自筆証書遺言を使いやすくする改正 ☆遺言・相続vol.10③☆
「法定相続情報証明」は、従来通り、戸籍等で相続関係を証明する方法に代えることができる制度ですが、常に戸籍の代わりになるものでもありません。
「法定相続情報証明」が利用できるケースはどんな場面でしょうか。
それと共に、「法定相続情報証明」と一言でいっても、形式によって情報量に差ができます。使用する目的による、備わっていなければならない内容についてもお伝えします。
「法定相続情報証明が利用できる場面」とはどんな場面でしょうか。
1.不動産の相続登記手続、あるいは相続人からする登記手続に利用できます。
不動産登記の場面で、法定相続分で登記をする場合には、被相続人と相続人との関係性、例えば、配偶者であるか子であるか、また、亡き子の子(代襲相続人)であるか、兄弟が相続人となるケースでの、片親違いの兄弟(半血の兄弟)であるかが重要になってきますので、法定相続情報証明は、名前を列挙するもの(列挙式)ではなく、図形式の関係性が記載されたもの(図形式)が求められます。
ところが、遺産分割協議がなされた結果に従って相続登記をするのであれば、例え、配偶者の法定相続分が50%であっても、相続人全員の合意によって、配偶者が単独で相続することも、相続しないで、子が単独で相続することもできるわけです。つまり、法定相続人が誰であるか、遺産分割協議のメンバーが誰であるかということを証明する必要がありますが、その相続分がどれだけかについては重要ではありません。そのため「法定相続情報証明」は図形式でなく、相続人を列挙するだけの列挙形式であっても問題なく登記ができることになります。
2.税務署の相続税申告手続きに利用できます。
相続税の申告に「法定相続情報証明」の提出が認められるようになったのは、この制度創設から少し遅れた平成30年4月1日からです。
相続税については、基礎控除額=3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)で計算します。
相続税の計算の場面では、「法定相続人の数」は、実子と養子の合計数ではなく、被相続人に実子がいる場合は、養子は1名まで、実子がいない場合は、養子は2名まで認められることとなります。そのため、相続税申告に使う「法定相続情報証明」には、実子か養子かという関係性が内容となっていなければならない訳です。
また、配偶者には相続税額の軽減もあります。1億6千万円もしくは配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。そのため、法定相続情報証明には、名前を列挙するもの(列挙式)ではなく、図形式の関係性が記載されたもの(図形式)が求められます。
3.銀行では預貯金の相続手続、保険会社へ保険金の請求、保険の名義変更手続、証券会社に有価証券の名義変更手続
銀行口座を平均いくつ持っているのか、正確な数字は持ち合わせていませんが、成年後見人としての経験からも、1つしか銀行口座がないという方は殆どなく、複数お持ちの方が多いと思います。私自身の体験ですが、制度が始まって間もなく、信託銀行の窓口で必要書類の説明を受けた際に、戸籍でなく法定相続情報証明で良いかと尋ねたところ、とても歓迎していただきました。利用者側も金融機関も、間違いなく負担が軽減されますので、例え、普及するにはもう少し時間がかかるとしても、今後、主流となっていくのではないでしょうか。
法定相続情報についての最初のコラムは、こちら。
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法定相続情報についての追加のコラムはこちら。
「法定相続情報が利用できない場合」についてのコラムはこちら。
司法書士佐井惠子