「諦める」メリット

認知の歪み、と言う言葉を聞いたことがあると思います。例えば白黒思考とか、完璧主義とか、過度な一般化とか。
こうした思考の傾向はものの見方が偏って悩みの元になりやすいため、「直していきましょう」と捉えるのが一般的です。
ですが、中々思うように変えられない。
そもそも、変わるものなのか。変える必要があるのかな、って思ったんですよね。
この記事では、認知の歪みを「修正対象」として見るのではなく、自分の力として使いこなすことは出来ないか、と言う視点で考察します。
1.「歪み」と思うから抵抗が生まれる
認知の歪みとして有名なのは、以下のようなものです。
- 全か無か思考 — 0か100かで判断し、中間が見えなくなる
- 過度の一般化 — 一度の失敗を「いつも」「絶対」と広げてしまう
- 心のフィルター — ネガティブな情報だけを拾い、ポジティブを無視する
- マイナス化思考 — 良い出来事を「大したことない」と過小評価する
- 結論の飛躍 — 根拠なく悪い結論を出す(例:読心術・先読みの誤り)
- 感情的決めつけ — 「不安だから危険」「悲しいから私はダメ」など感情=事実とみなす
- すべき思考 — 「〜すべき」「〜であるべき」と自分や他者を縛る
- レッテル貼り — 一つの行動から「私は無能」「あの人は最悪」と人格全体を決めつける
- 個人化(自責化) — 自分の責任でないことまで「私のせい」と抱え込む
- 完璧主義 — 完璧でない=失敗、と極端に考える
誰でも多かれ少なかれ持ってます。場合によっては役に立つこともあります。
例えば「心のフィルター」は、ポジティブな現象を拡大することだって出来ます。
しかし似たような悩み方が立て続くと「認知の歪みがあるせいだ」と結論付けて、何とか修正しなければ、と考えるようになります。
もうその時点で自己否定が始まっているし、悩みごとは全部認知の歪みのせいと感じて余計プレッシャーがかかってしまいます。
そう簡単に変わる者ではないのに、中々認知の歪みを変えられない自分に「どうしてできないんだ」といら立ちを感じて、また別のストレスや悩みを抱えることにもなりかねません。
『認知の歪みは直さなければいけないんだ』と思い込み過ぎることで、本来の自分らしさを失ってしまうのです。
2.認知の歪みは「生存戦略」だった
そもそも、この「認知の歪み」ってどこから生まれたのでしょう。
持って生まれたものではないと思います。
まず「認知」とは何か。
目の前の出来事を「どう受け取り・どう意味づけるか」という心の働きのことです。
同じ出来事に対して、自分と他人で受け取り方や感じ方が違う、と言うのはよく体験すると思います。これが起きるのも「認知が違うから」です。
では、今あなたが持っている認知の歪みはどこから生まれたか。
それは、今までの過去の環境を生き抜くために必要だったから生まれた、いわば能力・スキルなのです。
例えば過度な個人化の傾向を持っている場合。
本来関係ないことまで「自分の責任だ」と解釈することで、心の均衡を保ってきた、または身の安全を確保してきた過去がある可能性があります。
一例として、幼少期体験として、親のメンタルが不安定な環境で育つと、子どもは家庭環境の安定化を図るため、ひいては自分の居場所を確保するために「お父さん(お母さん)が機嫌が悪いのは自分のせいだ、自分がいい子でいればお父さん(お母さん)は機嫌よくいてくれるはずだ」と考えることで、かろうじて心のバランスを保てていた、と言うのはよくある話です。
それが大人になっても続いているだけのことです。
今、この「過度の一般化」がネガティブな効果ばかり生み出すとしたら、むしろ結構なことです。自分が一人で責任を背負わなくていい環境にいられている、と言うことですから。
つまり今現在は「無い方がいいかも」な認知の歪みも、実はそれがあったからこそ今がある、あなたを守って来た盾だったとしたら。
「さあ直しましょう」と言われても心からそう思えず、取り組みに本腰が入らないとしてもおかしくはないのです。
3.変えられない認知の歪みを「活かす」という選択肢-活かすこ
一般的には「変えたほうがいい」と言われる認知の歪み。ですがそう簡単に変えることも出来ない。変えられないことでまた別の自己否定感や悩みが生まれてしまう。
さらにそもそもが辛い過去を乗り越えるために身に付いた生存戦略だったとしたら。
無理に変えようとせず、「活かす」という考え方があってもいいのではないでしょうか。
今の認知の歪みを現状に合わせて活かすとしたら、どんな変化が起こるでしょうか。
①自己否定が減る
認知の歪みは、今まで生きて来たあなたの心の歴史です。
好んで身につけたものでないかもしれませんが、あなたの一部でもあります。
「直しましょう」と言われることで「自分は駄目なんだ、直さないといけない部分を持った欠陥品なんだ」と自己否定感が高まる恐れがあります。
むしろ「うまい事活用しよう」と捉えることで、自己否定感が軽減されます。
②主体性が戻る
あれは駄目、これは駄目、こっちがいい、という知識が増えるほど、それに振り回されてしまいがちです。
有用な知識や情報かもしれませんが、「自分」<「情報」になってしまうと、いざという時に決断が出来なかったり、下した選択に納得がいかずストレスを抱えることにもつながります。
「この認知の歪みは私らしさの一部なんだ」と捉えることで、主体性を取り戻すことができます。
③行動が変化する
今の悩み、これまでのミスや失敗が全て認知の歪みのせいだ、と考えてしまうと、自信を持って判断・選択・行動が出来なくなります。決断する自分自身が歪んでいるように感じて、「そんな自分が決断していいのだろうか」と自信を失い、動けなくなります。
逆に認知の歪みは自分らしさ、自分に合った使い方をすればいい、と捉え直すことで自信が回復します。
結果として、自然と判断・選択、そして行動が、今までとは違うものに変化していきます。
4.認知の歪みをどうやって活用する?4つのステップ
では、どうやって今の認知の歪みを、今の自分の生活の強みとして活用していくか。
ここでは、そのための4つのステップを紹介します。
①その認知は、どんな場面で何を守ってきた?
