略式起訴・罰金・執行猶予・実刑の違い|風俗トラブルで想定される処分

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

 風俗店でのトラブルが警察沙汰になったとき、多くの方が最初に知りたいのは「自分はどうなるのか」という一点だと思います。ところが調べ始めると、「略式起訴」「罰金」「執行猶予」「実刑」といった言葉が並列で出てきて、かえって全体像がつかみにくくなります。

 これらは同じレベルの選択肢ではありません。決まる段階も、決める人も、意味するものも違います。この記事では、性風俗の利用中に起きたトラブルを念頭に、処分がどの順番で分かれていくのか、そしてどの罪でどの処分があり得るのかを整理します。

 なお、個別の見通しは事案の内容によって大きく変わります。ここでの記載は一般的な仕組みの説明であり、特定の結果をお約束するものではありません。

処分は「二段階」で決まる

 刑事事件の処分は、大きく二段階で決まります。

第一段階:検察官がどう扱うかを決める(終局処分)

  • 不起訴(嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予など)……刑事裁判にならず、刑罰も科されない
  • 略式命令の請求(略式起訴)……書面審理で罰金・科料を求める
  • 公判請求(正式起訴)……公開の法廷での裁判を求める
  • このほか、一定の事件では即決裁判手続の申立てという選択肢もあります

第二段階:起訴された場合に、裁判所が刑を決める

  • 略式命令 → 罰金または科料
  • 公判 → 無罪/罰金/執行猶予付きの拘禁刑/実刑

 つまり「略式起訴」は手続の名前、「罰金」「執行猶予」「実刑」は刑やその執行方法の話です。並べて比べるものというより、上流から下流に向かって枝分かれしていく関係と捉えると整理しやすくなります。

 参考までに、検察庁の公表資料によると、令和6年に検察庁が処理した人員の総数は78万2,735人で、このうち公判請求は8万287人でした(出典:検察庁「犯罪情勢」/令和7年版犯罪白書)。ただしこれは交通事件などを含む全体の数字であり、罪名によって傾向は大きく異なります。ご自身の事案に当てはめて考える数字ではない点にご注意ください。

 ※2025年6月1日施行の改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されています。本記事も拘禁刑の表記で統一します。

4つの言葉の違いを整理する


略式起訴(略式命令)罰金(正式裁判)執行猶予付き判決実刑判決
決まる場面起訴と同時に書面審理公開の法廷公開の法廷公開の法廷
出頭不要必要必要必要
本人の同意必要不要不要不要
科される刑100万円以下の罰金・科料罰金拘禁刑(執行猶予)拘禁刑(服役)
刑務所入らない入らない直ちには入らない収容される
前科つくつくつくつく

 見落とされがちなのは、罰金も執行猶予も「有罪判決」であり、前科がつくという点です。「裁判所に行かずに終わった」「刑務所に入らずに済んだ」ことと、記録が残らないこととは別の話です。前科・前歴の詳細は、別記事「前科と前歴の違い|風俗の性犯罪で不起訴でも残るもの」で扱っています。

【核心】略式で終わるかどうかは「その罪に罰金刑があるか」でほぼ決まる

 風俗トラブルの相談で最も誤解が多いのがここです。

 略式手続で科せるのは100万円以下の罰金または科料に限られます(刑事訴訟法461条)。さらに、検察官はあらかじめ手続の説明をしたうえで、本人に異議がないかを確かめなければなりません(同法461条の2)。

 裏を返すと、そもそも罰金刑が定められていない罪は、略式にできません。起訴されれば公開の法廷での裁判になります。風俗トラブルで問題になりやすい罪を並べると、この差がはっきりします。

罪名法定刑罰金刑略式の余地
不同意わいせつ罪(刑法176条)6月以上10年以下の拘禁刑なしなし
不同意性交等罪(刑法177条)5年以上の有期拘禁刑なしなし
性的姿態等撮影罪(いわゆる撮影罪)3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金ありあり(100万円まで)
東京都迷惑防止条例違反(盗撮)1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(常習は2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)ありあり
建造物侵入罪(刑法130条)3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金ありあり
公然わいせつ罪(刑法174条)(6月以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留・科料ありあり
児童買春(児童ポルノ禁止法4条)5年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金ありあり

 施術中に相手の身体に触れてしまったケースや、本番行為をめぐって同意が争われるケースは、条例違反ではなく刑法176条・177条の問題として扱われることがあります。この二つには罰金刑がありません。「罰金で終わるのではないか」という前提で考えていると、見通しを大きく取り違えるおそれがあります。

 一方で、盗撮や建造物侵入は罰金刑が用意されているため、事案の内容によっては略式命令にとどまる余地があります。ただし略式で出せるのは100万円までですので、それ以上が相当と判断されれば公判に移ります。

 なお、成人同士の合意による本番行為そのものについては、売春防止法に客側を処罰する規定がありません。分かれ目になるのは相手の年齢と同意の有無です。この点は「本番があった場合、処罰されるのは誰か」で詳しく整理しています。

