「罰金」を請求された|私人が罰金を科すことはできない
「職場のグループチャットで自分だけが名指しされ、複数の人から返信を求められている。夜のうちに通知が積み上がり、朝には『まだ返事がありませんね』と書かれている」——不当要求のご相談では、こうした場面を伺うことがあります。「保護者や地域のグループで落ち度を挙げられ、全員が見ている場で謝罪と金銭の負担を求められている。抜けたくても、抜けたこと自体が全員に伝わってしまう」というご相談もあります。
「無視すればよい」「退出すればよい」「画面を保存して相談を」という説明は、それ自体が誤っているわけではありません。ただ、閉じたチャットには公開の場とは違う難しさがあります。外から見えない場所であるために、公開の場を前提にした手続がそのままは使えません。その一方で、やり取りは文字として残り続け、こちらが打った短い一言も同じように残ります。
この記事では、招待された人だけが読めるグループチャットで要求を向けられている側が、その場でどう振る舞い、何を手元に残しておくとよいのかを整理します。要求そのものを断る言い回し、対面で複数人に囲まれた場面、投稿の削除や発信者を特定する手続については、それぞれ別の記事に譲ります。
この記事で扱うこと・扱わないこと
閉じた場のトラブルは論点が入り組みやすいため、はじめに範囲をはっきりさせておきます。
- 扱うこと=招待された人だけが読めるグループチャットで、要求や叱責を向けられている側の動き方。
- 扱うこと=そこで残る記録と、残らない記録の違い。
- 扱わないこと=要求を断る言い回しと、返答を保留する伝え方。
- 扱わないこと=対面で複数人に囲まれた場面での対応。
- 扱わないこと=投稿の削除請求と、発信者を特定する手続の進め方。
閉じた場は、公開の場とは別のルールで動いている
同じ内容の書き込みでも、誰でも読めるSNSに書かれた場合と、十数人のグループチャットに書かれた場合とでは、法律上の扱いが変わることがあります。公開の場と同じように対処できるはずだと考えて進めると、行き詰まることがあります。
外から見えないことは、有利にも不利にも働く
刑法の名誉毀損罪(刑法230条)と侮辱罪(同法231条)は、いずれも「公然と」行われたことを要件としています。公然とは、不特定または多数の人が認識しうる状態を指すとされています。閉じたグループの中だけで完結したやり取りは、この要件を満たすかどうかがまず問題になり、参加人数が少なければ認められにくくなる傾向があります。
もっとも、人数が少なければ当然に否定されるというものでもありません。外部へ広まる可能性(伝播可能性)が考慮され、参加者の入れ替わりや転送のしやすさなどから公然性が認められた例もあると紹介されています。閉じているかどうかは、参加人数だけで決まるものではありません。
公然性を要件としない責任もある
名誉毀損が成立しにくいことは、何の責任も生じないことを意味しません。侮辱的な言動によって名誉感情が害された場合、民事上の不法行為(民法709条)として争える場合があります。また、脅迫罪(刑法222条)、強要罪(同法223条)、恐喝罪(同法249条)は、いずれも公然と行われたことを要件としていません。要求の中身と伝え方によっては、閉じた場であってもこれらの問題になり得ます。
投稿者を特定する手続は使いにくい
インターネット上の書き込みについて発信者情報の開示を求める仕組みは、情報流通プラットフォーム対処法が定めています。同法2条1号は、対象となる「特定電気通信」を、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信と定義しています。特定のメンバーだけが読むグループチャットや個別のやり取りは、この定義に当てはまらないと整理されるのが一般的です。
つまり、閉じた場では「後から手続で記録を取り寄せる」という道が想定しにくいということです。もっとも、相手が誰かはすでに分かっていることがほとんどですから、特定の必要が乏しい代わりに記録は自分で確保しておく必要がある、と考えていただくのがよいと思います。
人数の多さは、法律上どのように見られているのか
多対一の場面で不安に感じられやすいのは、内容そのものよりも「大勢を相手にしている」という構図です。この点について、職場のハラスメントに関する国の指針が、参考になる考え方を示しています。職場を対象とした指針であり、地域や保護者のグループにそのまま当てはまるものではありませんが、人数をどう評価するかの物差しとしては読む価値があります。
