眠れない人だけの話ではない 「なぜ眠るのか」を知ることが、子どもと大人の明日を変える

樋口麻理

樋口麻理

テーマ:睡眠講座



昨日、尼崎市で開催された「みんなのサマーセミナー」で、
睡眠についてお話をさせていただきました。
連日の酷暑により、眠っても疲れが取れにくく、
朝から体が重いと感じる方も多いなか、会場まで足を運んでくださった皆さま、
本当にありがとうございました。

しかも今回は、1限目という朝一番の授業でした。
正直に申し上げると、
「朝早い時間に来てくださる方はいるだろうか」と、集客を心配していました。
前回は、満員御礼で本当にうれしい悲鳴をあげたので心配でした。
しかし、当日はたくさんの方にご来場いただき、睡眠への関心の高さを改めて感じました。
私が「みんなのサマーセミナー」で講座を担当させていただくのは、今回で11回目になります。
2回目以降、コロナ禍でオンライン開催となった時期にもお声をかけていただきました。
開催方法や社会の状況が変わっても、こうして講座を継続できていることは、
決して当たり前ではありません。
毎年運営に携わる皆さま、そして私の講座を選び、
受講してくださる皆さまに、心より感謝申し上げます。

今回のテーマは、
なぜ眠るの? ねてる間の脳と体のひみつ
でした。
よく眠るための方法をお伝えする講座ではなく、
「私たちは、なぜ毎日眠る必要があるのか」
「眠っている間に、脳や体では何が行われているのか」
という、睡眠の仕組みや役割についてお話をしました。

正直なところ、今回の内容は市民講座としては、難しかったと思います。
体内時計、ホルモン、レム睡眠、ノンレム睡眠、脳の働きなど、
睡眠の仕組みをお伝えしようとすると、どうしても専門的な内容が多くなります。

参加された方の表情やうなずき方を拝見しながら、
「もっと日常の言葉に置き換えられたのではないか」
「もっと身近な例を使えば、楽しく聞いていただけたのではないか」
と感じました。

講座は、話し終われば終わりではありません。
参加された方の反応やご質問を振り返り、
次の講座に生かすところまでが、私にとっての講座です。

次回の市民講座では、専門的な内容をなくすのではなく、
難しいことを、もっと楽しく、もっと分かりやすく届けられるように
工夫していきたいと思っています。

では、なぜ今回、あえて「なぜ眠るのか」というテーマにしたのでしょうか。
睡眠講座では、
「朝に太陽の光を浴びましょう」
「寝る前のスマートフォンを控えましょう」
「夕方以降はカフェインに気をつけましょう」
「寝室の温度や湿度を整えましょう」
といった、よく眠るための方法が紹介されることが多くあります。
もちろん、どれも大切なことです。
しかし私は、方法だけを知っても、
その理由が分からなければ、なかなか続かないと感じています。

なぜ朝の光が必要なのか。
なぜ夜の強い光が眠りを遠ざけるのか。
なぜ休日に長く眠っても、月曜日の朝がつらいのか。
なぜ十分に眠ったつもりでも、疲れが取れないことがあるのか。
この「なぜ」が分かると、睡眠のために行う一つひとつの行動に意味が生まれます。
例えば、朝の光は目を覚ますだけではありません。
朝に光を浴びることで体内時計が調整され、夜になると自然に眠くなるリズムがつくられていきます。
反対に、夜遅くまで明るい照明やスマートフォンの光を浴び続けると、
脳がまだ昼間だと受け取り、眠りに関わるホルモンの働きが遅れることがあります。
ただ、
「スマートフォンを見てはいけません」
と言われるよりも、「夜の脳に、まだ昼間だと勘違いさせないため」
と理由を知るほうが、自分で使い方を考えられるのではないでしょうか。
私は講座のなかで、
「睡眠は休憩ではありません。脳と体の夜間メンテナンスです」
ともお伝えしています。