略式起訴に同意するかを聞かれたら

 取調べの場で、検察官から略式手続への同意書にサインを求められることがあります。判断する前に、次の3点を確認してください。

  • 同意は「事実を争わない」という意思表示になります。言い分がある、事実関係に食い違いがある場合に安易に同意すると、それを述べる場がないまま処分が確定します。
  • 略式命令が確定すれば前科になります。告知を受けた日から14日以内は正式裁判を請求できますが(刑事訴訟法465条1項)、一度同意した事件を後から覆すのは容易ではありません。
  • 不起訴を目指す余地が残っていないかを検討する。前科を避けたい場合、狙うべきは処分が決まる前の段階です。

執行猶予と実刑を分けるもの

 公判請求されて有罪となった場合、次の関心は執行猶予がつくかどうかです。

 執行猶予は、言い渡す刑が3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金であること、そして前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない(または執行終了などから5年以内に拘禁刑以上に処せられていない)ことが条件とされています(刑法25条1項)。猶予期間は1年以上5年以下で、期間を経過すれば刑の言渡しは効力を失います(同法27条)。

 執行猶予中の再犯などについては、2025年6月1日施行の改正により、再度の執行猶予を言い渡せる範囲が「1年以下」から「2年以下の拘禁刑」に広がりました(同法25条2項)。ただし「情状に特に酌量すべきものがあるとき」に限られ、ハードルが高いことに変わりはありません。

 ここでも風俗事案には固有の事情があります。不同意性交等罪の法定刑は5年以上の拘禁刑ですから、そのままでは執行猶予の対象である「3年以下」に届きません。酌量減軽などが認められて初めて猶予の枠に入る余地が生じる、という構造になっています。

 実務で考慮されやすいのは、被害の内容と程度、示談や被害弁償の有無とその内容(許す旨の条項が入っているか)、常習性や余罪、前科の有無、再発防止のための環境が整っているか、といった事情です。示談が成立していれば必ず猶予がつくというものではありませんが、判断材料の一つになります。

 なお、事案が明白かつ軽微で本人の同意がある一定の事件では、即決裁判手続が用いられることがあります。この手続で拘禁刑を言い渡すときは執行猶予を付さなければならないとされています(刑事訴訟法350条の29)。ただし対象事件が限られ(同法350条の16)、事実誤認を理由とする控訴が制限されるなど、選択にあたって検討すべき点があります。

「罰金で終わった」あとに残るもの

 罰金は納付すれば刑の執行は終わります。もっとも、いくつか押さえておきたい点があります。

  • 納付できない場合は労役場に留置されることがあります(刑法18条)。原則は一括納付ですが、事情がある場合は検察庁の徴収担当へ相談すると、期限の延長や分割が認められることがあります。
  • 身体拘束の影響は処分の軽重と別です。逮捕から勾留まで最長23日、公判請求された場合はその後も身体拘束が続き、釈放には保釈の手続が必要になります。欠勤が長期化すれば、処分の内容にかかわらず勤務先への影響が生じ得ます。
  • 店やキャストからの金銭請求は民事の話で、刑事処分とは別のレイヤーです。刑事手続が終わっても請求が続くことはありますし、逆に請求書に書かれた金額がそのまま支払義務になるわけでもありません。

処分が決まる前にできること・避けたいこと

やっておきたいこと

  • 出来事を時系列で書き出す(あいまいな部分は「あいまい」と正確に)
  • 予約履歴やメッセージなどの記録を消さない
  • 示談を検討する場合は、捜査機関を通じた連絡や弁護士を介した交渉を前提にする
  • 生活・就労環境の立て直しなど、再発防止につながる事情を整理する
  • 処分が決まる前の段階で弁護士に相談する

避けたいこと

  • その場で請求額を支払う、内容を確認しないまま書面にサインする
  • データを削除する(復元されるうえ、証拠隠滅と評価されるおそれがあります)
  • 相手方や店へ直接連絡・謝罪をする
  • 連絡を無視し続ける(逃亡や罪証隠滅のおそれの評価に影響します)
  • 記憶があいまいなまま断定的に供述する

まとめ

  • 処分は「検察官の終局処分」→「裁判所の判断」の二段階で決まる
  • 略式起訴は手続の名前、罰金・執行猶予・実刑は刑とその執行方法の話
  • 略式で終わるかどうかは、その罪に罰金刑が定められているかでほぼ決まる
  • 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪には罰金刑がなく、起訴されれば公判になる
  • 罰金でも執行猶予でも前科はつく。前科を避けたいなら、処分が決まる前が分岐点

 「自分の事案がどの分岐に乗っているのか」は、罪名と事実関係が分かって初めて見えてきます。見通しがつかないまま同意書へのサインを求められている段階でも、判断材料を整理することはできます。ひとりで抱え込まず、早い段階でご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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