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アンガーマネジメントを学ばせたほうがいいというアドバイス
「パワハラ加害者、あるいは加害者になる可能性のある社員には、アンガーマネジメントを学ばせたほうがいい」
ここ数年、企業が弁護士などの専門家から実際に受けているアドバイスのひとつです。
2022年にすべての企業に対しパワハラ防止法が施行されて以降、パワハラに関する懲戒処分を行った企業には、「再発防止のために、具体的に何をしたのか」が、これまで以上に明確に求められるようになりました。
その流れの中で、感情の扱い方を学ぶことは、合理的な再発防止策のひとつとして位置づけられるようになっています。実際、アンガーマネジメント研修の依頼理由には、パワハラ防止対策としての視点が含まれているケースが少なくありません。
いきなり「加害者研修」は、うまくいかない
ただし、ここでとても大切なことがあります。
それは、最初から「加害者」だけに研修を受けさせないことです。
私の場合、まずは全社員を対象にしたアンガーマネジメント研修を実施することを提案しています。この段階の目的は、「問題のある人を正す」ことではなく、アンガーマネジメントを、社内の共通言語にすることです。
この段階の目的は、「問題のある人を正す」ことではありません。
アンガーマネジメントを、社内の共通言語にすることです。
研修では、
・ハラスメントとは何か
・指導とパワハラの線引き
・感情と行為は別物であること
・法令上、どこからがアウトなのか
こうした点を、社労士の立場から、具体例を交えて伝えます。
「自分は関係ない」と思っていた人ほど、
ここで初めて、自分の言動を振り返ることになります。
全体研修のあとに行う、個別のアンガーマネジメント
全体研修のあと、必要に応じて行うのが個別のアンガーマネジメントです。
対象となるのは、パワハラ加害者とされる方や、感情マネジメントに課題を感じている方です。
個別研修では、かなり踏み込んだ話をします。
・どんな場面でイラっとしやすいのか
・自分の怒りのパターン
・「〜べき」という思い込みの棚卸し
・怒りを感じた後、どう伝えるか(言動の選択)
ここで扱うのは、
「怒らない方法」ではありません。
怒りは湧いてもいい。
ただし、その後の言動は選べる。
この視点を、時間をかけて丁寧に伝えていきます。
「受けさせられている研修」では、変わらない
正直に言うと、本人が「変わりたい」と思っていない状態では、どんな研修も効果は限定的です。特に多いのが、いわゆる他責型の状態です。
・自分が怒ったのは相手が悪い。
・怒らせるほうに問題がある。
・自分は被害者だ。
こうした考え方のままでは、
「なぜ私がこんな研修を受けなければならないのか」という怒りが先に立ち、
学びの前に心のシャッターが下りてしまいます。
その結果、研修は“やらされた研修”として記憶に残ってしまうのです。
他人に振り回されない、という選択
アンガーマネジメントでまず大切にしているのは、
他人の言動や感情に、できるだけ振り回されないようになることです。
相手の態度や言葉を変えることはできなくても、
それをどう受け取り、どう反応するかは自分で選ぶことができます。
怒りを「相手のせい」にし続ける限り、感情の主導権は常に相手の手の中にあります。
他責を手放すとは、自分を責めることではありません。
自分の感情と行動のハンドルを、自分の手に取り戻すことだと思っています。
そもそも怒りは本来、自分の身を守るため、自分の心を守るために生まれる大切な感情です。
問題なのは、怒りが発動したことではありません。
問題なのは、その後の言動です。
怒が湧くことと、
怒鳴ること、威圧すること、相手を追い詰めることは、まったく別のもの。
感情をコントロールすることは、
相手のためではなく、
自分を守るために必要な力でもあります。
研修で必ず投げかける、二つの問い
個別研修では、必ず二つの問いを投げかけます。
怒ることで、あなたは何を得たいのか。本当は、どんな結果を望んでいるのか。
この整理ができていない怒りは、腹の虫をおさめたい、相手に負けたくない、イライラをぶつけたいといった目的にすり替わりがちです。
これらは、人や関係性を傷つけてしまう怒り方です。
怒りは、相手を打ち負かすための道具ではありません。
研修は「罰」ではなく、「再設計」の時間
アンガーマネジメント研修は、加害者を裁くためのものではありません。
自分の感情と向き合い、言動を選び直すための時間です。
そしてそれは、本人のためであると同時に、組織を守るための取り組みでもあります。
怒りをなくすのではなく、怒りに振り回されない。
その力を、個人任せにせず、組織として育てていくこと。
それが、これからのパワハラ防止対策に欠かせない視点だと、私は感じています。