眠っている間、脳や体は止まっているわけではありません。
私たちは、ノンレム睡眠とレム睡眠という異なる眠りを、一晩のなかで繰り返しています。
深いノンレム睡眠では、体の回復や免疫、成長に関わる働きが進みます。
レム睡眠では、日中に得た情報や記憶、感情の整理が行われると考えられています。
さらに睡眠中の脳では、脳内の液体が動きやすくなり、日中の活動によって生じた余分な物質が運び出されやすくなることも分かってきました。
つまり睡眠は、ただ横になって体を休める時間ではなく、翌日も脳と体を正常に働かせるための、大切な準備の時間なのです。

だからこそ、睡眠は「何時間眠ったか」だけで判断することはできません。
7時間眠ったから大丈夫。
8時間眠れなかったから悪い。
という単純なものではありません。
朝起きたときに、少しでも回復した感じがあるか。
日中に強い眠気がないか。
集中力や判断力が低下していないか。
気持ちに余裕がなくなっていないか。
休日に何時間も寝だめをしていないか。
睡眠時間だけでなく、生活リズムや朝の目覚め、
日中の状態も一緒に確認することが大切です。

私たちがお伝えする睡眠講座は、医療に代わるものではありません。
病気の診断や治療をするものでもありません。
医療機関のお世話になる前に、生活のなかでできる予防を知っていただくこと。
そして、
「病院へ行くほどではないと思うけれど、眠れない」
「朝から疲れている」
「夜中に何度も目が覚める」
「昼間に眠くて集中できない」
と感じている方が、睡眠リズムや生活環境を見直すきっかけをつくることです。
生活を整えても不調が続く場合や、強いいびき、呼吸が止まる、
日中に耐えられないほど眠いといった症状がある場合には、
医療機関へ相談することも必要です。
自分でできることと、医療につながるべき状態を知ることも、
睡眠教育の大切な役割だと考えています。

そして私は、特に子どもの睡眠について、保護者の方だけではなく、
幼児教育や保育、学校教育に携わる方にも、もっと関心を持っていただきたいと願っています。
こどもは、自分で就寝時刻を決めたり、生活環境を整えたりすることができません。
朝起きる時間、食事の時間、日中の活動量、夜の照明、テレビやスマートフォン、大人の帰宅時間など、周囲の大人がつくる生活環境の影響を受けながら、子どもの睡眠習慣はつくられていきます。
こどもが早く眠れないとき、こどもだけの問題として考えるのではなく、家庭全体の生活リズムを見直すことも必要です。
大人が睡眠について知ることが、こどもの「眠る力」を育てることにつながります。
睡眠の大切さを伝える活動は、すぐに大きな結果が出るものではありません。
伝えても、なかなか届かないこともあります。
難しいと感じることも、何度もあります。
それでも、一人が睡眠を知り、その人が家族に伝える。
保育や教育の現場で話題になる。
地域や職場のなかで、睡眠を大切にする人が少しずつ増えていく。
その積み重ねが、いつか大きな変化につながると信じています。

毎回、講座はチャレンジです。
受講される方の年齢、性別、仕事、生活環境、家族構成、抱えている悩みによって、必要とされる内容は異なります。
定例講座でも、参加される方の背景を伺いながら、お伝えする内容を変えています。
同じ資料を同じように話すのではなく、その場にいる方に届く言葉で伝えること。
それが、私が大切にしたい講座の形です。
今回の講座で感じた反省も、迷いも、すべて次への材料です。

次回は、もっと楽しく、もっと身近に、そして「今日から一つやってみよう」と思っていただける講座にしたいと思います。

ご参加くださった皆さま、運営に携わってくださった皆さま、本当にありがとうございました。

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樋口麻理
専門家

樋口麻理(睡眠健康指導士)

株式会社印笑

医療・教育の分野を知る睡眠健康指導士が、生活や社会活動の基盤となる睡眠管理をテーマに自己実現や子育て、健康維持をサポート。フェイスメソッドで、いびき対策や顔のこわばり改善などお伝えします。

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