恐喝と借金の取り立ての境界|個人間の債権回収がアウトになる線
不当な要求を受けている方からいただくご質問のなかで、対応方法と並んで多いのが「弁護士に頼むと、いくらかかるのか」というものです。
不当要求の場面は、そもそも相手から「お金を払え」と言われている状況です。そこに弁護士費用が加わることに抵抗を感じるのは、自然なことだと思います。
一方で、費用の話が分からないままだと、依頼するかどうかの判断そのものができません。
この記事では、弁護士費用の基本的な内訳と、相談料・着手金・報酬金がそれぞれどのような考え方で決まるのかを、不当要求という場面に即して整理します。金額はあくまで公開されている料金例からうかがえる目安であり、事務所によって異なります。
1.「弁護士に払うお金」と「相手に払うお金」は別
まず前提として、弁護士費用と、相手方に支払う可能性のあるお金(解決金・和解金など)は、まったく別の枠です。
- 要求をすべて退けられた場合……相手への支払いはゼロですが、弁護士費用は発生します
- 要求の一部に理由があった場合……相手への支払いと弁護士費用の両方が発生します
「相手に払わずに済んだのだから費用もかからない」ということにはなりません。逆に、いくらか支払って解決した場合でも、その支払額に弁護士費用が含まれているわけではありません。
見積もりを見るときは、この2つを分けて考えると混乱が減ります。
2.弁護士費用の内訳
弁護士費用は、次のような項目で構成されるのが一般的です。
| 項目 | 内容 | 発生するタイミング |
|---|---|---|
| 相談料 | 法律相談に対する費用 | 相談時 |
| 着手金 | 事件に着手する時点で支払う費用。結果にかかわらず原則として返金されない | 委任契約時 |
| 報酬金 | 事件が終了したときに、成果に応じて支払う費用 | 終了時 |
| 手数料 | 書面作成など、一回で完結する事務に対する費用 | 依頼時 |
| 日当 | 遠方への出張や長時間の立会いなどに対する費用 | 発生の都度 |
| 実費 | 発生の都度 | 発生の都度(概算を預けることが多い) |
このうち着手金と報酬金の2本立てが基本形ですが、事案によっては「手数料」方式や、作業時間で計算する「タイムチャージ」方式が採られることもあります。
なお、かつては日本弁護士連合会の報酬基準がありましたが、2004年に撤廃され、現在は各事務所が自由に料金を設定しています。世の中に出回っている「相場」は、旧基準を参考にしている事務所が多いことから生じている目安にすぎず、一律の決まりではありません。
3.不当要求は、費用の見積もりが立ちにくい類型
不当要求の相談では、依頼前の段階で総額を確定しにくいという事情があります。理由は主に3つです。
① 要求の中身が特定されていない
「誠意を見せろ」「筋を通せ」といった形で、いくら払えという話になっていないことがあります。金額が決まっていなければ、金額を基準にした費用計算もできません。
② 終わりの時期が相手次第
こちらが正しい対応をしても、相手が納得するとは限りません。何往復のやり取りで終わるかは、事前には読めません。
③ 手続が枝分かれすることがある
交渉で終わることもあれば、裁判所を使う手続や刑事手続が加わることもあります(第7章)。
そのため、不当要求の相談では「総額いくら」よりも、どういう条件で費用が増えるのかを先に確認しておくほうが実務的です。
4.着手金の考え方——「何を目的とするか」で決まる
多くの事務所は、着手金を「その依頼で目的とする経済的利益」を基準に算定しています。たとえば500万円を請求されている事案なら、500万円が基準になる、という考え方です。
ここで、不当要求特有の問題があります。
基準になる「要求額」は、相手の言い値だという点です。
法的な根拠が乏しい要求ほど、金額が大きくなることは珍しくありません。相手が思いつきで「1,000万円」と書いてきただけで着手金が跳ね上がるとすれば、依頼者にとって納得しにくい構造です。
そのため、実際には次のような扱いが見られます。
- 要求額ではなく、事案の難易度や見込まれる作業量から定額で設定する
- 要求額を基準としつつ、上限や下限を設ける
- 経済的利益を算定しがたい事件として、協議のうえ決めると定めている
公開されている料金例をみると、悪質なクレームや不当要求への対応では、交渉段階の着手金を10万〜30万円程度とする例が見られます。裁判所を使う手続に進む場合は、30万円程度からとする例が多いようです。
