特定労働者派遣から一般派遣への切り替えの必要性と手続きについて
平成27年の法改正により、特定労働者派遣事業は廃止され、労働者派遣事業に一本化されることとなりました。
これにより、特定労働者派遣事業者は、労働者派遣事業者の許可申請を行う必要があります。許可要件は「財産的要件」や「事業所要件」など複数あり、なかでも満たすのが難しいと思われるのが「財産的要件」です。
しかし、「財産的要件」には小規模事業者向けの緩和措置があります。この記事では、小規模事業者向けの緩和措置に触れつつ、許可要件について解説します。
特定労働者派遣事業は廃止。労働者派遣事業者へ新たに許可申請を行う必要がある
平成27年の法改正によって、届け出制であった特定労働者派遣事業は廃止され、労働者派遣事業に一本化されることとなりました。こうしたなか、小規模事業者に関しては、激変緩和対策として、緩和措置が取られることになりました。
この背景には、特定労働者派遣事業者が小規模業者であることが挙げられます。許可制を期限までに厳密に適用してしまうと、多くの小規模事業者が廃業に追い込まれる恐れが出てきました。
といのも、労働者派遣事業の許可要件に「財産的要件」のほか、「事業所要件」や「キャリアコンサルティング要件」などが含まれているからです。
このなかでも、最も小規模事業者にとって負担となりそうなのが「財産的要件」でしょう。労働者派遣事業の許可を申請しようとする者は、「2,000万円×事業所数」および「負債の総額×7分の1以上」という基準資産額を満たす必要があるほか、「現預金額が1,500万円×事業所数」でなければなりません。
たとえ事業所数が1つであったとしても、この計算式に従えば、基準資産額は2,000万円以上、現預金は1,500万円以上を所持している必要があります。この金額を見れば、小規模事業者にとって、想像以上に高いハードルだとわかるでしょう。
労働者派遣事業へ切り替えるためには一定の現預金が必要
そこで、政府は「財産的要件」について、小規模事業者のために緩和措置を打ち出しました。少々内容が複雑ですが、中身を見ていきましょう。
対象者は「1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が10人以下である中小事業主」です。この中小事業主は、当面の間、基準資産額が1,000万円、現預金額が800万円であっても、労働者派遣事業の許可を得ることができます。
ただし、平成30年9月29日申請分までであることをしっかりと記憶しておきましょう。
また、「1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が5人以下である中小」の場合、基準資産額は500万円、現預金額は400万円にまで緩和されます。
これくらいの要件であれば、満たすことができる小規模事業者はいるのではないでしょうか。なお、これから新たに労働者派遣事業を行う小規模事業者には、この緩和措置は適用されないので、注意しましょう。
とはいえ、労働者派遣事業の許可を無事得ることができても、安心はできません。というのも、この緩和措置には「常用雇用の派遣労働者数」に制限があるからです。
常時雇用する派遣労働者数が増えた場合は、緩和措置の対象外になります。つまり、上述した「財産的要件」を満たす必要があるのです。そのため、しっかりとした事業計画を立てた上で、許可申請に臨むことが大切です。
許可のために「財産的要件」以外にも越えなければならないハードルがある
特定労働者派遣事業者が、労働者派遣事業の許可を得るために越えなければならないハードルは「財産的要件」以外にも多数あります。代表的なものが「事業所要件」と「キャリアコンサルティング要件」です。
「事業所要件」には、「20平米以上の広さの事業所であること」や「事業所内に研修や面談を行うスペースを用意すること」などが盛り込まれています。
自宅で事業を行っている小規模事業者も多いなか、事業所を用意することはなかなか難しいものです。時宜に応じて、銀行から資金を借り入れるなど、財務面を強化しておく必要があります。
さらに、「キャリアコンサルティング要件」も負担の大きなものです。派遣労働者のキャリア形成に資する、段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画を定めることやキャリアコンサルティングの相談窓口を設定する必要もあります。
そして、最も小規模事業者にとって、ハードルとなりそうなのが、有給かつ無償の教育訓練を用意することです。教育訓練のノウハウがなく、財産的に事業運営が厳しい小規模事業者にとって悩ましい問題です。
労働者派遣事業の許可申請の期限は、平成30年9月29日まで。期限まで1年を切り、今後の展望を描けない小規模事業者も多いのではないでしょうか。
一般的に申請から許可まで3~4カ月ほど要することが多いため、早めに動いたほうがよいでしょう。この手の申請について得手不得手はありますが、4~5回くらいは役所に通う必要がでてきます。
また、許可申請の際は、労働契約書や就業規則など、一定の書類を具備している必要があります。これらの法定書類に不安がある場合は、労務の専門家である社会保険労務士に相談するなどして解決することが求められます。