低評価の口コミをちらつかせて値引きを迫られた|応じる前に確認したいこと

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

 「この対応なら、星1をつけますよ」 「今回だけ無料にしてくれたら、口コミは書きません」

 サービス業や小売、美容・治療・士業など、ネット上の評価が集客に直結する仕事では、こうした言い方をされることがあります。そこで語られているのは商品やサービスへの不満ですが、同時に「口コミ」が値引きを通すための材料として使われている状態でもあります。

 はじめにお断りしておくと、これは正当な苦情まで警戒しましょうという話ではありません。不備があれば指摘を受けるのは当然のことですし、率直な評価を投稿することも本来自由です。問題になるのは、苦情の中身とは切り離して、投稿するかどうかを取引条件にしてしまう部分です。本コラムでは、その場でどこを見て判断すればよいのか、そして「とりあえず値引きして収める」という選択がなぜ割に合いにくいのかを整理します。

1.まず3つに切り分ける

 その場で全部を同時に考えると判断を誤りやすいので、次の3つを分けて考えます。

①苦情の中身に理由があるか
 実際に提供したサービスに不備があったのか、それとも事実と異なる前提で語られているのか。ここは通常のクレーム対応と同じ土俵です。

②求められている条件が、その不備に見合っているか
 不備があったとしても、それに対応する範囲は「やり直し」「該当部分の返金」「相当額の減額」などで決まります。全額無料や、その日の会計全部の免除といった要求が自動的に正当化されるわけではありません。

③口コミが、要求を通すための手段になっていないか
 「応じなければ書く」「応じるなら書かない」という条件づけがあるかどうか。ここが本コラムの中心です。

 ①と②が満たされていれば、③がなくても対応すべき場面です。逆に、①や②に無理があるほど、③の圧力に頼る形になりやすくなります。

2.法的な評価は「何とセットか」で変わる

 前提として、低評価の口コミを投稿すること自体は、原則として自由です。実体験に基づく率直な評価は、それだけで違法にはなりません。星の数だけをつける評価は、具体的な事実を示すものとは言いにくく、名誉毀損の成立を考えるのは難しいと整理されるのが一般的です。

 そのうえで、「書きますよ」という言葉に何がくっついているかによって、評価の枠組みが移っていきます。

告げられている内容想定される評価
不満を述べ、投稿の可能性に触れただけ直ちに違法とは言いにくい
事実無根の内容の投稿や、繰り返しの投稿・拡散をほのめかす名誉に対する害悪の告知として脅迫罪(刑法222条)の問題
値引き・返金・無料化とセットで告げる恐喝罪(刑法249条)の問題。未遂も処罰対象(250条)
土下座・謝罪文・従業員の処分など、義務のないことを求める強要罪(刑法223条)の問題
実際に虚偽の内容が投稿され、業務に影響が出た名誉毀損(230条)、信用毀損・業務妨害(233条)、威力業務妨害(234条)、民事の損害賠償(民法709条)の問題

 値引きの要求について補足します。金銭を受け取る場合だけでなく、代金の減額や免除といった「財産上の利益」を得る場合も恐喝罪の対象とされています(249条2項)。「お金は受け取っていないから」という理屈は当てはまりません。

 また、仮に相手に返金を求める正当な根拠があったとしても、それだけで手段が正当化されるわけではありません。最高裁昭和30年10月14日判決は、権利の実行であっても、その範囲内かつ方法が社会通念上一般に忍容すべき程度を超えない限りは違法の問題を生じないが、その範囲・程度を逸脱すれば恐喝罪が成立することがあるとしています。逸脱した場合には、もともとの債権額にかかわらず、交付を受けた金額の全体が問題になるとも判示されています。

 なお脅迫罪については、法人そのものを対象とする場合の成否に議論があります。個人商店や個人事業主のように、事業主本人に向けて告げられている場面では、この点は問題になりにくいといえます。

3.値引きに応じると、こちら側に別のリスクが生じる

 ここが見落とされやすい点です。「面倒だから今回だけ」と応じたとき、負担するのは値引き分だけではありません。

プラットフォームのルールに反する可能性があります。
 Googleマップの投稿コンテンツに関するポリシーは、否定的なクチコミの修正または削除と引き換えに、金銭・割引・無料の商品やサービスなどのインセンティブを提供する行為を、販売者・ユーザーの双方について禁止しています。インセンティブと引き換えに修正や削除の依頼を受けて投稿されたコンテンツも、評価の操作にあたるものとして扱われます。つまり「値引きするから消してほしい」という解決は、消したい投稿を消せるどころか、自店のプロフィール側に措置が及ぶ余地を残す方法です。

