サービス品質と利益を支える!スーパーマーケット 現場の「8つのムダ」削減ガイド
有限会社サミットリテイリングセンター
経営コンサルタント 新谷千里
従業員の給料を継続的に上げるには、
・仕事の価値を高め、
・会社が生み出す付加価値を増やすこと
が重要です。
経営者は設備・仕組み・教育に投資し、社員は技術とマネジメントの力を磨く。
その成果を賃金に還元する方針まで整えて、持続的な賃上げにつなげます。
「従業員の給料を上げたい。しかし、原資をどうつくればよいのか」。
スーパーマーケットの経営者にとって、利益を確保しながら処遇を改善することは大きな経営課題です。
私は、その出発点は「仕事の価値を上げていくこと」にあると考えています。
安さを優先する発想に偏り、お客さまが評価する価値や、働く人の成長への投資を後回しにしていないでしょうか。
売価、作業方法、人材育成を一体で見直す必要があります。
1.賃上げの原資をつくる仕事の価値とは
ここでいう仕事の価値とは、お客さまの困りごとを解決し、その対価として会社に利益をもたらす働きのことです。
例えば、
夕食づくりの負担を減らす美味しい惣菜を開発すること、
鮮度管理と数量管理で廃棄を減らすこと、
欠品を削減して買いやすい売場をつくること
が挙げられます。
中小企業庁の2020年版「中小企業白書」も、賃金引上げの好循環を続けるために、企業が生み出す付加価値自体を増やす必要性を示しています[1]。
私は、この考え方を店舗で実践するには、『作業効率』と、『お客さまに選ばれる理由』の両方を改善することが必要だと考えます。
売上が増えても、値引きや廃棄、追加の経費が増えれば、賃上げに回せるお金は残りません。
何が売れたかに加えて、どれだけ利益が残り、どの作業に時間を使ったかを確かめることが大切です。
2.経営者が取り組むべき4つのこと
① 生産性を高める設備と教育に投資する
発注システム、加工機器、作業場のレイアウトなどを見直し、探す・運ぶ・入力し直すといった作業を減らします。
投資の前に、どの作業を何時間減らし、その時間を何に振り向けるのかを決めてください。
導入後の教育と保守費用も含めて効果を判断します。
例えば、惣菜部門で製造手順を標準化し、準備や片付けの手間を減らせば、商品開発や売場確認に使える時間が生まれます。
その時間をどう活用するかまでが、経営者の仕事です。
② お客さまが対価を払いたい価値をつくる
「安く売るにはどうするか」と併せて、
「どんな不便を解消すれば選んでもらえるか」を考えます。
少人数世帯向けの食べ切り商品、調理の手間を減らす半調理品など、地域のお客さまの暮らしから商品やサービスを見直します。
価値を伝え、納得して買っていただける売価を設計することも必要です。
試食販売では販売数量だけで判断せず、粗利益、廃棄、製造時間、お客さまの反応を確かめてください。
③ 外国人材の雇用も含めて役割を再設計する
外国人材の雇用を組み入れながら、既存社員が繰り返し(単純)作業だけに時間を取られず、マネジメント、商品開発、数値管理、取引先との調整、専門技術の向上に取り組める体制をつくります。
その際は、作業手順や品質基準を共有し、理解度を確認する教育が欠かせません。
担当業務や育成の機会は、国籍にかかわらず本人の能力と意欲に応じて設計します。
チーム全体の仕事の価値を高めることが目的です。
④ 理念と成果の還元方針を明確にする
「誰の、どんな暮らしに役立つ店なのか」を明確にし、商品政策や人材育成の判断基準にします。
その上で、どのような役割や技能、成果を評価し、給与に反映するのかを社員に伝えます。
生産性が向上しても、給料が自動的に上がるわけではありません。
経営者が、利益の確保、再投資、賃金への還元をどう両立するかを決め、実行する必要があります。
3.社員が身につけたい5つの力
① 周囲の成長を支えるリーダーシップ
自分が作業をできることに加えて、仲間に教え、仕事の進み具合を確認し、問題を一緒に解決する力を磨きます。
約束を守る、相手を尊重する、失敗を隠さず改善につなげる姿勢が、チームの信頼をつくります。
② 機械やシステムを使いこなす力
機器を安全に使い、設定や操作を理解して、品質と作業効率の改善に役立てます。
操作方法を覚えるだけでなく、どの場面で使えば効果が出るか、異常時に誰へ連絡するかまで把握します。
