デリヘルで本番行為をしてしまった、逮捕される?不同意性交等罪の成立要件を弁護士が解説
料金の行き違い、断られたことへの苛立ち、酒の勢い——理由がどうであれ、相手の身体に手を出してしまえば、そこから先は「風俗店とのトラブル」ではなく刑事事件と損害賠償の問題になります。
しかも風俗の場面での暴力は、一般の喧嘩とは事情が違います。相手の本名も連絡先も分からない、店が交渉の窓口に出てくる、そして——同じ「ケガをさせた」でも、状況次第で罪の重さが桁違いに変わります。
この記事では、性風俗を利用する男性向けに、暴行・傷害として何が問われうるのか、示談で何をどこまで決めるべきかを、客側の立場から整理します。
1. 「暴行」と「傷害」を分けるのは、ケガの有無だけ
まず前提を押さえます。
- 暴行罪(刑法208条):2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、拘留・科料
- 傷害罪(刑法204条):15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
法律上の「暴行」は、殴る・蹴るに限りません。人の身体に対する不法な有形力の行使を指し、胸ぐらをつかむ、腕を強く引く、着衣を引っ張る、身体をめがけて物を投げるといった行為も含まれます。「軽く押しただけ」「掴んだだけ」という感覚でも、暴行と評価される余地があります。
そして「傷害」とは、人の生理的機能を害することです。ここも見た目より広く、切り傷・打撲・骨折だけでなく、次のようなものも傷害と扱われ得ます。
- 睡眠障害、慢性頭痛、耳鳴りなどの症状
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)のような精神的機能の障害
最高裁は平成24年7月24日の決定で、精神的機能の障害を生じさせた場合も刑法上の「傷害」に当たるという判断を示しています。外形的な傷がないことは、傷害を否定する決め手にはなりません。
つまり、暴行罪と傷害罪の分水嶺は**「ケガという結果が生じたかどうか」ただ一点**です。行為が同じでも、相手が通院すれば傷害罪の土俵に移ります。
注意:ここで扱うのは、あなたが意図的に有形力を行使した場面です。プレイの流れや器具の使用で結果的に負傷させてしまった、というケースは過失の評価が中心になり、検討の道筋が異なります。
2. 同じ「ケガをさせた」でも、罪名は大きく変わる
風俗の場面で最も見落とされやすいのがここです。暴力が「何のために」向けられたかによって、乗る条文が変わります。
| 状況 | 問われ得る罪 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 手を出したがケガはない | 暴行罪(208条) | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金等 |
| 手を出してケガをさせた | 傷害罪(204条) | 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 不注意で負傷させた | 過失傷害罪(209条) | 30万円以下の罰金または科料(親告罪) |
| 著しい不注意で負傷させた | 重過失致傷罪(211条後段) | 5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| わいせつ行為を通す過程での有形力でケガ | 不同意わいせつ致傷罪(181条1項) | 無期または3年以上の拘禁刑 |
| 性交等を通す過程での有形力でケガ | 不同意性交等致傷罪(181条2項) | 無期または6年以上の拘禁刑 |
| 部屋から出さない・拘束してケガ | 逮捕監禁致傷罪(221条) | 傷害の罪と比較して重い刑により処断 |
| 死亡させた | 傷害致死罪(205条) | 3年以上の有期拘禁刑 |
同じ「1回突き飛ばして転倒させた」という行為でも、口論の末であれば傷害罪(罰金の可能性もある)ですが、嫌がる相手に性的行為を通そうとする過程での有形力だと評価されれば、不同意わいせつ致傷罪・不同意性交等致傷罪の枠に入り得ます。この2つには罰金刑がなく、裁判員裁判の対象事件でもあります。
「拒否されたので押し倒した」「サービスを続けさせようとして腕をつかんだ」といった経緯は、当事者の感覚では“喧嘩”でも、法的には性犯罪の枠組みで見られる可能性があるということです。ここは自己判断が最も危険な部分で、当日の言動や供述の組み立て方が結論を左右し得ます。
3. 暴力事案の刑事手続は、わいせつ事案と見通しが違う
風俗トラブルの記事の多くは、盗撮・本番・お触りを前提に書かれています。ただ、暴行・傷害は手続の構造が異なります。押さえるべきは3点です。
(1) 罰金刑があるため、略式手続で終わる筋がある
