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孤独死した入居者の荷物は勝手に処分できる? 大家さんが知っておきたい残置物と相続の基本

花輪隆俊

花輪隆俊

テーマ:特殊清掃

第三弾


「入居者が亡くなったので、部屋に残された荷物を処分してもよいですか?」
「家族と連絡が取れない場合は、大家が片づけるしかないのでしょうか?」
「相続放棄された荷物は、不要品として捨ててもよいですか?」
孤独死が発生した賃貸住宅で、大家さんや管理会社が特に困るのが、室内に残された家財や生活用品です。
家賃の支払いが止まり、室内には臭いが残り、次の入居者も募集できない。
一日でも早く片づけたいと思うのは当然です。
しかし、亡くなった入居者の荷物を、大家さんや管理会社の判断だけで処分できるとは限りません。
良かれと思って片づけたことが、後から相続人とのトラブルにつながる可能性もあります。
今回は、孤独死した入居者の荷物を勝手に処分できない理由と、残置物を円滑に整理するために必要な準備を説明します。
残置物とは何ですか?
残置物とは、入居者が亡くなった後や退去した後に、賃貸住宅の室内へ残された物のことです。
孤独死が発生した部屋には、次のような物が残されていることがあります。
家具
家電製品
衣類
布団
食器
食品
書類
写真
携帯電話
パソコン
預金通帳
印鑑
現金
貴金属
仏壇
手紙や思い出の品
大家さんから見ると、古い家具や衣類は不要品に見えるかもしれません。
しかし、相続人にとっては財産であったり、大切な思い出の品であったりする可能性があります。
どの品物に価値があるのか。
どの品物を残したいのか。
どの品物なら廃棄してよいのか。
これを大家さんや管理会社だけで判断することは困難です。
入居者が亡くなっても、賃貸借契約は自動的に終了するとは限りません
賃貸住宅の入居者が亡くなったら、その時点で賃貸借契約も終了すると思われることがあります。
しかし、入居者が亡くなったという理由だけで、賃貸借契約が当然に終了するとは限りません。
国土交通省の説明では、入居者が亡くなった場合、賃借権と室内に残された家財の所有権は、原則として相続人へ承継されるとされています。
つまり、大家さんや管理会社は、入居者が亡くなった直後から、自由に部屋を明け渡しの状態へ戻せるわけではありません。
まず、相続人や契約上の受任者などを確認し、賃貸借契約をどのように終了させるのかを整理する必要があります。
賃貸借契約が終了していない状態で室内を片づけ、新しい入居者へ貸してしまえば、さらに大きな問題へ発展する可能性があります。
緊急連絡先は残置物を処分できる人とは限りません
賃貸借契約書には、家族や知人の名前が緊急連絡先として書かれていることがあります。
そのため、大家さんや管理会社が緊急連絡先へ電話し、
「部屋の荷物をすべて処分してください」
「処分できない場合はこちらで捨てます」
と伝えてしまうことがあります。
しかし、緊急連絡先は、あくまで緊急時に連絡を受ける人として登録されている場合があります。
緊急連絡先に指定されているだけで、賃貸借契約を終了させたり、残置物を処分したりする権限があるとは限りません。
亡くなった人の友人や勤務先の人が緊急連絡先になっている場合、その人は相続人ではない可能性があります。
ご家族であっても、法的な相続人であるとは限りません。
緊急連絡先と連絡が取れたからといって、すぐに室内の物を処分せず、その人がどのような立場にあるのかを確認することが必要です。
連帯保証人でも自由に処分できるとは限りません
連帯保証人がいれば、残置物の処理もすべて任せられると思われることがあります。
しかし、連帯保証契約と残置物を処分する権限は、同じものではありません。
連帯保証人は、契約内容に応じて家賃や原状回復費用などの債務を保証する立場です。
連帯保証人だからという理由だけで、亡くなった入居者の家財を自由に処分できるとは限りません。
家賃保証会社についても同様です。
保証会社が家賃や一定の費用を保証していても、室内に残された家財を処分する権限まで持っているとは限りません。
保証の対象や残置物への対応は、契約ごとに異なります。
大家さんや管理会社は、連帯保証契約書や保証会社との契約内容を確認する必要があります。
相続人が相続放棄したら処分してよいのか
相続人から、
「相続放棄をするので、部屋の荷物はすべて処分してください」
と言われることがあります。
この言葉だけを受けて、すぐに残置物を処分することには注意が必要です。
相続放棄は、家庭裁判所での手続きを通じて行われます。
家族が大家さんへ口頭で「相続しません」と伝えただけで、正式な相続放棄が完了しているとは限りません。
また、ある相続人が相続放棄すると、次の順位の人が相続人になることがあります。
一人が相続放棄したからといって、直ちに相続人が誰もいない状態になるとは限りません。
