別れた相手が裸の画像を持っている|拡散される前に削除させる交渉
男女間のトラブルでは、ふだん使わない言葉が次々に出てきます。相手からの手紙に「不貞行為」「貞操権侵害」と書かれていたり、弁護士から「求償権はどうしますか」と聞かれたりして、意味がよく分からないまま話が進んでしまうことは少なくありません。
言葉の意味が分からないまま署名や支払いをしてしまうと、あとから修正するのに大きな労力がかかります。逆に、言葉の意味さえ分かれば「これは自分に関係のない話だ」と落ち着いて整理できることもあります。
この記事では、男女トラブルでよく出てくる言葉を、請求する側・請求される側のどちらの立場からも分かるように整理します。金額の相場や手続きの進め方には立ち入らず、「その言葉が何を指しているのか」「どこで誤解されやすいのか」に絞って解説します。
※本記事は一般的な法律情報の解説であり、個別の事案の結論を示すものではありません。また、離婚手続きに固有の用語(財産分与、年金分割など)は扱っていません。
1. まず全体の見取り図|用語は「2つの軸」で整理できる
男女トラブルの用語が分かりにくいのは、性質の違う言葉が同じページに並んでいるからです。次の2つの軸で仕分けすると、かなり見通しがよくなります。
軸①:婚姻という枠があるか
- 枠がある関係(夫婦・配偶者がいる関係)……不貞行為、貞操義務、婚姻関係の破綻、求償権
- 枠がない関係(交際・婚約・事実婚など)……貞操権侵害、婚約破棄、認知、手切れ金
軸②:誰が誰に対して言っている話か
- 配偶者 → 交際相手(不貞慰謝料)
- だまされた側 → うそをついた本人(貞操権侵害の慰謝料)
- 支払った側 → もう一方の当事者(求償権)
同じ「慰謝料」という言葉でも、①と②の組み合わせが違えば、根拠も判断のポイントもまったく別のものになります。届いた書面を読むときは、まず「どの組み合わせの話をされているのか」を確認すると迷いにくくなります。
2. 中心となる4つの言葉
慰謝料|「精神的な損害に対する賠償金」であって、罰金ではない
慰謝料とは、精神的な苦痛に対する損害賠償のことです。故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した人は損害賠償責任を負い(民法709条)、その損害には財産以外の損害、つまり精神的な損害も含まれます(民法710条)。慰謝料はこの「財産以外の損害」に対する賠償にあたります。
ここで押さえておきたいのは、慰謝料は法律上の根拠があってはじめて発生するもので、相手が「慰謝料を払え」と言えば当然に義務が生じるわけではないという点です。名目が「慰謝料」であっても、法的な根拠となる事実がなければ支払義務は生じません。
反対に、名目が「解決金」「和解金」「手切れ金」であっても、当事者が合意して書面を交わせば、その合意自体が拘束力を持ちます。名目ではなく中身と合意の有無で判断する、というのが基本の見方です。
なお、慰謝料の金額を計算する法定の算定表はありません。過去の裁判例の傾向から一定の幅が語られることはありますが、それは目安であり、請求された金額がそのまま支払義務の額になるわけではありません。
不貞行為|「浮気」「不倫」は法律用語ではない
「浮気」「不倫」は日常語であり、法律上の定義はありません。人によって指す範囲が違うのはそのためです。
これに対して「不貞行為」は、離婚原因を定めた民法770条1項1号に出てくる言葉です。最高裁昭和48年11月15日判決は、不貞な行為を、配偶者のある人が自由な意思にもとづいて配偶者以外の人と性的関係を結ぶことをいい、相手方が自由な意思にもとづいていたかどうかは問わない、という趣旨で述べています。要素を分けると、①配偶者がいること、②自由な意思によること、③配偶者以外の相手であること、④性的関係があること、の4つです。
誤解されやすいのは次の2点です。
ひとつは、この定義は離婚原因の場面で示されたものだという点です。慰謝料請求の場面では、性的関係の立証が十分でなくても、親密な交際によって夫婦の平穏な生活が害されたとして請求が認められた裁判例もあり、より柔軟に判断される傾向があります。「肉体関係がなければ何も問題にならない」と言い切れるわけではありません。
もうひとつは、強要された関係は「自由な意思」を欠くという点です。②の要素を満たさない場合、不貞行為の評価そのものが変わり得ます。
貞操権|「だまされた側」が使う言葉
貞操権は、誰とどのような性的関係を持つかを自分で決める権利、いわゆる性的自己決定権を指します。民法に「貞操権」という条文があるわけではなく、民法709条・710条で保護される利益のひとつとして扱われています。最高裁昭和44年9月26日判決が、この考え方を示した古典的な判例としてしばしば引用されます。
不貞と紛らわしいのですが、立場が逆になる言葉だと考えると整理できます。
- 不貞慰謝料……配偶者が、交際相手に対して請求する
