『資金繰り』に悩んでいる会社こそ、売上や粗利益を追うな‼ 【商人舎magazine3月号・原稿】
米投資会社のKKRと楽天グループ(東京都/三木谷浩史会長兼社長)が西友(東京都)株式の85%を取得し1年以上が経過した。
小売の現場経験がある経営トップ、大久保恒夫新社長のもと、西友の売場はどう変化しているのか。小型店ながら改革の成果が表れている「西友保谷店」(東京都西東京市:以下、保谷店)をコンサルタントの新谷千里氏が解説する。
(調査日:2022年6月23日 本文中の価格はすべて税抜)
駅から直結 即食商品を2階に集積
保谷店は、西武鉄道池袋線「保谷」駅の改札を出ですぐの場所に立地する。
同駅からはJRや地下鉄各線が通る「池袋」駅まで約20分と都心部へのアクセスに優れ、住宅地としての人気も高い。
保谷店の開業は2008年9月で、直近では18年11月にリニューアルオープンしている。
都市部の西友でよく見られる多層構造のコンパクトな店舗となっており、駅の南口2階から店舗2階に直結している。
24時間営業しており、時間帯によって利用者層が変化、とくに夕方には仕事帰りのお客が多いのが特徴だ。
各階の構成に目を向けると、1階が青果、精肉、鮮魚の生鮮食品のほか、調味料、加工食品、さらに和日配の売場。
2階は、総菜やベーカリーといった即食商品のほか、冷凍食品、洋日配、酒類、加工食品など、3階は日用品や雑貨などの非食品売場となっている。
3フロアを合わせた売場面積は約1894㎡。本稿では1~2階の食品売場にフォーカスして解説する。
私が保谷店を訪れたのは午後3〜4時、夕方のピークを迎える前の時間だった。
多層階であるため、まずは買いやすい売場、店づくりが行われているか、実際にお客はどう動いているかに着目し回遊した。
観察していると、目的の売場や商品を把握しているお客が大半で、食品のある1~2階を効率的に回っていたのが印象的だった。
最も多かったのは2階から入り、エスカレーターで1階に降りるパターン。想像していた以上に人の流れはスムーズだった。
2階から入店するお客は、主に簡便・即食商材をショートタイムショッピングし、さらに必要があれば1階で生鮮食品を買い求めるという使い方が目立った。
加工食品や日配はカテゴリーによって1階と2階で別々に配置されているため慣れが必要だが、一度場所を把握すれば不便を感じないように見えた。
コンパクトな店であるため、保谷店では最初、売場の配置について試行錯誤したはずだ。もしかしたら、お客の買物動向を見ながら、紆余曲折を経て現在のかたちに落ち着いたのかもしれない。
強い支持獲得する 精肉部門
私が訪問前から関心を持っていたのは、重点商品を積極販売する施策である。
大久保社長が成城石井時代に力を入れ、成果を上げた取り組みだ。西友でこの手法をどのように実践しているかに注目していた。
青果部門では、入口そばでカットしたスイカ、トマトといった季節商品のほか、バナナなど購買頻度の高い果物を重点商品として売り込んでいた。近くには産直野菜コーナーも特設し、鮮度感を来店客にアピールしていた。
ただ少々残念だったのは、商品の配置の仕方だ。
重点商品のうちいくつかは動線の死角近くに置いてあったため、場所を変えれば買い上げ点数が上がるのではないだろうか。
1階の青果売場側の出入り口は2カ所あり、1カ所は店外から、もう1カ所は2階からエスカレーターで下って入るように設計されている。
店外から入ってくれば地場野菜や果物の売場は目に入るが、2階からエスカレーターで降りてくるお客の視界には入らない。そのためか見切り品も少し多いように感じた。
青果売場の先に続く精肉売場は、店奥の主通路のほとんどを使って展開しており、顧客のニーズが高く強い支持を得ていることが推察される。
壁面の多段冷蔵ケースでは、重点商品である牛肉・豚肉の細切れを小・中サイズを中心に豊富なSKUを揃えていた。
鶏肉も同様にモモ肉を中心にボリューム感を持たせて並べ、地域の需要に応える売場を構成。
また、精肉は一部店内加工していたものの、小型店であるためプロセスセンターを積極的に活用し効率的な部門運営に取り組んでいた。
