JIJICO掲載コラム『新入社員の離職防止に役立つファシリテーションとは何か?』の補足
このコラムは、ファシリテーションという言葉をご存じない方々を対象に書いています。
私は個人事業主として開業して以来、多くの方々とお話させていただく機会を得ました。その中で、私が痛感したことは、ファシリテーションという言葉をご存知ない方々が多い、ということです。
そこで、ファシリテーションをご存じない方々に向けて、ファシリテーションをわかりやすく説明するコラムを書こうと思った次第です。
このコラムは次の3つの章で構成します。7分程度で読める内容です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。
1. 昭和生まれの多くは知らないが、平成生まれの多くは知っている
ファシリテーションって、カタカナ言葉だから外来語なの?と思う方がいらっしゃると思います。その通りです。
ファシリテーション(Facilitation)。
「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
「ファシリテーションという言葉、あるいはファシリテーターという人がいるということを聞いたことがない」という方は多いと思います。もしあなたが、昭和生まれならば。
「ファシリテーションを学ぶ 大学」でインターネット検索すると、沢山の検索結果が表示されます。「ファシリテーションを学ぶ ◯◯大学」で検索すると、◯◯大学での取り組みがわかります。大学ではファシリテーションを教えているのです。全大学全学部ではないので、大学生全員が学んでいるわけではないのですが、学生は他学部の人と交流している人は多いので、多くの学生は知っているか、少なくとも聞いたことのある人は多いです。
小中高校生はどうでしょう。
小中高のお子さんがいる方は、2020年から新学習指導要領になったことをご存知かもしれませんね。
『2020年度、子供の学びが進化します!新しい学習指導要領、スタート!』 という2019年3月13日に出された政府広報があります。
『予測困難なこれからの時代。子供たちには自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、自ら判断して行動し、よりよい社会や人生を切り拓いていく力が求められます。学校での学びを通じ、子供たちがそのような「生きる力」を育むために、学習指導要領が約10年ぶりに改訂され、2020年度より小学校から順に実施されます。』とあります。
変化の激しい予測困難な社会に必要な生きる力を育むこと、人生を自ら切り拓いていく力、そして何ができるようになるのかが大切だと言っています。
この新学習指導要領、小学校から英語が始まる、プログラミングが始まるというところがクローズアップされがちですが、大きな目玉はアクティブ・ラーニングです。
新学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」が重視され、児童生徒同士の対話型の活動を増やし、学ぶ過程を丁寧に解説する傾向が強まったそうです。
教師が一方的に授業をし、生徒は受け身で聞くだけ・・・というパッシブ(受動的)な学びではなく、生徒が自ら学ぼうとするアクティブ(能動的)な学び方に変わっていこうとしているのです。
児童生徒の学びが変わるということは、教師の役割も変わります。
児童生徒がアクティブ・ラーニングするためには、教師がファシリテーターになります。
どのようにアクティブ・ラーニングの場を設計し、アクティブ・ラーニングのプロセスを設計し、等々、どう教師が生徒たちの「主体的・対話的な学び」を支援するのか、教師のスキルが問われることになると思います。
ところで、アクティブ・ラーニング(Active Learning)は、アメリカで1980年代に提起され1990年代に広まっていった教育のやり方です。海外では既に歴史のある教育なのです。昔は先生から児童生徒へ知識が教えられ、問題の解き方が教えられてきました。昔の教育方法では変化の激しい予測困難な社会を生きていけない、という危機感から生み出されたものなのではないか、と私は考えています。
この章で書いたことをまとめてみましょう。
- 変化の激しい予測困難な社会に必要な生きる力。自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、自ら判断して行動し、よりよい社会や人生を切り拓いていく力が求められている。
- 主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)にはファシリテーションが活用されている。
- 知識や問題の解き方を詰め込んでも、変化の激しい予測困難な社会は生きていけない。
新学習指導要領が始まる前から、取り組んでいる人たちはいました。2018年に埼玉県のさいたま市では、高校生ファシリテーター講座を開いています。「一生もののスキルをこの手に!! 身につけたコミュ力が未来を変える!! 」とあります。 (出所:参加者募集・高校生ファシリテーター講座)
小中学校は義務教育ですし、「ファシリテーション?何それ?」は恥ずかしくて言えない時代が来ました。小中学生から「昔の人は知らないんだね!」って言われないようにしましょう。
2. SNS全盛の時代だからこそ必要とされている
世の中は課題ばかりですよね。どれも一人で解決できるものではありません。チームで協働して議論しながら解決できるものです。
私は、SNSを否定している者ではありません。ただ、課題を解決する・合意形成をする、という観点ではSNSは使えるツールではないと思っています。文字や画像・動画のやり取りは効率的ではありません。オフィスで近くに座っているのに、メールやメッセージを送って送りっぱなし、という行為も効率的ではありません。
対面にせよオンラインにせよ、人が会って会話すること。声の様子、顔の表情、相手の座り方や態度。文字とは比べ物にならない情報量があります。人は、古来、このような情報を駆使してコミュニケーションを取ってきたのだと思います。
人と人とが議論し合意形成するためには、このような情報を総動員することが大切です。
3. ビジネスだけでなく、教育や街づくりにも生かされている
私は、会社員経験しかありませんので、ビジネスの領域でのファシリテーターをやっています。
ビジネスの領域以外では、街づくりや、教育、医療、行政などの領域でも活用されているそうです。
ところで、コロナ禍の中あなたはテレワークを経験しましたか?
