【医師監修】睡眠中の危険な行動:レム睡眠行動障害とは?

立ち上がって歩き回り、時には複雑な行動まで――。まるで起きているかのように活動する夢遊病。しかし、本人はその間の記憶がなく、翌朝目覚めても何が起こったか覚えていないことがほとんどです。今回は、睡眠障害の専門家として、夢遊病について詳しく解説していきます。
◆夢遊病とは?
夢遊病は、睡眠時随伴症(パラソムニア)と呼ばれる睡眠中の異常行動の一つです。医学的には睡眠時遊行症と呼ばれています。ノンレム睡眠の深い段階で起こり、主に小児期に多く見られますが、成人期にも発症することがあります。
◆種類
夢遊病は、その行動の複雑さによっていくつかのタイプに分けられます。
・単純な歩行: ベッドから起き上がり、部屋の中を歩き回る程度。
・複雑な行動:服を着替えたり、物を移動させたり、時には家から出て行ったりするなどの複雑な行動。まれに、運転するなど危険な行動に至ることもあります。
・睡眠関連摂食障害:睡眠中に起き上がり、無意識のうちに食事するタイプ。
◆原因・メカニズム
夢遊病の正確なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、脳の一部が目覚めて活動しているにもかかわらず、意識をつかさどる部分が眠ったままであるために起こると考えられています。
主な要因としては、以下のようなものが挙げられます。
・遺伝的要因:家族に夢遊病の人がいる場合、発症リスクが高まります。
・睡眠不足:睡眠時間が足りないと、深いノンレム睡眠の割合が増え、夢遊病が起こりやすくなります。
・ストレスや不安:精神的な負担が大きいと、睡眠の質が低下し、夢遊病を誘発することがあります。
・発熱や病気:体調不良や発熱が夢遊病を一時的に引き起こすことがあります。
・特定の薬剤:一部の睡眠導入剤や精神疾患の薬が、副作用として夢遊病を引き起こすことがあります。
・カフェインやアルコールの摂取:これらは睡眠の質を低下させ、夢遊病のリスクを高める可能性があります。
◆夢遊病と似た症状を示す病気や状態
夢遊病と間違えやすい症状を示す他の睡眠障害や状態もあります。
・夜驚症(やきょうしょう): 突然叫び声を上げたり、パニック状態になったりしますが、夢遊病と同様に記憶はありません。主に小児に見られます。
・レム睡眠行動障害(RBD): 夢の内容に反応して大声を出したり、手足を動かしたりする睡眠障害です。レム睡眠中に起こる点で夢遊病と異なります。高齢者に多く見られ、パーキンソン病やレビー小体型認知症などの神経変性疾患との関連も指摘されています。
・てんかん: 夜間に発作が起こり、意識障害や異常行動を伴うことがあります。
・薬剤の影響: 前述の通り、一部の薬剤は夢遊病様の症状を引き起こす可能性があります。
これらの症状が見られる場合は、自己判断せずに専門医の診察を受けることが重要です。
◆医者にかかった方が良いとき
夢遊病は多くの場合、成長とともに自然に治まる傾向にありますが、以下のような場合は専門医の診察を受けることを強くお勧めします。
・行動が頻繁である、または悪化している場合: 週に数回以上起こる、または行動がより複雑になっている場合。
・危険な行動を伴う場合: 家から出て行こうとする、窓から飛び降りようとする、刃物を使うなど、本人や周囲に危険が及ぶ可能性がある場合。
・日中の生活に支障が出ている場合: 睡眠の質の低下により、日中に強い眠気や集中力低下が見られる場合。
・成人の発症の場合: 小児期ではなく、成人になってから夢遊病が始まった場合。他の病気が隠れている可能性も考慮されます。
・他の睡眠障害が疑われる場合: 夜驚症やレム睡眠行動障害など、別の睡眠障害が併発している可能性も考えられます。
◆自分でできる対策
医療機関を受診する前に、自分でできる対策もあります。
・睡眠環境の整備:寝室を暗くし、静かで快適な温度に保ちましょう。
・規則正しい睡眠習慣:毎日決まった時間に寝起きし、十分な睡眠時間を確保することが重要です。
・ストレスの軽減:ストレス解消法を見つけ、リラックスできる時間を作りましょう。入浴やアロマテラピーなども有効です。
・カフェイン・アルコールの制限:夕方以降のカフェインやアルコールの摂取は控えましょう。
・就寝前のリラックス:就寝前のスマートフォンやパソコンの使用は控え、読書や軽いストレッチなどで心身をリラックスさせましょう。
・寝室の安全確保:転倒の危険があるものや、鋭利なものを寝室から撤去し、窓やドアを施錠するなど、安全対策を講じましょう。
◆周りの人が気をつけたらいいこと
夢遊病を発症した人がいる場合、家族などの周りの人のサポートが非常に重要です。
・安全の確保を最優先に:夢遊病中の人を無理に起こそうとせず、安全を確保することを最優先に考えましょう。転倒やケガを防ぐために、優しくベッドに戻すように促します。
・静かに誘導する:大声を出したり、驚かせたりすると、パニックになることがあります。優しく、静かにベッドへ誘導しましょう。
・無理に起こさない:一般的には無理に起こさない方が良いとされています。無理に起こすと、混乱したり、攻撃的になったりすることがあります。
・翌日の声かけ:翌日、本人が夢遊病中のことを覚えていない場合でも、責めたりからかったりせず、優しく接しましょう。
・状況を記録する:いつ、どのような行動があったかなど、状況を記録しておくと、受診時に役立ちます。
夢遊病は、本人も周囲も戸惑うことの多い睡眠障害です。しかし、適切な知識と対策、そして医療機関との連携によって、症状の改善や安全の確保が可能です。もしご自身やご家族に夢遊病の症状が見られる場合は、一人で悩まず、専門医に相談してください。
雨晴クリニックでは、夢遊病の診療を行っています。どうぞお気軽にご相談ください。



