弱った胃腸に
(写真は、薬草:柴胡の花)
今回は、少し変わったお話をさせていただきます。漢方相談をしていますと、右や左の半身に偏って症状が出ている方がいます。例えば、頭痛、肩こり、腰痛、足のしびれが右半身に多いといった具合です。その理由を聞かれることが多いのですが、本当の理由はわかりません。そこで、東洋医学の知恵を拝借してみました。
①右循環、左循環
例えば女性の場合、生理があるので血液にまつわる病気が多いのですが、その多くが「瘀血(おけつ)」といってお腹の周りに古血がたまっていることが原因となります。古血がたまると、生理痛、生理不順、不妊症、子宮筋腫、子宮腺筋症、卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)などの婦人科疾患にとどまらず、痔、肝炎、胃炎、アトピー性皮膚炎、動脈硬化、果てはガンに至るまで限りなく悪さをします。東洋医学では`おへそ`に近い部分(左右)を押してみると顔をしかめて痛む方がいます。これが、瘀血の圧痛点と言い、血の循環が悪い証拠となります。治療は、古血を除く方法をとるのですが、右と左では使う漢方薬が違ってきます。右の横綱の名は、当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)。左の横綱は、桂枝茯苓(けいしぶくりょう)丸(がん)と言います。このことでもわかるように、使い分けの理由は不明でも、経験から左右の循環を区別していたと考えられます。右半身の循環を良くする当帰芍薬散は、血と水に働く漢方薬で体を温め血行を良くし余分な水分を除きます。左循環の桂枝茯苓丸は、気の回りを良くし、ドロドロした、油が多い血液を溶かして排出せる働きをします。したがって、右半身に症状が多く出る方は、水分代謝が悪い方なのかもしれません。むくみやすい、目が回りやすい、立ちくらみが気になる、気圧に影響されるといった方が多いのではないでしょうか。
②イライラは左の循環
我師匠の著書「よくわかる金匱要略(きんきようりゃく)」という難しい本の中に、江戸時代の漢方医、宇津木昆台(うつぎこんだい)の言葉が載っています。「一切の病に、表裏上下の区別があり、三十年の経験からどんな病気でも左右の区別があり、特に中風(ちゅうふう)の病は左右によって治療が大いに異なる。」と。中風とは、脳梗塞で手足の麻痺がくることを言い、左の麻痺は体力気力が充実した方(陽実)が多く大柴胡湯(とう)や続命湯(ぞくめいとう)を使い、右は疲れ気味、冷え症の方(陰虚)で当帰芍薬散や附子湯を上げています。
大柴胡湯という漢方薬はよく肝臓病に使います。肝臓が悪い方の肋骨下を押してみると苦しく吐き気を催します。漢方医学ではこのことを胸脇苦満(きょうきょうくまん)といって大柴胡湯のように、柴胡が入った薬方で治していきます。
肝臓は、血のダムと言ってたくさん血液を含んでいます。ダムがせき止められれば循環も悪くなり、イライラ感、不安感と言った精神症状が出てきます。左半身の血液循環は、肝臓の働きにも影響されるのです。
また、生理前にイライラするのもこれが原因です。月経前症候群(PMS)と言って、月経前にイライラ、落ち込み、疲れがひどくなる方がいますが、これは女性のホルモンが一度に肝臓で分解されるため起こってきます。
(駿府薬草園 白い芍薬の花)
③月経前症候群(PMS)を救った柴胡桂枝湯
31歳の女性。身長155kg、体重55kg。不妊症の相談でご来店されました。3年前に流産をされてから精神的に大きなショックを受けていました。常に疲れやすく手足腰が冷え、時々顔がのぼせます。大便は便秘気味で、小便は日に8回と多く、めまい立ちくらみがあり、唇は常に荒れていて、肩こりや首筋のこりがあります。生理周期は33日ぐらいで、運動不足、甘いもの、油物が大好きです。
温経湯という漢方薬を1ヶ月服用ご体重は1.5kg減り、体が温まってきました。服用して3ヶ月が経ち、症状は改善されてきましたが、まだ妊娠には至りません。
その頃、生理前の左肩、首の凝りと夕方の頭痛(特に左が強い)、胸から頭に、ドッドッと何かに突き上げられる感じがして、汗がひどく出て苦しい、めまいもひどいと言われました。よくよく聞いてみると、今までも左側に症状が出やすかったそうです。漢方薬を柴胡桂枝湯に変えました。これらの症状が服用後すぐに無くなり、その後1ヶ月で無事妊娠されました。現在は2人目に向けて頑張っています。