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福味健治

建築主の思いを形にする注文住宅の専門家

福味健治(ふくみけんじ) / 一級建築士

岡田一級建築士事務所

コラム

上町断層地震の被害想定

2018年7月20日 公開 / 2018年7月24日更新

テーマ:【免震住宅・地震対策】

コラムカテゴリ:住宅・建物

コラムキーワード: 耐震補強

政府が発表している被害想定


この画像は私も何度も取り上げている上町断層が動いた際の被害想定を表す予想地図です。
倒壊家屋97万戸、死者数42000人が想定されています。阪神大震災の死者数が6000余人でしたので、その規模を類推すると日本が被るダメージの大きさを容易に想像できます。
しかし、マクロ的な視点でしか地震を捉えていませんので、何をどうすべきかの道筋が見えません。42000人はどの様な想定で算出されたのかが全く語られていない為、対策の取りようがないのです。
そこで、私見ですが、何がどう危険なのか考えてみる事にしました。
内閣府防災情報のページ

大阪市の路線図


これは大阪市の鉄道の路線図です。地上を走る鉄道は地図上に表されていますので位置を把握し易いですが、地下鉄は模式化された地図が多く出回っていますので、地図上でどの位置を走っているのか、認識する機会が少ないかと思います。
この地図は地下鉄の位置もほぼ正確に表現しています。そこで上記の被害想定地図と路線図を重ねてみました。

断層を横断する地下鉄


上町断層は大坂の中心部を震源としています。震度7の震域に、今里筋線を除く殆どの地下鉄が走っています。特に谷町線・堺筋線は上町断層と平行して走り、中央線・鶴見緑地線・千日前線・御堂筋線は断層を横断しています。
上町断層が挙動した時、運悪く地下鉄に乗っていれば42000人の中の一人になる可能性があります。
地下鉄だけではありません。京阪電車も天満橋付近で上町断層を横断しています。悪い事に大川(旧淀川)と平行して走っていますので、水没の危険もあります。
地上と比較して地下は安全と言う人がいます。地上の建物は地震が発生すると変形しますので、一階より二階の方が大きな揺れを感じます。地下は変形せず地震波なりの揺れしか感じないので安全だと云うのが根拠です。
しかし、阪神大震災では山陽電鉄の大開駅が崩壊しています。

地下が地上に比べ安全と云うのは神話です。
地下街にいる時は常に地震を意識して、避難口の確認を怠らない様にしましょう。停電パニックに陥らない様にスマホのライト機能も確認しておきましょう。地下街は消防法で地上階より安全に人が避難できるよう厳しい法律で防災設備が整えられています。パニックさえ起さず、速やかに避難出来れば地下街の死者は抑える事が出来ます。

JRは大丈夫か

JR在来線も東海道線・環状線・東西線と上町断層を横断します。東西線は上町断層付近では地下に潜っていますので、地下鉄同様の警戒が必要です。築年数が新しく最新のシールド工法で造られているでしょうから、他の地下鉄より深い場所を通っていても、それなりの対策はされているのであろうと推測はしていますが。。。
環状線は地上または高架を通っています。地下の様に閉じ込められる事は無いでしょうが、高架から落ちてしまう事故は考えられます。特に断層をまたぐ、JR天満駅付近の高架は警戒すべきです。

断層は地震の時、線として現れますが、どこに現れるか分かりません。また不連続に複数個所現れます。その意味では断層と云うより断層帯として把握する方が正しいでしょう。特定の場所が危ないと云うのではなくその付近が危ないと云う事です。

阪神高速道路は大丈夫なのか

阪神大震災の時、阪神高速道路神戸線は大被害を受けました。特に深江付近は、震災当日私も目撃しましたが、高架が数百メートルに渡り横倒しになりました。あの太いコンクリート製の柱脚が見るも無残に破壊された姿には戦慄を覚えました。

その後、阪神道路公団は、新線の工事を中止してその予算を既存の沿線の補強工事に回し、耐震改修を終えています。上町断層地震も阪神大震災と同規模のマグニチュード7が予想されています。また、震度階でも震度7が予想されています。阪神大震災と同規模であれば、耐震補強により阪神大震災の様な大災害には至らないのではと考えています。ただし、断層付近は地面そのものが、横ずれしたり上下にずれたりしますので、地下鉄と同様に、そこをまたぐ柱脚間の高架は影響を受けるでしょう。

建物はどうか

政府は建物の耐震化率は80%を超えたと発表しています。しかし、私が見る限りとても80%以上耐震化されている様にはとても思えません。政府の根拠は、新耐震設計法が施行された昭和56年以降に建てられた建物が80%を超えた事を根拠にしています。
しかし昭和56年と云えば、今から37年前の建物です。マンションやビルの様に法律で定期検査が義務化されていている建物は、健全性が保たれていると云う前提になっていますが、昭和56年当時の建物は、建物の健全性を示す検査済み書を取得している建物ばかりではありません。
確認検査が民間検査機関に移行してからは、検査済み書の取得率はほぼ100%になっていますが、昭和56年当時は検査済み書は、取得しなくても、メリットもデメリットも無い存在で、必ずしも全ての建物が健全な状態で竣工したとは言えないのです。その様な建物は使用が開始された時点で違反建築となり、定期点検が実施されていない建物もあるのです。これでは耐震化率80%なんてとても言えません。
更に云うなら、一般住宅には定期検査の義務すらありません。特に木造住宅は平成12年に構造に関する法律の大改正がありました。それ以前の建物はその時点で既存不適格建築物になっているのです。

危険が見えて来ましたか?

交通インフラは、一旦地震が発生すると、社会的影響が大きいので、誰かが声高に危険性を指摘し、その指摘が正しければ、また、他人に云われるまでも無く、所轄の管理者が危険と感じれば、地震の対策を行うでしょうが、建物に関して、特に個人住宅に関しては、誰も何も言ってくれないのです。
阪神大震災の時は夜明け前でしたので、殊更ですが、死者6000余人のうち、家の中にいて圧死・焼死された方が70%を超えています。
上町断層地震の被害想定で死者は42000人と予想されています。大阪市の人口が270万人ですので、200人に3人の割合で死者が出る事になります。街の街区で云うと一街区に数名の死者がでる計算です。ご自宅は自分の街区の中で特に古くはありませんか?無理な改造をしていませんか?検査済み書のある健全な建物ですか?

不安に思われた方は、早急に耐震診断を受けて下さい。行政に相談窓口があります。大阪市では耐震診断費用5万円の内、45000円を補助してくれます。耐震診断を受診して建物の弱点を把握しましょう。同時にどれくらいの改修費用が必要か調べ、改修の準備をしましょう。リフォームとか模様替えを思い立った時、同時に耐震改修工事も行う様にしましょう。
新築工事をお考えの方は、地震対策を念頭に置きましょう。地震対策の究極は免震住宅です。




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福味健治

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