③ 品質と歩留まりを安定させる生産技術
加工技術や製造手順を磨き、同じ品質の商品を安定してつくれるようにします。
材料をどれだけ商品として活かせたかを示す歩留まりや、作り直しの原因を確認することも、利益につながる技術です。
④ 役割を理解して情報をつなぐ力
仕事のコミュニケーションは、会話の量で判断できるものではありません。
欠品の兆候、製造の遅れ、品質の異常などを、必要な相手へ必要な時点で伝え、次の行動につなげることが大切です。
自分の担当が前後の工程に与える影響も理解します。
⑤ 理念を日々の判断に結びつける力
会社の理念や方針を理解し、共感できる目的に向かって力を発揮することも大切です。
疑問があれば上司と確認し、「この仕事は、どのお客さまにどう役立つのか」を自分の言葉で説明できるようにしましょう。
4.改善の成果と賃上げ原資を数字で確かめる
店舗で仕事の成果を見る指標の一つが「人時生産性(粗利益)」です。
一定期間の粗利益高を、その期間の総労働時間で割り、1時間当たりの粗利益を求めます。
ここでいう総労働時間には、対象部門で働く社員・パート・アルバイトなどの労働時間を含め、比較条件をそろえます。
例えば、月間粗利益600万円、総労働時間3,000時間なら、人時粗利益は2,000円です。
同じ3,000時間で粗利益が660万円になれば、2,200円へ10%改善します。
これは計算方法を説明するための仮定であり、支援先の実績ではありません。
ただし、人時粗利益は、会社全体の付加価値を使う労働生産性と同じ指標ではありません。
また、粗利益の増加分をすべて賃金に回せるわけでもありません。
機器の導入・運用費、その他の経費、資金繰り、利益の継続性を確認して、還元できる額を判断します。
作業時間が短縮されても、その分の給与支出が変わらなければ、現金の余裕が直ちに増えるとは限りません。
生まれた時間を欠品防止や販売提案に振り向け、どの成果につながったかを確かめてください。
5.最初の30日で進めること
第1週は、部門を一つ選び、粗利益、総労働時間、廃棄、欠品と作業の流れを確認します。
第2週は、改善する作業を一つ決め、担当者、目標、必要な教育を明確にします。
第3週に小さく試し、
第4週に同じ条件で比較します。
確認するのは、時間の短縮だけではありません。
品質や安全、お客さまの買いやすさ、現場の負担も併せて見ます。
効果が出た方法は手順にまとめ、定着を確認します。
30日を最初の検証期間とし、継続的な賃上げの判断には、その後の利益と資金繰りも確かめます。
従業員の給料を上げていくために、
まず経営者が仕事の仕組みを変え、
社員が力を伸ばせる環境を整える。
そして、
増やした付加価値を働く人へ還元する。
私は、この積み重ねが、社員が成長し、地域のお客さまから選ばれ続ける店づくりにつながると考えています。
よくある質問
Q.売上を増やせば従業員の給料を上げられますか
売上増加だけでは判断できません。
値引きや廃棄、追加の経費を差し引いて、継続的に利益と資金が残るかを確認します。
その上で、会社が賃金へ還元する方針を決めることが必要です。
Q.大きな設備投資が難しい店は何から始めますか
まず、道具や材料の置き場所、二重入力、作業の待ち時間などを見直します。
費用の小さい改善から始めて効果を測り、その結果を次の投資の判断材料にしてください。
Q.大きな設備投資が難しい店は何から始めますか
社員の技能向上と、経営者による仕組みの改善を組み合わせる必要があります。
教育時間、使いやすい設備、明確な役割と評価基準を整えることは、経営者の責任です。
【著者】
新谷千里
有限会社サミットリテイリングセンター 経営コンサルタント。
スーパーマーケットのマーケティング、業務改善、生産性向上を支援。
著者プロフィールと相談窓口 ➤ https://mbp-japan.com/osaka/summit-rc/
【参考資料】
[1]中小企業庁 2020年版 中小企業白書
第2部第1章第1節 企業が生み出す付加価値と労働
生産性。本文の付加価値と賃金引上げに関する説明の参考資料。
中小企業庁 参考資料の掲載ページ ➤ https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b2_1_1.html