- 貞操権侵害の慰謝料……独身だと偽られるなどしてだまされた側が、うそをついた本人に対して請求する
同じ一つの関係から、配偶者からの不貞慰謝料請求と、だまされた側からの貞操権侵害の請求が、別々に問題になることもあります。性別を問わず、男性が請求する側になる場面も女性が請求する側になる場面もあります。
なお、単に恋愛関係が終わっただけでは、この請求は原則として認められません。相手が積極的にうそをついて判断をゆがめた、といった事情が必要になると考えられています。
求償権|「払ったあとの、当事者どうしの精算」
不貞行為があった場合、配偶者のある人とその交際相手は、共同不法行為者として扱われます(民法719条1項)。両者は同じ損害について責任を負い、請求する側はどちらに対しても全額を請求できます(不真正連帯債務と呼ばれる関係です)。
そうすると、たまたま請求された一方だけが全額を支払い、もう一方は何も負担しない、という偏りが生じます。これを当事者どうしで精算するのが求償権です。実務上は、自分の負担部分を超えて支払った場合に、超過分をもう一方に請求できるという整理が一般的です。
読み方は「きゅうしょうけん」です。誤解されやすい点を3つ挙げます。
- 負担割合は5対5と決まっているわけではありません。 関係を主導したのはどちらか、既婚であることを隠していたか、職場での立場や年齢差、期間や頻度などの事情から、割合が変わり得ます。
- 支払った額がそのまま求償の土台になるとは限りません。 適正と考えられる賠償額を大きく超えて支払った部分まで、当然に相手に転嫁できるわけではありません。だからこそ、支払う段階で金額の妥当性を検討しておく意味があります。
- 示談書に「求償権を放棄する」条項があると、原則としてあとから覆すことは難しくなります。 減額と引き換えに放棄を求められることもあり、その組み合わせで妥当かどうかを見る必要があります。
求償権の時効は、慰謝料そのものの時効とは別で、自分が支払った時点を起算点として進みます(民法166条1項)。
3. 意味がズレやすい3つの言葉
上位で解説されている用語集の多くは、言葉の定義までは丁寧です。しかし実際のご相談では、定義は合っているのに使い方を誤解していることが問題になります。特に次の3つです。
①「示談」は、誰との示談かで意味が変わる
示談は、当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約束する和解契約です(民法695条)。和解が成立すると、その内容で権利関係が確定します(民法696条)。
注意したいのは、示談はあくまで署名した当事者どうしの精算だという点です。たとえば双方が既婚の関係(いわゆるダブル不倫)では、一方の配偶者と示談をしても、もう一方の配偶者の請求までが消えるわけではありません。誰と誰の間の、どの範囲の話を終わらせる書面なのかを確認する必要があります。
②「清算条項」は、万能の免罪符ではない
「本件に関し、当事者間に他に何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する」といった条項を清算条項と呼びます。強力な条項ではありますが、限界もあります。
- 効力が及ぶのは、原則としてその示談の当事者どうしです。第三者からの請求まで当然に封じるものではありません。
- 求償権が消えるかどうかは文言次第で争点になり得るため、必要なら独立した条項として明記されているかを確認します。
- 署名時点までの清算であり、そのあとの接触禁止条項違反などは別の問題として残ります。
③「破綻していた」は、言葉ではなく実態で判断される
不貞行為があっても、その当時すでに夫婦の婚姻関係が破綻していたのであれば、特段の事情がない限り責任を負わないという考え方が示されています(最高裁平成8年3月26日判決)。
ここでよくある誤解が、「離婚すると言われていた」「冷え切っていると聞いていた」といった説明を受けていたこと自体が、そのまま免責の理由になるという受け止め方です。判断されるのは相手から聞いた言葉ではなく、当時の夫婦の実態です。
なお、この論点については近年も新しい最高裁判断が出ており、判断の枠組みは動いています。ただし差戻し後の審理が続いている段階のものもあり、結論が確定したわけではありません。ご自身のケースに当てはめるには個別の検討が必要です。
4. ミニ辞典①|「関係」にまつわる用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 貞操義務 | 夫婦が互いに負うと考えられている、配偶者以外と性的関係を持たない義務 |
| 婚姻関係の破綻 | 夫婦関係が修復の見込みなく壊れている状態。別居期間や離婚手続の有無などから判断される |
| 婚約 | 将来結婚する約束(婚姻の予約)。書面や結納がなくても成立し得るが、成立の裏づけが争点になりやすい |
