セクストーション(性的脅迫)に遭ったら|最初の1時間で決まること
金銭の要求や脅しを受けているとき、「相手は反社ではないか」と感じた瞬間に、対応そのものが止まってしまうことがあります。確かめるのも怖い、確かめられないから動けない、という状態です。
しかし、法律は「反社かどうか」というスイッチで切り替わるようにはできていません。切り替わるのは一部の制度だけで、残りの大部分は相手が誰であっても同じように使えます。
この記事では、脅しや不当な要求を受けている方に向けて、相手の立場によって使える制度がどこまで変わり、どこは変わらないのかを整理します。相手が誰かを見極める作業は、ご本人が一人で背負うものではありません。
1.「反社会的勢力」は法律上の用語ではない
まず前提として、「反社会的勢力」という言葉は、法律の条文にある用語ではありません。
よく引かれるのは、平成19年6月19日の犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」における、**「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」**という説明です。ただしこれは、企業が取引相手との関係を遮断するための指針であって、罰則を伴うものでも、個人が受けている脅しに直接適用されるものでもありません。政府自身も、あらかじめ限定的・統一的に定義することは困難だとしています。
一方で、法律上の線引きがはっきりしているのが、暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)における「指定暴力団員」にあたるかどうかです。制度が実際に切り替わるのは、この一点だと考えると整理しやすくなります。
そこで本記事では、次の三つの層に分けて説明します。
| 層 | 相手 | 中心となる制度 |
|---|---|---|
| ① 土台 | 相手が誰であっても | 刑法上の犯罪類型/民事の請求・手続/弁護士による対応 |
| ②上乗せ | 指定暴力団など | 暴対法の中止命令・被害回復援助・代表者等への責任追及 |
| ③枠外 | 半グレ・準暴力団・トクリュウ | ②は使えず、①に戻る |
2.相手が誰であっても変わらない部分
犯罪になりうるかどうかは、属性では変わらない
脅しや不当な要求は、相手が暴力団員であってもなくても、次のような犯罪にあたる可能性があります。
| 行為 | 想定される罪名 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 危害を加える旨を伝える | 脅迫罪(刑法222条) | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 義務のないことを無理にさせる | 強要罪(刑法223条) | 3年以下の拘禁刑 |
| 脅して金銭等を交付させる | 恐喝罪(刑法249条) | 10年以下の拘禁刑 |
| 帰らせない・閉じ込める | 逮捕監禁罪(刑法220条) | 3月以上7年以下の拘禁刑 |
| 退去を求めても居座る | 不退去罪(刑法130条後段) | 3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金 |
| 威力を用いて業務を妨げる | 威力業務妨害罪(刑法234条) | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
※2025年6月1日の刑法改正により、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されています。
ここで押さえておきたいのは、相手が暴力団員だからといって、これらの罪の法定刑が重くなるわけではないという点です。逆にいえば、相手が暴力団員でなくても、これらの罪が成立しうることに変わりはありません。「相手が反社でないなら警察は動かない」という理解は正確ではありません。
支払う義務があるかどうかも、属性では変わらない
要求されている金銭に支払義務があるかどうかは、契約や法律上の根拠があるかで決まります。相手の立場によって義務が生じたり消えたりするものではありません。
また、強く迫られて怖くなり、その場で支払ってしまったとしても、それによって支払義務が確定するわけではありません。強迫による意思表示として取り消しうる場合(民法96条1項)や、不法行為として賠償を求めうる場合があります。
民事の手続と弁護士の関与
相手の属性にかかわらず、次のような対応は取りえます。
- 支払義務がないことを確認する訴え(債務不存在確認訴訟)
- すでに支払った分の返還や、被害についての損害賠償請求
- 執拗な面談要求を止めるための面談強要禁止の仮処分
- 弁護士が代理人として通知を出し、連絡窓口を一本化する こと
- 記録を残し、証拠として整えておくこと
「相手が誰かを確定できないから何もできない」ということは、通常ありません。
3.相手が指定暴力団員のときに上乗せできる制度
相手が指定暴力団員である場合には、ここまでの土台に加えて、暴対法の制度が使えます。
暴力的要求行為(暴対法9条)
暴対法9条は、指定暴力団員が指定暴力団の威力を示して行う不当な要求を「暴力的要求行為」として27類型に分けて禁止しています。個人が巻き込まれやすいものとしては、口止め料の要求(1号)、みかじめ料や用心棒代の要求、不当な方法での債権取立て、事故等の示談への介入、因縁をつけての金品要求などがあります。
中止命令・再発防止命令(11条・12条)
制度上の違いがもっとも大きいのが、この部分です。
暴力的要求行為があった場合、公安委員会または警察署長は、その行為の中止命令を出すことができます(11条1項)。さらに、繰り返されるおそれがあるときは、公安委員会が再発防止命令を出すことができます(12条)。
刑事事件として立件するには、脅迫や恐喝の事実を証拠で裏づける必要があります。これに対して中止命令は、刑事事件としての立件を待たずに、行為そのものを行政の側から止めるためのルートです。やり取りが口頭ばかりで証拠が乏しい事案でも、選択肢として検討される場合があります。
