【不当要求対応】拡散された後の順序|削除と発信者特定のどちらを先に動かすか
「先週までは本人から電話が来ていたのに、今週は聞いたことのない名前でメールが届いた」「同じ件のはずなのに、今度は会社名を名乗る人からSNSのメッセージが来た」。要求を受けている方から、こうしたご相談をいただくことがあります。反対に、要求している側から「担当を代えただけだ」「回収は別の者に頼んだ」と説明されることもあります。
名義やルートが変わったときの受け止め方として、「相手にしないほうがよい」「どうせ同じ人物なのだから同じように扱えばよい」という言われ方をすることがあります。どちらもそれ自体が誤りというわけではありませんが、見えていない部分があります。名義が変わることには説明のつく場合があり、その場合には裏づけとなる材料が用意できるはずだという点。そして、同一人物かどうかを見分ける作業と、同じ話として扱うかどうかを決める作業は別だという点です。
この記事では、別の名義・別のルートで接触が来たときに、何を確かめ、どこまでを同じ話として扱い、どのように記録を残すかを整理します。前回の合意書がある場合のその使い方、相手が第三者を同席させてきた場合の同席者の立場、同居していない家族の名義で請求が届いた場合の支払義務については、それぞれ別の記事で扱っています。
この記事で扱う場面
次のような場面を想定しています。
- 同じ件について、これまでとは違う名前で連絡が来た。
- 会社名や団体名を名乗る人から、前の話の続きだという連絡が来た。
- 電話が止まったと思ったら、メールやSNSのメッセージに切り替わった。
- 自分あての連絡が減り、家族や勤務先に向かい始めた。
- 前の話を知らないはずの第三者が、同じ件で金銭を求めてきた。
いずれも、相手が誰なのかがはっきりしないまま要求だけが続いている、という点で共通しています。名義とルートが増えたときに戻るべき問いは、「誰の話なのか」と「どの話なのか」の二つです。この二つを分けておくと、相手の正体を突き止めないと何も決められない、という行き詰まりを避けやすくなります。
名義が変わることには、説明のつく場合とつかない場合がある
名前が変わったこと自体は、それだけでは何も意味しません。問題になるのは、変わったことの説明があるか、そしてその説明を裏づける材料が示されるかです。
| 名義の現れ方 | 考えられる説明 | 確かめられる材料 |
|---|---|---|
| 姓が変わった、屋号を名乗り始めた | 改姓、屋号の使用開始 | 本人確認書類、これまでのやり取りとの連続性 |
| 会社名や団体名を名乗る | 法人として請求している、法人化した | 商業登記、法人番号、代表者名、所在地 |
| 債権を譲り受けたと言う | 債権譲渡があった | 譲渡人からの通知、譲渡の日付と対象 |
| 回収を頼まれたと言う | 回収の委託、代理 | 委任の事実を示す書面、依頼者の氏名 |
| 弁護士や法律事務所を名乗る | 代理人が就いた | 登録番号、所属弁護士会、事務所の代表番号 |
| 前の話に触れない別人が来る | 関係のない第三者、名義だけの利用 | 前の話とのつながりが示されない |
説明があるかどうかが分かれ目になる
上の表で右側の欄が埋まる場合、こちらは相手を疑っているのではなく、確かめているだけということになります。実際に担当が交代したのであれば、交代したという説明は出てきます。法人として請求しているのであれば、商号と所在地は示せます。反対に、名義だけが変わり、変わった理由も裏づけも示されない場合は、こちらが判断を保留する理由がそろっている状態です。
同一人物だと断定しなくてよい
声や文体が似ている、要求の金額が同じ、といった事情から「同じ人物ではないか」と感じることがあります。その感触は記録に残しておく価値がありますが、こちらが同一人物だと立証しなければ何も進められない、というものではありません。名義が違う相手が来たとき、こちらが決めればよいのは、支払うかどうかと、どのルートで受けるかです。
名乗ってもらうことは、失礼な求めではない
誰が請求しているのかを明らかにするよう求めることは、話し合いを拒む態度ではありません。相手の立場によっては、法令上の決まりとして定められている場面もあります。
業として取り立てる相手には、名乗る決まりがある
貸金業を営む者やその委託を受けた者が支払を求める書面を送るときは、商号・名称または氏名、住所、電話番号のほか、その書面を送る者の氏名を記載しなければならないとされています(貸金業法21条2項)。また、取立てをするに当たり相手方の請求があったときは、貸金業を営む者の商号・名称または氏名と、取立てを行う者の氏名などを明らかにしなければならないとされています(同条3項)。債権回収会社についても、業務に従事する者は、相手方の請求があったときに商号と自己の氏名などを明らかにする決まりがあります(債権管理回収業に関する特別措置法17条2項)。
債権回収会社を名乗る場合
