花粉症と睡眠:不眠と日中の眠気の原因・特徴・対策
◆「冬の眠気」は病気のサインかも? 冬季うつ病と睡眠の深い関係
季節が変わり、日照時間が短くなるにつれて、朝起きるのがつらい、日中も強烈な眠気に襲われる、気分が沈みがちになる、といった経験はありませんか?多くの場合、「冬だから仕方ない」「寒くて布団から出られない」で片付けられてしまいがちですが、それはもしかすると、単なる季節のせいでなく、季節性うつ病(季節性感情障害 SAD)の一種である冬季うつ病が原因かもしれません。
季節性うつ病は、毎年決まった季節に始まり、決まった季節に終わるうつ病の一種です。日本では秋から冬にかけて発症し、春になると改善する冬季うつ病が最も一般的です。そして、この冬季うつ病の最も顕著な特徴の一つが、睡眠障害、特に過眠を伴うことです。
◆冬季うつ病と睡眠障害:その特異なパターン
一般的なうつ病では、不眠(眠れない、早朝に目覚めてしまう)が主な症状として現れますが、冬季うつ病ではその逆、つまり「眠りすぎてしまう」という特徴的な睡眠パターンが見られます。
・過眠:夜間に十分な睡眠(10時間以上)をとってもなお、日中に強い眠気に襲われる。いくら寝ても寝足りない感じがする。
・朝起きられない:目覚ましが鳴っても、体が鉛のように重く、布団からなかなか出られない。
・寝床から離れられない:布団の中での時間が長くなり、活動時間が短くなる。
また、気分が沈む、集中力が低下する、疲れやすい、食欲が増し特に炭水化物や甘いものが欲しくなるといった症状を伴うことが多いのも、冬季うつ病の典型です。
◆なぜ季節の変化が睡眠を乱すのか?メカニズムの解明
冬季うつ病と睡眠の密接な関係は、日照時間と体内時計(概日リズム)に深く関わっています。
・メラトニンの分泌過剰:睡眠ホルモンであるメラトニンは、光の刺激が減る夜間に多く分泌され、私たちを眠りに誘います。秋から冬にかけて日照時間が短くなると、体が夜だと認識する時間が長くなり、メラトニンの分泌期間が伸びてしまいます。これにより、日中もメラトニンの影響が残り、過度な眠気や倦怠感として現れると考えられています。
・セロトニンの低下:気分を安定させる神経伝達物質セロトニンは、「幸せホルモン」とも呼ばれ、日光を浴びることで合成が促進されます。日照時間の減少はセロトニンの合成を低下させ、気分の落ち込みや意欲の低下を引き起こします。セロトニンはメラトニンの原料でもあるため、このバランスの乱れが、結果として睡眠・覚醒リズムにも悪影響を及ぼします。
・体内時計の遅れ:概日リズムは、主に朝の光によってリセットされています。冬になり朝の光が弱くなったり、日の出が遅くなったりすることで光を浴びるタイミングが遅くなると、体内時計が後ろにずれてしまい(位相後退)、夜になっても眠気がこない、朝はいつまでも起きられないという状態に陥りやすくなります。これが過眠や朝の倦怠感につながります。
◆今日からできる対処法
もしあなたが毎年、冬に過眠や気分の落ち込みを感じるなら、それは冬季うつ病の可能性を考慮し、適切な対策を講じるべきです。
・高照度光療法(ブライトライトセラピー):
冬季うつ病の最も効果的で科学的根拠のある治療法です。朝の早い時間帯(起床後30分以内)に、2,500~10,000ルクスの強い光を一定時間浴びることで、セロトニンの活性化を促し、メラトニンの分泌を抑制し、体内時計をリセットする効果が期待できます。家庭用の光療法機器も市販されていますが、専門家の指導のもとで使用するのが安全です。
・朝の太陽光を積極的に浴びる:
特別な機器がない場合でも、まずは毎朝、決まった時間に起きて、カーテンを開け、できるだけ早く自然光を浴びることが重要です。15分から30分程度、屋外で軽い散歩をするのが理想的です。
・規則正しい生活リズムの維持:
週末の寝だめをせず、毎日同じ時間に起床・就寝することを徹底し、体内時計の安定化を図りましょう。
・適度な運動とバランスの取れた食事:
日中の活動量を上げ、夜間の睡眠の質を高めます。冬季うつ病で食欲が増しても、炭水化物に偏りすぎず、タンパク質やビタミンDを含むバランスの取れた食事を心がけましょう。
◆おわりに
冬季うつ病による睡眠障害は、適切な知識と対処法で必ず改善が見込めます。「冬だから」と諦めず、眠りの専門家や心療内科、精神科といった専門機関に相談し、光を取り戻すための治療を始めることが、心身の健康を取り戻す第一歩となります。
寒い季節も、活動的で質の高い毎日を送るために、あなたの睡眠と心の声に耳を傾けてみてください。
雨晴クリニックでは、冬季うつ病による睡眠障害の検査・治療を行っています。どうぞお気軽にご相談ください。