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪には罰金刑がなく、起訴されれば原則として公開の法廷での正式裁判になります。これに対し暴行罪・傷害罪には罰金刑があり、法定刑の上限(30万円・50万円)はいずれも略式手続の枠内です。
略式手続は、簡易裁判所が公判を開かずに書面審理で罰金・科料を科すもので(刑事訴訟法461条)、100万円以下の罰金・科料が相当な事件であること、そして本人が略式によることに異議がない旨を書面で明らかにすること(同461条の2)が要件です。命令の告知を受けた日から14日以内であれば、正式裁判を請求することもできます(同465条)。
ただし、略式罰金でも有罪判決であり、前科として残ります。「罰金で済んだ」と「不起訴で終わった」の差は小さくありません。示談を検討する意味は、まずここにあります。
(2) 過失傷害罪以外は親告罪ではない
過失傷害罪(209条)だけは告訴がなければ起訴できない親告罪ですが、暴行罪・傷害罪・不同意わいせつ致傷罪などは親告罪ではありません。告訴の取下げや示談の成立が、そのまま不起訴に直結するわけではないという点は、期待値の置き方として重要です。
示談が意味を持つのは主に起訴猶予の判断場面です。検察官は「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況」を踏まえて起訴しないことができるとされており(刑事訴訟法248条)、被害回復と処罰感情の緩和はその情状の一部として考慮され得ます。
(3) 公訴時効
暴行罪は3年、傷害罪は10年、傷害致死罪は20年です。その場は何事もなく帰れたとしても、後日被害届が出される可能性は残ります。
4. 示談金は「言い値」ではなく、費目に分解して考える
暴力・ケガの事案は、盗撮やお触りの示談と違い、実際に発生した損害の積み上げが土台になります。請求されている金額が妥当かどうかは、次の費目に分けると検討しやすくなります。
- 治療費:実費。診断書料、検査費用を含む
- 通院交通費:実費
- 休業損害:出勤できなかった期間の減収
- 慰謝料:精神的苦痛に対するもの
- 物損:破損した衣服・眼鏡・スマートフォンなど
風俗特有の争点は「休業損害の基礎収入」
休業損害は、原則として1日あたりの基礎収入 × 休業日数で計算します。会社員なら給与明細で足りますが、この業界では確定申告をしていない、日払いで記録が残っていない、といったことが少なくありません。客観的な資料がない場合、過去の入金実績や賃金センサス(賃金構造基本統計調査の平均賃金)を参考に算定する扱いが取られることがあります。
つまり、休業損害は「相手が申告した日額 × 相手が申告した日数」で当然に決まるものではありません。ここが、金額が大きく動きうるポイントです。同時に、診断書の全治期間と実際の欠勤期間が離れている場合、その差の説明も検討対象になります。
「請求額=支払義務のある額」ではない
高額な提示を受けても、それは相手方の主張にすぎません。事実関係に争いがないか、費目ごとの根拠があるか、金額が相当といえるか——順に確認していく作業が必要です。他方で、実際にケガをさせている以上、賠償責任そのものは正面から向き合うべきものであり、「争う部分」と「誠実に払う部分」を切り分ける発想が現実的です。
5. 誰と示談するのか——店か、本人か
風俗の示談で最もつまずきやすいのがこの点です。
店に払っても、本人との清算は成立しない
ケガをしたのはキャスト・セラピスト本人です。**店に「罰金」や「迷惑料」を払っても、それは本人との間の賠償の清算にはなりません。**後日、本人から被害届が出される、あるいは別途損害賠償を請求される、という展開はあり得ます。
なお、店が示す「罰金」は刑罰ではなく違約金の俗称です。私人が刑罰を科すことはできず、金額や根拠は個別に検討する必要があります。
店が交渉の窓口に立つときの注意
本人のプライバシー保護のため、店が間に入ること自体は珍しくありません。ただし、報酬を得て他人の法律事件の示談交渉を業として行うことは、弁護士法72条に触れる問題を含みます。2026年2月には、客と示談交渉をしたとして風俗店の店長らが弁護士法違反の疑いで逮捕されたと報じられました。店主導でその場にまとめられた合意が、後に効力を争われる余地もあります。
相手の情報が源氏名しか分からないという壁
暴行・傷害の一般記事では、「相手が受け取らないなら供託(民法494条)」という手段がよく紹介されます。しかし供託は、供託書に被供託者の氏名・住所を記載し、被害者の住所地を管轄する法務局に行う必要があります。源氏名しか分からない風俗の事案では、事実上使えないことが少なくありません。
示談書に入れておきたい条項
- 清算条項(本件に関し他に債権債務がないこと)
- 宥恕条項(相手の処罰を求めない旨)※刑事処分への影響を考えるなら重要
- 秘密保持条項
- 接触制限条項(今後接触しない旨)
