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「起訴された」と告げられた段階で、多くの方が最初に調べるのが執行猶予の有無です。不同意性交等罪について検索すると、原則として執行猶予はつかない、という説明が並びます。これは法定刑の下限が5年であることから導かれる説明ですが、なぜ5年という数字が執行猶予と結びつくのか、どういう場合に例外が生じるのかまで書かれているものは多くありません。
この記事では、風俗店の利用をめぐって不同意性交等罪の疑いをかけられている方に向けて、5年以上という法定刑と、3年以下という執行猶予の枠が、減軽という仕組みでどうつながっているのかを条文の順序に沿って整理します。数字の当てはめだけで結論が決まるわけではありませんが、どこで何が決まるのかが分かると、弁護人と話す際の見通しは立てやすくなります。
この記事の射程
- 成人同士のやり取りを前提としています。相手が18歳未満の場合は別の法律が重なり、枠組みそのものが変わります
- すでに逮捕・起訴されている場合は、事件ごとの事情で結論が大きく変わります。実際の見通しは記録を見た弁護人に確認してください
- 事実関係を争う方法や、話の組み立て方をお伝えする趣旨ではありません
- 一般的な整理であり、特定の結果を保証するものではありません
起訴された時点で決まっていること、決まっていないこと
起訴とは、検察官が裁判所に対して刑事裁判を求める手続です。不同意性交等罪には罰金刑が定められていないため、書面のやり取りだけで罰金を納めて終わる略式命令の形はとれず、起訴されれば法廷での審理に進みます。
この時点で決まっているのは、どの罪名で審理されるかという枠です。有罪か無罪か、有罪だとしてどの重さの刑になるかは、これから審理して決まります。起訴されたことと有罪であることは同じではありません。
身体拘束の扱いも変わります。起訴後は起訴後勾留に切り替わり、保釈を請求できるようになります。もっとも、短期1年以上の拘禁刑に当たる罪は権利として保釈が認められる場合から外されており(刑事訴訟法89条1号)、不同意性交等罪はこれに当たるため、裁判所の裁量による判断になります。
なお、いったん起訴された事件が不起訴に戻る制度はありません。制度としては第一審判決までの公訴の取消しが定められていますが(刑事訴訟法257条)、起訴前に不起訴を目指す局面とは場面が異なります。処分前と起訴後では、できることの中身が入れ替わると考えたほうが実態に近いといえます。
刑は三段階で決まる
判決の刑がどう決まるのかは、次の三つの段階に分けて考えると整理しやすくなります。
| 段階 | 意味 | 不同意性交等罪の場合 |
|---|---|---|
| 法定刑 | 条文が定めている刑の幅 | 5年以上20年以下の拘禁刑 |
| 処断刑 | 加重・減軽を経た後の幅 | 減軽がなければ法定刑と同じ |
| 宣告刑 | 判決で言い渡される具体的な刑 | 処断刑の幅の中から決まる |
執行猶予の話は、いちばん最後の宣告刑が3年以下に収まるかどうかにかかっています。逆にいえば、処断刑の下限が3年を超えている限り、どれほど有利な事情があっても宣告刑は3年以下になりません。ここが「原則として執行猶予はつかない」と説明される理由です。
3年以下という枠
刑の全部の執行猶予は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の言渡しを受けたときに、情状により、裁判確定の日から1年以上5年以下の期間で付けることができるとされています(刑法25条1項)。
不同意性交等罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑で、有期拘禁刑の上限は20年です(刑法12条1項、177条)。処断刑がそのままであれば、宣告刑の下限は5年となり、3年以下という枠には届きません。5年と3年の間にある差が、そのまま執行猶予との距離になっています。
執行猶予は刑が消える制度ではない
