パソコンの電源コードはコンセントに「つないだまま」でいいのか、それとも元から抜いたほうがいいのか?
目次
最近多発しているリチウムイオンバッテリーの事故
スマートフォンをはじめワイヤレスイヤホン、モバイルバッテリーなど、多くの携帯型機器にはリチウムイオンバッテリーが搭載されています。小型・軽量で高容量、しかも長寿命で経済的といった多くの利点があるため、幅広く利用されています。
しかしその利便性の一方で、取り扱いを誤ると発火や爆発といった重大な事故につながる危険性もあります。実際、バッテリーが原因とされる事故は製品の普及とともに年々増加しています。
こうした事故の背景には、大きく2つの原因があります。ひとつは、製品そのものに設計や製造上の不備がある、安全基準を満たしていない・・といった問題があるケースです。いわゆる不良品や欠陥品が該当しますが、通常ならメーカーによるリコールや発表を通じて対処されることが多く、ユーザー側でも注意や対応が可能です。しかし、中にはメーカー不詳であったり、トラブル時の体制が整っていない販売者の製品も存在します。
もうひとつ、最近特に問題視されているのは、ユーザー自身の誤った使い方による事故です。知識不足や乱暴な取り扱い、不適切な保管などが原因で起きています。この問題が厄介なのはユーザーにその自覚がなくその危険性の存在も理解していないことです。そのため誰にでも予期せぬ事故が起こり得るという点で大きなリスクとなっています。
そこで今回は、リチウムイオンバッテリー内蔵機器を安全に使用するための正しい知識と使い方、そして事故を未然に防ぐためのポイントをできる限り分かりやすく整理し、誰もがリスクを事前に察知・回避できるよう解説していきたいと思います。
使用するUSBケーブルの品質に注意する
■ 粗悪なケーブル
安価なノーブランド製品の中には、安全規格を満たさず、発熱やショートの原因となるものがあります。加工精度の低さや配線径不足、低品質な外装樹脂などによって、断線や被覆の破損が生じやすく、非常に危険です。購入時は、USB-IFやPSEなどの認証を受けた、信頼できるメーカーの製品を選びましょう。機器などに同梱されているおまけのケーブルは必ずしも高品質とは限らないため、異常を感じたら買い替えを検討してください。筆者が実際に複数機器で遭遇しました。
■ 古い、または長期間使用のケーブル
長期間保管してあったり、長年使用されたケーブルは、外見に異常がなくても内部で劣化している可能性があります。使用していないケーブルでも、樹脂の加水分解などが進み被覆などが破れたりして中のケーブル線がむき出しになることがあります。そのようなものは断線の原因になりますので廃棄しましょう。接触不良や発熱、通電障害などが起きる前に、異常を感じた際には早めの交換をお勧めします。特に毎日使っているケーブルはその分、傷みも加速しますので定期的な買い替えが推奨されます。
■ 規格外のケーブル
USB-PDやQuick Chargeなどの高速充電には、対応したケーブルが必要です。非対応のケーブルでは充電性能が落ちるだけでなく、機器に負担がかかる恐れもあります。使用機器に適した規格のケーブルを選び、認証マークの有無を確認してから使用しましょう。充電環境に応じた高規格対応のケーブルを選定し、USB-IF認証などの安全基準を確認した上で購入し使用することが重要です。
ケーブルを買い換えたら充電が早くなったという事例は筆者も何度となく経験済みです。ケーブルも消耗品とわりきってしまうことも必要でしょう。
USBケーブルの取り扱いに注意する
ケーブルを引っ張るなど、粗雑な扱いによる損傷
USBケーブルを抜く際に、コネクタではなくケーブル部分を握って強く引っ張る行為は避けましょう。こうした扱いを繰り返すことで、内部の導体が断線したり、シールド線が損傷したりする可能性があります。また、接続部にストレスがかかることで、ケーブル、コネクタ、機器側のポート双方の寿命を縮める原因にもなります。抜き差しの際は、必ずコネクタ部分を持って操作するようにしてください。
斜め差しや無理な力による接続
USBコネクタを斜めに差し込んだり、バッグの中で手探りで無理に挿し込んだりする行為は、端子の変形・摩耗・破損を招く原因になります。特にType-Cのような構造では、片側のみの接触や端子変形が接触不良・異常通電を引き起こす可能性があります。端子のゆるみや破損は、接続の安定性を損ねるだけでなく、異常な電流制御や発熱の原因にもなり、安全性に関わる問題を生じることがあります。接続の際は、よそ見をしないでよく見てまっすぐ挿すようにしましょう。
また、規格が違うUSBコネクタ、例えばUSB-CとUSB-Micro Bなどは誤接続しやすく、無理に差し込もうとするとポートやコネクタを痛めてしまいます。ケーブルを使う際にはコネクタ形状と方向をよく視認して確かめてから接続しましょう。
×ケーブルを握って抜かないこと
落下や衝撃、熱による損傷など利用状況に留意する
● 硬い場所への落下はその後大きなリスクを抱えることに
リチウムイオンバッテリーは、床などの硬い場所に落下させてしまうとバッテリー内部のセパレータが破れたり、変形したりすることがあります。セパレータが破損すると、本来隔てられているプラス極とマイナス極が接触し、内部で短絡(ショート)が発生します。また、内部回路や配線が損傷する場合もあります。たとえ外観に傷がなくても、硬い地面に落とした場合は使用を中止し、もったいないと考えずに安全のためすみやかに処分を検討してください。