6. 「相手も手を出してきた」「先に挑発された」場合
もみ合いになった、相手に引っかかれた、押し返された——こうしたケースもあります。
刑法36条1項は、急迫不正の侵害に対し自己または他人の権利を防衛するためやむを得ずにした行為を罰しないと定め、2項は程度を超えた場合の減軽・免除を定めています。ただし判例は、互いに攻撃し合ういわゆる喧嘩については、闘争全般から見て正当防衛の観念を容れる余地がない場合があるという考え方を示しています。一方で、闘争がいったん終結した後の新たな攻撃については、急迫不正の侵害として正当防衛が認められ得ます。
民事では、被害者側にも落ち度があれば**過失相殺(民法722条2項)**で賠償額が減額される余地があります。
ただ、現実には次の点を踏まえておく必要があります。
- 記録に残りやすいのは、相手の負傷と診断書です
- 個室内での出来事は、第三者の目撃者がいないことが多い
- 「自分は悪くない」と全面的に押し切る主張は、客観的な状況と食い違ったときに供述全体の信用性を損ないます
経緯は経緯として正確に述べつつ、事実の認否は慎重に——というのが実務的な進め方です。取調べでは、供述調書の内容を確認し、違うところは訂正を申し立て、納得できなければ署名押印を拒むこともできます(刑事訴訟法198条)。
7. 直後にとるべき行動と、避けるべき行動
避けたい行動
- その場から立ち去る:ケガの程度が分からないまま逃げれば、救護の機会を失ううえ、逃亡と評価されて身体拘束の理由になり得ます
- その場で現金を渡す・ATMに同行する:任意に支払った金銭は、後から取り戻すことが困難です
- 内容を確認しないまま示談書・誓約書に署名する
- 身分証や携帯を預ける:以後の交渉で不利な材料になります
- 本人へ直接連絡する:謝罪のつもりでも、接触を図ったと評価されるおそれがあります
- 録画・録音・LINEなどの記録を消す:証拠隠滅と受け取られ、量刑上不利に働き得ます
- 「大したケガではない」と自分で判断する:打撲・捻挫が後から悪化することも、精神的な症状が後から表れることもあります
とるべき行動
- まず相手の状態を確認し、必要なら救護を優先する(119番)。安全が確保できない状況なら110番
- 何が起きたかを時系列でメモにする(言葉のやり取り、位置関係、経過時間)
- 予約履歴・入店記録・オプションの申込内容・支払記録を保存する
- その場で金額を確定させない(「確認して回答します」で持ち帰る)
- 早期に弁護士に相談し、窓口を一本化する
窓口を一本化する実務的な意味は、感情的なやり取りを止められること、そして捜査機関を通じて相手方の意向を確認するルートを確保できることにあります。相手の連絡先を自力で探す行為は、それ自体が別の問題(接触のおそれ、罪証隠滅の疑い)を生みかねません。
8. よくある質問
Q. 逮捕されますか?
風俗トラブルは在宅のまま捜査が進む例も少なくありませんが、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されれば身体拘束はあり得ます。傷害の程度、経緯、その場での対応が判断材料になります。
Q. 相手が「警察には言わない」と言っています。もう終わりですか?
その場の言葉と、後日の判断は別です。公訴時効は暴行罪で3年、傷害罪で10年あります。清算条項を含む書面で明確にしておかないと、後日の請求や被害届の可能性は残ります。
Q. 酔っていて記憶がありません。
記憶がないことは、やっていないことの証明にも、責任がないことの証明にもなりません。自ら飲酒して一時的に判断力を失った場合、賠償責任を免れないのが原則です。まずは客観的な記録から事実を復元する必要があります。
Q. 会社や家族に知られませんか?
逮捕・勾留による長期の不在、店側が把握した勤務先情報の利用など、いくつかのルートがあります。私生活上の行為を理由とする懲戒の可否は別の判断枠組みになります。
まとめ
- 暴行罪と傷害罪を分けるのはケガの結果が生じたかどうか。精神的機能の障害も傷害に含まれ得る
- 性的行為を通す過程での有形力と評価されれば、罰金刑のない181条の致傷罪の枠に入り得る。ここは自己判断が最も危険
- 暴行・傷害には罰金刑があり略式で終わる筋もあるが、前科は残る。示談の主な意味は起訴猶予の判断材料
- 示談金は治療費・通院交通費・休業損害・慰謝料に分解して検討する。風俗では休業損害の基礎収入が争点になりやすい
- 店に払っても本人との清算は成立しない。源氏名しか分からない事案では供託も使いにくい
- 初動で避けるべきは、逃走・その場払い・未確認の署名・記録の削除・本人への直接連絡
ケガをさせてしまったという事実は、後から消せるものではありません。だからこそ、争うべき点と、誠実に清算すべき点を早い段階で切り分けることが、結果的にご自身にとっても相手にとっても妥当な着地につながります。