まずは、その認知が「どんな場面で」「何を守るために」働いてきたのかを振り返ります。
これは
「その考え方は、あなたをどんな危険から守ってきたのか?」
を掘り起こす作業です。
たとえば、
- 過剰に先回りして不安になるのは、過去に「予測しないと傷ついた経験」があったから
- 白黒思考は、迷う余裕がなかった環境で生き抜くための判断力だった
- 自己否定は、叱られないように自分を先に下げて身を守る方法だった
こうして見ていくと、認知の歪みは、実はあなたの歴史が生んだ「生存戦略」だったことが分かります。
②リフレーミングして強みとして再定義する
次に、その認知を「別の角度」から見てみます。
弱点だと思っていたものが、視点を変えることで別の顔を見せ始めます。
- 過剰責任→責任感・洞察力
- 先読み不安→リスク管理能力
- 白黒思考→判断の速さ
- 自己否定→謙虚さ・調整力
「弱点」だと思っていたものが、実はあなたの能力の一部だったと気づく瞬間です。
この再定義が、エンパワーメント(自分らしく生きる力を取り戻した状態)の大きな一歩になります。
③これからどんな場面で活用できそう?
強みとして再定義できたら、次は「未来」に目を向けます。
「この力、これからどんな場面で役に立ちそう?」
と考えてみるのです。
たとえば、
- 先読み不安→仕事のリスク管理や段取りに活かせる
- 白黒思考→緊急時の判断に強い
- 過剰責任→チームの調整役として力を発揮できる
過去の環境で身につけた戦略を、未来の選択肢として「使い直す」イメージです。
④しんどくなる場面では、選択肢を1つだけ増やす
とはいえ、どんな強みも「強く出すぎる」としんどくなります。
そんな時は、認知を「修正」するのではなく、
「今の考え方に、別の選択肢を1つだけ足してみる」
という方法が有効です。
たとえば、
「絶対に失敗してはいけない」
→「失敗しないように準備しつつ、もし失敗してもリカバリーできる」
「相手を優先しなきゃ」
→「相手を大切にしつつ、自分の体力も守る」
「0か100」ではなく、間に1つだけ選択肢を置く。
これだけで、認知の幅が広がり、心の負担が大きく減ります。
5.放置ではなく、「自分をエンパワメントする」捉え方へ
認知傾向そのものに「良い・悪い」があるわけではありません。
どんな場面で役に立つか、または自分の足を引っ張ってしまうか。
つまり役に立つかたたないか、それだけです。
しかしそこに「白黒思考」「完璧主義」のような名前を付けてしまうことで「直さなければいけない自分の一部」という見方をしてしまいます。
更に「直さなきゃいけないのになかなか変われない」という状態ばかり重視して自己否定感を高めることになりがちです。
認知傾向、認知の歪みと呼ばれているものは、決して「欠点」「損傷個所」ではありません。
あなたが今まで苦労して生き延びてきた証しなのです。
経験から得たスキルなら、使い方を工夫すればいい。ずっと使って来たスキルなのですから、新しいスキルを習得して使うよりずっと慣れているはずです。
馴染のあるスキル=認知でこれから起きる問題を解決して行けるとしたら、これほど自信を持たせてくれる体験はありません。
まさにエンパワーメント、自分で自分の壁を突破し、自分らしく生きる力を取り戻す第一歩になるでしょう。
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