風俗嬢・キャストからつきまとわれている|客側がとれる法的措置
風俗店やキャストとの間でトラブルになり、弁護士に相談する。そのとき、多くの方が最初に迷うのが「どこまで話すか」です。
自分から触れてしまった。本当は本番行為があった。その場で現金を払い、書面にサインした。身分証のコピーを渡した。翌日、謝罪めいたLINEを送ってしまった——。こうした自分に不利な事実は、口に出すこと自体に抵抗があります。「話したら弁護士に見放されるのではないか」「責められるのではないか」と考え、少しだけ言わずにおく方は少なくありません。
ただ、その「少しだけ」が、後になって最も高くつくことがあります。この記事では、不利な事実を弁護士に伝えないまま進めた場合に何が起きるのか、その仕組みを具体的に整理します。あわせて、「弁護士に正直に話すこと」と「捜査機関に何でも話すこと」がまったく別の話であることも説明します。
1.言いにくいのは自然なことです
まず前提として、言いにくいと感じること自体は、責められるようなことではありません。
風俗トラブルは、家族や職場に知られたくない事情と結びついていることがほとんどです。そのうえ、行為の内容そのものが人に説明しづらい。「弁護士は堅い仕事だから、こんな話をしたら軽蔑されるのではないか」と身構える方もいます。
しかし、弁護士があなたの話を聞く目的は、道徳的に評価することではありません。その事実関係を前提にしたとき、法律上どこまで反論でき、どこは争えず、いくらまでなら妥当な着地なのかという見通しを立てることです。判断の材料が違えば、出てくる結論も変わります。材料を一部隠したまま出された結論は、あなたの事案の結論ではなく、別の事案の結論になってしまいます。
2.不利な事実を隠すと、具体的に何が起きるか
(1)見通しが実際より甘くなる
弁護士が最初の相談で示す見通しは、聞き取った事実を前提にした仮の見立てです。「一切触れていない」という前提で組み立てた方針は、実際には触れていたと判明した時点で、根本から組み直しになります。
「相手の言い分は不当だから支払いを拒否する」という方針と、「一定の事実は認めたうえで金額と条件を詰める」という方針は、まったく別物です。前者で走り出してから後者に切り替えると、それまでに相手方へ送った書面や主張が、すべて足かせになりかねません。
(2)相手方は、すでに知っていることが多い
風俗トラブルで見落とされがちなのが、相手方の手元にある材料の多さです。
店舗側には、店内やエントランスの防犯カメラ映像、入店・退店の記録、会計データ、キャストからの報告、場合によっては通話や店内でのやり取りの録音があります。あなたが提示した身分証のコピーや登録した連絡先を保管していることもあります。さらに、あなた自身が送った謝罪の連絡や、その場でサインした書面も、相手方の手元にあります。
つまり、あなたが「言わずにおこう」と思った事実の多くは、相手方がすでに把握している可能性があります。その状態で、こちらが一部を伏せた説明を組み立てると、後から相手方の資料によって食い違いが表に出ます。一点の食い違いが、こちらの言い分全体の信用性を下げるという形で効いてくるのが、実務上いちばん困る展開です。
(3)交渉の途中で方針転換を迫られる
示談交渉が進んだ段階で前提が崩れると、いったん交渉を止め、こちらから述べた内容を修正しなければならないことがあります。相手方から見れば、「主張が変わった」という事実そのものが不信につながります。
金銭的にも、それまでに動いた時間と費用が実質的に無駄になることがあります。早い段階なら選べたはずの選択肢が、この時点では残っていない、ということも起こります。
(4)刑事手続では、不利な評価に結びつくことがある
被害届が出されている、あるいは警察から連絡が来ている段階では、影響はさらに直接的です。
客観的な証拠と食い違う説明を続けると、取調べが長引きやすくなります。また、身柄拘束の判断では「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があるかどうかが要件のひとつとされており(刑事訴訟法60条1項2号。被疑者の勾留にも準用されます)、保釈の場面でも同様の事由が権利保釈の除外事由として定められています(同法89条4号)。
なお、自分自身の刑事事件に関する証拠を消す行為は、刑法104条の証拠隠滅等罪そのものには当たらないと解されています(同条は「他人の刑事事件に関する証拠」を対象としています)。ただし、罪を問われないことと、手続上不利に評価されないことは別です。撮影データやメッセージ履歴を削除した事実が判明すれば、上記の「罪証隠滅のおそれ」の判断で不利に働くおそれがあります。不利に見える記録ほど、自己判断で消さずに残しておくことをおすすめします。
(5)弁護士との信頼関係が失われることがある
弁護士は、真実に反すると知りながら主張や立証をすることはできません。弁護士職務基本規程75条は、偽証をそそのかすことや、虚偽と知りながらその証拠を提出することを禁じています。
そのため、依頼者との間で信頼関係が失われ、その回復が困難になったときは、弁護士はその旨を説明し、辞任その他の適切な措置をとることとされています(同規程43条)。交渉の途中で代理人が交代する事態は、期限や手続の面で不利に働きやすく、着手金の取扱いも委任契約の内容次第です。
3.「話しても外に出ない」根拠
不利な事実を話すことをためらう最大の理由は、「どこかに漏れるのではないか」という不安だと思います。
