が成立したりしても、それだけで当然に不起訴になるわけではありません。
公訴時効の長さは、罪ごとに大きく違う
長期5年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪は3年、長期10年未満の拘禁刑に当たる罪は5年というように、時効期間は法定刑に対応しています(刑事訴訟法250条2項)。加えて性犯罪については2023年の改正で期間が延長され、不同意わいせつ罪は12年、不同意性交等罪は15年、不同意性交等致傷罪は20年とされました(同条3項)。被害者が18歳未満だった場合には、18歳になるまでの期間が加算されます(同条4項)。時間が経ったことだけを理由に終わったと考えるのは、慎重であるべき部分です。
早見表を自分の事案に当てはめるときの注意点
- 一つの出来事について、複数の罪が同時に問題になることがある(撮影と建造物侵入など)
- どの罪名で扱うかを判断するのは捜査機関や検察官であり、当事者の自己申告ではない
- 相手方から告げられた罪名や刑の重さが、正確とは限らない
- 表の数字を見て「軽いから放置してよい」と考えるのも、「重いから今すぐ払うしかない」と考えるのも、どちらも危うい
いま避けたい行動と、とっておきたい行動
その場の判断で動いた結果、後から取り返しにくくなる行動があります。
- その場で現金を渡す、口座を伝える、暗証番号を教える
- 内容を十分に確認しないまま念書や示談書に署名する
- 端末のデータを削除する、初期化する(証拠隠滅と評価されるおそれがあります)
- 相手方本人に直接連絡して謝罪や交渉を試みる
- 警察からの連絡を無視する、あるいは感情的に応じる
反対に、早い段階でしておくと選択肢が広がるのは、次のような行動です。
- 日時・場所・やり取りの経緯を、思い出せる範囲で時系列に書き出す
- LINE・メール・領収書・振込明細などを削除せずに保存しておく
- 請求の根拠と金額の内訳を、口頭ではなく書面で示すよう求める
- 連絡の窓口を一つに絞り、その場での即答を避ける
- 早い段階で弁護士に相談し、刑事・民事の両面から見通しを立てる
法定刑の一覧は、あくまで出発点となる地図です。同じ罪名でも、経緯や証拠の状況、相手方との関係によって見通しは変わります。いま何を求められているのか、それに応じる義務があるのか、刑事事件としてどう動く可能性があるのか。この3点を切り分けて整理するところから、対応の道筋は見えてきます。判断に迷う段階でご相談いただければ、選べる手段はその分だけ多く残ります。


