残業代請求は過去2年分→5年分になる?
3.芸能人は労働者か
芸能人が労働者にあたるかどうかの判断は、昭和63年基収355号の通達に記載があります。
この通達によると、
①当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること。
②当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。
③リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても、プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。
④契約形態が雇用契約ではないこと。
のいずれにも該当する場合、労働者には該当しないとしています。
先に紹介した使用従属性の判断基準と比較してみると、内容が正反対であることがわかります。(使用従属性の1.と通達の③、使用従属性の2.と通達の②)
例えば、一般的な会社員の場合、1日8時間労働で週休2日、月給20万円というように、働いた分に対して賃金が支払われます。基本的に上司の指揮命令を受けて働くことになり、業務に対して諾否の自由はありません。
一方、ドラマや映画に引っ張りだこの俳優の場合、ドラマや映画などの作品を1本撮影するときに、おおよその撮影期間はあるものの、日数や時間数に限らず一定額の報酬が支払われることになります。また、演技において誰かからの指揮命令を受けることはなく、本人の意向が大きく反映されます。出演オファー等がきて「出演したくない」と思えば断ることもできます。つまり、テレビや映画でみるような芸能人は労働者ではないといえます。
しかし、芸能人であっても通達の①から④のいずれにも該当しなければ労働者と判断されることになります。
4.労災の特別加入の対象が拡大!
特別加入制度は、労働者でなくても労災保険に加入することができる制度です。
これまで労災の特別加入の対象は、①一人親方、②中小企業事業主、③海外派遣者の3つに限られていました。
しかし、特別加入制度の改正が行われ、令和3年4月1日から労災保険の特別加入の対象が広がりました。
対象となるのは以下の通りです。
・芸能関係作業従事者
・アニメーション制作作業従事者
・柔道整復師
・創業支援等措置に基づき事業を行う方
今回芸能人も労災保険の特別加入の対象とされたことで、撮影中や自宅から撮影現場までの移動中に怪我や病気、障害、死亡等が起きたときに補償を受けることができるようになりました。
5.さいごに
以上、労災保険の紹介、芸能人は労働者にあたるのかどうか、労災保険の特別加入の対象が拡大されたこと等について述べました。
労災保険は業務中の万が一に備えるためのものです。
バラエティ番組で体を張った芸を披露するお笑いタレントや、映画・ドラマなどのスタントマンは、いくら専門の職業とはいえ一般のサラリーマンよりも仕事中の災害発生率が高くなります。
今回、労災保険の特別加入の対象拡大が、労働環境の改善等につながることを願いたいです。