オンライン会議では発言しない人の存在は「無」になってしまいます。これを、余剰人員が炙り出されたという人もいます。それで良いのでしょうか?もっと働きやすい場(新しい概念)が必要かもしれません。あなたのオンライン会議にはファシリテーターが入っていますか?ファシリテーターは、議論する場を設計し、意見やアイデアを引き出し、かみ合わせ、まとめます。
NewsPicksの2020年6月15日付の記事 『【完全図解】コロナ後の、雇用、仕事、給料はこう変わる』 では、「オンライン会議・研修の切り盛りが重要スキルに」と始め、「ファシリテーターの存在が重要になる」とし、「この役割は、組織上の肩書きや役職を問わず、誰でも務めることが出来る。だからこそ、リモートワーク時代の新たな重要スキルとなる。」とまとめています。
「誰でも務めることができる」は「組織上の肩書きや役職を問わず」に掛かっていると思います。誰がファシリテーターをやっても良いのです。
他方、ファシリテーションは「誰でもできる」ほど簡単なものではありません。誰でもできるのなら、そもそも敢えて言及する必要はないでしょう。
ファシリテーションは、学び、そしてリアルな場で研鑽して、できるようになるものです。
なお、ファシリテーターが入る会議やワークショップの進め方については、下記のコラムを書いています。
- 会社の会議の進め方:場を作る:今理解すべき3つの視点
- 会社の会議の進め方:意見を引き出す:今理解すべき3つの視点
- 会社の会議の進め方:意見をかみ合わせる:今理解すべき3つの視点
- 会社の会議の進め方:意見をまとめる:今理解すべき3つの視点
ところで、「リモートワーク時代の新たな重要なスキルとなる」という指摘には全く同感です。
私の経験から言うと、ファシリテーターなしでオンライン会議を成功させることはできません。
ここでの「オンライン会議」とは、オンラインで議論し意思決定し、さらに誰が何をいつまでに何の役割を持って実施するのかを合意形成し、そして今後どのように実施状況を追跡するのかを合意することです。単純な情報伝達の場ではありません。
もし、ファシリテーターなしでオンライン会議が成功したとしたら、それは偶然(まぐれ)だと思います。多分再現性がないでしょう。つまり、次回も成功するかどうかは分からない、ということです。偶然(まぐれ)で成功体験を持っている人が、別の難しい課題を議論するオンライン会議を成功させることはむずかしいでしょう。
「人と人が議論し合意形成をする、この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにすること」が一層必要とされています。さいたま市の高校生の、「一生もののスキルをこの手に!!」は的を射ていると、私は思います。AI(人工知能)に置き換えられにくいスキルですし。
コミュ力のある人だけがファシリテーターになれるんじゃないの?と思っている方。ちょっと違います。ファシリテーションには「やり方」があります。使う「道具」があります。私は多くの人がファシリテーターになれると思っています。その人なりのやり方で。学んで、経験し、経験を振り返りまた学ぶ。これを地道にできる人は「一生もののスキルをあなたの手に!!」することができる、と私は考えます。
このコラムを次の ChatGPT への問いと返答で閉じたいと思います。
私は次の質問を投げました。
あなたはビジネスパーソンにとってファシリテーション能力を高めることは価値があると思いますか?
ChatGPT は次のように返してきました。
はい、私はビジネスパーソンにとってファシリテーション能力を高めることが非常に価値があると考えます。ファシリテーションは、グループの意思決定や問題解決プロセスを支援するために行われるコミュニケーションの技術です。ビジネスの現場では、多くの場合、チームやグループが協力して仕事を進める必要があります。しかし、それぞれが異なる考え方やバックグラウンドを持っているため、コミュニケーションがスムーズにいかないことがあります。そこで、ファシリテーション能力を持った人がグループのコミュニケーションを支援することで、より円滑な意思決定や問題解決ができるようになります。
また、ファシリテーション能力を高めることで、以下のようなメリットがあります。
- チームの調和を促進し、コンフリクトを解決することができる
- 参加者の意見を引き出し、多様な意見を収集することができる
- 参加者がプロセスに参加しやすい環境を作り出すことができる
- 効率的かつ効果的なミーティングやブレインストーミングセッションを行うことができる
以上のようなメリットから、ビジネスパーソンにとってファシリテーション能力を高めることは、非常に価値があるといえます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。