景品表示法の問題にもなり得ます。
 2023年10月1日から、いわゆるステルスマーケティングが景品表示法上の不当表示として規制の対象になりました。事業者が対価を提供して第三者に投稿させ、それが事業者による表示だと消費者に分からない状態にすることが問題とされる仕組みです。消費者庁の解説によれば、規制の対象となるのは表示内容の決定に関与した事業者、すなわち店側であって、投稿した消費者側ではありません。「星5に書き換えてくれたら割引します」という合意に乗った場合、責任を問われる立場になるのは店側です。

一度で終わるとは限りません。
 値引きに応じた事実は、同じ手段が通用するという情報として残ります。相手が再来店した場合はもちろん、同種の要求を受けた際にも、前例として持ち出されることがあります。

 その場をしのぐための値引きは、金額の小ささに反して、後から取り返しにくい選択になりやすいということです。

4.その場でできる4つのこと

① 苦情と条件づけを分けて答える
 「不備の点は通常の手続きで対応します」「口コミを条件とした値引きにはお応えできません」と、二つを分けて伝えます。片方を拒むために、もう片方まで否定する必要はありません。

② その場で結論を出さない
 金額に関わる判断は持ち帰る、と決めておきます。一人で営業している場合でも、「確認して改めてご連絡します」と伝えて時間を置くことは可能です。即答を避けること自体が、圧力に流されない仕組みになります。

③ 記録を残す
 日時、やり取りの内容、居合わせた人。会話に加わっている当事者が録音することは通常問題になりません。防犯カメラの映像、メールやメッセージのやり取りは、上書きされる前に保存しておきます。要求に応じなかった後で投稿されたという時系列は、後日の削除申請や法的手続で、投稿の動機を説明する資料になります。

④ 「書かれること」自体を過度に恐れない
 投稿されたら終わりではありません。返信対応、プラットフォームへの報告、法的手続と、段階的な選択肢があります。恐れが大きいほど条件を呑みやすくなるため、投稿後に何ができるかを知っておくこと自体が防御になります。

 なお、従業員を雇っている場合は別の視点も加わります。2026年10月1日から、顧客等の言動による就業環境の悪化を防ぐための措置が事業主の義務となります(改正労働施策総合推進法)。従業員が単独でこうした要求に対応させられている状態は、その観点からも見直しの対象になります。

5.実際に投稿された場合

 まず内容を確認します。事実に基づく指摘であれば、削除を目指すよりも、丁寧な返信で改善の姿勢を示すほうが結果的に評価につながることがあります。

 削除を検討するのは、実体験に基づかない内容、ハラスメントにあたる内容、個人情報を含む内容、その場所での体験と関係のない主張など、プラットフォームのポリシーに反する場合です。報告の際は、どのポリシーにどう反するのかを具体的に示すことになります。

 それでも残り、営業への影響が大きい場合には、削除請求の仮処分、発信者情報の開示、損害賠償請求といった法的手続が選択肢になります。ただし、費用と期間、そして立証の見通しを踏まえた判断が必要です。星の数だけの評価や、感想の域を出ない記述については、法的手続で削除まで至るのは容易ではありません。

6.不満を伝える側の方へ

 立場を入れ替えて補足します。サービスに不満があったとき、それを率直に投稿することは原則として自由です。事実に基づく批判まで萎縮する必要はありません。

 問題になるのは、「値引きしなければ書く」と条件をつけた瞬間です。その時点で、口コミの内容が正しいかどうかとは別に、要求の通し方が評価の対象になります。返金や減額を求めるのであれば、投稿をちらつかせるのではなく、契約の内容や不備の具体的な中身を根拠に伝えるほうが、結果的に通りやすい伝え方です。

7.まとめ

  • 低評価の口コミを書くこと自体は原則として自由であり、それだけで違法にはならない
  • ただし値引き・返金とセットで告げられた場合は、恐喝罪などの問題に評価の枠組みが移る
  • 相手に正当な言い分がある場合でも、手段が社会通念上許される程度を超えれば別の評価を受ける
  • 値引きで収める対応は、プラットフォームのポリシーや景品表示法の面で、店側がリスクを負う結果になり得る
  • その場では苦情と条件づけを分け、即答せず、記録を残す

 「たかが数千円のことで」と考えて処理してしまいがちな場面ですが、判断の材料が整理されていないまま応じると、後から動きにくくなります。要求の内容や記録の残し方に迷う段階でも、早めにご相談いただければ、取り得る対応をお伝えできます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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