債権回収会社は、法務大臣の許可を受けた株式会社に限られ(同法3条)、商号の中に「債権回収」という文字を用いることとされています(同法13条1項)。許可を受けていない者が、債権回収会社であると誤認されるおそれのある文字を商号に用いることは禁じられています(同条2項)。また、債権回収会社が自己の名義で他人に債権管理回収業を営ませることも禁じられています(同法14条)。許可を受けた会社の一覧は法務省が公表しているため、名乗られた商号がそこにあるかどうかは、その場で確かめられます。
弁護士や法律事務所を名乗る場合
弁護士でも弁護士法人でもない者が、弁護士または法律事務所の標示や記載をすることは禁じられています(弁護士法74条1項)。利益を得る目的で法律相談その他の法律事務を取り扱う旨の標示や記載をすること(同条2項)、弁護士法人でない団体がこれに類似する名称を用いること(同条3項)も同じです。実在する弁護士の氏名や登録番号をかたる例が各地の弁護士会から注意喚起されており、氏名と番号が実在するというだけでは本人と判断できません。日本弁護士連合会のウェブサイトで検索し、そこに載っている事務所の代表番号へこちらから電話をかける、という順序であれば、相手から教えられた連絡先に頼らずに済みます。
同じ話なのか、別の話なのか
名義が違う相手が来たとき、こちらの対応は「同じ話の続きとして扱うか」「別の話として扱うか」で分かれます。相手の言い分を四つに整理すると、確かめる先がはっきりします。
| 来方 | 相手が言っていること | こちらが確かめること |
|---|---|---|
| 同じ話の続きだという | 担当や名義が変わっただけ | 前の経過とのつながり、金額と日付の一致 |
| 前の話を引き継いだという | 債権を譲り受けた、委託を受けた | 引き継ぎを示す書面、譲渡人からの通知 |
| 別の話だという | 前の件とは別の請求だ | 根拠となる事実、いつ生じたのか |
| 前の話に乗ってきた | 事情を聞いた、自分にも関係がある | 誰の権利についての話なのか |
前の話を持ち出されたとき
すでに書面で決着している件であれば、その書面が今回の相手にも及ぶかどうかが問題になります。ここは合意の当事者が誰かという話になり、名義が違うというだけで結論は決まりません。前回の合意の読み方と出し方については、別の記事で詳しく扱っています。
第三者が加わってきたとき
当事者ではない人が「話を聞いた」として金銭を求めてくる場合、その人が何の権利に基づいて求めているのかがはっきりしないことがあります。この場合に確かめるのは人物ではなく、権利の中身です。求めている中身を書面にしてもらうよう伝えるだけで、話が続かなくなることもあります。
お金を渡す前に確かめておきたいこと
名義が変わる場面で気をつけたいのは、支払った相手が受け取る権限を持っていなかった場合に、支払ったこと自体が意味を持たなくなるおそれがあるという点です。
債権を譲り受けたと言われた場合
債権が譲渡されたことを債務者に主張するためには、譲渡人が債務者に通知をするか、債務者が承諾をすることが求められます(民法467条1項)。つまり、譲り受けたという人からの連絡だけでは足りず、もとの相手からの通知があるかどうかが手がかりになります。譲渡人から委任を受けた譲受人が、譲渡人の代理人として通知することはできるとされていますが、その場合も、誰から誰への通知なのかは書面の上でたどれるはずです。
受け取る権限のない人に渡した場合
受領権者以外の者であって、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者に支払った場合、その支払が効力を持つのは、支払った人が善意で、かつ過失がなかったときに限られます(民法478条)。名義がいくつも出てきていて、誰が受け取る立場なのかを確かめないまま渡した場合、この「過失がなかった」といえるかどうかが争いになります。急がされている場面ほど、支払先の確認が後回しになりやすいという点に注意が必要です。
連絡のルートが増えたときの置き方
ルートが増えると、どこに返事をしたのか、どこを見ていないのかが自分でも分からなくなります。相手を止めることが難しくても、こちら側の受け方は決められます。
窓口を一つにすると伝える
今後の連絡は書面または特定のアドレスで受ける、という形を一度伝えておくと、後から経過を示すときに整理しやすくなります。伝え方は短くて構いません。要求に応じるとも応じないとも書かずに、受け取る場所だけを示す形にしておくと、余計な受け答えを避けられます。
閉じたルートから来たものの扱い
窓口を決めた後も、別の経路から連絡が来ることがあります。ここで気をつけたいのは、返事をしないことと、記録に残さないことは別だという点です。着信やメッセージを削除してしまうと、後から「いつ、どのルートで、何を言われたか」を示す材料がなくなります。返事をせずに残す、という扱いが基本になります。
家族や勤務先に向かった場合
自分あての連絡が止まり、家族や職場に向かい始めたときは、対応の順序が変わります。勤務先や取引先への通告をちらつかされた場合の考え方、家族名義で請求が届いた場合の支払義務については、それぞれ別の記事で扱っています。