執行猶予がついた場合でも、有罪判決であることは実刑と変わりません。猶予期間を取り消されることなく経過したときに刑の言渡しが効力を失う仕組みであり(刑法27条1項)、期間中に新たな罪を犯すなど一定の場合には取り消されます(刑法26条、26条の2)。保護観察が付されることもあります(刑法25条の2)。
なお、刑の一部の執行猶予という制度もありますが、こちらも3年以下の拘禁刑の言渡しを受けた場合が入口です(刑法27条の2第1項)。3年という天井は共通しています。
減軽には二つの入口がある
処断刑の下限を動かすのが減軽です。減軽には、条文に事由が書かれている法律上の減軽と、裁判所が情状を踏まえて行う酌量減軽の二つがあります。
| 区分 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 法律上の減軽 | 刑法43条本文 | 実行に着手して遂げなかったとき(未遂) |
| 法律上の減軽 | 刑法43条ただし書 | 自己の意思により中止したとき(減軽または免除) |
| 法律上の減軽 | 刑法42条1項 | 発覚前の自首 |
| 法律上の減軽 | 刑法63条 | 従犯(幇助) |
| 法律上の減軽 | 刑法39条2項 | 心神耗弱 |
| 酌量減軽 | 刑法66条 | 犯罪の情状に酌量すべきものがあるとき |
減軽すると幅が半分になる
有期拘禁刑を減軽するときは、長期および短期の2分の1を減じるとされています(刑法68条3号)。酌量減軽もこの例によります(刑法71条)。
不同意性交等罪の5年以上20年以下という枠に1回の減軽を当てはめると、2年6月以上10年以下になります。下限が3年を下回るため、ここで初めて執行猶予の枠に届き得る状態になります。
減軽は重ねられる場合がある
条文は、法律上の減軽事由が一個あるときも二個以上あるときも同じ扱いとしています(刑法68条柱書)。つまり、未遂と自首が両方あっても、法律上の減軽としては1回です。
一方で、法律上の減軽をする場合であっても、これと重ねて酌量減軽をすることができるとされています(刑法67条)。法律上の減軽と酌量減軽が重なれば減軽は2回となり、2年6月以上10年以下がさらに半分になって、1年3月以上5年以下という幅になります。減軽が1回か2回かで、枠の位置はかなり変わります。
「減軽する」ではなく「減軽することができる」
条文の語尾にも注意が必要です。未遂も自首も酌量減軽も、いずれも減軽することが「できる」という書き方で、するかどうかは裁判所の判断に委ねられています。事由があれば当然に下限が下がるわけではありません。自己の意思による中止だけが、減軽または免除をするものとして別扱いになっています。
減軽されても執行猶予になるとは限らない
ここが誤解されやすい部分です。減軽は下限を下げるだけで、執行猶予そのものを決めるものではありません。判決までには、少なくとも次の三つの段階があります。
- 減軽をするかどうかが判断される
- 減軽後の幅(たとえば2年6月以上10年以下)の中で、宣告刑が3年以下に決まるかどうかが判断される
- 3年以下に決まった場合に、刑法25条1項の要件を満たし、情状により猶予が相当と判断されるかどうかが判断される
三つ目の要件には前科の有無が関係します。整理すると次のとおりです。
| 前科の状況 | 条文 | 扱い |
|---|---|---|
| 拘禁刑以上の刑を受けたことがない | 25条1項1号 | 全部執行猶予の対象になり得る |
| 拘禁刑以上の刑を受けたが、執行終了等から5年以内に拘禁刑以上の刑を受けていない | 25条1項2号 | 全部執行猶予の対象になり得る |
| 全部執行猶予中である | 25条2項 | 2年以下の拘禁刑で情状に特に酌量すべきものがあるときに限られる |
つまり、減軽されて3年以下の刑が見えてきたとしても、前科の状況によっては、その入口自体が閉じていることがあります。逆に前科がなくても、それだけで猶予が決まるわけでもありません。
罪名が変われば枠も変わる
起訴された罪名によって出発点となる枠が違います。同じ場面から派生する罪でも、下限の差はそのまま結論の差になります。
| 罪名 | 法定刑 | 減軽1回後の下限 |
|---|---|---|
| 不同意わいせつ罪(176条) | 6月以上10年以下の拘禁刑 | 3月 |
