社長、遺言書を書く前に 会社の借金と社長の保証はどうなりますか?
「遺言書はちゃんと作るから大丈夫」親子承継や相続のご相談を受けていると、多くの社長さんがそうおっしゃいます。
もちろん、遺言書はとても大切です。誰に財産を引き継ぐのか、会社の株式を誰に承継させるのかを明確にするためにも欠かせない準備です。
しかし、家族経営の現場で実際に起きる相続トラブルを見ていると、遺言書があるにもかかわらず家族が揉めてしまうケースは決して少なくありません。
その理由は意外にシンプルです。「社長の考えを家族が知らないまま相続を迎えているから」です。
今回は、家族経営専門のコンサルタント行政書士の立場から、「家族会議」の大切さについてお話しします。
遺言書を書けば安心とは限らない
社長さんの中には、「遺言書さえ残しておけば家族は揉めない」と考えている方もいらっしゃいます。確かに遺言書は相続対策の重要な柱です。しかし、遺言書はあくまで財産の分方を示すものです
例えば、
・自社株は長男へ
・自宅は妻へ
・預金は兄弟で均等に
という内容が記載されていたとしても、その理由までは十分に伝わらないことがあります。
特に事業承継では、「なぜ後継者に多くの財産が渡るのか」という説明が家族に伝わっていないと、不公平に感じる人が出てくる可能性があります。
社長さんには当然の判断でも、説明を受けていない家族には突然の決定に見えてしまいます。
遺言書は大切です。しかし、遺言書だけでは誤解や感情のすれ違いを防ぎきれないことが多々あります。
本当に大切なのは家族が納得しているかどうか
相続で人が揉めるのは、お金が欲しいからとは限りません。
実際には、
「なぜそうなったのか分からない」
「相談もなく決められていた」
「自分の気持ちは考えてもらえなかった」
という感情が原因になることが多いのです。
例えば、長男が会社を継ぐ場合。
社長としては、「会社を守るために株式を集中させる必要がある」と考えていても、その説明がなければ他の兄弟姉妹には伝わりません。結果として、「兄だけ特別扱いされた」という不満が残ってしまうことがあります。
一方で、生前に家族会議を開き、「会社を守るためにこうしたい」「このような理由で長男に承継する」と説明していれば、たとえ全員が賛成でなくても理解は得やすくなります。
相続で重要なのは平等だけではありません。納得しているかどうかが重要です。生前の対話不足が争いを招きます。家族会議を避ける社長さんには共通した理由があります。
「まだ元気だから」
「そのうち話せばいい」
「相続の話をすると縁起が悪い」
「家族が揉める話題は避けたい」
お気持ちはお察しできます。
しかし、話し合わないまま時間だけが過ぎることが一番のリスクです。
社長さんの頭の中には、
・誰に何を承継させるか
・なぜその判断をしたのか
・会社をどうしてほしいのか
という考えがあります。ところが、それを誰にも話していないと、相続が発生した後に家族は想像で判断するしかありません。
すると
「父は本当にそう考えていたのか」
「兄が勝手に決めたのではないか」
「もっと別の考えがあったのではないか」
という疑念が生まれてしまいます。争いの原因は財産そのものではなく、実は対話不足であることが少なくないのです。
家族会議は相続のためだけではない
家族会議というと、財産の話をする場だと思われがちです。しかし本来は、家族の未来について話し合う場です。
例えば、
。後継者を誰にするのか
・会社を今後どうしたいのか
・自宅や不動産をどう承継するのか
・家族にどんな思いを持っているのか
こうしたことを共有するだけでも意味があります。完璧な結論を出す必要はありません。先ずは社長さんの考えを伝えることが大切なのです。
一度も話し合いをしないまま相続を迎える家族と、何度も対話を重ねている家族では、その後の安心感が大きく違います。
「伝えておく相続」に大きな価値がある
私は事業承継のご相談で、「遺言書を書くこと」と同じくらい、「伝えること」を大切にしていただきたいと考えています。
財産だけを残す相続と、思いも一緒に残す相続では結果が大きく変わります。
例えば、
「会社を継ぐ人には重い責任がある」
「会社を継がない子どもも同じように大切に思っている」
「妻には長年の感謝しかない」
こうした言葉を生前に聞いているだけで、家族の受け止め方は変わります。相続対策とは単なる財産対策ではありません。家族関係を未来へつなぐための準備でもあるのです。
まとめ
遺言書は重要です。
しかし、遺言書を書いただけで安心とは言えません。
家族経営の事業承継で本当に大切なのは、
・ 家族が内容を理解していること
・ 社長の考えが伝わっていること
・ 後継者への承継理由が共有されていること
・ 家族が納得できる環境をつくること
そして、そのために最も有効なのが家族会議です。
社長さんが築いてきた会社と家族を守るために必要なのは、「残す相続」だけではありません。
「伝えておく相続」こそが、争族を防ぐ最大の対策なのです。
遺言書を書く前に、まずは一度、ご家族と将来について話す時間をつくってみてはいかがでしょうか。その対話こそが、円満な事業承継への第一歩になると思います。
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