被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶ
パパ活で会った相手に写真や動画を撮られ、「言うとおりにしないと拡散する」と言われている。相手は勤務先や学校、家族のことを知っているかもしれない。そう考えると頭が真っ白になり、とりあえず要求に応じてしまいそうになる方も少なくありません。
けれども、画像や動画をちらつかせて何かを求める行為は、それ自体が犯罪として評価されうる行為です。この記事では、パパ活の場面で写真・動画を材料に脅されている女性に向けて、相手の責任をどう追及していくのか、その道筋と期限を整理します。
なお、身の危険を感じるときは110番を、判断に迷う段階では警察相談専用電話「#9110」を使うことができます。
相手がしたことは「一つ」ではありません
脅されている最中は、どうしても「拡散されるかどうか」に意識が集中します。しかし責任を追及する場面では、相手の行為を時間の流れで分けて考えると、手元に残っている材料が一つではないことが見えてきます。
撮った時点
性行為中の姿や下着姿などをひそかに撮影する行為は、性的姿態等撮影罪(撮影罪)にあたりえます。法定刑は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金で、未遂も処罰の対象とされています。
対象は隠し撮りだけではありません。「自分しか見ない」と言われて撮らせた場合のように、誤信をさせて撮影する類型も条文に定められています。同意して撮らせた記憶があるからといって、直ちに撮影罪の検討が終わるわけではない、ということです。
脅した時点
「拡散する」「ばらまく」と告げて相手を怖がらせる行為は、脅迫罪(刑法222条)にあたりえます。法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。
そのうえで金銭を求めれば恐喝罪(同249条・10年以下の拘禁刑)、会うことや関係の継続など義務のないことを求めれば強要罪(同223条・3年以下の拘禁刑)が問題になります。脅されて性的な行為に応じさせられた場合には、さらに重い罪が検討されることもあります。
実際に広めた時点
性的な画像を、撮影された人が特定できる形でインターネット上に不特定多数へ提供する行為などは、リベンジポルノ防止法の公表罪にあたりえます。公表する目的で他人に渡す行為も、公表目的提供罪として定められています。
撮影罪にあたる撮影から生まれたデータであれば、これを他人に渡す行為は性的影像記録提供罪にもなりえます。提供する目的で保管する行為も、別に処罰の対象とされています。
| 段階 | 問題になりうる罪 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 撮った | 性的姿態等撮影罪 | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
| 脅した(要求なし) | 脅迫罪 | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 脅して金銭を求めた | 恐喝罪(未遂も処罰) | 10年以下の拘禁刑 |
| 脅して義務のないことを求めた | 強要罪 | 3年以下の拘禁刑 |
| ネット上などで公表した | リベンジポルノ防止法違反(公表罪) | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| データを他人に渡した | 性的影像記録提供罪 | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(不特定多数への提供・公然陳列は5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金) |
罪ごとに要件も必要な証拠も異なります。どれか一つの立証が難しくても、別の入口が残っていることがあります。
「まだ払っていない」でも「もう払ってしまった」でも
恐喝罪は未遂も処罰の対象とされています(刑法250条)。したがって、要求に応じていない段階であっても、責任追及の検討が始められないわけではありません。「実際に被害が出ていないから警察は動かない」と考えて相談をためらう必要はない、ということです。
反対に、すでに支払ってしまった場合も、被害を受けた側であるという立場は変わりません。むしろ、一度応じたことをきっかけに要求が繰り返される例は珍しくないため、その時点で外部の窓口に入ってもらう意味があります。なお、支払ったお金を取り戻せるかどうかは民事の問題で、刑事の責任追及とは別に検討することになります。
動き出す前に整理しておきたい三つのこと
①何を優先するのかを決める
「とにかく止めたい」のか、「相手に責任を取らせたい」のか、「拡散を防ぎたい」のかで、選ぶ手段の順番が変わります。すべてを同時に最大化することは難しいため、優先順位を先に決めておくと判断がぶれにくくなります。
②刑事と民事は別のルートであること
警察に被害を申告して相手の処罰を求めるのが刑事、慰謝料を求めたりデータの扱いを取り決めたりするのが民事です。二つは連動しておらず、並行して進めることも、片方だけを選ぶこともできます。
③自分の情報が相手に伝わる場面があること
