特定の社員だけ勤務時間を変えても大丈夫? フレックス制度を使わない柔軟な働き方【人事トラブル相談室④】
今日もありがとうございます。
人事トラブルを整理する「人の専門家」
ハーレー好きの社労士 キャプテン ヒデです。
今回は、入社日と年次有給休暇の付与日をめぐる、少し地味ですが実務上とても大切なテーマです。
中小企業の労務相談では、入社から数年経ってから、社員本人から次のような話が出てくることがあります。
「自分の入社日はもっと前だったはずです」
「有給休暇の付与日数が少ないのではないですか」
「勤続年数の計算が違っていると思います」
会社側としては、
「雇用契約書は残っている」
「給与の支払い開始月も確認できる」
「でも、本人の記憶と食い違っている」
という場面です。
このようなときに大切なのは、感情的に反論しないことです。
「そんなはずはない」
「会社の記録が正しい」
「あなたの記憶違いです」
といきなり返してしまうと、本人の不信感を強めてしまうことがあります。
入社日をめぐる問題は、記憶ではなく、記録で確認する。
この姿勢が大切です。
入社日は、あとから重要になる
入社日は、単なる日付ではありません。
入社時にはあまり意識されていなくても、後になって次のような場面で重要になります。
・年次有給休暇の初回付与日
・年休の付与日数
・勤続年数
・退職金の算定
・無期転換の通算契約期間
・社会保険、雇用保険の資格取得
・退職時の説明資料
特に年次有給休暇は、入社日を基準に考えるため、入社日が1か月、2か月ずれるだけでも、初回付与日や勤続年数のカウントに影響することがあります。
中小企業では、
「昔からいる人だから」
「たぶんこの頃だったと思う」
「前任者が処理していたので詳しく分からない」
ということもあります。
しかし、本人との認識が食い違ったとき、会社として説明できる資料がなければ、対応が難しくなります。
年次有給休暇の付与日に影響する
年次有給休暇は、原則として「雇入れの日」から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合に発生します。
そのため、入社日が違うと、初回の年休付与日が変わる可能性があります。
たとえば、会社は7月12日入社として処理している。
しかし、本人は6月から勤務していたと認識している。
この場合、年休の初回付与日や、次回以降の付与日数に影響する可能性があります。
入社日は、年休管理の出発点です。
だからこそ、後から争点になりやすいのです。
面接・見学・研修・試し勤務と混同されることがある
本人が「入社日はもっと前だった」と主張する場合、実務では次のような日付と混同していることがあります。
・面接日
・職場見学日
・内定日
・入社前研修の日
・試し勤務の日
・内定後に会社とやり取りを始めた日
本人にとっては、
「この頃から会社と関わっていた」
という記憶が残っています。
その記憶自体は、必ずしも不自然ではありません。
ただし、労務管理上の入社日として扱うかどうかは、別に整理する必要があります。
一方で、会社側も注意が必要です。
研修や試し勤務という名目であっても、実態として会社の指揮命令下で業務を行っていた場合は、労働時間や勤務開始日の問題になることがあります。
つまり、会社にとって都合のよい日だけを入社日と見るのではなく、実際にいつから労働契約が始まり、いつから勤務していたのかを確認する必要があります。
試用期間は「入社前」ではない
入社日の確認でよくある誤解が、試用期間です。
本人が、
「試用期間が始まった日が入社日だと思っていました」
と考えていることがあります。
一方で、会社側も、
「試用期間だから正式入社ではない」
「本採用になった日から勤続年数を数えればよい」
と誤解していることがあります。
ここは重要です。
試用期間中であっても、労働契約が始まっていれば、原則として入社後の勤務期間に含まれます。
試用期間は、通常、労働契約が始まった後の一定期間です。
会社側が「試用期間だから年休の勤続期間に入れない」と処理するのはリスクがあります。
年休付与や勤続年数を考えるときは、
「本採用日」ではなく、
「労働契約が始まった日」
を確認する必要があります。
給与の支払い開始月と整合するかも確認する
入社日を確認する場合、雇用契約書だけでなく、初回給与の支払い月も有力な確認材料になります。
たとえば、会社の給与が「10日締め・25日払い」で、7月12日入社の場合、7月25日支払いの給与には反映されず、8月25日支払いが初回給与になることがあります。
この場合、8月25日に初回給与が支払われていることは、7月中旬以降に勤務を開始したことを裏付ける資料の一つになります。
ただし、給与支払月だけで入社日を決めるのは危険です。
給与締日、支払日、日割計算の方法、初回給与の対象期間を確認したうえで、雇用契約書や勤怠記録と合わせて整理する必要があります。
「記憶」ではなく「記録」で確認する
本人の記憶と会社の記録が食い違った場合、会社として確認すべき資料は一つではありません。
複数の資料を突き合わせて、整合性を確認します。
