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「情状のために資料を出したほうがよい」と言われても、何を、どれだけ集めれば足りるのかは分かりにくいものです。インターネット上には書面の名前を並べた一覧が数多くありますが、名前を知っても、その書面が刑事手続のどこで、どのように扱われるのかまでは見えてきません。
情状のための資料は、集めた枚数で評価されるものではありません。刑事訴訟法と刑事訴訟規則は、証拠を出すときの手順と形をあらかじめ定めており、その形に乗らない書面は取り調べてもらえないことがあります。この記事では、情状資料が証拠として扱われるまでの道筋を条文からたどりながら、「何を集めれば足りるのか」を手続の側から整理します。
この記事で扱う範囲
- 起訴されて公判が開かれる場面を主に想定しています。
- 事実関係を争わない事件を前提としています。争う事件では、資料の意味合いが変わります。
- 書面の文例や書き方そのものには踏み込みません。
- 量刑がどう決まるかという枠組みや、情状証人の尋問の中身は、別の記事の主題としています。
資料は「出せば見てもらえる」ものではない
刑事裁判では、裁判所に届けたい書面を封筒に入れて送れば読んでもらえる、という仕組みにはなっていません。書面は、証拠調べという手続を通って初めて判断の材料になります。
検察官、被告人、弁護人は、証拠調べを請求することができます(刑事訴訟法298条1項)。検察官の請求に続いて、被告人側も請求を行います(刑事訴訟規則199条1項)。裁判所は、請求があった証拠について相手方の意見を聴いたうえで、取り調べるかどうかを決めます(同規則190条1項、2項)。
| 段階 | そこで行われること |
|---|---|
| 請求 | 弁護人が証拠調べを請求し、その書面で何を示すのかを明らかにする |
| 意見 | 検察官が、証拠とすることに同意するかどうかなどの意見を述べる |
| 決定 | 裁判所が、取り調べるかどうかを決める |
| 取調べ | 法廷で朗読、または要点を告げる方法で内容が示される |
この4つの段階のどこかで止まると、書面は手元にあっても判断の材料にはなりません。資料集めは、この器に載せられる形を目指す作業だと考えると、何をどこまで集めればよいかの見当がつけやすくなります。
情状の証拠は、犯罪事実の証拠と分けて調べられる
刑事訴訟規則198条の3は、犯罪事実に関しないことが明らかな情状に関する証拠の取調べは、できる限り、犯罪事実に関する証拠の取調べと区別して行うよう努めなければならないと定めています。
つまり手続の上でも、事件そのものをめぐる証拠と、事件の後の事情をめぐる証拠は、別の区画に置かれています。集めた資料が「事件そのものの評価」に働くものなのか、「その後の事情」に働くものなのかを自分で仕分けておくと、弁護人との打ち合わせが早く進みます。
「何を集めれば足りるのか」への、手続からの答え
この問いには、規則に手がかりがあります。刑事訴訟規則189条の2は、証拠調べの請求は、証明すべき事実の立証に必要な証拠を厳選してしなければならないと定めています。司法研修所の刊行物でも、この厳選の要請は弁護人が証拠を請求する場合にも同じように当てはまるものとして説明されています。
集めるほど有利になる、という前提はとられていないわけです。多く出したことが評価されるのではなく、示したい事情に対して過不足のない資料であるかどうかが問われます。
「この書面で何を示すのか」を一言で言えるか
証拠調べの請求は、証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示して行わなければなりません(刑事訴訟規則189条1項)。実務では立証趣旨と呼ばれ、証拠等関係カードという書面の欄に記載されて記録に残ります。
裁判所は、必要と認めるときはこの点を明らかにする書面の提出を命じることができ、それに従わずになされた請求を却下することができます(同条3項、4項)。手続としても、示す内容を言葉にできない書面は通りにくいということになります。
手元の書面について「これは何を示すためのものか」を一文で書けるかどうかを確かめてみてください。書けないものは、内容が足りていないか、別の書面と役割が重なっている可能性があります。
情状資料として挙げられる主なもの
実務で用いられる書面には、おおよそ次のような広がりがあります。すべてをそろえるという性質のものではなく、事案に応じて必要なものを選ぶことになります。
| 示したい内容 | 代表的な書面 | 確かめておきたい点 |
|---|---|---|
| 被害の回復 | 示談書、受領書、振込の明細 | 作成の名義と日付が入っているか |
| 被害者の受け止め | 嘆願の書面、宥恕の記載がある書面 | 被害者本人の意思で作られたものか |
| 本人の受け止め | 反省文、謝罪文 | 事件の内容と食い違っていないか |
| 生活の立て直し | 就労に関する書面、賃貸借契約書、住民票 | 事件の後の時点のものか |
| 周囲の関わり | 身元引受書、家族や勤務先の陳述書 | 作成者が実際に関われる立場にあるか |
| 専門的な対応 | 診断書、通院の記録、相談機関の報告書 | 本人の同意の範囲で出せるか |
| 受けている不利益 | 退職や解雇に関する書面など | 事件との関係を説明できるか |
右の列を空欄のまま集めた書面は、後で使いにくくなります。名称よりも、誰が、いつ、何に基づいて書いたものかが分かる形になっているかどうかが、実際には効いてきます。