主通路の最後に配置しているのは鮮魚売場。精肉売場が相当広いためか、かなり小さく感じた。ただ必要最低限の品揃えは確保しており、ふだんの生活で困ることはないだろう。
生鮮食品では、青果、精肉、鮮魚はどの売場でも、「いわししょうが煮」など部門の素材を使った料理のディスプレイを飾り、手書きPOPでレシピ提案をしていた。メニュー提案という意味では実物を見せるのが効果的だ。こうした売場づくりはウォルマート時代の西友には見られなかった取り組みだ。支持されている精肉は、アウトドアシーズンの到来に合わせ、青果部門との関連販売などを工夫すれば、さらに売上を伸ばせるだろう。
総菜の上位品目の 訴求に注力
2階で大きく展開する総菜売場は、品揃えが豊富で値ごろ感もあった。
具体的な商品に目を向けると、弁当は具材が多く、コストパフォーマンスのよいアイテムが目立つ。
調査時、弁当で重点商品の1つとして力を入れていたのは「ホタテめし弁当」(498円)。
青森県陸奥湾産のホタテを使用し、ごはんに混ぜて炊き上げた弁当で、おかずに海鮮シューマイや鶏の唐揚げなども入れていた。こうした特徴をPOPで目立たせ、しっかりと売り込んでいた。
総菜部門では売れ筋上位のメニューはいずれも、人の往来が多い場所に配置しフェースを幅広く確保、来店客に訴求している。
唐揚げはその一例だ。「生醤油が香るコクうまみ鶏もも唐揚」(100g当たり178円)では大・中・小のサイズを幅広く揃え、量感を持たせて陳列。
「野菜のうま味が深いポテトサラダ 中」(198円)も同様に、冷蔵ケースの下段でボリューム感ある陳列を実施していた。「手間ひまかけた家庭の味」「野菜のコクを感じるおいしさ」と記したシールを貼り、目立たせるなど、販促物にも力を入れている。
上位品目をしっかり売り込み、利益を確保すれば、新商品にもチャレンジできる。
それらが総菜売場の楽しさにつながっている。
「わさびでいただく合鴨ロースカツ」(498円)など競合ではあまり見られない高付加価値の商品も展開していた。夕方から夜間にかけて、共働きの家庭には魅力ある売場になっているようだ。
一部にネットスーパー 向けの商品も?
1~2階で分かれて展開する加工食品売場で目に留まったのは、買い上げ点数を増やす取り組みである。
各ゴンドラエンドの前に小さな台を設置し、総菜の「おはぎ2個」(198円)など「もう1品」買いたくなるような商品を展開していた。
他店でも同様の売り方をしていることからすれば、最近の西友で力を入れている施策なのだろう。
実際にカゴに入れる人は多く、成果につながっているようだ。
全体的に価格については訴求の仕方が巧みな印象を受ける。
単品レベルでは比較的早い段階で値上げしているようだ。
弁当に目を向けると、中心の価格帯は298円から398円ラインへ上がっている。
しかし、売場を歩くと高くなったとは感じない。
価格訴求型の商品を大きく打ち出すなど売場の見せ方を工夫しており、そういったスキルが確実に上がっているのだろう。
気になったのは、10kgの米や箱売り飲料など、駅前立地には合わないサイズ・形態の商品が一部並んでいたことだ。こうした重い商品は徒歩での来店が多いと想定される保谷店にはそぐわない。
だが推測するに、これらはネットスーパーを想定した品揃えなのではないだろうか。
西友は21年6月に発表した中期経営計画で「ネットスーパーで業界ナンバーワンになる」を目標に掲げている。店舗とネットスーパー両方に対応可能な品揃えをめざしているのかもしれない。
保谷店は新たな西友の改革が浸透している繁盛店だと聞く。
好調の要因は、駅前という立地だけではなく、客層のターゲティング、そして自店のポジショニングをしっかり設定し、的確なマーケティングを行っていることだろう。
店内の各所では、多様な仕掛けや実験を続けていると感じる。
試行錯誤を繰り返し、店舗独自のノウハウ構築をめざしているのだろう。
西友は改革を効果的に進めるため既存店の改装に取り組んでいるが、保谷店は未着手だと思われる。
今後ハード面が変われば、さらに伸びしろのある店舗だろう。