【不貞慰謝料】婚姻期間・子どもの有無は金額にどう響くか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

配偶者の不貞をめぐって金額の話になると、早い段階で「結婚して何年になるか」「お子さんはいるか」を尋ねられます。どちらも戸籍を見れば分かる事実で、当事者の間で争いになりにくい事柄です。それだけに、年数が長ければ高くなり、子どもがいれば上がる、という単純な対応関係があるように受け取られがちですが、実際の判断はもう少し込み入っています。この記事では、婚姻期間と子どもの有無が金額に働くときに何が見られているのか、そして数字だけでは決まらないのはなぜかを整理します。

年数や人数が、そのまま金額に変わるわけではない

 不貞を理由とする慰謝料は、民法709条と710条に基づく損害賠償です。条文には計算式が置かれておらず、どの事情をどれだけ重く見るかは、事案ごとの総合的な判断にゆだねられています。婚姻年数に単価があるわけでも、子どもの人数に加算額が決まっているわけでもありません。
 では、なぜ婚姻期間や子どもの有無がこれほど頻繁に持ち出されるのか。それは、この2つが壊されたものの中身を推し量る手がかりとして使いやすいからです。慰謝料が填補しようとしているのは、婚姻共同生活の平穏が損なわれたことによる精神的な苦痛であり、その平穏がどれほどのものだったかを外から測る材料として、年数や家族構成が用いられているという関係になります。
 この見方に立つと、同じ「婚姻10年」でも意味合いが変わりうることが理解しやすくなります。年数そのものではなく、その年数が指し示す中身が問われているからです。

婚姻期間は、3つの角度から読まれる


着目される点そこから読み取られやすい内容
積み重ねてきた期間の長さ共同で築いてきた生活の厚み。長期にわたるほど、失われたものが大きいと評価されやすい
婚姻期間に占める不貞期間の割合婚姻生活のどれくらいの部分が侵害されていたか。同じ不貞期間でも、婚姻期間との対比で見え方が変わる
婚姻のどの時期に起きたか新婚期、子育て期、子の独立後など、その時期に夫婦が置かれていた状況と、そこで損なわれたものの性質


積み重ねてきた期間の長さ

 もっとも分かりやすい読み方がこれです。長い年月をかけて築いてきた生活が損なわれた場合、そこで失われたものは大きいと見られやすくなります。裁判例の傾向としても、婚姻期間が長期に及ぶ事案では金額が高めに評価されることが多いとされています。
 もっとも、何年から「長期」と評価するかについて、法律上の線引きはありません。事務所によって示される目安の年数にも幅があり、その数字が一人歩きすると、実際の判断とずれた期待や不安を生むことになります。

婚姻期間に占める不貞期間の割合

 見落とされやすいのがこの角度です。たとえば不貞の期間が2年だとしても、婚姻期間が3年の夫婦と、婚姻期間が25年の夫婦とでは、婚姻生活のうち侵害されていた部分の比重が違います。前者は結婚生活の大半が不貞と重なっていたことになり、後者は長い婚姻生活の一時期に生じた出来事という見え方になります。
 つまり婚姻期間は、それだけで独立して働くというより、不貞の期間や回数と組み合わさって意味を持つ場面があります。婚姻期間が長いことが常に有利に働くとは言い切れないのは、このためです。

婚姻のどの時期に起きたか

 同じ婚姻期間でも、不貞が起きた時期によって夫婦の状況は異なります。子育ての負担が集中していた時期なのか、配偶者が療養中だった時期なのか、子どもが独立して2人の生活に戻った時期なのか。年数という数字には表れないこうした事情が、実際には金額の評価に影響します。

「婚姻期間が短いから低い」とは限らない

 請求を受けた側からは、婚姻期間の短さを理由に金額の引き下げを求める主張がよく出されます。これは減額の方向に働きうる事情ではありますが、それ単独で結論が決まるものではありません。
 婚姻期間が短くても、結婚してまもない時期に不貞が始まっていた、妊娠中や出産直後の時期だった、配偶者が転居や退職を伴う生活の変更をしたばかりだった、といった事情があれば、受けた影響は小さくないと評価されることがあります。婚姻期間の長短は、あくまで全体を判断するための一材料です。

