特定労働者派遣から一般派遣への切り替えの必要性と手続きについて

鈴木圭史

鈴木圭史

テーマ:特定労働者派遣

労働者派遣法の改正法が成立したことで、届け出制であった特定労働者派遣事業は廃止され、労働者派遣事業に一本化されることとなりました。

この法改正により、労働者派遣事業はすべて許可制となります。これにより、特定労働者派遣事業者は、事業の継続をする場合には平成30年9月29日までに労働者派遣事業の許可を得る必要があります。

労働者派遣事業の許可を得るためには、様々な要件がありますが、主たるものが4つあります。この記事では、許可を得るために、労働者派遣事業者が講じるべき措置について解説します。

特定労働者派遣は廃止となり、労働者派遣事業に一本化

平成27年9月30日に労働者派遣法の改正法が施行されました。

これにより、労働者派遣事業は、許可制に一本化されることとなりました。これまで届出制の特定労働者派遣事業は廃止(正確に表現すると施行日以降の新規受付を不可とした)となるため、労働者派遣事業者は、平成30年9月29日までに、労働者派遣事業の許可を受ける必要があります。

焦る必要はありませんが、スムースに事業を運営するためにも、書類などの不備をなくし、着実に準備を進めたいものです。

このたび、法改正が行われた背景には、労働者派遣事業に対する規制強化があります。派遣労働は、臨時的かつ一時的なものであることが原則ですが、実態は常用雇用に代替するものとして扱われてきました。こうした事態を重くみた厚生労働省は、派遣労働者のより一層の雇用の安定やキャリアアップを目的に、労働者派遣法の改正に踏み切ったわけです。

労働者派遣事業に切り替えるのに大切な4つの要件を満たす必要がある

労働者派遣事業の許可を受けるためには、以下の4つの要件を満たしている必要があります。ひとつは、「特定の者のみに派遣を行わないこと」です。

例えば、A社だけに派遣を行う場合、要件を満たしているとは言えません。というのも、A社だけにもっぱら派遣するケースは、派遣先事業主の常用雇用を避けるために、労働者派遣を悪用していると見なされるからです。

二つ目は、「雇用管理能力の有無」です。雇用管理能力の有無は、さまざまな観点から見られますが、ほとんどの項目は、通常クリアできるでしょう。注意すべきは、「派遣元責任者の選任」です。

派遣元責任者は、誰でもよいわけではなく、「派遣元責任者講習を受講して3年以内であること」「一定の雇用管理等の経験があること」など、複数の要件があります。もし、自社に派遣元責任者がいない場合、講習を受ける必要があります。それだけに、早めに許可申請へ動いたほうがよいでしょう。

三つ目は、「個人情報の適正管理」です。派遣事業者は、多数の個人情報を扱っています。近年、個人情報の流出事件が相次ぐなか、個人情報が適切に管理されているかどうか厳しく問われるようになりました。

最後は、「事業遂行能力の有無」です。事業を行う上で、十分な資産額を持っているかどうかを問われます。労働者派遣事業の許可を申請しようとする者は、「2,000万円×事業所数」および「負債の総額×7分の1以上」という基準資産額を満たしている必要があります。加えて現預金が「1,500万円×事業所数」という要件もあるので注意が必要です。

許可申請を行う前に、要件をしっかりと確認すべき

申請をする前に、許可要件をしっかりと満たしているかどうかチェックしましょう。事業遂行能力の基準となる財産的要件はもちろんのこと、事業の運営に好ましくない位置に事業所を設けないこと、事業所の面積が「おおむね」20㎡以上であること、といった事業所基準なども満たす必要があります。おおむねという表現があるので少し足りない等の場合は労働局の需給調整事業部に相談をしてみましょう。

そして、今回の法改正により労働者派遣事業者にとって大きな負担となりそうなのが、キャリア形成支援制度を設けることです。前述の通り、厚生労働省は、派遣労働者のキャリア形成に対して、厳しく問うようになりました。そして、労働者派遣事業者は、キャリアコンサルティングの相談窓口を設けることや一定の教育訓練を派遣労働者に対して行わなければなりません。

今回の改正により、前述したキャリアアップ措置のほか、派遣終了後の雇用を継続させる措置を講じる義務も課されるようになりました。また、派遣元は、賃金や教育訓練、福利厚生などについて説明する義務もあります。

そして、「無期雇用派遣労働者であるか有期雇用派遣労働者であるかの別」「雇用安定措置として講じた内容」「段階的かつ体系的な教育訓練を行った日時および内容」について、派遣元管理台帳に新たに記載する必要もあります。

労働者派遣事業の許可申請は、申請から許可まで2~3カ月かかると言われており、早めに動き始めたほうがよいでしょう。これまで記述した要件をチェックし、労働者派遣事業の許可を得ても、手続きは終わりではありません。

特定労働者派遣事業に関する「廃止届」や「事業報告書」も提出する必要があります。法改正を機に、政府は労働者派遣事業者に対する管理監督を強める可能性が高くなっています。適正に事業を運営できるよう、社内体制を構築する必要があるでしょう。

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鈴木圭史
専門家

鈴木圭史(特定社会保険労務士)

ドラフト労務管理事務所

社労士として20年以上の経験を誇り、労務相談から発展した、労務リスクの回避につながる労務監査を推進。IPOやM&A支援でも実績があります。「船員の働き方改革」に対応する海事代理士業も。

鈴木圭史プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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