● 車の中などの高温下での保管、充電
リチウムバッテリーは熱に非常に弱く、特に高温下での充電は発火や爆発のリスクを高めるため危険です。多くのバッテリーには温度監視による保護回路が内蔵され、異常時には自動で充電を停止しますが、すべての製品に備わっているとは限りません。炎天下の車内では70℃を超えることもあり、バッテリー内部での電解液の分解や熱暴走を引き起こす恐れがあります。バッテリーの保管や充電は、必ず風通しの良い室温(15~25℃程度)環境で行ってください。
こんな症状が出たらすぐに使用を停止する
● 充電時間が短くなる、充電されなくなる
満充電までの時間が極端に短くなった場合、バッテリーの劣化が進んでいる可能性があります。化学的な蓄電容量が低下している状態であり、過電流のリスクも高くなります。また、充電時間が異常に長くなったり、充電ができなくなった場合は故障、または寿命ですからそれ以上充電しないようにし、適切に処分します。
● 本体が高温になる
使用中あるいは充電中に触れないくらいの異常な高温を感じた場合は、すぐに使用を中止してください。過熱は内部短絡や熱暴走の前兆となることがあります。
● 本体が膨らむ
最も危険な劣化のサインのひとつが、バッテリーの膨張です。内部ガスの発生によるものであり、破裂や発火のリスクが非常に高まります。少しでも膨らみを感じたら、即座に使用を中止し、適切に処分してください。
通販サイトでの購入に潜むリスク メーカー不詳製品に要注意
現在、Amazonや楽天市場、Yahoo!ショッピングなどの大手通販サイトでは、モバイルバッテリーやリチウムイオンバッテリー搭載製品が数多く販売されています。しかしその中には、メーカー名が明記されていない製品や、聞いたことのないブランドが乱立しているのが実情です。
製造元や品質管理体制が不透明
こうした製品は、多くが中国など海外で製造されたものであり、製造者情報が不明、あるいはメーカー名が偽装されているケースも見られます。高容量で低価格であることをアピールしていても実際には低容量で、しかも品質管理が不十分であったり、リコールに対応する体制がない企業である可能性が高く、発火・爆発などの事故リスクが潜在しています。
PSEマークの偽装・無表示
日本で販売されるリチウムバッテリー内蔵製品には、原則としてPSEマーク(電気用品安全法に基づく表示)が必要です。ところが一部の製品では、PSEマークが偽装されているか、そもそも表示されていないこともあり、消費者庁や経済産業省も注意を促しています。
適切なPSEマークが記されたモバイルバッテリー。社名などは認証機関のホームページで公開されている。
粗悪なセルの使用例が多数報告
事故調査などで明らかになったケースとして、中古セルや再生バッテリーを使用した製品、または過放電状態のセルが混入していた事例が報告されています。また、不純物が多い材料で製造されたり、品質が一定しないセルが混在して使用されていることで、寿命が短い、高温になるなどしているものがあります。これらはコストを抑えるために使われていますが、安全性は著しく低く、正常な使用中でも異常発熱や破裂を引き起こす危険があります。
NITE 独立行政法人製品評価技術基盤機構
リチウムイオン電池搭載製品の発火事故事例
https://www.nite.go.jp/data/000116585.pdf
非純正リチウムイオンバッテリーの事故について
https://www.nite.go.jp/data/000116590.pdf
「リチウムイオン電池搭載製品」の火災事故を防ぐ 3 つのポイント~
https://www.nite.go.jp/data/000158238.pdf
見分け方のヒント
- 製品ページに「製造者情報」「保証内容」「問い合わせ先」が明記されているか確認する
- 商品名や説明文が機械翻訳のような不自然な日本語になっていないかを見る
- 商品レビューに「発熱・異臭・充電できない」といったトラブルが多く記載されていないか確認する
- 販売価格が相場より極端に安い場合は特に注意が必要
国も注意喚起を実施
消費者庁や経済産業省は、過去にもモバイルバッテリーの発火事故に関連し、「無名ブランドや表示不備のある製品を通販で購入しないように」という警告を発しています。特に2019年には、モバイルバッテリーのPSE表示義務化を受け、違反製品の販売差し止めや回収命令が複数出されました。
通販の利便性は高いものの、安全性の裏付けがない製品を安易に購入することは、大きなリスクを伴います。「容量に対して価格が安くコスパが良いから」「デザインが好み」「小型だから」という理由だけで選ばず、信頼できるメーカー・販売元を確認する習慣を身につけることが、自身と周囲の安全を守ることにつながります。
まとめ
リチウムイオンバッテリーは、スマホをはじめ私たちの生活に欠かせない存在となっていますが、同時に「取り扱いを誤ると危険なもの」であることも忘れてはなりません。粗悪な部品の使用、乱雑な取り扱い、過度の使用や劣化の放置 ・・これらはすべて事故の引き金となります。
安全に使い続けるためには、「丁寧に扱う」「異常に気づくこと」「定期的に見直すこと」が必要です。少しの注意で、大きなトラブルを防ぐことができます。日々の習慣を見直し、安心・安全なバッテリーライフを心がけましょう。
筆者実績:http://www.kumin.ne.jp/kiw/#ss



