「墓じまい」を考える前に読んでほしい物語(18)「癒しの園」/加納一馬さん(77歳)

能島孝志

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テーマ:お墓物語

お墓にまつわるエピソード集「お墓物語」 

一見、同じように見えるお墓だが、実はそれぞれのお墓には、
それぞれの思いと数々のエピソードがあります。

全国の墓石を含む石材関連業者約1,300社が加盟する、
日本最大の業界団体である、(一社)日本石材産業協会では、
お墓にまつわる感動的なエピソードを集めた小冊子、
「お墓物語」を、2011年3月に発行いたしました。(非売品)


お墓にまつわるエピソード集「お墓物語」

「お墓物語」を発行するにあたり、作品を募集したところ、
全国各地から数多くの応募作品が寄せられました。


その中から33名の方の作品がこの小冊子に収められています。


涙あり、笑顔あり、驚きありの素晴らしい物語ばかりです。


マスコミ等で「墓じまい」ばかりが大きく取り上げられる昨今において、
「お墓ってこんなに素晴らしいものなんだよ」ということを、
今一度、一人でも多くの人に気づいていただければと思い、
ここに、33話、全ての物語を順にご紹介させていただきます。

これまでに、以下の17作品をご紹介いたしました。

(1)「祖母との出会い」/三浦るるさん
(2)「お墓参りの不思議」/伊東徳久さん
(3)「祖父のお墓で」/水野真由美さん
(4)「おはからい」/漣ほたるさん
(5)「星よりも近く」/倉木敬人さん
(6)「泣き虫」/藤田徹朗さん
(7)「田舎のお墓を訪れて」/長坂隆雄さん
(8) 「祖母の墓を抱きしめて」/梅山太郎さん
(9) 「祖母VS母・お墓バトル」/森下純一さん
(10) 「一片の桜」/咲ママさん
(11)「心の掛け橋 」/棚橋すみえさん
(12)「おじいちゃんがくれたもの」/匿名希望さん
(13)「お墓物語」/寺田聡さん
(14)「温かい土」/渡辺笑子さん
(15)「父の死と我が使命」/匿名希望さん
(16)「孫に引かれて歩む道」/今野芳彦さん
(17)「墓石は語る」/伊東静雄さん

今回は、静岡県在住の加納一馬さんの作品、
「癒しの園」をご紹介させていただきます。
心温まるエピソードを通じて、家族や大切な方との絆や、
命の尊さを考えていただくきっかけになればと考えております。


「癒しの園」/加納一馬さん(77歳・静岡県)

墓は先祖を祀る場所である。


同時に生きる者の魂の癒しの場でもある。


遺骨を埋葬することで、その魂は、
墓標と一体となって、
そこに彼岸の世界が生まれる。

死者のしるしとしての墓は、
残された身内の者ばかりではなく、
故人と社会的関わりを持った人々にも、
その存在意義は大きい。

春のある日、月一回の墓参りをするため、
霊園に向かった。

墓の近くに来ると、どこからともなく楽器の音が、
微か(かす)な西風にのって耳を掠(かす)めた。


「さてな、墓地に楽器の音とは」


林立する墓標の間を縫うように、周囲に視線を流した。




二列目の10メートルほど先の墓前で、
若い女性三人が奏でるバイオリンの響きであった。

近寄って、それとなく経緯を尋ねてみると、
「ここに入っている故人は、
共に大学でバイオリンクラブの親友でした。
今日は彼女の鎮魂のため、
東京からやって来ました」と応えてくれた。




墓前には、故人が生前好んだという、
白い大きな百合の花が、墓標も隠れんばかりに、
左右に手向けられていた。


中央には、コンパクトな遺影が飾られていた。


一人が、故人宛メッセージを取り出し読み始めた。


「ルミちゃん、お別れしてもう三か月が過ぎてしまいましたね。
もっと早くお会いしたかったのですが、
こんなに遅くなってごめんなさい。
でも悲しまないでください。
私たち三人は、ルミちゃんのご存命中と全く同じ気持ちで、
今日ここに見(まみ)えています。
ルミちゃんと、こんなに早く永遠の別離(わかれ)が来るなんて、
返す返すも残念で悔しい限りです。
でも、心はずっと一緒です。どうか安心してお休みください。
今日は久しぶりにお会いできたので、
短い曲をあと二つだけ演奏して行きます。聞いてください」

読み終わると三人は、哀惜(あいせき)の涙を」拭い取り、
「惜別の歌」と「讃美歌」を奏でた。
他の多くの墓参者も、彼女たちの演奏供養に感動し、
哀愁漂う霊園の風に誘われて涙した。

三人は、墓前に再会を約束して、
爽やかな笑顔を残して去って行った。

墓は、故人と生きる者の魂を癒す聖なる場所として、
時代を越えてその姿を残している。


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            ~つづく~



次回は、ももいちごさん(37歳・愛知県)の作品、
「家族の縁をつなぐお墓」をご紹介させていただきます。


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