相談に家族や知人を同席させてよいか|同席が与える影響
複数の事務所に相談すること自体は、妨げられていない
弁護士に相談しようと考えたとき、「一つの事務所に相談したら、そこに頼まなければならないのではないか」「他の事務所にも同じ話をするのは失礼にあたるのではないか」と迷う方は少なくありません。実際、弁護士に質問できる掲示板には、同じ趣旨の問いが数多く寄せられています。
同じ問題について複数の法律事務所に相談することを禁じる決まりはありません。相談は、その場で助言を受けるところまでの行為であり、依頼の約束ではないからです。相談と依頼がどう違うのかは別の記事で扱っていますので、ここでは前提として置いておきます。
弁護士の側にも「妨げない」という取決めがある
むしろ、弁護士の職務上の取決めには、受任している事件について、依頼者が他の弁護士に依頼をしようとするときは、正当な理由なく、これを妨げてはならないという条項が置かれています。すでに依頼を受けている場面についての定めですから、まだどこにも依頼していない段階であれば、他をあたること自体が問題になる場面はいっそう考えにくいということになります。
ですから「複数に相談してよいか」という問いへの答えは「よい」です。ただ、そこで終わってしまうと実際の役には立ちません。考えるべきは、何のために複数にあたるのかと、どうあたれば比べられる材料が手に入るのかです。
「複数に相談する」には、性質の違う三つの型がある
同じ「複数に相談する」でも、置かれている段階によって、できることと気をつけることがかなり変わります。まず三つに分けておくと、以降の話が整理しやすくなります。
| 型 | どの段階か | 主に確かめたいこと |
|---|---|---|
| A 相見積もり型 | まだどこにも依頼していない | どこに頼むか |
| B セカンドオピニオン型 | すでにどこかに依頼している | いまの進め方でよいか |
| C 同時依頼型 | 同じ事件を複数の弁護士に頼む | 体制をどう組むか |
解説記事では、AとBが混ざって書かれていることがよくあります。しかし、この二つは相談で得られるものも、気をつける点も違います。以下ではAを中心に置き、そのうえでBとCにも触れます。
相見積もりで比べているのは、金額ではなく前提
相見積もりというと、同じ商品の値札を見比べる作業を思い浮かべがちです。弁護士費用の場合は、そこが少し違います。
金額の差は、多くが「値段の差」ではない
弁護士費用は事務所ごとに定められており、統一された価格表はありません。そのため金額に違いが出るのはむしろ当然なのですが、その差の大きな部分は「高い・安い」ではなく、次の三つから生まれています。
- 引き受ける範囲の差。交渉までなのか、裁判まで含むのか、書面の作成だけなのか
- 段階の切り方の差。どこまでを一つの事件として数え、どこから別に費用が生じるのか
- 基準の置き方の差。報酬をどの金額を基準に計算し、その基準をいつの時点で見るのか
この三つが揃っていない見積りを横に並べても、比べているようで比べられていません。金額だけを並べると、範囲を広く見積もった事務所が高く見え、狭く見積もった事務所が安く見える、という逆転が起こります。
相場と照らし合わせても答えは出にくい
インターネット上には分野ごとの金額の目安が流通していますが、出所の異なる数字が混在しています。相場との比較で決めようとするより、同じ条件で出してもらった複数の見積りを、条件ごと見比べるほうが判断材料になります。流通している目安がどこから来ているのかは、別の記事で整理しています。
同じ土俵に載せるために、こちらから先に揃えておく四点
見積りは、こちらが渡した情報の上に立って作られます。渡す情報が事務所ごとに違えば、返ってくる金額は「別々の質問への答え」になります。相談に行く前に、次の四点を自分の言葉で決めておくと、比べられる形の回答が返ってきやすくなります。
- どこまでを頼みたいのか。相手に通知を出すところまでか、交渉の窓口を任せたいのか、まとまらなければ裁判まで見据えるのか
- 何を実現したいのか、そして譲れない条件は何か。金額なのか、早く終わることなのか、相手と直接やり取りせずに済むことなのか
- いつまでに決着させたいのか。期限が決まっているものがあれば、それも伝える
- 手元にどの資料があるのか。契約書、やり取りの記録、届いている書面など、いま出せるものの範囲
この四点をメモ一枚にまとめ、どの事務所にも同じものを見せる形にしておくと、条件が揃います。経緯を時系列でまとめる方法については、別の記事で扱っています。
見積書は、申し出て初めて作られることがある
