南海地震の発生確率が上昇しました。
色々な地震対策工法が考案されているが・・・
ネットを地震対策工法等で検索していますと、さまざまな工法が紹介されています。殆どのサイトが自社の工法と他社の工法比較してその有効性を訴えています。それでは果たしてどの工法が最も優秀なのでしょうか。
結論から先に云いますと、もっとも優れた工法は無いのです。冷静になって考えると分かる事なのですが、他の工法よりはるかに優れている工法が考案されていれば、誰もがその工法を用いて建てています。実際はそうなっていないのは、建築主や専門家が勉強不足でその工法を知らないと云う事ではなく、すべての商品に一長一短があると云う事です。
地震と建物の関係について
地震対策の一環で、地震と建物の特性を知る必要があります。建物が地震で影響を受ける要素として・・・
①地盤の特性
②建物の固有震動周期
③建物の形状
④建物の耐力壁の配置
等があります。
①地盤特性
地盤が固いか柔らかいかは建物に大きな影響を与えます。地盤が柔らかいと一度通り過ぎた地震波が、固い岩盤にぶつかり反射して、再度建物を襲います。盆地の様に周囲を山で囲まれているような地形の軟弱地盤は地震波が何度も襲います。丁度バケツに水を入れてバケツの縁を叩くと波紋が何度も何度も発生するのと同じです。
この様な地盤特性に建つ建物は、丘陵地の地盤の固い場所に建つ家よりも地震に抵抗する構造にしないと危険です。
②建物の固有振動周期
物体はすべて固有振動周期を持っています。鉄筋コンクリートの様な固い建物は固有振動周期が短く、木造の様な柔らかい建物は固有振動周期は長いです。どのような波長の地震が来るのか予想は出来ませんが、熊本地震の波長は木造住宅に共振する様な比較的長い波長だったので、木造家屋が多く倒壊しました。東日本大震災は固有振動周期が短かった為震度7であったにも関わらず、木造家屋に地震そのものでの被害は少なくて済みました。
また、高い建物は固有振動周期が長く、低い建物は固有振動周期が短い傾向にあります。
関東大震災では、固い地盤の上に建った固有振動周期の短いレンガ造の建物が多く倒壊し、柔らかな地盤の上に立った木造家屋が多く倒壊しています。
建物の固有振動周期と地震波が一致してしまえば、構造の別に関係なく建物は危険にさらされます。
③建物の形状
建物の形状も揺れ方に影響します。立面的に見て二階の壁面と一階の壁面が一致していれば、二階に掛かった地震力をスムーズに地面に伝える事が出来ますが、二階の壁の下に壁が無ければ二階の壁を支える梁を通常よりも大きくして梁を受けている一階の柱に地震力を伝えないと梁が大きく撓む結果となります。
平面的に見て、極端な長方形の家や凹型の家や凸型の家、L型の家等は突出部分とその他の部分で揺れ方が異なる為、捻じれを生じやすく危険な状態になる可能性があります。
④耐力壁の配置
建物は地震力を受けると揺れます。それは現在の技術ではどうしようもない事なのですが、揺れ方にも安全に揺らす方法があります。捻じれを起こさず全体的に均質的に揺らす工夫が必要になるのです。
例えば耐力壁が西側に偏っていますと、南北方向に揺れた場合、建物の西側は揺れが少なく、東側を大きく揺れる結果となります。
建築基準法的に総量としての壁量は満たしていても、耐力壁の配置が偏っていると危険です。
どの工法を選択すればよいのか
建物の固有振動周期を無くして、地震波と共振しない事を目的として考案されたのが免震工法です。地震波を基礎と上部構造部との間の免震装置で遮断してしまう方法です。この方法が地震に対して最も有効ですが、費用が高く制約も多い工法です。例えば液状化が懸念される地盤では建物が傾く恐れがあります。そのような土地に免震住宅を建てれば、家が傾いた段階で基礎から建物が滑り落ちてしまう可能性すらあります。
耐震壁を補強する目的で制震装置が数多く考案されています。耐力壁を基本にして補助的な役目で制震装置を装着しますが、耐力壁が抵抗しきれずに変形し始めなければ制震装置は作動せず、柱が傾斜するのに抵抗はしてくれますが、地震の揺れそのものを抑える事は出来ません。
費用の問題も見逃せません
予算は無制限なら、あらゆる方法・手段を試せますが、実際には限りある予算の中でどの様な配分が正しいのかを見極める作業が必要になりますから、素人判断は危険です。地震対策に最も有効な手段は専門家に相談されることです。
ここで云う専門家とは、免震や制震装置のメーカーや工事業者ではありません。メーカーや工事業者は自社の製品や工法が最も優れているとして自社製品を主張します。
メーカーや工事業者の意見ではなく、これらの製品や工法を採用している実績があり、建築主と同じ使う側の立場に立っている設計事務所に相談すべきです。
先日も免震住宅についてお問い合わせ頂きましたが、軟弱地盤であったためお勧めしませんでした。その土地に対して何が有効であるかは、ケースバイケースなのです。それを見極めることの出来る設計事務所にご相談ください。