集団であること自体が「優越的な関係」になりうる
厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、パワーハラスメントの要件である「優越的な関係を背景とした」言動に含まれるものとして、職務上の地位が上位の者による言動のほかに、同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるものを挙げています。立場が上でなくても、人数がそろうことで抵抗が難しくなる状況が想定されているわけです。
行為者の数は、相当性の判断材料とされている
同じ指針は、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動に含まれる例として、当該行為の回数や行為者の数などから、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動を挙げています。何を言ったかだけでなく、何人がどれだけの回数言ったかが評価の対象になる、という整理です。
本人を含む複数人宛ての送信が、名指しで例示されている
さらに同じ指針は、精神的な攻撃に該当すると考えられる例として、相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を、当該相手を含む複数の労働者宛てに送信することを挙げています。グループチャットで本人と周囲に同時に届く形は、まさにこの形にあたります。一対一で同じ言葉を送る場合と区別して考えられている点は、覚えておいてよいところです。
なお、これらはあくまで職場を対象とした指針の記述です。地域の集まりや取引先を含むグループでは、そのまま適用されるものではなく、状況に応じた個別の判断になります。
閉じたチャットで起きやすいことと、その手当て
実際のご相談で繰り返し出てくる場面を、後から問題になりやすい点と合わせて整理します。
| 起きやすいこと | 後から問題になりやすい点 | その場でできる手当て |
|---|---|---|
| 全員宛てで名指しされ、その場で答えるよう求められる | 即答した一言が、合意や事実の承認として引用される | 回答する場所と時期を先に示し、内容は分けて出す |
| 深夜や早朝に連投され、通知が途切れない | 応答の遅れだけが不誠実さの表れのように扱われる | 受け取った旨と回答の予定を一度書き、時間帯の記録を残す |
| 「みんなそう思っている」と言われる | 実際には求めていない人まで含めて数えられる | 誰が何を求めているのかを自分で書き出す |
| 短い返事やスタンプを促される | 同意の表示として扱われ、後から説明しにくくなる | 内容に関わる返事は、本文の言葉で行う |
| 過去の発言が切り出して貼られる | 前後の文脈が落ちた状態で共有される | 前後を含めて自分でも保存しておく |
いずれも、その場で言い返すことよりも、答える場所と時期を自分の側で決めることに重心があります。
見えている人数と、実際に求めている人の数は違う
画面に並んだ発言は、参加者全員の意見のように見えます。しかし、内訳を書き出してみると、要求している人は一人か二人で、残りは黙って見ている、という構図であることが少なくありません。
黙っている人は、同意しているとは限らない
沈黙は、賛成のこともあれば、関わりたくないだけのことも、通知に気づいていないだけのこともあります。「全員が同じことを言っている」と受け取ると実際より大きな相手と向き合っている感覚になり、判断が急ぎがちになります。まずは、発言していない人を数から外して考えてみてください。
賛同の表示は、数えられてしまう
一方で、スタンプや短い同調の一言は、後から「何人が同じ意見だったか」を示す材料として使われることがあります。これは相手側にも当てはまりますし、こちら側の返事にも当てはまります。押しやすい形になっているものほど、意思表示として読まれる余地があることは意識しておいてよいところです。
誰が何を求めているのかを一度書き出す
紙でもメモアプリでもかまいません。発言者ごとに、求めている中身(金銭、謝罪、辞任、退会など)と期限の有無を分けて書き出します。要求の中身が人によって食い違っていたり、期限が誰かの思いつきで置かれたものだったりすることが見えてきます。
