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相続人が弁識能力を欠く場合の相続税の申告期限

佐々木保幸

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テーマ:相続・贈与の税金

1 相続税の申告書の提出期限
 相続や遺贈により財産を取得した者は、被相続人から相続や遺贈により財産を取得したすべての者の相続税の課税価格(相続や遺贈により取得した財産の価額から、債務・葬式費用を控除し、一定の生前贈与財産の価額を加算した金額)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者の相続税額が算出されることとなるときは、その者が被相続人の相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告書を提出しなければなりません。
 この「相続の開始があったことを知った日」とは、相続人や受遺者(以下「相続人等」といいます)が、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうものと解されています。多くの場合、被相続人が死亡すれば、その近親者は、直ちに、その事実を知ることとなります。
 しかしながら、被相続人の相続開始の時に、相続人等が相続の開始があったことを知る弁識能力を欠いていた場合には、その後その相続人等の弁識能力が回復し、被相続人の死亡の事実を認識することができたとすれば、その日が、相続の開始があったことを知った日となります。
 相続人等が弁識能力を欠く常況にあるときには、遺産分割協議や財産の処分その他の法律行為をするためには、後見人を選任する必要があります。被相続人の相続開始の時に、既に後見人が選任されている場合には、その後見人が被相続人の相続の開始があったことを知った日がその相続人等が相続の開始があったことを知った日となります。
 また、被相続人の相続開始の時に後見人がおらず、その後も相続人が弁識能力を欠く状態が継続しているときには、新たに後見人が選任され、その後見人が相続の開始のあったことを知った日がその相続人が相続の開始があったことを知った日となります。

※成年後見制度
認知症、知的障害、精神障害などによって、1人で判断する能力が全くない状態の者について、申立てによって、家庭裁判所が「後見開始の審判」をして、本人を援助する人として成年後見人を選任する制度です。 成年後見人は、後見開始の審判を受けた本人に代わって契約を結んだり、本人の契約を取り消したりすることとなります。

2 相続税の決定処分の特則

(1) 相続税の申告期限前の決定処分
 相続開始の時以後、弁識能力を欠く相続人に後見人がいない場合に、後見人が選任されるまで相続税の申告期限が決まらないとすると、いつまでも相続税の確定をすることができません。また、税務署長は、死亡の日を知ることはできても、相続人等が相続の開始があったことを知ったかどうかを知ることはできません。
 そのため、税務署長は、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月を経過したときには、その相続人が被相続人について相続があったことを知らない期間及び相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内の期間内であっても、相続税の申告書を提出すべき者に対して、相続税の決定処分を行うことができることとされています。
※相続人等が被相続人に相続開始があったことを未だ知らないことから、相続税の申告期限が定まらないとしても、既に相続税の申告義務は生じているものと考えられます(平成18年7月14日最高裁第二小法廷判決)。

(2) 決定処分が行われた場合の附帯税
相続税の申告書の提出期限前に相続税の決定処分が行われた場合における延滞税は、申告書の提出期限の翌日を起算日として計算されます。また、その決定処分に係る相続税額に対しては無申告加算税は賦課されません。

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佐々木保幸
専門家

佐々木保幸(税理士)

税理士法人 洛

会計の数値をもとに、経営を一緒に考え共に成長を目指す。弁護士など異業種との交流も深く、お金にまつわることであれば専門外の問題にも力を発揮。税務関連の講師も務める。

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