子どもの有無も、3つの角度から読まれる


着目される点そこから読み取られやすい内容
子どもがいるという事実そのもの不貞によって影響を受ける範囲が夫婦2人にとどまらないこと。家庭を維持する必要性の高さ
子どもの年齢と自立の程度経済的・社会的に自立していない子ほど、日常の監護や生活への影響が大きいと見られやすい
生活面に実際に現れた変化別居や転校、監護の負担の偏り、家庭内の緊張など、子をめぐって現実に生じた影響


子どもがいるという事実そのもの

 子どもがいる家庭では、婚姻共同生活の平穏が壊れたときの影響が夫婦2人の関係にとどまりません。家庭を保とうとする側の負担も重くなります。こうした点から、子どもの存在は金額を押し上げる方向に働きやすい事情として挙げられます。

子どもの年齢と自立の程度

 実務では「未成熟子」という言葉が使われます。年齢だけで機械的に決まるものではなく、経済的・社会的に自立しているかどうかで見る考え方です。同じ「子どもがいる」でも、幼い子を抱えている場合と、すでに就職して独立している場合とでは、家庭が受ける影響の見え方が変わります。

生活面に実際に現れた変化

 抽象的な「子どもへの影響」ではなく、現実に生じた変化が語られると、評価の材料になりやすくなります。別居に伴って転校せざるを得なかった、監護の負担が一方に偏った、子どもの前で不貞が問題になり家庭内の緊張が続いた、といった事情です。逆に、子どもがいても生活に目立った変化が生じていない場合には、その分だけ主張の説得力は弱まります。

子ども自身が慰謝料を請求できるわけではない

 ここで区別しておきたいのが、「子どもがいることが配偶者の請求の中で評価される」ことと、「子ども自身が請求できる」ことは別だという点です。
 この点について、最高裁は昭和54年3月30日の判決で判断を示しています。妻と未成年の子がいる男性が他の女性と関係を持ち、妻子のもとを去ってその女性と同居するに至った結果、子が日常生活において父親から愛情を注がれ、監護や教育を受けることができなくなったとしても、その女性の行為は、特段の事情のない限り、未成年の子に対する不法行為を構成するものではない、という趣旨の判断です。

請求する人請求の対象になっている侵害考え方
不貞をされた配偶者婚姻共同生活の平穏が損なわれたこと子どもがいる事情は、この請求の金額を検討するなかで考慮される
未成年の子親から愛情や監護を受けられなくなったこと特段の事情のない限り、不貞相手に対する不法行為は成立しないとされている


 実際の相談では、子どもが受けた影響を金額に反映させたいというお気持ちを伺うことが少なくありません。その思いが行き場を失うわけではなく、子をめぐって現に生じた影響は、配偶者自身の請求の中で評価の材料になります。ただし、子どもを別の請求者として立てる形は、原則として想定されていないという整理になります。

子どもがいることは、金額以外のところにも表れる

 子どもの存在は、慰謝料の金額だけでなく、解決の進め方そのものにも影響します。

  • 別居が始まっている場合の生活費は、婚姻費用として慰謝料とは別に扱われます。
  • 離婚に至る場合の養育費も、慰謝料とは別の枠組みで、子のための費用として決められます。
  • 示談書で接触禁止を定めるとき、子どもへの接触をどこまで含めるかが具体的な検討事項になります。
  • 学校や職場に不貞の事実が伝わることを避けたいという事情から、口外禁止の定め方が重視されることがあります。
  • 親権や面会交流は離婚手続の中で扱われる事項で、不貞の慰謝料とは判断の枠組みが異なります。


 なお、慰謝料の示談で清算条項を入れても、子の扶養に関する権利にまで当然に及ぶわけではありません。子どもに関わるお金は、慰謝料とは別のレールで動くという理解が出発点になります。

