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「身寄りがない」と話していた入居者――押し入れの奥から見つかった三つの位牌

花輪隆俊

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テーマ:特殊清掃

身寄りが無い

「身寄りがない方でした」
仕事をしていると、この言葉を耳にすることがよくあります。
しかし、「身寄りがない」ということと、本当に親族が一人もいない「天涯孤独」とは、必ずしも同じではありません。
今回は、私が実際の現場で考えさせられた出来事についてお話しします。
「家財保険を使って、部屋の中を片付けてほしい」
先日、ある不動産管理会社から連絡をいただきました。
管理している賃貸住宅で、入居者が自ら命を絶ってしまったというご相談でした。
管理会社の担当者からは、次のように説明されました。
「入居者には身寄りがなく、天涯孤独の方でした。生前に加入していた家財保険を利用して、室内に残された家財道具をすべて処分してほしい」
私たちは依頼を受け、室内の片付けを始めました。
家具や生活用品を一つずつ確認しながら整理していたときのことです。
押し入れの奥に、一つの段ボール箱が置かれていました。
箱を開けると、中からご両親の位牌と、亡くなった入居者のきょうだいと思われる方の位牌が出てきました。
ご両親も、きょうだいも、すでに亡くなっていたのでしょう。
位牌は段ボール箱の中に、ひっそりと納められていました。
その光景を見たとき、私は考えました。
この方は、本当に天涯孤独だったのでしょうか。
親やきょうだいが亡くなっても、親族がいないとは限らない
ご両親やきょうだいが全員亡くなっていたとしても、親族が誰もいないとは限りません。
亡くなったお父さまのきょうだいはどうでしょうか。
亡くなったお母さまのきょうだいはどうでしょうか。
その子どもである、いとこがいる可能性もあります。
もちろん、親族が存在しているからといって、必ず連絡が取れるとは限りません。
長い間、まったく交流がないこともあります。過去の出来事から関係が途絶えていたり、お互いに居場所を知らなかったりすることもあるでしょう。
戸籍上は親族がいても、実際には頼れる関係ではない。
そのような方も少なくありません。
「身寄りがない」という言葉の中には、親族が一人もいないという意味だけでなく、「連絡できる人がいない」「今さら頼れる人がいない」という気持ちも含まれているのだと思います。
「いない」のではなく「今さら頼みにくい」
私は職業柄、死後事務委任契約について多くのご相談をいただきます。
その中で、「身寄りがない」「身寄りが薄い」と話す方から、さまざまな事情を聞いてきました。
よく耳にするのが、次のような言葉です。
「親戚はいるけれど、何十年も連絡を取っていない」
「自分から家族と距離を置いてしまった」
「昔、家族や親戚に迷惑をかけたので、今さら連絡できない」
「困ったときだけ助けてほしいとは言いづらい」
「頼って断られるのが怖い」
親族がいないのではなく、親族はいても頼れない。
頼れないというより、今さら頼むことが怖い。
その結果、「自分には身寄りがない」と考えるようになった方もいらっしゃいます。
ただし、家族や親戚と疎遠になった理由は人それぞれです。
虐待、暴力、金銭問題などから自分の身を守るため、関係を断たなければならなかった方もいます。親族との関係を戻すことが、必ずしも正しいとは限りません。
大切なのは、その人の事情を責めることではなく、元気なうちに自分の将来について考えておくことです。
困ってから突然連絡しても、関係はすぐには戻りません
もし、このコラムを読んでいる方の中に、特別な理由がないまま家族や親戚と疎遠になっている方がいれば、困っていない今のうちに、一度連絡してみてはいかがでしょうか。
ただし、何年、何十年も音信不通だった相手の家を突然訪ねたり、いきなり電話をかけたりする方法は、慎重に考えた方がよいでしょう。
突然連絡を受けた相手は、
「何かあったのだろうか」
「お金の相談ではないだろうか」
「何か頼み事をされるのではないか」
と警戒してしまうことがあります。