返事は、同じ画面ですべて済ませない
閉じたチャットの難しさは、要求も、議論も、記録も、日常の連絡も、一つの画面に同居している点にあります。ここを分けるだけで、扱いやすさがかなり変わります。
要求への回答は、グループの外に出す
金銭や責任に関わる回答は、グループ内ではなく、個別のやり取りやメール、書面で行うことをおすすめしています。大勢が見ている場では、こちらの回答に複数の反応が同時に返り、一つずつ整理する余裕がなくなるためです。
グループ内には「どこで答えるか」だけを置く
受け取った旨と、いつ、どの方法で回答するかを短く一度置いておくと、応答がないことだけを理由に責められる状況を避けやすくなります。中身に踏み込まないことが大切で、経緯の説明や反論をこの段階で書き足すと、そこから枝分かれした議論が始まります。
既読、未読、退出が持つ意味
既読の表示がついたこと自体に、法律上の効果はありません。読んだことが分かるだけで、内容を認めたことにも承諾したことにもなりません。返事をしないことと承諾との関係は別の記事で扱っていますが、原則として、黙っていたことが直ちに承諾になるわけではありません。
退出も自由です。ただし、退出のしかたによっては自分の側の記録が見られなくなります。この点は次の章で触れます。
短い同意の言葉が、合意と読まれることがある
契約の成立に書面は要らないというのが民法の原則です(民法522条2項)。チャットの「わかりました」「対応します」も、状況によっては合意の成立を示す材料として持ち出されます。急かされている場面ほど、区切りをつけたくて短い返事をしがちですが、どの範囲について了解したのかが読み取れない返事は避けるのが無難です。事実の確認に対する返事なのか、支払いの約束なのかが分かる形にしてください。
記録は、自分で持ち出さないと残らない
閉じた場は、その中では文字がすべて残りますが、外へは自動的に出ていきません。何が残りやすく、何が残りにくいのかを分けて考えておくと、優先順位がつけやすくなります。
| 残りやすいもの | 残りにくいもの |
|---|---|
| 送られた文章と、その送信時刻 | 送信取消や削除で消えたメッセージ |
| 発言者の表示名と、参加者の一覧 | 誰がいつ参加し、いつ退出したかの経過 |
| やり取りされた画像やファイル | 一定時間で消える設定にされたメッセージ |
| 自分が送った文章 | 自分が退出した後のグループの記録 |
サービスによっては、グループを退会すると自分のアプリからそのグループのトーク履歴やアルバムを見られなくなる仕様になっています。退出はいつでもできますが、記録の確保を先に済ませてからにしてください。
保存の際は、日時と発言者の表示名が一緒に写る形にし、問題の発言だけを切り取らず前後も含めて残します。画面を動画で撮る方法は、時刻の表示や連続性が写るぶん後から説明しやすくなります。自分にとって不利に見える部分も消さずに残してください。抜けがあると、記録全体の見え方に影響します。記録の様式や渡し方は別の記事で扱っています。
扱いが難しくなりやすい三つの場面
相手がグループの管理者である場合
管理者の権限で発言を削除されたり、退出させられたりすることがあります。こちらの手元にしか残らない記録が増えますので、保存の優先度が上がります。退出させられた後は、そのグループで何が話されているかを知る手立てがなくなり、その前にどこまで残せているかが分かれ目になります。
業務用のチャットで、断りにくい場合
勤務先のチャットでは、応じないこと自体が不利益につながるのではないかという不安が生じます。勤務時間外の連絡にどこまで対応する義務があるかは、指揮命令下に置かれていたといえるかどうかで判断されるとされており、この点は別の記事で扱っています。なお前記の指針は、社内の相談窓口について、該当するかどうか微妙な場合であっても広く相談に応じることを求めています。判断がつかない段階での相談は、想定された使い方です。
こちらも強い言葉を返してしまった場合
多対一の場面で言い返してしまうことは珍しくありません。その発言も同じように残ります。ただ、一度そうした返事をしたことで、その後の主張ができなくなるわけではありません。やり取りは全体の流れの中で評価されます。消して整えたくなるかもしれませんが、削除は後から作為があったと見られる材料になり得ます。
