通常クレームの基本応対とは?―傾聴と心情理解から考える6つの手順―⑷
【カスタマーハラスメント対策 連続コラム|第8回】
カスハラ対策は、一人で抱えない仕組みから―長引くクレームに「人・場所・時」を変える組織対応―
ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
前回の第7回では、通常クレームへの応対から、カスタマーハラスメントへの対応へ、どの段階で切り替えるのかについて考えました。(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5239621)
正当なクレームには、誠実に向き合うことが大切です。
一方で、十分にお話を伺い、必要な説明をしても同じ要求が繰り返される。話が前へ進まず、担当者の負担が大きくなっている。
そのようなとき、担当者の努力だけに任せ続けてよいのでしょうか。
カスハラ対策で大切なのは、「担当者がどこまで我慢できるか」ではなく、「どの段階で、誰が、どう支えるか」を組織として決めておくことです。
今回は、クレーム応対が長引いたときの交代や引継ぎ、そして「人・場所・時」を変える対応について考えます。
通常クレームは、何分で上司へつなぐ?
通常のクレーム応対では、まず最初に応対した担当者がお客様のお話を伺い、心情を理解し、必要な事実確認を行います。
そのため、「10分経ったから交代」というように、時間だけで機械的に判断するものではありません。
私自身は、通常クレームであれば、お客様のお話をしっかり伺うためにも、20~30分程度を一つの見直しの目安として考えています。
ただし、これは私が考える応対の見直し目安であり、一律の基準ではありません。「30分までは一人で対応しなければならない」という意味でもありません。
担当者の権限を超える判断を求められた。同じ要求が繰り返される。説明しても話が前へ進まない。相手の言動が強くなり、担当者が負担や恐怖を感じている。
このような場合には、時間を待たず、上司・責任者へ報告し、必要に応じて交代します。身の危険がある場合は、応対の継続より安全確保を優先します。
時間は「ここまで一人で頑張る時間」ではなく、「このまま同じ人が応対を続けてよいのか」を見直す目安なのです。
また、上司へつなぐことは、相手をカスタマーハラスメントの行為者と決めつけることでもありません。正当なクレームであっても、責任者の判断や説明が必要になることはあります。
クレーム応対では「人・場所・時」を変える
同じ人が、同じ場所で、同じやり取りを繰り返していると、双方がその状況から抜け出しにくくなることがあります。
そこで、私がクレーム応対研修でお伝えしていることの一つが、
「人を変える・場所を変える・時を変える」
という考え方です。
状況を見直し、話を進めるために、応対の環境を変えてみるのです。
人を変える―上司・責任者へ引き継ぐ
担当者では判断できない、同じ説明の繰り返しになっている、あるいは担当者の負担が大きくなっている。
そのような場合には、上司や責任者へ引き継ぎます。
「ここからは責任者である私がお話を伺わせていただきます」
責任者が出ることによって、お客様にも、
「責任者まで話が伝わった」
「上の人がきちんと話を聞いてくれた」
と受け止めていただき、話を進めるきっかけになる場合があります。
ただし、交代するたびにお客様へ同じ説明を一から求めると、新たな不満につながりかねません。
引継ぎの際には、担当者、またはそばで応対の経過を把握していた同僚が、お申し出の内容、確認できた事実、これまで説明したこと、約束したこと、まだ確認できていないことを整理し、上司・責任者へ伝えます。
担当者が応対を続けている場合には、同僚が先に状況を伝え、必要に応じて担当者が補足するなど、周囲が協力することで、円滑な交代につなげます。
上司への交代は、担当者の説明や対応に問題があったことを意味するものではありません。
担当者が適切に説明していても、ご納得いただけず、同じやり取りが続く場合もあります。その場合には、上司も組織として同じ内容をお伝えします。
「担当者からご説明したとおり、○○という理由から、ご要望にはお応えいたしかねます」
と、責任者として改めて理由や対応できる範囲を説明します。上司に代わったからといって、できないことができるようになるわけではありません。
一方で、担当者の説明に誤りや不足があった場合には、確認したうえで、組織としてお詫びし、訂正や補足を行います。
「こちらの説明に誤りがあり、申し訳ございません。正しくは○○でございます」
その際に避けなければならないのは、お客様の前で部下を責めたり、誤りを厳しく指摘したりすることです。
「担当者がそんなことを言ったのですか」
「あの者の説明が悪かったですね」
などと上司が部下を非難すると、お客様が「やはり、この担当者が悪かったのだ」と受け止め、怒りの矛先が部下個人へ向かってしまうおそれがあります。
また、社内の連携に対する不信感を招くだけでなく、対応した部下も自信を失い、上司へ助けを求めることをためらうようになりかねません。
担当者への指導や振り返りが必要な場合は、お客様への対応と切り分け、後で落ち着いて行います。
担当者が代わっても、組織としての対応はつながっています。それまでの経緯を踏まえ、伝えるべきことは一貫して伝え、訂正すべきことは責任を持って訂正する。その姿勢が大切です。
場所を変える―気持ちを切り替えるきっかけをつくる
同じ場所でやり取りを続けていると、怒りや不満が高まったまま、話が進みにくくなることがあります。
そのようなときには、安全を確認したうえで、
