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福味健治

建築主の思いを形にする注文住宅の専門家

福味健治(ふくみけんじ) / 一級建築士

岡田一級建築士事務所

コラム

18年前の今日、私は神戸に入りました 2

2013年1月18日 公開 / 2014年5月23日更新

テーマ:【免震住宅・地震対策】

コラムカテゴリ:住宅・建物

 事務所の外観は目立った損害は無い。唯一外壁の継ぎ目が動いたのか、そこに塗ったペンキが稲妻状に裂けている。私は急いで4階に駆け上がり、事務所のドアを開けた。カウンターが倒れている。本棚が倒れ
ている。コンピューターディスプレイー2台が落ちかけて、ケーブルだけで辛うじて止まっている。熱帯魚の水槽の中に蛍光灯が落ちて可愛がっていたベタが感電死している。まずはどこから手をつけて良いやら途方に暮れた。
 よく見ていると倒れ方に規則性がある。南北が長辺方向である物は比較的不安定な置物も立っているが、東西が長辺方向である物はことごとく倒れている。
 「鉄骨造は揺れてなんぼ」と日頃クライアントに説明している私だが「ここまで揺れんでもええやろ」と一人でつっこみをいれてしまった。テレビは刻々と被害の状況を伝えてくる。評論家が丁度一年前に発生したロサンゼルス地震を引き合いに出して高速道路の壊れ方を比較している。その醒めた評論が無性に苛立たしく腹が立ってきた、そんな事より被災者救出・支援が先だろう…
 急に神戸の叔父が心配になってきた。叔父は親戚で唯一外地での戦争体験がある。中国戦線を転々として、終戦後ソ連に抑留されながら、かろうじて生還した人である。神戸に生まれ育ちそして復員してからも神戸に暮らし、神戸を愛し誇りとしてきた頑固で気丈な人である。先年祖母が亡くなり今は老夫婦二人で須磨区に暮らしている。はずだ。
 事務所の中が一段落したところで神戸に行く準備を始める。一般道路も規制が出始めたらしい。しかし楽天的な性格が幸いしたか災いしたか、知らない土地へ行く訳じゃなし、どうにでもなると頭から決めてかかっていた。
 阿倍野の近鉄百貨店で飲料水や食料、濡れティッシュをまとめ買いすると、様子を察した店員さんがこれも使って下さいとポリタンクとタッパウエアを包んでくれた。天王寺を出発したのが午後3時過ぎ。浪速筋を北上し浄正橋を左折して国道2号線に入った処で渋滞に捕まる。カーナビを使い裏道脇道を探しながら淀川を越えたのが4時半頃、渋滞に捕まる都度不安が膨らむ。早く安否を確認したいが車は進まない。
 神崎川を越えたあたりから、木造の家屋に被害が目立ってきた。屋根瓦がずれ、建具が菱形になっている。商売柄、建物の水平垂直は道具を使わなくても計れるように訓練している為、建物の微妙な歪みがやけに目につき、車酔いとも目眩とも形容し難い感覚に襲われた。
 歩道の肩石が曲がっている、電柱がことごとく傾いている。車がスピードを出すと激しく上下にバウンドする。ロサンゼルス地震の時、ロスの街へ入って高速道路の橋桁を見て「この地震が日本で起こっても、ここまでひどく崩れない」と知り合いに自慢げに話していた自分を恥ずかしく思う。今ロスと同じ、いやロス以上の崩れ方をした高速道路が目の前にある。

つづく・・・

【第一話】
http://mbp-japan.com/osaka/oado/column/18364/
【第三話】
http://mbp-japan.com/osaka/oado/column/18460/
【第四話】
http://mbp-japan.com/osaka/oado/column/18580/
【第五話】
http://mbp-japan.com/osaka/oado/column/18622/

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