相続人全員が相続放棄した場合でも、残された家財が自動的に大家さんの所有物になるわけではありません。
相続関係が複雑な場合や、相続人全員が相続放棄している場合は、弁護士などの専門家へ相談してください。
契約書に「残置物は大家が処分できる」と書けばよいのか
賃貸借契約書へ、
「入居者が死亡した場合、室内の残置物は大家が処分できる」
という条文を書けば、すべて解決すると思われることがあります。
しかし、一方的な内容を契約書へ書くだけで、どのような場合でも有効になるとは限りません。
入居者が亡くなった後に誰が賃貸借契約を終了させるのか。
誰が残置物を確認するのか。
残しておく物と廃棄する物をどのように分けるのか。
価値のある物をどのように扱うのか。
これらを適切な契約で決めておく必要があります。
国土交通省と法務省は、単身高齢者が亡くなった後の賃貸借契約と残置物の問題に備えるため、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しています。
このモデル契約条項では、大きく二つの委任契約が示されています。
一つ目は、入居者が亡くなった後に、賃貸借契約を終了させるための事務に関する契約です。
二つ目は、入居者が亡くなった後に、室内に残された物を整理するための事務に関する契約です。
単に「大家が捨ててもよい」とするのではありません。
入居者本人が元気なうちに受任者を決め、亡くなった後の手続きを委任しておく仕組みです。
捨てない物を元気なうちに決めておく
残置物を円滑に整理するためには、廃棄する物だけではなく、廃棄しない物を決めておくことも大切です。
例えば、次のような物です。
家族へ渡したい写真
預金通帳と印鑑
貴金属
重要な契約書
仏壇や位牌
仕事に関係する書類
思い出の品
指定した人へ送ってほしい物
入居者本人が元気なうちに、
「この箱は家族へ送ってほしい」
「写真と手紙は処分しないでほしい」
「家具や衣類は決められた方法で整理してほしい」
と意思を残しておけば、亡くなった後の判断がしやすくなります。
残置物の問題は、不要品を捨てるだけの話ではありません。
亡くなった人の意思と、大切な物を守りながら、部屋を明け渡せる状態へ戻すための手続きです。
孤独死発生後に確認する5つの書類
孤独死が起きた場合、大家さんや管理会社は、残置物へ手を付ける前に次の書類を確認します。
賃貸借契約書
賃貸借契約の内容、契約者、連帯保証人、特約などを確認します。
緊急連絡先の届出書
誰が緊急連絡先として登録されているのかを確認します。ただし、緊急連絡先に残置物の処分権限があるとは限りません。
連帯保証契約書と家賃保証契約書
保証される費用や、死亡時の対応範囲を確認します。
家財保険の保険証券
残置物処分、特殊清掃、消臭、原状回復などが補償対象になっているかを確認します。
死後事務委任契約書
賃貸借契約の終了や残置物の整理を、誰がどの範囲で行う契約になっているのかを確認します。
書類が見つからない場合でも、慌てて処分を進めないでください。
相続人、保証会社、保険会社、弁護士などへ確認し、誰が手続きを進められるのかを整理します。
残置物を動かす前に写真を残す
必要な権限を確認し、残置物の整理を始める場合は、作業前の状態を写真で記録します。
室内全体の状況。
家具や家電の配置。
貴重品が見つかった場所。
通帳や印鑑などの重要品。
汚染されている場所。
搬出する物の量。
作業中に見つかった物。
処分する物。
保管する物。
指定された人へ送る物。
これらを写真と書面で記録しておくことが重要です。
記録がなければ、後から相続人に、
「部屋に現金があったはずです」
「大切な写真を勝手に捨てられました」
「家電製品がなくなっています」
と言われたときに、どのような作業を行ったのか説明できません。
全花連では、作業前後の写真台帳や事故報告書を作成し、本部が内容を確認します。
残置物の量と内容を記録することは、作業費用を確認するうえでも必要です。
特殊清掃と残置物処分は別の作業です
孤独死が発生した部屋では、残置物の整理と特殊清掃を同時に考える必要があります。
しかし、この二つは同じ作業ではありません。
残置物の整理は、室内に残された家財などを確認し、保管、送付、搬出、処分する作業です。
特殊清掃は、体液や血液などで汚染された場所を処理し、消毒、除菌、害虫対策などを行う作業です。
さらに、室内へ染み付いた臭いを取り除くためには、臭いの発生源を調査し、洗浄と完全消臭を行う必要があります。
残置物だけを搬出しても、床や壁に汚染と臭いが残っていれば、次の入居者を募集できません。
特殊清掃だけを行っても、家財が室内に残っていれば、管理会社へ部屋を返すことができません。
重要なのは、残置物の整理から特殊清掃、完全消臭、原状回復、鍵の返却までを一つの流れとして考えることです。
相続人が見つからないと部屋の返却が遅れることがあります
相続人の有無や所在が分からない場合、賃貸借契約の終了や残置物の処理が進まないことがあります。
