費用倒れとは何か|依頼前に見分ける判断材料
法律相談を受けている途中で、「この弁護士とは合わないかもしれない」と感じることがあります。話の運び方が思っていたのと違う、聞いてほしかったところを飛ばされた気がする、言葉の選び方が引っかかる。理由をうまく言葉にできないまま、相談時間だけが進んでいくという状態です。
このとき困るのは、その場で「では、お願いします」と言うかどうかを決めなければならないような空気があることです。ここでは、まだ委任契約を結んでいない段階に絞って、その場で断ってよいのか、断るとしたらどう伝えるのか、そして「相性が合わない」と感じたものの中身をどう分けて考えるのかを整理します。
「相性が合わない」と感じたとき、決めることは二つ
今日決めることと、あとで決めること
この場面で決めることは、実は二つに分かれています。一つは今日この場で依頼するかどうか、もう一つはこの弁護士・この事務所と今後も付き合うかどうかです。
二つは別の問いですが、相談の終わり際には一つの問いとして目の前に現れます。「今日ここで決めなければ、この事務所とは終わりになる」と感じてしまうと、判断が急になります。実際には、今日の答えを「まだ決めていない」にしておくことができますし、今日断ったからといって、この事務所と二度と関われなくなるわけでもありません。
この記事が扱う段階
「合わないかもしれない」と感じる場面は、いくつかの段階に分かれます。段階が違えば、できることも変わります。
| 今いる段階 | その段階でできること | この記事で扱うか |
|---|---|---|
| 問い合わせ・予約から相談の前まで | 相談先を選び直す/予約を取り直す | 扱わない |
| 相談の場にいて、まだ委任契約を結んでいない | その場で依頼する/保留する/断る | この記事で扱う |
| 委任契約を結んだあと | 進め方の変更を求める/契約の終わり方を考える | 扱わない(別のテーマ) |
この記事が扱うのは、真ん中の段階だけです。弁護士の探し方でも、依頼したあとの担当変更でもなく、相談の終わり際という一点に絞ります。
その場で断ってよいのか
相談を受けたことは、依頼の約束ではない
結論から言えば、その場で断ることに問題はありません。相談と依頼がどう違うかは別のテーマなので詳しくは触れませんが、相談を受けたこと自体は、依頼を約束したことにはなりません。
相談を受け、相談料を支払えば、その日の関係はそこで完結します。断るために特別な手続が必要になることも、書面を出す必要があることもありません。
断る自由は、どちらの側にもある
見落とされがちですが、弁護士の側にも、依頼を受けるかどうかを決める仕組みがあります。依頼があったときは、受けるか受けないかを速やかに依頼者に知らせるという職務上の取決めもあります。
つまり、依頼が成立するのは双方が合意したときだけです。弁護士の側が「この件はお受けできません」と伝えることがあるのと同じように、相談した側が「今回は見送ります」と伝えることも、同じ性質のことだと考えて差し支えありません。
その場で決めなくてよい。ただし期限があるときは別
多くの場合、その日に決めなければ不利になるということはありません。ただし、期限が動いている事案では事情が変わります。裁判所から届いた書面に応答の期限がある場合、時効が近い場合、相手の財産が動きそうな場合などです。
このとき急ぐ必要があるのは、「この事務所に依頼するかどうか」ではなく「誰かに依頼するかどうか」のほうです。断るとしても、その期限を口に出しておくと、次に何をいつまでにすべきかを教えてもらえることがあります。
「相性」という言葉には、違うものがいくつも入っている
感じたことを六つに分けてみる
「相性が合わない」は、感じた瞬間には一つの塊です。しかし中身を開けてみると、性質の違うものが混ざっていることがほとんどです。
| 感じたこと | 言い換えると | その場で確かめられるか |
|---|---|---|
| 説明が分かりにくい | 情報の伝え方の噛み合わせ | 確かめられる |
| 話を聞いてもらえた気がしない | 聞き取りの順序の違い | 確かめられる |
| 連絡や進め方の感覚が合わなそう | 仕事の進め方の希望の違い | 確かめられる |
| 望んでいる結末と方針がずれる | 目標の置き方の違い | 確かめられる |
| 言い方や表情が気になる | 表現の受け取り方 | 確かめにくい |
| 費用・時間・担当者が合わない | 相性ではなく条件の問題 | 確かめられる |