弁護士の報酬についての取決めでは、法律事務を依頼しようとする者から申出があったときは、報酬見積書の作成と交付に努めるとされています。裏を返せば、黙っていれば口頭の説明だけで終わることもあるということです。書面で比べたいのであれば、こちらから「お見積りをいただけますか」と申し出て構いません。受け取った見積書のどこを読むかについては、別の記事で項目を挙げています。
複数にあたることの、見落とされやすい副作用
複数に相談することには利点がありますが、代償もあります。あらかじめ知っておくと、どこまで回るかの判断がしやすくなります。
期限は動かない
相談を重ねている間も、時効の期間や、届いた書面に付いている回答期限は進みます。急ぐ事情がある場合は、比べること自体が目的にならないよう、先に期限を確かめておきたいところです。
相談料は都度かかることが多い
初回無料の枠を設けている事務所もありますが、無料の範囲は事務所ごとに異なります。複数回れば、その分の費用と移動の時間がかかります。
相談した事務所は、相手方の依頼を受けにくくなる
弁護士は、相手方から相談を受けて助言をした事件について、その反対側の依頼を受けることができません。この仕組みは、先に相談した側から見れば「その事務所が相手方につくことはない」という効果を持ちます。
もっとも、これは相手方から見ても同じです。自分が「ここに頼みたい」と考えていた事務所に、相手方が先に相談していて受けてもらえない、ということも起こります。
なお、相手方が弁護士を頼めないようにする目的で、形だけの相談を何件も入れるという使い方は、制度が想定しているものではありません。この場面の条文が「協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」という限定を置いているのは、そうした使い方を防ぐためだと説明されています。実質を伴わない相談は、そもそも守られる対象にならないと考えられます。
情報が増えるほど、迷いが増えることがある
二人目、三人目と回るうちに見解が分かれ、かえって決められなくなることがあります。次の章はそこへの備えです。
意見が割れたとき、「どこが」割れているのかを見る
複数に相談すると、見通しや進め方について違う答えが返ってくることがあります。このとき「どちらが正しいのか」と考えると行き詰まります。割れている場所を先に特定するほうが早く進みます。
| 割れ方 | 起きている差 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 前提の差 | 伝えた事実や見せた資料の範囲が違う | 同じ資料を見せて聞き直す |
| 幅の置き方の差 | 控えめに言うか、幅で示すか | 「最も悪い場合はどうなるか」を両方に聞く |
| 目標の差 | 早く終わることを重く見るか、金額を重く見るか | 自分がどちらを望むかを決める |
| 手続の差 | 交渉から入るか、先に法的手続をとるか | それぞれの利点と負担を聞く |
このうち、前提の差であれば、材料を揃えれば意見は近づきます。目標の差は、弁護士の優劣ではなく自分が何を望むかの問題です。ここを取り違えると、いつまでも「もっと良い答え」を探し続けることになります。
また、見通しについては、弁護士が依頼者に有利な結果を請け合ってはならないという取決めがあります。言い切らない説明が不誠実だとは限らず、幅をもって示すこと自体が説明の作法である場合もあります。
二人目以降の相談を無駄にしないために
渡す材料を同じにする
一人目には見せた資料を二人目には見せなかった、という状態だと、意見の違いが材料の差から来ているのか、判断の差から来ているのか分からなくなります。持参する資料の一式と、経緯をまとめたメモは、同じものを使い回すのが合理的です。
「他にも相談している」ことは先に伝えてよい
他の事務所にも相談していると伝えることは、失礼にはあたりません。むしろ、依頼先を検討している段階だと分かれば、説明の仕方も変わります。すでに聞いた話を一から繰り返される、という無駄も減らせます。
前に聞いた意見の「中身」は、あとから出す
一方で、最初に「前の先生はこう言っていました」と結論まで伝えてしまうと、その枠組みの中で話が進みやすくなります。順序としては、他にも相談していることは先に伝え、前に聞いた見通しの中身は、こちらの事案についてひととおりの説明を受けたあとに出すという形が、二つの意見を独立したものとして得やすくなります。
なお、前の事務所の対応が適切だったかどうかを評価してもらう場ではない、という点は押さえておきたいところです。相談の場での断り方や、感じた違和感の整理の仕方については、別の記事で扱っています。
二人目に聞くのは、一人目と同じ質問ではない