書面が証拠になるには、相手方の同意という関門がある
法廷の外で作られた書面は、原則としてそのままでは証拠にできません。もっとも、検察官と被告人が証拠とすることに同意した書面は、作成されたときの状況を考慮して相当と認められるときに限り、証拠とすることができます(刑事訴訟法326条1項)。
弁護側が出す情状の書面も、この扱いを受けます。家族の陳述書も、勤務先が作った書面も、検察官が同意しなければ、そのままの形では取り調べてもらえないのが原則です。
同意が得られなかった場合に起きること
同意がなければ証拠にできない書面について不同意の意見が出た場合、請求した側は請求を撤回し、必要に応じて、その書面を書いた人に法廷で話してもらう形に切り替えることがあります。
書面が証言に置き換わると、作成者は質問を受ける立場になります。書いた内容と話す内容が食い違えば、そこが問われます。書面の段階から、書いた本人が説明できる範囲にとどめておくことが、この局面での備えになります。
法廷では、書面は全文が読まれるとは限らない
証拠書類の取調べは朗読によるのが原則ですが(刑事訴訟法305条1項)、裁判長が訴訟関係人の意見を聴いて相当と認めたときは、要点を告げる方法によることができます(刑事訴訟規則203条の2第1項)。実務では、この方法がとられる場面が少なくありません。
長い書面をつくれば、その分だけ長く伝わるとは限らないということです。伝えたい事情が末尾にだけ書かれている書面より、要点が先に立っている書面のほうが、この扱いには合っています。
なお、取調べが終わった証拠書類と証拠物は、遅滞なく裁判所に提出しなければなりません。裁判所の許可を得たときは、原本に代えて謄本を提出することができます(刑事訴訟法310条)。手元に残しておきたい書類がある場合は、あらかじめ弁護人に伝えておくとよいでしょう。
集めても資料として働きにくいもの
資料の形をしていても、次のようなものは扱いが難しくなります。
- 作成者が誰か分からない書面。名義と日付は、内容と同じくらい重要です。
- 本人が頼み込んで書いてもらったことが読み取れる書面。作成者の自発性が疑われると、示したい事情そのものが弱まります。
- 事件の内容と食い違う記載がある書面。争っていないはずの点を書面が否定していると、受け止め方の一貫性が問われます。
- 本人以外の人の私的な事情が広く書き込まれている書面。記録は関係者が読むものであり、必要のない範囲まで残ることになります。
- 同じ趣旨の書面をいくつも重ねたもの。厳選の要請とかみ合いません。
間に合わせるための時間の見方
訴訟関係人は、第1回の公判期日の前に、できる限り証拠の収集と整理をし、審理が迅速に行われるように準備しなければなりません(刑事訴訟規則178条の2)。弁護人は、第1回公判期日の前に、請求する予定の証拠を検察官が閲覧できるようにしておくことも求められます(同規則178条の6第2項3号、刑事訴訟法299条1項)。
つまり、資料は「判決の前まで」ではなく「請求の前まで」に用意する必要があります。第三者に書いてもらう書面や、医療機関から取り寄せる書面は、依頼から受け取りまでに日数がかかります。何を頼むかを早い段階で決めておくと、この時間差に対応しやすくなります。
起訴される前の段階では、宛先が裁判所ではなく検察官になり、届け方も変わります。この点は別の記事で扱っています。
どこまで出せば「足りた」といえるのか
最後に、率直な点にも触れておきます。有罪の判決書には、罪となるべき事実、証拠の標目、法令の適用などが記載されますが(刑事訴訟法335条)、量刑の理由は記載が求められる事項とはされていません。どの資料がどう働いたのかが、判決から個別に読み取れるとは限らないということです。
資料をそろえたことと、望んだ結果が出ることは、同じではありません。それでも手続の側から言えることはあります。立証趣旨を言葉にできること、相手方に同意してもらえる形であること、期日に間に合うこと。この3点を満たした資料は、少なくとも判断の材料として法廷に置かれます。逆に、この3点のどれかを欠いた書面は、何通あっても材料になりません。「足りるか」は、そこを基準に考えるのが現実的です。
いま手元でできること
- 手元にある書面を並べ、それぞれ「何を示すためのものか」を一文で書き出してみる。
- 書けなかったものと、内容が重なっているものに印をつける。
- 第三者に依頼が必要なもの、取り寄せに日数がかかるものを先に洗い出す。
- 書面を書いてもらう相手には、内容を自分の言葉で説明できる範囲にしてもらうよう伝える。
- 仕分けた結果を持って、弁護人と打ち合わせる。
まとめ
- 情状資料は、証拠調べという手続を通って初めて判断の材料になる。
- 証拠調べの請求は、必要な証拠を厳選して行うものとされている(刑事訴訟規則189条の2)。
- 請求の際には、証拠と証明すべき事実との関係を具体的に示す必要がある(同規則189条1項)。
- 法廷外で作られた書面は、相手方の同意を経て証拠になるのが原則である(刑事訴訟法326条1項)。
- 同意が得られなければ、書いた人に法廷で話してもらう形に切り替わることがある。
- 書面は要点を告げる方法で扱われることもあり、長さがそのまま伝わるわけではない。
- 準備の締切は判決ではなく、証拠調べの請求の時点にある。
- 数をそろえることではなく、示したい事情に対して過不足がないことが目安になる。
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