| 内縁・事実婚 | 婚姻届は出していないが、夫婦としての実質がある関係 |
| 認知 | 婚姻していない男女の間に生まれた子について、法律上の父子関係を成立させること(民法779条) |
| 養育費 | 子の監護に必要な費用。父子関係が確定すると扶養義務(民法877条1項)を前提に問題になる |
| 手切れ金 | 別れ際に渡す金銭の通称。法律用語ではなく、相場も定まっていない |
| 解決金 | 争いを終わらせるために支払う金銭の総称。法的性質は合意の中身によって決まる |
5. ミニ辞典②|「請求」と「手続」にまつわる用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 不法行為 | 故意または過失で他人の権利・利益を侵害する行為(民法709条)。慰謝料請求の基本的な根拠 |
| 共同不法行為 | 複数人が共同して損害を与えた場合の責任(民法719条1項)。不貞慰謝料の場面で出てくる |
| 二重取りの禁止 | 同じ損害について、当事者双方から重ねて満額を回収することはできないという考え方 |
| 内容証明郵便 | 誰がいつどんな文面を送ったかを郵便局が証明する制度。文面の内容が正しいと証明するものではない |
| 催告 | 支払いを求める通知。時効の完成をひとまず先送りする効果がある(民法150条) |
| 時効の援用 | 時効を主張すること(民法145条)。期間が過ぎても、援用しなければ権利は自動的には消えない |
| 消滅時効(不法行為) | 損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年(民法724条)。20年は2020年4月1日施行の改正で消滅時効と位置づけられた |
| 不当利得 | 法律上の原因なく得た利益の返還(民法703条)。結納金や目的を定めて渡した金銭で問題になる |
| 贈与 | 無償で財産を与える契約(民法549条)。渡し終えた部分は原則として返還を求めにくい(民法550条) |
| 消費貸借 | 貸したお金の返還を約束する契約(民法587条)。借用書がなくても成立し得るが、立証責任は貸した側にある |
| 債務の承認 | 「返す」と述べる、一部を支払うなどの行為(民法152条)。義務を認めたと評価され得る |
| 接触禁止条項 | 今後連絡や接触をしないと約束する条項。清算条項があっても、この義務は残る |
| 口外禁止条項 | 内容を第三者に話さないと約束する条項。例外の範囲を決めておくことが多い |
| 執行認諾文言付公正証書 | 裁判をせずに強制執行ができる公正証書(民事執行法22条5号)。金銭の支払いが中心で、接触禁止のような不作為の義務には使えない |
| 支払督促・少額訴訟 | 裁判所を通じた簡易な手続。放置すると不利な結論になり得るため、書面が届いたら期限の確認が必要 |
6. 署名する前・払う前に確認したい3つのこと
言葉の意味が分かったうえで、実際に書面や請求を前にしたときのチェックポイントは、突き詰めると次の3つです。
① 当事者欄を見る
誰と誰の間の書面なのか。相手本人なのか、代理人なのか。ダブル不倫のように関係者が複数いる場合、その書面で何が終わり、何が残るのかが変わります。
② 「何を・いくら・いつまでに・どんな根拠で」を書き出す
請求の中身を4点に分解すると、慰謝料なのか、費用の負担なのか、名目だけの金銭なのかが見えてきます。根拠が示されていない請求は、まずそこを確認するところから始まります。
③ 意味の分からない言葉があるまま署名しない
「求償権を放棄する」「清算条項」「宥恕」といった一語で、あとから取り得る選択肢が変わることがあります。その場で決めるよう求められても、内容を確認する時間をもらうことは不自然なことではありません。
あわせて、やり取りの記録を自分から削除しないこともお勧めします。LINEやメールは、請求する側にとっても請求される側にとっても、事実関係を確かめる手がかりになります。
まとめ
- 男女トラブルの用語は「婚姻という枠があるか」「誰が誰に請求しているか」の2軸で整理すると分かりやすくなります。
- 慰謝料は法的な根拠があってはじめて発生します。名目ではなく中身で判断します。
- 「浮気」「不倫」は法律用語ではなく、「不貞行為」には判例上の定義があります。ただし慰謝料の場面ではより柔軟に判断される傾向があります。
- 貞操権侵害は、だまされた側が請求する側になる言葉です。不貞とは立場が逆になります。
- 求償権は、支払ったあとの当事者どうしの精算です。負担割合は一律ではなく、放棄条項の有無で結論が変わります。
- 示談や清算条項には射程の限界があります。署名前に当事者と範囲を確認することが大切です。
言葉の意味が整理できても、ご自身のケースがどれに当たるのかは、事実関係によって変わります。判断に迷う場面や、期限が示された書面が届いた場面では、早めに弁護士にご相談ください。