その間も部屋を再募集できず、大家さんの家賃収入が失われる可能性があります。
臭いが共用部分や隣室へ広がれば、ほかの入居者から苦情が入ることもあります。
気温が高い時期には、汚染や臭い、害虫の問題が短期間で広がることもあります。
しかし、急いでいるからといって、権限を確認せずに残置物を処分することはできません。
事故後の対応を早くするために必要なのは、事故が起きてから急いで業者を探すことではありません。
何も起きていないうちに、誰がどの手続きを行うのかを決めておくことです。
全花連安心サービスは事故前から準備します
全花連安心サービスは、孤独死が起きた後に特殊清掃業者を紹介するだけのサービスではありません。
入居者が元気なうちに、死後事務委任に関する契約を結び、万が一の際に必要となる手続きの道筋を準備します。
賃貸借契約の終了に関する手続き。
残置物の確認と整理。
貴重品や重要書類の確認。
特殊清掃。
完全消臭。
必要な原状回復。
管理会社への鍵の返却。
これらを誰がどのように進めるのかを、事故が起きる前に決めておきます。
新しく入居する方については、賃貸借契約時に必要な契約を準備する方法があります。
すでに入居している方についても、別紙の契約書を取り交わすことで導入できる方法があります。
大切なのは、大家さんの都合だけで加入を求めることではありません。
入居者本人へ、
「退去をお願いする話ではありません」
「今の生活を大きく変えるものではありません」
「亡くなった後に、ご家族や大家さんへ負担を集中させないための準備です」
と、丁寧に説明することです。
高齢者や身寄りのない方を断らない賃貸住宅へ
大家さんが単身高齢者の入居を不安に感じる理由の一つが、死亡後に残される家財の問題です。
相続人が分からない。
家族と連絡が取れない。
相続放棄されるかもしれない。
誰が部屋を片づけるのか分からない。
このような不安があれば、入居を断りたくなる大家さんの気持ちも理解できます。
国土交通省と法務省が残置物の処理等に関するモデル契約条項を公表した背景にも、死亡後の契約関係と残置物への不安から、単身高齢者の入居が拒まれる問題があります。
2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法でも、入居者からの委託に基づく残置物処理が、居住支援法人の業務へ追加されました。
国も、単身高齢者などが賃貸住宅へ円滑に入居できる環境づくりを進めています。
死亡後の問題を、大家さんや管理会社だけで抱え込まない。
入居者本人の意思を、元気なうちに契約として残しておく。
残置物の整理から部屋の返却まで、対応する人と方法を決めておく。
この準備があれば、高齢者や身寄りのない方を受け入れる際の不安を減らすことができます。
今回のまとめ
孤独死した入居者の荷物は、大家さんや管理会社が自由に処分できるとは限りません。
確認すべきポイントは次のとおりです。
入居者が亡くなっても、賃貸借契約は自動的に終了するとは限らない。
室内の家財の所有権は、原則として相続人へ承継される。
緊急連絡先や連帯保証人に、残置物を処分する権限があるとは限らない。
相続放棄という言葉だけを聞いて、すぐに処分してはいけない。
残置物を動かす前に、契約と権限を確認する。
作業前、作業中、作業後の写真と記録を残す。
事故前に死後事務委任に関する契約を準備する。
残置物の問題を解決するために必要なのは、孤独死が起きた後の強引な片づけではありません。
入居者が元気なうちに、亡くなった後の手続きを決めておくことです。
それが、入居者の大切な物を守り、ご家族の負担を減らし、大家さんと管理会社の賃貸経営を守ることにつながります。
孤独死発生直後の対応については、第二弾のコラム「孤独死が起きたら大家さんと管理会社は何をする?賃貸住宅で最初に確認したい7つのこと」をご覧ください。
特殊清掃の費用については、第一弾のコラム「孤独死の特殊清掃費用はいくら?全花連の1DK約32万円の実例と料金が決まる仕組み」をご覧ください。
実際の残置物処理や賃貸借契約の終了方法は、契約内容、相続人の状況、死後事務委任契約の有無などによって異なります。判断が難しい場合は、弁護士などの専門家へご相談ください。

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花輪隆俊
専門家

花輪隆俊(特殊清掃業)

一般社団法人全日本花輪式完全消臭連盟

孤独死現場の特殊清掃・残置物撤去、特許取得の花輪式完全消臭で対応。死後事務委任を備えた「全花連安心サービス」でオーナーの負担を抑え、高齢者や身寄りのない方の安心入居を支えます。

花輪隆俊プロは青森放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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