被害届が出る場合と出ない場合|キャスト・店の判断で何が変わるか
繁華街で声をかけられ、そのまま店まで付いて行った。あとになって聞いていた金額と違う会計を告げられた、あるいは後日その店が摘発されたと知った。こうしたとき、多くの方が最初に気にされるのが「客引きに付いて行った自分も条例違反になるのではないか」という点です。
結論から申し上げると、客引きやスカウトを禁じているルールは、いずれも声をかけた側と、声をかけさせた店に向けられたもので、付いて行った客を罰する規定は基本的に置かれていません。ただし、それは「客の側には何の意味もない」ということではありません。客引きを経由して入った店だという事実は、そのあとに続く場面で意味を持ってきます。
この記事は、客引きに付いて行くことをすすめる趣旨でも、支払いを免れる方法をお伝えする趣旨でもありません。自分の立場を正しく把握しないまま、その場で不利な対応をしてしまう方が少なくないため、ルールの構造を整理してお伝えするものです。
この記事で扱う場面
- 路上で声をかけられ、案内された店で聞いていた金額と違う会計を告げられた。
- 「いい店を紹介する」と言われ、別の建物やレンタルルームに連れて行かれた。
- 付いて行った店が後日摘発され、自分にも連絡が来るのではないかと不安になっている。
- その場で強い口調で支払いを求められ、どこまで応じるべきか分からなくなった。
客引きを禁じるルールは三つの層に分かれている
客引きの規制は、一つの法律にまとまっているわけではありません。性質の違う三つのルールが重なっており、どれが使われるかは、店の業態と、声をかけられた場所によって変わります。
| ルールの種類 | 主に義務を負う人 | 違反したときの主な効果 |
|---|---|---|
| 風営法(国の法律) | 接待をする飲食店や店舗型の性風俗店などの営業者 | 刑事罰 |
| 都道府県の迷惑防止条例 | 公共の場所で執ような客引きをした人(誰でも) | 刑事罰 |
| 市区町村の客引き条例 | 区域内で客引きをした人・させた店 | 指導や勧告を経て過料など |
風営法は、風俗営業を営む者が客引きをすること、客引きのために道路などで人の前に立ちふさがったり付きまとったりすることを禁じています(22条)。店舗型の性風俗店についても、別の項に同じ趣旨の禁止が置かれています(28条12項)。居酒屋などの飲食店についても、深夜の営業に関しては同じ規定が準用される仕組みになっています。
名宛人はいずれも「声をかけた側」
三つのルールに共通しているのは、義務を負う相手が客引きをした人と、客引きをさせた店だという点です。「客引きに応じて店に入った客」を処罰する規定は、これらのルールには置かれていません。付いて行ったこと自体を理由に前科がつくといった心配は、通常は不要と考えてよい部分です。
都道府県の条例は「執ようさ」を問題にしている
東京都の迷惑防止条例は、公共の場所で不特定の人に対し、身体や衣服をとらえる、所持品を取り上げる、進路に立ちふさがる、身辺に付きまとうといった方法で執ように客引きをすることを禁じています(7条)。裏返せば、一声かけられただけの穏やかな誘いは、この条文だけでは捉えきれません。その隙間を埋めるために市区町村の条例が作られてきた、という関係にあります。
市区町村の条例は地域ごとに中身が違う
繁華街を抱える自治体の多くが独自の客引き条例を持っており、その数は全国で五十を超えます。業種を問わず禁止する自治体もあれば、性風俗店や接待を伴う店に限る自治体もあり、罰則を置かず指導だけにとどめている自治体もあります。同じ行為でも、隣の市や区に移動すると扱いが変わることがあるという点は、押さえておいてよい特徴です。
デリヘルのように店舗を持たない業態は扱いが少し違う
風営法の客引き禁止は、営業所を構える業態を前提に組み立てられています。無店舗型、いわゆるデリバリー型の営業には、この禁止がそのままの形では置かれていません。ただし受付のための施設を設けている場合には、店舗型と同じ規制がかかる仕組みになっています。路上で声をかけられて「事務所で受付をする」と案内される形は、この場面に近づいていきます。
「スカウト」と「客引き」は、ルールの上では別のもの
声をかけてくる相手をまとめて「スカウト」と呼ぶことがありますが、条例では次のように区別されています。
- 客引き行為は、客になるように誘う行為を指す。
- 勧誘行為(スカウト行為)は、その店で働く側になるように誘う行為を指す。
したがって、「安く遊べる店を紹介する」と言われて付いて行った場面は、相手の呼び名がどうであれ客引きの場面です。読者の方が「スカウトに付いて行った」と表現される場面のほとんどは、法的にはこちらに分類されます。
一方で、自分が知り合いの女性を店に引き合わせる側に回ると、まったく別の法律の問題に変わります。ここは立場が入れ替わる分岐点になりますので、別稿で扱っています。
付いて行った客の側が問われる場面はあるのか
付いて行ったこと自体は罰則の対象ではありませんが、次の場面では話が変わります。
- 相手が18歳未満だった場合。年齢に関する規制は、客の側にも及びます。
- その場で自分が暴行や脅しにあたる行為をした場合。会計をめぐって手が出てしまう例があります。
- 店の運営や客集めに関わった場合。誘う側に回った時点で立場が変わります。
