白旗を揚げる前に
プロシード国際特許商標事務所の鈴木康介です。
新型コロナウイルスで脚光を浴びているPCR(Polymerase Chain Reaction)法は、DNAを数百万倍から数十億倍に増幅する手法で、最近の生物工学では必須の技術となっています。
PCR法は、アメリカのバイオベンチャーのCetus Corporation社のKary B Mullis氏が中心となり開発しました。
1983年に彼がドライブ中に最初の着想をしたそうです(いろいろと伝説があります……。)。
しかし、当時は耐熱性のポリメラーゼ(DNAを合成する酵素)が見つかっていないため、DNAを増幅するために20回以上行うサイクルの1回ごとに酵素を加える必要があるなど、集中力や技量がいる実験でした。
彼はアイデアを思いつきましたが、実験自体は失敗が続き、データが取れませんでした。
そこで、チームリーダーのTom White氏が日系人のRandy Saiki氏をMullis氏のチームに起用したところ、実験がうまくいくようになり、この技術が確立しました。
1986年に米国特許商標庁に出願し、1987年に登録されました(US4683195B1)。
現在では、臨床検査でもPCR法が活用され、今回の新型コロナウイルスでもPCR法から発展したRT-PCR法が使われています。
RT-PCR法は逆転写酵素(Reverse Transcriptase)を使ってRNAからcDNAを作り増幅する手法です。
新型コロナウイルスはRNAウイルスですので、RT-PCR法を使います。
RT-PCR法は優れた検査手法ですが、患者さんから取り出した検体に新型コロナウイルスが含まれていないと検出することができません。
このため、感染直後ですと、体内に十分な量のコロナウイルスがいないため検体の中にウイルスが入る可能性が低くなりますし、検体の取り方によってはウイルスをとれない可能性があります。
また、患者さんの抗体や免疫細胞たちがコロナウイルスを破壊しても、体内にコロナウイルス由来のRNAが残っていたり、たまたま新型コロナウイルスのRNAと同じ配列を持つRNAが存在した場合には、判断結果が陽性となる可能性があります。
このように、PCR法による検査では偽陽性(感染してないけど陽性と出る)や偽陰性(感染しているけど陰性と出る)という課題があるため、PCR法による検査だけで陰性だから安心というわけではないですし、陽性だからと言って必ずしも感染しているというわけではないです。
(PCR法に限らず、抗体検査などたいていの検査手法ではこの種の問題が発生します。)
学生時代に学んだ研究室でも違う病気の検査手法を開発していましたが、偽陽性を少なくしようとすれば、偽陰性が増えますし、偽陰性を少なくしようとすれば、偽陽性が増えるというジレンマに悩まされていました。
参考:日本RNA協会<走馬灯の逆廻しエッセイ> 第9話
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