せっかく勇気を出して連絡しても、方法やタイミングによっては、かえって気まずい関係になってしまう場合があります。
最初は、ハガキや手紙で十分です。
「久しぶりです。元気にしていますか」
「私は今、青森でこのように暮らしています」
「昔のことを思い出し、近況だけでも伝えたいと思って手紙を書きました」
その程度の内容でよいのです。
返事を求めたり、会うことを急いだりする必要もありません。
まずは、自分が元気に暮らしていることを静かに伝える。それが、途切れていた関係をつなぎ直す最初の一歩になるかもしれません。
久しぶりの連絡で、お願い事をしない
長く疎遠だった相手に連絡するとき、特に気をつけてほしいことがあります。
最初の連絡で、お願い事をしないことです。
「保証人になってほしい」
「入院したときは助けてほしい」
「亡くなった後の片付けをしてほしい」
「お金を貸してほしい」
久しぶりの連絡と同時にこのようなお願いをすると、相手は「困ったから連絡してきたのか」と感じてしまいます。
関係を戻すためには、時間が必要です。
最初は近況を伝える。
次に、相手の近況を聞く。
少しずつ手紙や電話を重ねる。
人間関係は、途切れるときは簡単でも、つなぎ直すには時間がかかります。
だからこそ、本当に困る前から動くことが大切なのです。
親族がいても、死後の手続きを任せられるとは限らない
関係を修復できたとしても、亡くなった後のすべてを親族へ任せられるとは限りません。
賃貸住宅に住む方が亡くなると、室内に残された家財の整理、賃貸住宅の明け渡し、特殊清掃や消臭、原状回復など、さまざまな手続きが必要になります。
親族が高齢だったり、遠方に住んでいたり、病気を抱えていたりすれば、対応したくてもできないことがあります。
そのため、家族や親戚とのつながりを考えることと、亡くなった後の実務に備えることは、分けて準備する必要があります。
頼れる親族がいない方や、親族へ負担をかけたくない方には、元気なうちに死後事務委任契約などの仕組みを検討する方法もあります。
家財保険についても、加入しているだけで安心するのではなく、亡くなった場合の残置物処分費用、特殊清掃費用、消臭費用などが補償されるかを確認しておくことが重要です。
保険の補償内容や支払条件は商品によって異なるため、保険会社や不動産会社へ事前に確認してください。
「自分には誰もいない」と決めつける前に
押し入れの奥から見つかった位牌を見ながら、私は、その入居者がどのような人生を歩んできたのかを考えました。
親族と連絡を取ろうと思ったことはなかったのでしょうか。
連絡したくても、できない事情があったのでしょうか。
誰かに助けてほしいと思いながらも、迷惑をかけたくないと一人で抱えていたのでしょうか。
本当の事情を知ることはできません。
ただ、「身寄りがない」という一言だけでは、その人が抱えてきた孤独や家族との関係までは分からないのです。
もし、今は困っていなくても、家族や親戚との関係が途切れていることが気になっているのであれば、短いハガキを一枚書くことから始めてみてください。
関係を戻すことが難しい事情がある方は、無理をする必要はありません。その代わり、自分が亡くなった後に誰が何をするのかを、元気なうちに決めておくことが大切です。
「まだ元気だから、いつか考えよう」ではなく、元気な今だからこそ準備できることがあります。
人とのつながりも、亡くなった後の備えも、必要になってから突然つくることはできません。
まずは自分の状況を整理すること。
そして、できることを一つずつ始めること。
それが、自分自身の安心と、周囲の人への思いやりにつながるのではないでしょうか。
※本コラムでは、個人が特定されないよう、事例の一部を一般化して紹介しています。

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花輪隆俊
専門家

花輪隆俊(特殊清掃業)

一般社団法人全日本花輪式完全消臭連盟

孤独死現場の特殊清掃・残置物撤去、特許取得の花輪式完全消臭で対応。死後事務委任を備えた「全花連安心サービス」でオーナーの負担を抑え、高齢者や身寄りのない方の安心入居を支えます。

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