これは先に知っておいたほうがよい点です。告訴や示談、民事の裁判といった手続では、こちらの氏名などが相手方に伝わるのが通常です。まったく身元を伏せたまま責任だけを追及するのは、現実には難しい場面が多くあります。
どこまでの情報が、どの段階で相手に伝わるのか。ここを最初に把握したうえで手段を選ぶことが、結果的にいちばん安全な進め方につながります。
刑事のルート|被害届と告訴、そして期限
被害届と告訴の違い
被害届は「こういう被害を受けました」という申告です。告訴は、それに加えて「相手の処罰を求めます」という意思表示を含みます。告訴は捜査機関に受理されると手続上の取扱いが重くなる分、事実関係や証拠の整理をより丁寧に求められる傾向があります。
告訴が必要な罪と、そうでない罪がある
撮影罪を定める法律には、親告罪とする規定が置かれていません。つまり、被害者の告訴がなくても捜査機関が起訴することは可能です。
一方、リベンジポルノ防止法違反の罪は親告罪とされています(同法3条4項)。この場合、告訴は犯人を知った日から6か月以内にする必要があります(刑事訴訟法235条1項)。「実際に拡散されてしまったとき」ほど期限を意識する必要がある、ということになります。
| 確認したい期限 | 期間 |
|---|---|
| リベンジポルノ防止法違反の告訴期間 | 犯人を知った日から6か月 |
| 撮影罪・脅迫罪・強要罪・リベンジポルノ防止法違反の公訴時効 | 3年 |
| 不特定多数への提供・公然陳列などの公訴時効 | 5年 |
| 恐喝罪の公訴時効 | 7年 |
| 慰謝料請求(民事)の時効 | 損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年 |
相手が誰か分からないとき
パパ活では、相手が本名や連絡先を明かしていないことがあります。この場合でも、弁護士会を通じた照会(弁護士法23条の2)や、すでに投稿されているときは発信者情報の開示を求める手続などが検討できます。
ただし、これらは必ず相手にたどり着ける手段ではありません。通信記録の保存期間にも限りがあるため、時間が経つほど選択肢が狭まる点は正直にお伝えしておきます。
民事のルート|慰謝料と、データの取扱いの取り決め
撮影や脅し、拡散によって精神的な苦痛を受けた場合、民法709条・710条に基づいて慰謝料を求めることが考えられます。金額は撮影の態様、拡散の有無や範囲、生活への影響などによって幅があり、一律の目安を当てはめられるものではありません。
あわせて検討したいのが、データの扱いを文書で取り決めることです。合意書に盛り込む項目としては、次のようなものが挙げられます。
- 保存しているデータの削除と、保存先(端末・パソコン・外部メディア・クラウド・送信履歴など)の確認
- 複製を持たないことの確認
- 再度の撮影・第三者への提供・公表をしないこと
- 今後連絡や接触をしないこと
- 取り決めに反した場合の取扱い
もっとも、こうした合意は相手の任意の協力が前提であり、削除が完全に行われたかを外部から検証することは容易ではありません。刑事事件になった場合には、押収されたデータについて没収や消去の制度が設けられていますが、これは立件や押収が前提となる別の枠組みです。合意書と刑事手続は、それぞれ限界の位置が違うと理解しておくとよいでしょう。
しておきたいこと・避けたいこと
しておきたいこと
- やり取りは削除せず、日時が分かる形でそのまま残す(要求の内容と期限が写っている部分は特に重要)
- 撮影された日時・場所・状況を、覚えているうちに時系列で書き出す
- 新たな画像や個人情報、金銭を渡さない
- SNSの公開範囲や、友人一覧・タグ付けの設定を見直す
- 早い段階で弁護士や警察の窓口に入ってもらい、窓口を一本化する
避けたいこと
- その場で結論を出して支払いに応じる
- 「それは犯罪だ」と正面から言い返して相手を刺激する
- 自分の判断だけでブロックし、証拠を確保しないまま連絡経路を断つ
- 相手の家族や職場に自分から連絡する
- 恥ずかしさから記録を消してしまう
「パパ活をしていた自分も責められるのでは」という不安について
相談をためらう最大の理由が、ここにあるという方は多いと思います。
成人同士であることを前提とすれば、売春防止法は売春・買春の行為そのものに罰則を置いていません(処罰の対象とされているのは勧誘や周旋、場所の提供などです)。被害を申告する立場に立てないわけではない、ということです。
ただし、18歳未満の方が関わる場合は別の法律の問題になり、判断が変わります。自己判断は避け、早い段階で弁護士に事情を伝えたうえで方針を決めてください。弁護士には守秘義務があり、相談した内容が家族や勤務先に伝えられることはありません。
このほか、警察相談専用電話「#9110」、性犯罪被害相談電話「#8103」、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター「#8891」といった窓口も利用できます。
まとめ
拡散をちらつかせた要求は、それ自体が脅迫罪や恐喝罪、強要罪として評価されうる行為です。そして撮影の時点、脅した時点、広めた時点で、それぞれ別の責任が問題になります。
「まだ払っていない」段階でも、「もう払ってしまった」段階でも、相談する意味は変わりません。一方で、告訴期間や時効といった期限は静かに進んでいきます。一人で抱えたまま時間が過ぎるほど選択肢が減っていくため、早い段階で専門家に状況を共有し、優先順位を決めたうえで動き出すことをおすすめします。