命令に違反した場合、暴力的要求行為に対する中止命令については、3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)が定められています(46条1号)。
ただし、命令を出すかどうかを判断するのは公安委員会や警察であり、申し出れば必ず出されるというものではありません。相手が指定暴力団員にあたるかどうかの確認を含め、警察側での検討を経ることになります。
被害回復の援助(13条)
中止命令などが出された場合、被害を受けた側が加害者に被害回復を求めるにあたって、警察に援助を申し出ることができます。加害者への必要な連絡、連絡先の教示、警察施設の利用といった援助が定められています。刑事手続とは別に、金銭面の回復を進めるための後押しが用意されている点が特徴です。
組織の代表者等への損害賠償(31条・31条の2)
暴対法には、指定暴力団の代表者等が、構成員の一定の行為によって生じた損害について賠償責任を負う旨の規定があります。請求の相手方が実行行為者本人に限られない場合がある、という点で、通常の不法行為に基づく請求とは異なります。
依頼する側も規制されている(10条)
「こちらも知り合いに頼んで対抗してもらおう」と考える方がいますが、暴対法10条は、何人も指定暴力団員に暴力的要求行為をすることを要求・依頼・教唆することを禁じており、違反すれば3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金の対象となります。加えて、頼んだこと自体が新たな弱みになり、後から要求を受ける側に回ってしまう例もあります。
事業を営んでいる場合
事業者の方については、暴対法14条の不当要求防止責任者の選任・届出(責任者講習は無料)や、各都道府県の暴力団排除条例に基づく対応も関係してきます。なお、暴排条例が禁じている利益供与は事業者の事業活動に関する規定であり、脅されて支払ってしまった一般の個人の立場とは前提が異なります。
4.半グレ・準暴力団・トクリュウは、暴対法の枠外
相談の現場で近年多いのが、暴力団ではないものの、集団を背景に金銭を要求してくるケースです。
警察庁は、平成25年に関東連合や怒羅権などを「準暴力団」と位置づけ、令和5年7月以降は、これを含むより広い概念として「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」という呼称を用いています。中核となる人物が匿名化し、実行役はSNSなどで流動的に集められる点が特徴とされています。
制度面で重要なのは、これらは暴対法や暴力団排除条例の適用対象ではないということです。指定暴力団員ではない以上、中止命令や被害回復援助のルートは使えず、対応は前記2の土台に戻ります。
もっとも、取締りの体制は変化しています。警視庁は2025年10月に匿名・流動型犯罪グループ対策本部を新設し、各県警でも専従の部署が置かれています。「暴対法の対象外だから警察は取り合わない」ということではありません。
実務的には、行政命令で止めるという発想ではなく、脅迫・恐喝・監禁・業務妨害といった刑事事件として記録を積み上げることと、民事の手続で接触と請求を止めることの二本立てで組み立てていくことになります。
5.「反社かどうか分からない」「自称している」とき
実際の相談では、これがもっとも多い状況です。
- 自分で素性を確かめようとしない。 組名を尋ねる、周囲に聞いて回るといった行動は、相手との接触を増やし、こちらの情報を渡すことにつながりかねません。
- 匂わせだけでも犯罪になりうる。 脅迫罪の「害悪の告知」は、明示的な文言に限られません。刺青を見せる、組織の名前をほのめかすといった言動が、状況によっては害悪の告知と評価される場合があります。
- 相手の話が事実でなくても、要求に応じる義務は生じない。 反社を装った要求であれば、それ自体が脅迫や恐喝の問題になります。
- 見極めは、警察や弁護士の側の作業。 相談の際は、名乗った名前や組織名、見聞きした発言、刺青の有無など、評価を加えずに「見たこと・言われたこと」をそのまま伝えていただければ十分です。
6.相談先の使い分け
| 状況 | 主な相談先 |
|---|---|
| いま危害が迫っている、押しかけられている | 110番 |
| 暴力団の関与が疑われる | 警察署の組織犯罪対策担当/警視庁 暴力ホットライン(03-3580-2222) |
| 事件になるかわからない段階の相談 | 警察相談専用電話 #9110 |
| 無料・秘密が守られる相談 | 暴力追放運動推進センター(東京都は暴力団追放運動推進都民センター) |
| 民事介入暴力に詳しい弁護士に相談したい | 各弁護士会の民事介入暴力被害者救済センター |
| 支払義務の当否、返金、接触の遮断 | 弁護士 |
暴力追放運動推進センターは相談無料で、相談員に法律上の秘密保持義務が課されています。暴力団に限らず、匿名・流動型犯罪グループに絡む相談も対象とされています。
7.相手が誰であっても共通する初動
やっておきたいこと
- 日時・場所・同席者・言われた内容を、記憶が新しいうちに時系列で書き残す
- 通話履歴、メッセージ、書面はそのまま保存する(自分から消さない)
- 家族や職場に何を知られている状態かを整理する
- 早い段階で相談先を決め、以後の連絡窓口を一本化する
避けたいこと
- その場で金額や期限を約束する、書面にサインする
- 「今日中に」と迫られて即断する
- 一人だけで交渉を続ける
- 相手の素性を自分で調べにいく
一度支払うと、名目を変えた要求が続くことがあります。「これで最後」という言葉があっても、それは支払義務の根拠にはなりません。
まとめ
- 「反社かどうか」は法律上の分岐点ではなく、制度が切り替わるのは主に指定暴力団員にあたるかどうか
- 刑事上の犯罪の成否、支払義務の有無、民事の手続は、相手の属性にかかわらず同じように使える
- 指定暴力団員であれば、中止命令・被害回復援助・代表者等への責任追及という上乗せの制度がある
- 半グレやトクリュウは暴対法の枠外だが、刑事・民事の対応は変わらず可能
- 相手が誰かの見極めは、相談を受ける側の仕事であって、動き出す前提条件ではない
相手の正体が分からないことは、相談を先送りする理由にはなりません。分からないままで結構ですので、見聞きした事実を持って早めにご相談ください。