記録を一本の時系列にまとめる
ルートが分かれると、記録も分かれます。電話は着信履歴、メールは受信箱、SNSはアプリの中、というように置き場所が違うためです。名義とルートが増えている場面では、これを一つの表にまとめておくと、後から弁護士や警察に説明するときの手間が大きく変わります。記録しておきたいのは次の項目です。
- 日時と、こちらから見た曜日や時間帯。
- 相手が名乗った名前と肩書。
- 連絡手段と、そこに残っている識別情報(電話番号、アカウント名、差出人の住所)。
- 求められた内容と金額、期限として示された日。
- 前回までの連絡との違い(名前、金額、口調、要求の中身)。
- そのときにこちらが返した内容、または返さなかったこと。
同じ金額、同じ期限、同じ言い回しが別の名義で繰り返されている場合、その一致自体が材料になります。名義ごとに分けて保存するのではなく、日付順に一本化しておくところに意味があります。
求め方が線を越える場面
名義やルートを変えて連絡が続くこと自体を直接に取り締まる規定は、一般的には置かれていません。問題になるのは、その中身と態様です。害を加えると告げて金銭を求めれば恐喝(刑法249条)や脅迫(同法222条)、義務のないことを行わせようとすれば強要(同法223条)が問題になります。店舗や事務所への連続した電話や訪問で業務が妨げられていれば、偽計業務妨害や威力業務妨害(同法233条、234条)が問題となる場合があります。退去を求めたのに居座られた場合は不退去(同法130条後段)です。
なお、ストーカー行為等の規制等に関する法律や、東京都のいわゆる迷惑防止条例のつきまとい行為等の規定は、恋愛感情に関するものや、ねたみ・恨みその他の悪意の感情を満たす目的といった、行為の目的に関する要件が置かれています。金銭を得ることが目的の要求は、この目的の要件に当てはまらないと判断されることがあり、連絡が繰り返されているという事実だけでは、これらの規定に乗せられない場合があります。警察に相談する際に、恐喝や業務妨害という組み立てのほうが説明しやすい場面があるのは、このためです。
よくあるご質問
名乗らない相手には、返事をしないほうがよいのでしょうか。
返事をしない、という選択自体は不自然ではありません。ただ、こちらが受け取っていないことと、相手が送っていないことは別です。届いたものは保存したうえで、支払や約束につながる返答は保留し、誰からの請求なのかを書面で示すよう求める、という置き方であれば、応じたことにはなりません。
同一人物だと証明しないと、警察には相談できないのでしょうか。
そのようなことはありません。相談の段階で必要なのは、いつ、どのような内容の連絡が、どのルートで来たかという事実です。名義がいくつも出てきていること自体も、そのまま伝えて差し支えありません。同一人物かどうかの判断は、捜査機関が行う部分です。
別の名義を使うこと自体は、法律に触れないのでしょうか。
通称や屋号を用いること自体を一般的に禁じる規定はありません。もっとも、書面の作成名義を偽り、名義人と作成者の人格の同一性が偽られる場合には、私文書偽造(刑法159条)が問題となることがあります。また、前に見たとおり、弁護士や債権回収会社を名乗ることには個別の規制が置かれています。
まとめ
- 名義とルートが増えたときは、「誰の話か」と「どの話か」に分けて確かめる。
- 名義が変わることには説明のつく場合があり、説明と裏づけが示されるかどうかが分かれ目になる。
- 業として取り立てる相手には、名乗る決まりがある(貸金業法21条2項3項、債権管理回収業に関する特別措置法17条2項)。
- 債権回収会社は法務大臣の許可を受けた会社に限られ、誤認されるおそれのある商号の使用は禁じられている(同法3条、13条)。
- 弁護士や法律事務所の標示には制限があり、氏名と登録番号の実在だけでは本人と判断できない(弁護士法74条)。
- 債権を譲り受けたという連絡だけでは足りず、譲渡人からの通知または承諾が手がかりになる(民法467条1項)。受け取る権限のない人への支払は、善意無過失のときに限り効力を持つ(同法478条)。
- 返事をしないことと記録に残さないことは別であり、ルートごとに分かれた記録は日付順に一本化しておく。
別の名義やルートからの要求にお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不当な要求に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。名義が次々と変わる、連絡の経路が増えていく、といった場面では、相手の正体を突き止めることよりも、こちら側の受け方と記録を整えることが先になることがあります。
すでに一部を支払ってしまった場合や、家族・勤務先に連絡が及び始めている場合も、そこから取れる対応があります。どこまでを同じ話として扱うべきか判断がつかない段階でも構いませんので、届いているものをお手元にそろえたうえで、お早めにご相談ください。