| 不同意性交等罪(177条) | 5年以上20年以下の拘禁刑 | 2年6月 |
| 不同意わいせつ等致傷罪(181条1項) | 無期または3年以上の拘禁刑 | 1年6月 |
| 不同意性交等致傷罪(181条2項) | 無期または6年以上の拘禁刑 | 3年 |
不同意わいせつ罪は下限が6月であるため、減軽がなくても3年以下の枠に入り得ます。これに対して不同意性交等罪は減軽を経なければ枠に届かず、致傷が加わると減軽を1回経てもちょうど3年が下限になります。ケガの主張が出ているかどうかで見通しが変わるのはこのためです。致傷の争い方については、診断書の読み方を扱った別のコラムで整理しています。
未遂の場合も、法定刑の枠そのものは既遂と同じで、減軽によって位置が変わるという構造です。また、住居侵入などほかの罪と一緒に処断される場合の併合罪加重は、上限を引き上げる仕組みであり、下限を下げるものではありません。
判決で見られる事情
減軽をするかどうかも、宣告刑をどこに置くかも、猶予を付けるかどうかも、条文上は「情状」という言葉で括られています。実際に検討されるのは、大きく次の二つの層です。
- 行為そのものに関する事情。経緯、態様、当事者の関係、被害の内容と程度、計画性の有無など
- その他の事情。前科前歴、被害弁償や示談の有無と相手方の意向、就労や家族の状況、再発を防ぐための取り組み、供述の一貫性など
被害弁償や示談は有利な事情の一つとして扱われますが、成立すれば当然に猶予がつくというものでも、成立しなければそこで終わりというものでもありません。示談の進め方や、店への支払いと相手方本人への弁償が別の話であることについては、それぞれ別のコラムで扱っています。
統計の数字の読み方
この分野では、執行猶予率や量刑の分布といった数字が紹介されることがあります。参考にはなりますが、次の点は押さえておいたほうがよいと思われます。
- 統計は集計であって、目の前の事件がその割合で決まるという意味ではありません
- 罪名が改正されている領域では、集計の対象が現在の罪名と一致していないことがあります
- 一つの罪名の中に、事情の異なる事件が幅広く含まれています
「初犯だから」「同意があると思っていたから」といった一つの事情で枠が動くわけではなく、複数の事情が合わさって判断されます。数字は目安として扱い、自分の事件の見通しは記録に基づいて確認するのが安全です。
起訴された後にできること、避けたほうがよいこと
- 弁護人と、事実関係のどこを認めどこを争うのかを早い段階で確認する
- やり取りの記録や支払いの記録など、手元にある資料を整理して渡す
- 生活面や就労面で説明できる状況を作っておく
- 期日の準備や、聞かれることの整理を弁護人と進める
- 金銭のやり取りの窓口を一本化する
- 相手方や関係者に自分から直接連絡する
- やり取りの記録を削除する
- 事件について投稿したり、周囲に説明して回る
- その場の判断で説明を変える
- 連絡が途絶えたことを理由に、何も起きていないと考えて放置する
まとめ
- 不同意性交等罪には罰金刑がなく、起訴されれば法廷での審理に進みます
- 刑は、法定刑、処断刑、宣告刑の三段階で決まります
- 全部の執行猶予は3年以下の拘禁刑などの言渡しが入口で、一部の執行猶予も同じ3年が天井です
- 法定刑の下限が5年であるため、減軽がなければ執行猶予の枠には届きません
- 減軽すると長期と短期が半分になり、1回で2年6月以上10年以下になります
- 法律上の減軽事由が複数あっても減軽は1回ですが、酌量減軽を重ねられる場合があります
- 減軽は下限を下げるだけで、3年以下に決まるか、猶予が相当と判断されるかは別の段階です
- 前科の状況によっては、25条1項の入口自体が閉じていることがあります
- 罪名が一つ変わるだけで枠が変わり、致傷が加わると位置が大きく動きます
- 統計上の割合は、目の前の事件の見通しとは別のものです
早く動けば良い結果が保証されるわけではありません。ただ、どの段階で何が決まるのかが分かっていれば、まだ選べるものが残っているうちに選ぶことはできます。すでに呼び出しや起訴の連絡を受けている場合は、記録を持参して早めに相談されることをおすすめします。