弁護士には守秘義務があります。弁護士法23条は、職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を定めており、弁護士職務基本規程23条も、正当な理由なく依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、または利用してはならないとしています。違反した場合には刑法134条1項の秘密漏示罪(6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)の問題にもなり、裁判で証言を求められた場面でも証言を拒むことができるとされています(民事訴訟法197条1項2号、刑事訴訟法149条)。
この守秘義務は、正式に依頼する前の相談段階から及びます。相談したものの依頼はしなかった、という場合も同じです。
もっとも、条文が「正当な理由なく」としているとおり、およそ例外がないという性質のものではありません。過度に「絶対に漏れない」と言い切ることはできませんが、少なくとも、あなたが過去の行為を正直に話したことが、そのまま家族や勤務先に伝わるという仕組みにはなっていません。連絡方法や郵便物の送り先に配慮してほしい事情があれば、それも含めて相談時に伝えておくとよいでしょう。
4.「弁護士に正直に話す」と「捜査機関に何でも話す」は別
ここは誤解が多いところなので、はっきり分けておきます。
弁護士にすべてを伝えることと、警察や検察の取調べですべてを話すことは、まったく別の話です。
取調べでは、自己に不利益な供述を強要されないことが憲法38条1項で保障され、刑事訴訟法198条2項も、供述を拒むことができる旨を告げたうえで取調べを行うものとしています。何を話し、何を話さないかは、方針として選ぶ余地があるということです。
そして、その方針を組み立てるには、弁護士が事実関係を正確に把握している必要があります。弁護士が「触れていない」と理解したまま助言をすれば、実際には触れていた場合に、その助言はあなたを守るものになりません。
つまり、順序としてはこうなります。
- 弁護士には、不利な事実も含めて伝える
- そのうえで、捜査機関に対して何をどう話すかを、弁護士と一緒に決める
5.記憶が曖昧なときの伝え方
風俗トラブルでは、飲酒後の出来事であることが少なくありません。ここで押さえておきたいのが、「していない」と「覚えていない」はまったく違うという点です。
曖昧な記憶を断定的に「していない」と説明してしまうと、後から客観的な証拠が出てきたときに、意図的な虚偽と受け取られかねません。逆に、相手や捜査機関に押される形で「そう言われればそうだったかもしれない」と流されるのも、同じくらい危険です。
正直に話すというのは、自分に不利なことを進んで断定することではありません。確かなことは確かなこととして、曖昧なことは曖昧なまま伝える。これがいちばん正確で、後から崩れにくい伝え方です。
6.特に伝えておきたい「言いにくい事実」
相談の際、伏せられがちで、かつ方針に直結する事項を挙げておきます。相談前にメモを作る際の目安としてお使いください。
- その場で払ったお金、サインした書面 — 現金・振込・カード決済の別、誓約書や示談書の有無と控えの所在
- 身分証の提示やコピー、渡した情報 — 免許証の撮影、連絡先、勤務先、SNSアカウント
- 相手方へ送った連絡 — 謝罪のメッセージ、「また伺います」といった内容、電話でのやり取り
- 行為の具体的な中身 — 自分から触れたのか、相手の反応や拒絶があったか、いつの時点でどうだったか
- 飲酒量と記憶の状態 — どこから記憶が曖昧か
- 撮影・録音の有無と、そのデータの扱い — 削除した場合はその事実も含めて
- 過去の同種のトラブル、前科・前歴 — 別の店との間の出来事、警察に事情を聞かれた経験
このほか、相手の年齢について気になる点があった場合は、法的な枠組みが変わるため、必ず伝えてください。また、「家族に知られたくない」「勤務先に連絡が行くと困る」といった事情は、不利な事実ではありませんが、取りうる手段の選択に直結します。
7.どのように伝えればよいか
話す順番を整えてから、と考える必要はありません。「言いにくいことがあるのですが」と前置きして構いませんし、時系列がばらばらでも、弁護士の側で整理します。
準備するとすれば、A4用紙1枚に、確かなこと/曖昧なこと/言いにくいことの3つに分けて書き出しておく程度で十分です。
また、相談の途中や後日に思い出した事実がある場合は、その時点で伝えてください。遅れて伝えることは、伝えないままでいることより常に良い選択です。
なお、不利な事実を隠すのと同じくらい注意したいのが、自分に有利な事情を実際より強く言うことです。誇張も、後で客観的な資料と突き合わされたときに崩れます。崩れ方は、隠していた場合とよく似ています。
8.正直に話せば有利になる、というわけではありません
最後に、誤解のないように書いておきます。
不利な事実を正直に話したからといって、その事実が消えるわけではありませんし、結果が良くなることが約束されるわけでもありません。不利な事実は、伝えても伝えなくても不利な事実です。
正直に話す意味は、そこにはありません。不利な事実を前提として、その時点で選べる選択肢の中から、最もましなものを選べる——これが実質的な意味です。
逆に、隠したまま進めば、選べたはずの選択肢が時間とともに減っていきます。事実が表に出るタイミングを、こちらで選べなくなるからです。
言いにくいことがある状態のまま相談に来ていただいて構いません。その言いにくさも含めて、扱うのが弁護士の仕事です。


