日本一の銘石「庵治石」のすべて(10)庵治石ならではの価格の割り増し

能島孝志

能島孝志

テーマ:日本の銘石

(1)「庵治石」ってどんな石?
(2)鉱物学的に見る庵治石の特徴
(3)庵治石の種類
(4)庵治石の産地と歴史
(5)最高の庵治石は、「大丁場」から
(6)庵治石の各丁場
(7)庵治石の鉱物鮮度
(8)庵治石が希少価値となる所以
(9)庵治石の採石丁場の使用料

上記のコラムからのつづきです


10.庵治石ならではの価格の割り増し


「庵治石」と聞いて、先ず思い浮かぶのが、
“最も高級なお墓である”ということではないでしょうか。

現在では、庵治石の墓石は、最高級ブランドとして定着していますが、
意外と、墓石として有名になったのは比較的近年なのです。

庵治石の名を世に知らしめたのは、第二次世界大戦後、
戦没者の軍人墓を大量に建てた頃からです。

それ以前は、墓石としての材料より、燈籠や彫刻物が主で、
さらにさかのぼると、建築材や石垣としての需要が大部分を占めていました。

この「庵治石」が最高級墓石材として、一躍名を馳せた背景には、
庵治石は極めて硬い石質のため、細かい加工が細部まで確実にでき、
風化しにくく、永く美しさが保てるという理由からであります。

また、磨き上げた時の艶持ちの良さと、
庵治石だけに現れる独特の柄、『斑(ふ)』は、
他の花崗岩では見ることのできない美しさであります。

これらには、庵治石が優れた石質によることはもちろんのこと、
庵治・牟礼の石工達の卓越した技術があったからこそなのです。

こうして、庵治石は徐々に最高級墓石材としてブランド化され、
今日まで永きにわたり愛され続けてきたのであります。

そして、この庵治石が高価である理由の一つには、
「庵治石の割り増し」という独特の商習慣があります。


加工賃の割り増し


墓石業界においては、販売価格設定の基本方式がありますが、
加工の内容によっては、基本価格に別途加算が必要な場合が生じます。

例えば、銀杏面加工や亀腹加工などの手間を要する加工や、
蓮華加工や花立の花瓶加工などの難度を要する加工の場合などです。

このような場合に、別途加算する必要が出てくるのが「割り増し加工賃」で、
これは、庵治石に限らず、国内で加工する場合すべての石に当てはまるものです。

中国の石材加工工場では、製品精度は違えど、これらの複雑な加工を、
つい数年前まで、蓮華加工を除いては、基本価格の範囲でおこなっていたのです。


上下蓮華加工と花瓶型花立仕様の庵治石細目墓石
▲「割り増し」の対象となる蓮華加工、花瓶型花立等。

庵治石の割り増し価格


前述の加工賃の割り増しとは別に、庵治石には特有の割り増し価格があります。

では、どのような場合に割り増し価格の対象となるのかというと、
基本的には、3尺(約90㎝)以上の長い石や、5才(約0.14㎡)を超える量のある石、
また、霊標(墓誌)などの厚さの薄い板状のものなどが割り増しの対象となります。

つまりこれは、大きな部材や確保しにくいサイズのもの、
見える部分が多く、隠しようがなく、逃げ道のないものとなっています。


その大きな要因としては、キズの多い庵治石の地層条件が挙げられます。


庵治石の地層条件から考えると、長いものは簡単に採れないことに加え、
採れたとしても、キズなどの難点を取り除くのが極めて難しい。

また、大きな量のものは、それだけ採石時に手間も時間もかかり、
運搬作業も難しく、またこれも同様、石の難点を取り除くのが難しい。

霊標(墓誌)のように薄いものは難点を取り除くのが難しいうえ、
表裏両方の面がきれいな状態でないと、製品として使用できず、
加工途中でキズや玉、サビなどによりその石がダメになった場合に、
寸法を小さくして他の部材として使い回すことができないためであります。


これらの「割り増し」の付く条件や割増率の計算方法は、
業者によって多少の違いがありますが、「3割増し」「5割増し」や、
部材の形状によっては、「10割増し」といったものもあります。


世界最高級の墓石材「庵治石」の採石
▲世界最高級の墓石材「庵治石」の採石

割り増しとなる理由①キズの多さによる希少性


日本列島は、ユーラシアプレート、北米プレート、太平洋プレート、
フィリピン海プレートなど、複数のプレートが交わるところにあります。

それらのプレートはお互いが引っ張り合っているため、
その接点上にあり、縦に長い日本の地層構造においては、
南北にひずみが生じ、多くの亀裂が入っています。

また、日本は国土全体に火山が多いため、
火山活動が引き起こす地形の隆起による亀裂も多い。

これらの亀裂が、岩盤に現れるキズであり、
庵治石に多く見られるキズもこのようにしてできたのです。

このように、日本の地形上の理由により、
日本で採掘される石は、中国やインドなどの、
大陸で採掘される石に比べると総じてキズが多いといえます。

特に、庵治石の産地は、瀬戸内火山帯の中に位置し、
庵治石は、その火山活動によってできた亀裂が非常に多く、
すべてのキズを避けて原石を採石することは困難を極めます。