- 自治体によっては、市民に対して「安易に客引きを利用しないよう努める」責務を定めている場合があります。
責務を定めた規定と、罰則を定めた規定は別のもの
最後の点は誤解されやすいところです。たとえば静岡市は、条例の趣旨を市民向けに説明する中で、客引きを安易に利用しないよう呼びかけています。ただしこれは努力を求める規定であって、応じた客に過料や罰金が科される仕組みにはなっていません。「利用した客も処罰される」という説明を見かけたときは、その自治体の条例で罰則の対象が誰になっているかを確かめてください。
「違法な店だとは知らなかった」は通じるのか
店の側の手続違反や条例違反は、店の責任として処理されます。客が届出の有無まで調べる義務を負っているわけではないので、知らなかったこと自体を責められる場面はまれです。ただし相手の年齢に関しては、知らなかったことがそのまま免責につながるとは限りません。ここだけは扱いが異なると考えておいてください。
客引き経由だったという事実は、料金の話でどう効くか
ここが、客側にとって実益のある部分です。市区町村の客引き条例の多くは、客引きをした人を規制するだけでなく、客引きを使って客を店に入れる営業そのものを禁じています。つまり、客引きに案内されて入った店は、その時点で条例が想定していない形で客を受け入れていることになります。
ただし、条例違反がそのまま「払わなくてよい」にはならない
風営法も条例も、営業のやり方を取り締まるためのルールです。取り締まりのルールに違反していることと、客と店の間に支払義務があるかどうかは、別の筋道で判断されます。条例違反があるのだから料金はゼロだ、という結論には直ちにはつながりません。この点を誤解したまま全面的に支払いを拒むと、かえって話がこじれることがあります。
効いてくるのは「説明と違う」という主張の材料として
実際に争点になりやすいのは、路上で説明された料金と、店内で告げられた金額が食い違っているという点です。客引き経由だったという事実は、どこで、誰から、いくらと聞いたのかという説明の出どころを特定する手がかりになります。料金体系の説明が足りなかったことを理由に、請求額が大きく減らされた例もあります。争いの形は「ゼロか全額か」ではなく「いくらか」になることが多く、そこを組み立てるための土台になる事実だとお考えください。金額そのものを詰めていく進め方は、別稿で詳しく扱っています。
その場で気をつけたいこと
会計をめぐって話がこじれた場面では、身の安全を先に考えてください。そのうえで、次の点を意識しておくと、あとの選択肢が残りやすくなります。
- 囲まれて出られない、帰らせてもらえないという状況になったら、その場で110番通報を検討する。
- 聞いていた金額については支払う意思があると伝え、差額の部分を争う姿勢を示しておく。
- 暗証番号の入力や身分証の預け入れは、求められても慎重に判断する。
- その場で示された書面に署名する前に、内容を読む時間をもらう。
その場で相手を言い負かす必要はありません。争う余地を残したまま帰ることのほうが、結果的に有利に働きます。
店が摘発された場合、客はどうなるのか
付いて行った店が後日摘発されたとしても、利用しただけの客が処罰されるのが通常の流れではありません。ただし、予約の記録や店の帳簿から、客に連絡が来ることはあります。求められるのは多くの場合、店の営業の実態についての話であって、客自身を処罰するための取調べではありません。
とはいえ話した内容は記録として残ります。自分の行為について聞かれているのか、店の行為について聞かれているのかを確かめてから答えるようにしてください。この点は別稿でも扱っています。
あとで役に立つ記録
- 声をかけられた場所と時刻。地図アプリの移動履歴で足りることもあります。
- 声をかけてきた人の特徴と、店との関係についてどう説明されたか。
- 路上で告げられた料金と、店内で示された料金。
- 店の名称、看板の表示、入っていた建物とフロア。
- 支払った方法と、その明細や控え。
とくに路上での説明は、時間が経つと再現できなくなります。店を出たあと、できるだけ早い時点でメモに残しておくと、あとから話を組み立てるときの土台になります。
まとめ
- 客引きやスカウトを禁じるルールは、風営法・都道府県の迷惑防止条例・市区町村の条例の三層に分かれている。
- いずれも義務を負うのは声をかけた側と店であり、付いて行った客を罰する規定は基本的に置かれていない。
- 「客引き」は客になるよう誘う行為、「勧誘(スカウト)」は働く側になるよう誘う行為で、ルールの上では区別されている。
- 相手が18歳未満だった場合、その場で自分が暴行や脅しに及んだ場合、店側に関わった場合は、客の側の問題になる。
- 自治体によっては市民に客引きを利用しないよう努める責務を定めているが、罰則を伴うものではない。
- 市区町村の条例の多くは、客引きを使って客を入れる営業そのものを禁じている。
- ただし条例違反があることと、支払義務が消えることは、別の筋道で判断される。
- その場では身の安全を優先し、聞いていた金額と告げられた金額の食い違いを記録に残しておく。
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