その場を離れた後にすること
通知から離れると、時間の経過とともに思い出せなくなる部分が出てきます。落ち着いたら、次の順で手をつけてください。
- 保存した記録に抜けがないかを確認し、足りない範囲を先に補う。
- 発言者ごとに、求められている中身と期限を書き出して整理する。
- 回答の期限を自分の側で置き、その旨をグループ内に一度だけ伝える。
- 勤務先や団体に窓口がある場合は、判断がつかない段階でも相談する。
- 金銭や責任に関わる要求が含まれている場合は、回答の前に相談する。
避けたい進め方
急いで動いた結果、後から選択肢が狭くなってしまう例があります。
- その場の勢いで、支払いや辞任の約束をする。
- 記録を確保しないままグループを退出する。
- 自分の発言だけを削除して、やり取りの一部を欠けさせる。
- 参加者の一人ひとりに個別に連絡し、話の筋を分散させる。
- グループ内のやり取りを、無関係な第三者へ広く転送する。
最後の点は、こちら側の責任が問題になり得るところです。閉じた場のやり取りには、他の参加者の私生活に関わる情報が含まれていることがあります。外に出す範囲は、相談や手続に必要な範囲にとどめてください。
よくあるご質問
グループを退出してもよいのでしょうか
退出そのものは自由です。ただ、記録の確保を済ませてからにしてください。自分の端末から履歴が見られなくなる場合があるほか、その後グループで何が話されたかも分からなくなります。要求が続いている段階での退出は、別の連絡手段での接触を招くこともあります。回答をどこで行うかを伝えたうえで離れると、行き違いが減ります。
既読をつけると、認めたことになりますか
なりません。既読は読んだことが表示されるだけで、内容への同意を示すものではありません。逆に、既読をつけたくないために読まずにいると、期限のある連絡を見落とすことがあります。読むことと答えることは分けて考えてください。
相手が新しい人をグループに追加してきました
参加者が増えると、それだけで圧力が強まったように感じられます。誰が何を求めているのかを書き出す作業を、そのつどやり直してみてください。なお、当事者でない第三者が代理人のように交渉に加わる場合には、その立場について別の問題が生じることがあります。この点は同席者の立場を扱った記事に譲ります。
まとめ
- 閉じたグループのやり取りは、名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(同法231条)の「公然と」の要件が問題になりやすく、公開の場と同じようには扱えない。
- 一方で、脅迫罪(同法222条)、強要罪(同法223条)、恐喝罪(同法249条)は公然性を要件としておらず、民事上の不法行為(民法709条)も同様である。
- 発信者情報の開示は、情報流通プラットフォーム対処法2条1号の「特定電気通信」に当たることが前提となり、閉じたやり取りでは使いにくい。
- 厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、集団による行為、行為者の数、本人を含む複数人宛ての送信を、いずれも評価の材料として挙げている。
- 発言している人と黙っている人を分けて数え、誰が何を求めているのかを書き出す。
- 金銭や責任に関わる回答はグループの外に出し、グループ内には答える場所と時期だけを置く。
- チャットの短い同意も合意の材料になり得る(民法522条2項)ため、了解した範囲が読み取れる形にする。
- 退出は自由だが、記録の確保を先に済ませる。
閉じた場での要求にお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不当要求に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。グループチャットでのやり取りは、記録が残っている一方で、そこから何を読み取れるかの判断が難しい類型です。保存した画面をお持ちいただければ、どの発言がどのように評価され得るのかを一緒に整理できます。
要求を向けられている方だけでなく、こちらから申し入れをする側で、伝え方が問題にならないかを確認したいという方からのご相談もお受けしています。回答の期限が迫っている場合や、すでに何らかの返事をしてしまった場合でも、そこから取り得る手立てはあります。お一人で抱えず、早い段階でご相談ください。