**依頼前に必ず確認しておきたいのは、「着手金は何を基準に計算されているか」です。**要求額基準なのか定額なのかで、金額の意味がまったく変わります。
5.報酬金の考え方——「払わずに済んだ額」で測る
報酬金は、事件終了時に成果に応じて支払う費用です。金銭請求を受けている事案では、「請求を免れた額」=払わずに済んだ額を経済的利益として計算するのが一般的です。
公開されている料金例では、経済的利益の10〜20%程度とするものが多く見られます。
この計算方式には、依頼する側から見て注意しておきたい点が2つあります。
(1)「免れた額」の基準をどう置くか
500万円を請求されて0円で終わった場合、「免れた額」は500万円と数えるのが素直です。しかし前述のとおり、その500万円は相手の言い値です。過大な要求であるほど報酬金が高くなる、という結果になりかねません。
事務所によっては、法的に認められる可能性があった額との差で計算したり、上限を設けたりしています。ここも、契約前に確認しておきたいポイントです。
(2)手元にお金が入らないまま報酬が発生する
請求する側であれば、獲得したお金の中から報酬を支払えます。しかし不当要求を受けている側は、成果が出ても手元に現金が入ってきません。「払わずに済んだ」という成果は、家計や資金繰りの上では支出の回避であって、収入ではないからです。
報酬金の支払い時期や分割の可否を、契約前に相談しておく実益があります。
6.お金の要求ではない不当要求の場合
不当要求は、金銭の要求ばかりではありません。
- 謝罪文や土下座を求められている
- 連絡や訪問が止まらない
- 事実と異なる内容をネット上に書かれている
- 従業員の解雇や、特定の取扱いを求められている
こうした事案では、そもそも「経済的利益」を数字で出せません。この場合は、次のような形が採られます。
- 定額(公開されている料金例では10万〜30万円程度とするものが見られます)
- 手数料方式(通知書の作成・送付など、一回で完結する作業)
- タイムチャージ(作業時間に単価を掛ける方式)
「経済的利益を算定しがたい事件については協議により決定する」と明記している事務所もあります。金銭の要求でない部分について、どう費用が立つのかは、相談の場で聞いておくとよい点です。
7.手続が増えれば、費用も積み上がる
不当要求の事案では、次のように手続が段階的に増えることがあります。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 交渉 | 代理人として窓口となり、相手方と書面等でやり取りする |
| 面談強要禁止の仮処分 | 執拗な電話・訪問などを裁判所の手続で禁じてもらう |
| 債務不存在確認訴訟 | 支払義務がないことを裁判所に確認してもらう |
| 刑事手続 | 被害届・告訴を検討する |
段階が変わるたびに、追加の着手金が発生するのが通常です。また、刑事手続の対応は民事の交渉とは別建ての費用になっていることが多くあります。
依頼の時点では交渉のみを想定していても、途中で手続が増える可能性はあります。「どうなったら追加費用が発生するのか」「そのときの金額はいくらか」を、最初の契約時に確認しておくことをおすすめします。
8.費用倒れをどう考えるか
「弁護士費用のほうが高くつくのではないか」という不安は、不当要求の相談で特に多く聞かれます。
貸したお金を回収する事案であれば、「回収見込額 − 弁護士費用」で判断できます。しかし不当要求では、取り戻すお金がそもそも存在しないことが少なくありません。要求を退けても、支出した弁護士費用は基本的に持ち出しになります。
その上で、依頼が選ばれている理由としては、次のようなものがあります。
- 要求額そのものが、弁護士費用を大きく上回っている
- 一度応じると、要求が繰り返されることがある
- 対応に費やす時間と精神的な負担が、事業や生活を圧迫している
- 自分で対応した結果、不利な書面に署名してしまうといった事態を避けたい
逆に、要求額が小さく、一回で終わる見込みが立つ事案であれば、費用のほうが上回ることも十分にあり得ます。
こればかりは事案ごとの判断になるため、無料相談や初回相談の段階で見積もりを出してもらい、想定される負担と比べてみるのが現実的な進め方です。相談の結果、依頼せずご自身で対応する方針になることもあります。
9.支出した弁護士費用を、相手に請求できるか
「不当な要求をしてきたのは相手なのだから、弁護士費用も相手が負担すべきではないか」という疑問を持たれる方は多いと思います。