この2つは、争点になりにくい事情でもある

 婚姻期間と子どもの有無には、他の事情と違う特徴があります。戸籍謄本を見れば確定する客観的な事実で、当事者の間で事実関係そのものが争いになることがほとんどないという点です。
 これは交渉の場面で次のような意味を持ちます。

  1. 事実の立証に時間や費用をかける必要が乏しい。
  2. 相手方も事実自体は認めるため、この点を繰り返し強調しても交渉が動きにくい。
  3. 逆に、争いの余地がある事情のほうに主張と資料を集中させたほうが、結果に結びつきやすい。
  4. 数字が動かせない以上、「年数が長いのだから高額であるべきだ」という主張だけでは説得の材料が足りない。


 増額や減額を検討するうえでは、不貞の期間や回数、発覚後の対応、夫婦関係のその後といった、評価が分かれる事情のほうが交渉の余地を持ちます。婚姻期間と子どもの有無は、そうした事情を組み立てるときの土台と位置づけるのが現実的です。

請求を受けた側から見たとき

 相手方から「婚姻20年、子ども2人」といった事情を挙げて高額の請求を受けたとき、次の点を確認しておくと、話の見通しが立てやすくなります。

  • 年数や人数は、金額を自動的に決める要素ではないこと。
  • 不貞の期間や回数との関係で、婚姻期間の意味合いが変わりうること。
  • 子どもへの影響として主張されている内容が、現実に生じた変化として示されているかどうか。
  • 子ども自身を請求者とする形は、原則として想定されていないこと。
  • これらの事情を指摘する際は、相手方の感情に配慮した伝え方を選ぶ必要があること。


 最後の点は形式的な話ではありません。婚姻期間の短さや子どもがいないことを正面から持ち出す言い方は、相手方の反発を招き、まとまりかけた話し合いを止めてしまうことがあります。主張の中身と伝え方は、分けて考えたほうが結果につながります。

よくあるご質問

婚姻期間が長ければ、それだけで高額になりますか

 婚姻期間の長さは金額を押し上げる方向に働きやすい事情ですが、それ単独で結論が決まるものではありません。不貞の期間や回数、発覚後の対応、夫婦関係がその後どうなったかといった事情と併せて判断されます。

子どもがいない場合、金額は低くなりますか

 子どもの不存在それ自体が減額の理由として扱われるというより、子どもがいる場合に加わりうる事情がない、という位置づけになります。子どもがいなくても、婚姻期間や不貞の態様など他の事情によって金額が高く評価されることはあります。

子どもの年齢は、どの程度考慮されますか

 年齢そのものというより、経済的・社会的に自立しているかどうか、日常の監護にどれだけの負担が生じているかという観点で見られます。同じ年齢でも、生活の実態によって評価は変わります。

まとめ


  1. 慰謝料に計算式はなく、婚姻年数や子どもの人数に単価が決まっているわけではない。
  2. 婚姻期間は、積み重ねの長さ、不貞期間との割合、起きた時期という3つの角度から読まれる。
  3. 子どもの有無は、影響の広がり、年齢と自立の程度、生活面に現れた変化という3つの角度から読まれる。
  4. 最高裁は、未成年の子から不貞相手に対する請求について、特段の事情のない限り不法行為は成立しないとの判断を示している。
  5. 子どもに関わるお金は、慰謝料とは別の枠組みで扱われる。
  6. 婚姻期間と子どもの有無は戸籍で確定する事実であり、争点にはなりにくい。交渉では、評価が分かれる事情に力を注ぐことが現実的である。


不貞慰謝料の金額でお悩みの方へ

 婚姻期間や子どもの有無は、ご自身の状況を説明するときに真っ先に出てくる事実でありながら、それが金額にどう働くのかは分かりにくい部分です。請求する側であっても、請求を受けた側であっても、手元の事情のうち何が評価の材料になり、何が交渉の余地を残しているのかを整理することが、見通しを立てる第一歩になります。
 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女問題に関するご相談をお受けしています。ご事情を伺ったうえで、金額の見通しと進め方についてご説明いたします。お一人で判断される前に、一度ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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