「こちらではほかのお客様もいらっしゃいますので、場所を移してお話を伺ってもよろしいでしょうか」
と、場所を変えることを提案する方法があります。
移動によって会話がいったん途切れ、目に入る景色や周囲の環境が変わることが、気持ちを切り替えるきっかけになる場合もあります。
また、立ったままお話をしていた場合には、落ち着いて話せる席へご案内し、
「どうぞお掛けください。こちらで改めてお話を伺います」
とお伝えすることで、話し合いを仕切り直すきっかけにもなります。
中には、周囲の注目を意識して、いわば「振り上げた拳」を下ろしづらくなっている方もいらっしゃるでしょう。その場合にも、人の視線から離れることが、気持ちを収める助けになることがあります。
場所を変え、改めてお話を伺う環境を整えることも、クレーム応対の一つの方法です。
ただし、場所を変えれば必ず落ち着いていただけるわけではありません。興奮している相手と、従業員一人だけで密室へ入ることは避けます。移動先や同席者、助けを求められる体制を確認しておくことが必要です。
「場所を変える」ときほど、安全を確保し、一人で対応させないことが重要です。
時を変える―その場ですべてを解決しようとしない
クレームには、その場で解決できるものもあれば、事実確認や社内での検討が必要なものもあります。
確認できていないことについて、その場で答えを出そうとすると、不正確な説明や、実行できない約束につながるおそれがあります。
「正確な状況を確認するため、一度社内で確認させていただきます」
「確認にお時間をいただき、○日までにこちらからご連絡してもよろしいでしょうか」
と、必要に応じて日を改めることも、一つの方法です。
その際には、誰が、何を確認し、いつ連絡するのかを明確にします。確認に時間がかかる場合も、約束した日時には途中経過をお伝えします。
また、その場のやり取りからいったん離れ、翌日などに改めてお話しすることで、双方が気持ちを整理し、冷静に話せる場合もあります。
時を変えることは、回答を先延ばしにすることではありません。必要な確認を行い、落ち着いて話し合える機会を整えることです。
上司へ代わったら、今度は上司一人に任せない
担当者から上司へ交代したからといって、今度は上司一人にすべてを背負わせてしまっては、組織対応とはいえません。
例えば、上司が相手との対話を担当する。
もう一人は、時刻、お申し出の内容、相手の言動、こちらが説明した内容などを記録し、必要な事実を確認する。
さらに、状況が変化した場合に、必要な連絡や周囲の安全確保に動く役割も考えておきます。
人数が限られる職場では、本部や別の拠点へ連絡し、支援や判断を求める方法も決めておく必要があります。
複数対応とは、複数人で相手を取り囲むことではありません。それぞれが役割を持ち、連携して対応することです。
複数の人が同時に説明したり、それぞれ違う回答をしたりすると、かえって話が混乱します。対話の窓口をそろえ、ほかの人が支える体制をつくります。
「担当者を一人にしない」。
そして、「責任者も一人にしない」。
ここまで考えておくことが、現場で機能する組織対応につながります。
会社の方針が、現場で判断する人の支えになる
どの段階で上司を呼んでよいのか。
誰に助けを求めればよいのか。
責任者はどこまで判断できるのか。
こうしたことが曖昧なままでは、担当者も上司も、「自分の判断で交代してよいのだろうか」「会社はこの対応を認めてくれるのだろうか」と迷ってしまいます。
会社が対応の方針を明確にし、現場へ伝えておくことには、その迷いを減らす意味があります。
私自身、ANAで勤務していた頃、会社が機内迷惑行為に対する方針を示したことで、「会社は私たちを守ろうとしてくれているのだ」と感じました。
チーフパーサーとしてフライトに臨むこともあった私にとって、その方針は大きな支えでした。
「いざというときには、この方針を拠りどころに、迷うことなく毅然とした態度でクルーを守ることができる」。そう思えたことが、安心につながっていたのです。
対応を任せるのであれば、判断の拠りどころと、困ったときに支援を受けられる体制も、あわせて示しておくことが大切だと考えています。
組織のルールを、現場で使えるものにする
「長引いたら上司へ相談する」と書いてあるだけでは、実際にどの段階で、どう連絡すればよいのか分からないことがあります。
上司が不在だったら、誰に連絡するのか。
お客様には、交代することを何と伝えるのか。
引き継ぐときには、何を伝えるのか。
そこまで具体的に確認しておくことが必要です。
知識として分かっていることと、その場で言葉にし、行動できることは違います。
研修やロールプレイングでは、実際の事例をもとに、交代の伝え方や引継ぎ、役割分担を確認していきます。従業員だけではなく、引き受ける管理職も一緒に練習することで、組織として動く準備ができます。
それでも収まらないときは?
人を変える。場所を変える。時を変える。
これらは、状況を見直し、組織として応対するための方法です。必ずこの順番で試さなければならないものではありません。
それでも威圧的な言動や不当な要求が続く場合には、応対を続けることだけを考えるのではなく、安全確保や対応終了の判断が必要になります。
次回、第9回では、録音・録画、警備員・警察との連携、そして対応を打ち切る判断と伝え方について考えてまいります。
研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
ホスピタリティ&マナー・ラボ公式ホームページ
https://www.hospitality-m-l.com/