結論としては、原則として難しいと考えておくのが実務的です。
日本の民事では、訴訟の当事者が自分の弁護士費用を自分で負担するのが原則です。裁判を起こされたこと自体を違法として賠償を求めることは可能ですが、最高裁は、訴えの提起が不法行為になるのは、①主張した権利や法律関係が事実的・法律的な根拠を欠き、②提訴した側がそのことを知りながら、または通常人であれば容易に知り得たのにあえて訴えを起こしたなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるとしています(最高裁昭和63年1月26日判決)。裁判を受ける権利を不当に制限しないための考え方であり、認められるハードルは高いものです。裁判外の請求であれば、なおさらです。
一方で、相手の行為が恐喝や脅迫、業務妨害など、それ自体として独立した不法行為に当たる場合には、こちらから損害賠償を請求する余地があります。そして、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟では、弁護士費用の一部(実務上は認容額の1割程度)が、加害行為と相当因果関係のある損害として認められる扱いになっています(最高裁昭和44年2月27日判決)。
もっとも、これは訴訟を起こして認容された場合の話であり、交渉段階では基本的に乗ってきません。
要するに、守っているだけでは費用は戻らず、こちらから請求する側に回って初めて一部が戻る余地が出てくる、という非対称な構造になっています。どちらの方針を取るかは、費用の見通しとあわせて検討することになります。
10.契約前に確認しておきたい6点
費用のトラブルを避けるために、委任契約を結ぶ前に次の点を確認しておくことをおすすめします。
- 着手金の算定基準——要求額を基準にしているのか、定額なのか
- 報酬金の「経済的利益」の定義——何を基準に「免れた額」を計算するのか
- 追加着手金が発生する条件——訴訟や仮処分に移行した場合の扱い
- 金銭以外の部分の費用——接触の停止、書面の作成、削除請求などの扱い
- 途中で終了した場合の精算方法——依頼をやめる場合、相手が突然要求を取り下げた場合
- 実費・日当の目安
弁護士側にも、受任にあたってのルールがあります。弁護士職務基本規程では、受任時に事件の見通し・処理の方法・弁護士報酬および費用について適切な説明をすること(29条)、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成すること(30条1項)が定められています。
**費用について質問することは、依頼者として当然の行為です。**遠慮する必要はありません。
11.費用の負担が難しいとき
一括での支払いが難しい場合、次のような選択肢があります。
- 法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助——資力が一定の基準以下であることなどを条件に、無料法律相談や弁護士費用の立替を利用できます。立替分は原則として分割で返済します。ただし、刑事事件に関する相談は対象外です
- 分割払い——事務所によっては、着手金や報酬金の分割払いに応じている場合があります
- 弁護士費用保険・弁護士費用特約——加入している場合は利用できることがあります。ただし、支払いの可否は「原因となる出来事がいつ発生したか」で判断されるのが通常であり、すでに始まっているトラブルのために今から加入しても使えないのが一般的です
火災保険や自動車保険に特約が付いていないか、一度確認してみる価値はあります。
おわりに
不当要求の費用の話は、「いくらかかるか」だけでは判断しきれない部分があります。要求の中身が特定されていない段階では、着手金の基準も報酬金の基準も置きにくいからです。
だからこそ、金額そのものよりも、何を基準に計算されているのか、どういうときに増えるのかを確認しておくことが役に立ちます。
また、相談の段階では、まだ費用は発生していないか、相談料のみです。見積もりを取るために相談を使うという考え方もあります。実際に、相談の結果「これは弁護士に頼むほどの話ではない」という整理になることもあれば、「思っていたより深刻なので早めに動いたほうがよい」となることもあります。
要求を受けている状況で、その判断を一人で行うのは負担の大きいことです。費用の見通しを立てること自体を、相談の目的にしていただいて構いません。