たとえ、職人の勘と技術を以て、キズのない部分を判別できたとしても、
石の場合、必要な箇所だけをくりぬいて採掘するわけにはいきません。

つまり、キズが入っている部分とも隣接している場合がほとんどのため、
採掘しても無駄だとわかっている場所をも採掘しなければならないのです。

庵治石は、年間約3720t(日本石材産業協会・平成16年調べ)の採石量があるが、
墓石、燈籠、彫刻品の材料として使用されるのは、全体の3~5%と言われています。

これは、庵治石が墓石等に使用する数多くの石材の中で、
いかに貴重な存在であるかが、うかがえる数字であります。

大量に採掘される庵治石の原石の中で、厳選されたものだけが墓石と使用され、
さらにその中からも加工の段階で、細かく等級別に選別されるのです。

そして、大半の庵治石が、沓石や貼り石、石垣用材、漁礁用材、埋め立て用材などの、
建築用材や土木用材としてしか使用できないというのが現状です。


庵治石の「大割り」作業風景
▲庵治石の「大割り」作業風景


割り増しとなる理由②加工時におけるリスクの高さ


庵治石は、原石を採石するときだけではなく、
採石した原石を加工するときにもリスクを伴います。

採石時においては、可能な限り、サビのある部分やキズを、
取り除いていきますが、石の中まで見ることはできません。

一見したところ、何の問題もなく見える原石でも、いざ切ってみると、
中からキズやサビ、黒玉、白玉、ナデ、ムシなどが出てくる場合があります。

そのような場合は、別の場所を切って、やり直したり、
新たな原石の確保から始めないと仕方のない場合もあります。


割り増しとなる理由③色目・石目合わせの難しさ


ひとつのお墓をつくるには、ほとんどの場合、
花立や水鉢など、複数の部材をつくることが必要となります。


その場合に問題となるのが、それぞれの部材の石目や色目合わせです。


石は、天然の素材であるため、すべてが同じものは二つとしてありません。


ただ庵治石は、他の石種と比べ、この差が顕著なため、
より一層、石目や色目を合わせ、バランスよくまとめることが困難な石です。


例えば、同じ塊から切り出したものでも目合いが異なることもあります。


ほとんどの場合は、原石や石を切る段階で、ある程度の予想はつきますが、
まれに、研磨をしてみると、印象がまったく違って見える石もあります。

そういった場合にも、別の原石から部材をつくり直す作業を、
一からやり直さなければならないため、余分な時間とコストが生じます。


庵治石の「小割り」作業風景
▲庵治石の「小割り」作業風景


割り増しとなる理由④庵治石丁場の維持管理費


これまでの①~③で、庵治石には多くのリスクがあるため、
極めて希少価値があり、また、厳選されたものだけが、
墓石用材として使用できるということをご理解いただけたかと思います。


また、この貴重な庵治石を採掘するためには、莫大な費用が掛かります。


「年貢」と呼ばれる、丁場の所有者への使用料はもちろんのこと、
さまざまな、丁場の維持・管理費などが必要となってきます。

これら、丁場に係る諸経費は採掘されるすべて石の価格に影響をおよぼすため、
庵治石の墓石や石製品が極めて高額になっている所以でもあります。

またこれらは、墓石用材に使用する庵治石すべてに課せられるものですが、
大きい部材や長い部材、霊標(墓誌)などの薄い部材など、
よりリスクの高いものには、「庵治石の割り増し」という特別加算があるのです。



以上のように、数多くの問題点を克服したものだけが、
最高級ブランドである「庵治石」として市場に出荷されるのです。

これらを克服するには、長い年月と時間、さまざまな知恵と工夫、
卓越した技術、細かい工程、多くの石工たちの力と心意気が必要です。


これが「庵治石の割増」の所以であります。
                 



これまでの説明で、庵治石を含む日本の石は、日本が火山国であるゆえ、
大陸で採掘される外国産の石に比べてキズ等のリスクが多いため、
石目や色目を合わせて、均整のとれた墓石に仕上げるのが極めて難しく、
日本の石本来の美しさを生かした綺麗な墓石に仕上げるには、
細かい工程と、石を知り尽くした石工の匠の技を必要とすることは、
一般の消費者の方々にもご理解いただけたのではないかと思います。

しかし、現在の日本国内における「国産墓石」と呼ばれるものの製作の現状は、
およそ80%を超えるものが中国の石材加工工場にてつくられたものなのです。

もちろん、製品の加工や研磨精度、特に石目や色目合わせなどは、
日本国内の一流職人がつくったものと比較すると大きな差があります。

ただただ、価格が日本でつくったものに比べて、
若干安いというだけで、私どもではお勧めしておりません。


「えっ!国産墓石って言ったら、当然、日本で作られているんじゃないの?」


という、質問が来そうなのですが、実際のところ、
石材自体はもちろん日本の石なのですが、
日本の石を石材商社を通じて、中国の石材加工工場に送り、
中国の石材材加工工場にて墓石等の製品に完全に仕上げて、
日本に再度輸入されたものを、「国産墓石」として販売されているのです。

これは、法律的には違法ではないのですが、
消費者側からすると、「国産墓石」と表示してあれば、
一般的には、日本でつくられているものと思うでしょう。

しかし、これらの商品を、はっきりと「中国でつくったもの!」と、
はっきり表示している石材店はそんなに多くはないでしょう。


まぁ、法的には問題なくても、モラル的には如何なものかと思いますが…




※この件について、さらに詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。

■「国産墓石」なら本当に安心?
http://www.daiichisekizai.com/blog/2012/01/entry_1786/

■国産墓石と中国産墓石のどっちが良いのか?
http://mbp-japan.com/hyogo/daiichisekizai/column/32958/


※参考文献:『天下の銘石 庵治石』(谷本竹正氏著)



         〜つづく〜 



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