一人目でひととおりの説明を受けているなら、二人目では差が出そうなところに時間を使えます。取りうる手段の選び方、費用の設計、連絡や報告の頻度など、事務所ごとに判断が分かれやすい部分です。相談で確認したい項目そのものは、別の記事に一覧を用意しています。
すでに依頼している場合(Bの型)
依頼したあとに進め方への疑問が出てきたとき、別の弁護士の意見を聞くことはできます。冒頭で触れたとおり、弁護士の側には、依頼者が他の弁護士に依頼しようとするのを正当な理由なく妨げてはならないという取決めがあります。
ただし、二人目の手元には材料がない
進行中の事件では、相手方から届いた書面やこれまでの経過の記録が、依頼している弁護士の手元にあります。口頭の説明だけでは、二人目は一般論にとどまらざるを得ないことがあります。意見を求めるのであれば、手元にある書面の写しを揃えて持参するほうが、実のある回答につながります。
二人目が手続に入るとは限らない
弁護士には、他の弁護士が受任している事件に不当に介入してはならないという取決めもあります。そのため、意見は述べても、進行中の事件の中身への関与は控える、という対応になることがあります。素っ気なく見えることもありますが、依頼者の利益を守るための枠組みでもあります。
乗り換えるには整理が要る
二人目にそのまま依頼したい場合、同じ事件について委任関係が重なる状態は通常避けられます。先にいまの委任関係を整理するのが一般的で、すでに支払った着手金は原則として戻らないため、費用が重なりやすくなります。着手金の性質については別の記事で説明しています。
順序としては、他をあたる前に、まず依頼している弁護士に疑問をそのまま伝えてみるという段階があります。事件の経過や見通しについて報告と協議を求めることは、依頼者の側から言って差し支えありません。
同じ事件を複数の弁護士に頼む場合(Cの型)
同じ事件に複数の弁護士が代理人として付くこと自体は、珍しいことではありません。争点が多い事件や、分野をまたぐ事件では、そうした形が選ばれることもあります。
注意点は主に三つです。一つは費用で、原則として人数分の報酬が生じます。二つ目は窓口で、誰に連絡すればよいのかを最初に決めておかないと、やり取りが二重になります。
三つ目は見落とされがちです。同じ事件を受けている弁護士の間で処理の方針について意見が一致せず、それによって依頼者に不利益が及ぶおそれがあるときは、その事情を依頼者に説明しなければならないという取決めがあります。裏を返せば、複数に頼めば意見が分かれる場面が生じ得るということでもあります。人数を増やすこと自体が結果を良くする、という単純な話ではありません。
窓口によって、相談できる回数が変わる
複数の意見を聞きたい場合、どの窓口を使うかで回数の制約が変わります。
- 法テラスの無料相談は、同一の問題について三回までとされ、回数の範囲内であれば別の弁護士に相談することもできるとされています
- 自治体の無料相談は、同一内容については同一年度内に一回までという運用が多く、二回目は別の窓口を探すことになります
- 弁護士会の相談センターは収入の条件がありませんが、一般の相談は有料が原則です
- 法律事務所の初回無料は、無料となる範囲や時間が事務所ごとに異なります
窓口によっては、相談を担当した弁護士にそのまま依頼できない運用もあります。それぞれの違いは別の記事で整理しています。
どこで切り上げるか
何件回れば十分か、という決まった数はありません。回数ではなく、次のような状態になったときが切り上げどきの目安になります。
- 違う事務所から、同じ見通しと同じ進め方が返ってきたとき
- 意見が割れている理由が、事実の差ではなく「自分が何を望むか」の差だと分かったとき
- 期限が近づいていて、比べる時間よりも動く時間のほうが価値を持つとき
逆に、何件回っても決められないときは、決められない理由を言葉にしてみると整理がつくことがあります。費用が心配なのか、見通しに納得できないのか、任せること自体に迷いがあるのか。理由が分かれば、次に確かめることも決まります。
おわりに
複数の事務所に相談することは、後ろめたい行為ではありません。制度の側も、依頼者が別の弁護士に相談し、依頼先を選ぶことを前提に組み立てられています。
ただ、数を回るだけでは材料は増えません。頼みたい範囲と望む結果を先に決めること、同じ材料を持って行くこと、返ってきた答えの「どこが違うのか」を見ること。この三つを押さえておけば、二件でも十分な比較ができますし、五件回っても決められない、という事態も避けやすくなります。
当事務所へのご相談も、依頼先を検討している途中の段階でお受けしています。他の事務所と比べたうえで判断したい、という前提でお越しいただいて差し支えありません。