確認資料見るポイント雇用契約書・労働条件通知書契約開始日、雇入れ日入社時の誓約書・身元保証書記載日、提出日賃金台帳・給与明細初回給与支給月、対象期間勤怠記録・タイムカード実際の勤務開始日社会保険・雇用保険の資格取得日届出上の取得日採用通知・内定通知内定日と入社予定日の区別メール・チャット等のやり取り入社日や勤務開始日の確認
ここで注意したいのは、会社側の記録が常に正しいとは限らないということです。
入社手続きの遅れ、雇用契約書の作成漏れ、社会保険・雇用保険の手続き遅れなどがある場合もあります。
社会保険・雇用保険の資格取得日も参考にはなりますが、それだけで入社日を決めるのは危険です。
手続き上の誤りや、加入要件の問題がある場合もあります。
会社に都合のよい資料だけを見るのではなく、雇用契約書、勤怠記録、給与支払い状況などを合わせて確認することが大切です。
本人への説明は、否定から入らない
本人から、
「入社日はもっと前だったはずです」
と言われた場合、会社として避けたいのは、次のような言い方です。
そんなはずはありません。
会社の記録が正しいです。
あなたの記憶違いです。
これでは、本人の不信感を強める可能性があります。
実務上は、次の順番で整理するとよいです。
まず本人の申し出内容を確認する
会社保管資料を確認する
雇用契約書・給与明細・賃金台帳・勤怠記録の整合性を整理する
会社として確認できる入社日を丁寧に説明する
必要に応じて、本人側に根拠資料の提示を依頼する
大切なのは、本人の記憶を頭から否定しないことです。
たとえば、次のように伝えると、感情的な対立を避けやすくなります。
ご認識の時期については承知しました。
会社として確認できる資料を確認したところ、雇用契約書上の入社日、初回給与の支払い状況、賃金台帳の内容から、入社日は〇年〇月〇日として整理するのが相当と考えています。
もし別の開始日を示す資料をお持ちであれば、確認させていただきます。
このように、本人の記憶を否定せず、資料で整理することがポイントです。
年休管理表には「入社日」と「初回付与日」を入れておく
年休付与トラブルを防ぐには、日頃の管理も重要です。
年休管理表には、単に残日数だけでなく、次の情報を入れておくと確認しやすくなります。
項目内容入社日雇用契約書上の開始日初回付与日入社6か月経過日付与日数法定日数または会社独自の上乗せ日数次回付与日1年ごとの付与基準日出勤率確認8割要件の確認備考一斉付与・比例付与・休職等の特記事項
また、雇用契約書、労働条件通知書、入社誓約書、社会保険・雇用保険の手続書類は、後日のトラブル防止資料になります。
紙だけでなく、PDF化して社員別フォルダに保管しておくと、後から確認しやすくなります。
会社側の記録ミスが見つかった場合は修正する
確認した結果、会社側の記録や年休付与に誤りが見つかることもあります。
その場合は、無理に会社の従来処理を押し通すのではなく、誤りの内容を整理したうえで、必要な修正を行うことが大切です。
たとえば、
・入社日を誤って登録していた
・試用期間を勤続期間から除外していた
・年休の初回付与日を誤っていた
・比例付与の区分を誤っていた
・一斉付与の処理で付与日数が不足していた
このような場合は、現在の年休残日数だけでなく、過去の付与日数や取得状況も確認する必要があります。
年次有給休暇の請求権は原則として2年で時効にかかりますが、付与日や付与日数の説明が不十分だった場合、社員との信頼関係の問題として大きくなることがあります。
単に「時効だから対応しない」と考えるのではなく、会社として説明できる整理をしておくことが重要です。
まとめ:入社日は、あとから争点になる
入社日は、入社時にはあまり問題にならなくても、後になって年次有給休暇、勤続年数、退職金、社会保険、雇用保険などの場面で重要になります。
特に中小企業では、
「昔からいる人だから」
「たぶんこの頃だったと思う」
「前任者が処理していたので詳しく分からない」
という感覚で処理していると、後で説明に困ることがあります。
今回のポイントは、次のとおりです。
・入社日は、年休付与や勤続年数の基準になる
・面接日、見学日、内定日、研修日と入社日は分けて考える
・試用期間中でも、労働契約が始まっていれば勤続期間に含まれる
・給与支払月だけでなく、締日・支払日・対象期間を確認する
・社会保険や雇用保険の資格取得日は参考資料として扱う
・会社側の記録が常に正しいとは限らない
・本人の記憶を否定せず、複数資料で整理する
入社日や年休付与日は、一見すると小さな確認作業に見えます。
しかし、本人との認識が食い違うと、未付与年休や勤続年数をめぐるトラブルに発展することがあります。
入社日や年休付与日は、記憶ではなく記録で確認する。
この基本を押さえておくことが、労務トラブルの予防につながります。
ご相談について
当事務所では、雇用契約書、給与明細、勤怠記録、賃金台帳などを確認しながら、会社として説明できる整理方法をご提案しています。
たとえば、
「この入社日でよいのか確認したい」
「年休付与日が合っているか不安」
「入社日と社会保険・雇用保険の資格取得日がずれている」
「一斉付与にした結果、付与日数が足りているか確認したい」
「社員から年休付与日について指摘を受けた」
このような場合は、早めにご相談ください。
※本記事は一般的な実務整理であり、個別企業の状況により異なります


