ノウハウ以上に、ノウホワイが大事!
厳しい競争のなか、スーパーマーケットは今後、ビジネスをどのように成立させていくのか。
私のクライアントの業務改善の実践事例を紹介しながら、確実に業績向上につなげるためのアイデアをお伝えします。
今回紹介する企業も、競合店が多く、売上げが伸び悩み苦労していました。しかしこれは日本中で起こっている現象であり、ドラックストアの出店などでさらに厳しさを増す商圏が多数存在しています。
そんななか、「どのようにビジネスを行っていくのか?」が問われている時代だと言えます。以下に、半年で営業利益を2.5倍にしたクライアントの青果部門の事例を解説していきます。
現場の課題と改善策
当初、会社全体で業務改善のコンサルティングをスタートさせたものの、なかなか行動を変えられなかったのが、青果部門でした。
そこで、先に青果部門のコンサルティングを行うことを決定し、営業利益改善の結果を出そうということになりました。
重点的に行った改善内容は、以下の4つです。
① 部門別損益管理(管理会計の実施)を行う
本当に「儲かっているか?」を確認して、改善行動に取り掛かります。各店舗の損益計算書を活用して、部門別の損益計算書を作成します。
売上げと粗利益だけを管理していたこれまでの方法から、営業利益の拡大を考えている方法に変えていくことによって担当者の意識と行動がまったく変わります。「黒字か?」「赤字か?」そして「実績の推移はどうなっているか?」などの事実を確認し、改善必要個所を見つけ出します。
② オペレーション改善で、コストと時間を減らす
オペレーション関係の課題は、在庫、作業動作、作業指示、マテハン、定位置管理などです。
在庫過多は、確実にFLコストを押し上げます。また鮮度低下を招き、結果的に競争力を低下させてしまいます。粗利益にもコストにも関係する重要な課題です。そして在庫が適正でないということは、数量管理ができていないということなので、欠品を引き起こす可能性も高まります。
作業改善は、現場とそこで働く従業員の動きを観察し、レベルが低い場合は必要に応じて方法や手順など、担当者の修正・訓練を行います。
③ 実践的マーケティングのスキルアップで、粗利益を拡大する
マーケティング関係の課題は、品質管理基準、重点商品管理、売場づくりの4P、マグネット展開、商品構成、品揃えなどです。
原則的には、鮮度が良く、味が良いことを常に売場で実現することです。そして、商品の価値情報をお客に伝えるプロモーション(とくにPOPや試食など)が重要になります。マーケティングは、「売れてしまう仕組み」を構築することです。
一例ですが、関連購買、衝動購買、条件購買、想起購買などの理論的な理解と実践により、徐々に担当者のスキルがアップすることになります。これによって、粗利益率を確実にアップさせることができます。
④ リーダーシップの欠如を改善
チームが「良い結果を出せない」「行動しない」ことの原因は、リーダーシップの欠如が大きく関係します。
「言ってるんですけどね…」と口にするリーダーの多くは、リーダーシップを取っていません。社長でも例外ではありません。リーダーの重要な仕事は、部下を育てること。そして、やる意味(コンセプトや戦略)を理解させて、ムダの少ない行動をさせることです。
言うまでもなく、「やる気にさせる」ためのコミュニケーション力が必要になります。
結果を出すのは、納得できた“人”
とはいえ、何の問題もなくスムーズに業績向上に繋がった訳ではありません。一つのことが改善できたからと言って、それがすぐに大きな成果に結びつく訳でもありません。
大きな成果を勝ち取るためには、いくつかの改善活動と、それなりの時間の経過が必要です。そして一番大事なことは、チームを成功へと導くリーダーシップです。
この企業では私の訪問日の午前中に、商品の鮮度や味、プロモーション、そして各担当者の作業動作などを現場で確認を行います。その後、バックルームに全員集合してもらい、立ってミーティングを行います。参加者は社長、商品部長、バイヤー、各店チーフ、訪問店担当者と私です。基本的に毎回、全員参加です。
各バイヤーと各チーフが、部門別損益管理表を見ながら自店の結果報告を行い、改善活動の実行成果や課題を話し合います。その後、私が観察した現場の課題や改善点、改善方法を伝えます。午後からは重点課題の解決と原理原則について、私が座学研修を行います。
大きな問題が起こったのは、改善活動をスタートさせて3カ月目のことです。それまで少しずつ営業利益が改善し、その拡大幅が大きくなっていました。ところが、3カ月目の営業利益が激減したのです。
私は午後の座学のときに、商品部長と店長を集めてくれるよう社長にお願いしました。
「あなたたちはこの1カ月間、彼らの改善活動をどのようにフォローしましたか?」私の質問に誰も返答できませんでした。彼らは、何もフォローしていなかったのです。
「チームの成果が出なかった原因は、あなたたちのリーダーシップのなさです」と、私は彼らを叱責しました。
しかしその後、全店長が青果チームの改善活動のフォローをし、チーム一丸となってやってくれました。
結果、年末商戦の12月は営業利益前年対比2.5倍を実現してくれたのです。青果部門バイヤー、各店チーフ、メンバー、店長、部長、全員がチームとして動いてくれた結果が出ました。
自信が、さらなる成果に繋がる
今回紹介したクライアントは、原則に沿って確実に業務改善の手順を踏んでくれています。
しかし、これですべてを成し遂げたということではありません。まだまだ、道半ばです。これからさらにステップアップしてもらいます。
そして重要なことは、チームメンバーが「自分たちはできる!」という「自信」を身に着けたことです。当初は自信無さげにしていたチームが、半年でまったく違うチームに生まれ変わりました。
またこのチームは、高い営業利益を出すことができるようになったことにより、野菜の低価格販売など、攻撃的な戦略をする準備ができつつあります。
今後は他の部門でも業務改善を実施していき、それぞれの部門の特性に合わせたオペレーションの改善や、実践的マーケティングに磨きをかけて実行してもらいます。
そして今よりさらに「地域で一番愛される。無くては困る」デスティネーション・ストアになってもらいます。
売上げが伸びない時代に、稼ぐ方法
私がこのクライアントに日頃から言っていることは「売上げが伸びなくても、営業利益を拡大させる仕組みをつくろう」ということです。
今、実際に業績低迷で苦しんでいる会社は、「今のやり方では、営業利益は拡大できない」と理解すべきです。会社が継続発展するためには、競合、少子高齢化、過疎化の環境のなかで、「売上げが伸びない時代でも儲かる」やり方に変えないといけないのです。そのための改善可能領域は、商品構成や品揃え、マーケティング、オペレーションなど、営業活動のほぼすべてと言えます。
マーケティング力を向上させて(付けて)、粗利益を拡大すること。オペレーション力を向上させて(付けて)、ローコストオペレーションを実現すること。それによって「生産性を上げる」ということ。
これらの課題に対して、具体的に計画を立てて確実に行動することです。また、わからなければ学習することです。
今回紹介したクライアントは、自分たちが今まで経験したことのないことを成し遂げ、大きな成果を達成してくれました。しかし、特別高度なスキルを持ったチームメンバーが揃っていた訳ではありません。運良く、競合店が閉店した訳でもありません。
ただただ、彼らが前向きになって実行してくれたからです。
バイヤーの一人は「よその売価が気にならなくなりました」と言っています。また別のバイヤーは「感動で、本当に涙が出ました」とも言っていました。
これらの言葉が、彼らの成長の証です。強くなった証です。そして、彼らは経営者感覚を持っています。
サラリーマンから、ビジネスマンに変身しました。
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