分けると、判断できるものが残る
六つのうち五つは、その場で聞けば確かめられるものです。説明が分かりにくいなら「もう一度、順を追って教えてもらえますか」と言えますし、連絡の頻度は希望を伝えて調整できることがあります。費用や担当者は相性ではなく条件の問題で、条件は交渉の対象になります。
残るのは「言い方や表情が気になる」という一つです。これは確かめにくく、話し合っても変わらないことがあります。ただ、この一つだけを理由に見送ることも、判断としておかしなことではありません。長く付き合う相手なので、話しづらさが残ること自体が、伝えるべき事実を伝えにくくする原因になり得るからです。
相性の問題ではないことがある
一方で、「合わない」と感じたものの中に、相性とは別の理由から来ているものが混ざっていることがあります。ここを分けておかないと、事務所を変えても同じ場面が繰り返されます。
一 見通しが期待より低かった
弁護士には、依頼者に有利な結果を請け合ってはならない、見込みがないのに見込みがあるように装って受任してはならない、という職務上の取決めがあります。
そのため、言い切らない説明や、期待より控えめな見通しが示されることがあります。厳しいことを言われたという印象と、相性が合わないという判断は、いったん切り離して考えたほうが確かです。
二 希望した手段が使えないと言われた
期限が過ぎている、その手続の要件を満たさない、相手の状況から回収が見込みにくい。こうした説明は、弁護士の考え方ではなく制度の側から来ています。別の事務所で相談しても、同じ答えになることがあります。
三 その分野を扱っていないと言われた
これは適合の問題で、合う合わないの話ではありません。むしろ、扱っていないと早い段階で伝えてもらえたほうが、時間を無駄にせずに済みます。
四 話が途中で区切られた
限られた時間で判断に必要な事実を集めるために、こちらの話す順序を組み替えていることがあります。経緯を最初から順に話したい人にとっては、遮られたように感じる場面です。
気になったときは、その場で「まだ話していないことがあります」と伝えて構いません。伝えたうえでどう応じるかを見れば、進め方の違いなのか、聞く姿勢そのものなのかが分かります。
見分けるための一つの問い
迷ったときは、こう聞いてみる方法があります。「今のご説明は、私の事情から来ているものですか。それとも、制度の側の制約でしょうか」。
答えが制度の側であれば、事務所を変えても結論は大きく変わりにくいと考えられます。事情の側であれば、別の見方が出てくる余地があります。
断る前に、確かめてよい二つの問い
意見が合わないときは、どう進めますか
この問いへの答え方には、その弁護士の進め方の考え方が表れます。納得できるまで説明するという答え、別の方法を示すという答え、合わない理由を一緒に整理するという答え、その場合は辞退するという答え。どれが正しいというものではなく、自分がどれを望むかという話です。
連絡と報告は、どのくらいの頻度になりますか
依頼後の不満は、この点から生まれることが多くあります。進行中の報告や協議については職務上の取決めがありますが、頻度や方法は事件の性質や事務所によって異なります。希望があるなら、依頼を決める前に伝えておくほうが噛み合いやすくなります。
確かめても変わらなければ、そこで決めてよい
二つ聞いたうえで、それでも進みにくいと感じるなら、その感覚は根拠のあるものだと考えてよいと思います。相談は、相手を見きわめるための場でもあります。
その場での断り方
理由を説明する義務はない
「相性が合わないと思ったので」と言う必要はありません。伝えるのは、結論と、次にどうするかだけで足ります。理由を尋ねられることもありますが、答えたくなければ「まだ整理できていません」で構いません。
言い方の例
- 今日は相談だけにさせてください。持ち帰って考えます
- ほかにも相談する予定があるので、決めてからご連絡します
- 費用の点をもう一度整理したいので、いったん持ち帰ります
- 家族と話してから決めたいと思います
- 今回は見送らせてください。お時間をいただきありがとうございました
避けたいのは、連絡をしないまま放置すること
断り方として困るのは、返事をしないまま時間が過ぎることです。理由は三つあります。事務所の側が返事待ちの状態で日程を空けていることがあること。預けた資料が手元に戻らないこと。そして、期限のある事案では「誰かに依頼する」という判断そのものが止まってしまうことです。
断る連絡は、一行で足ります。「検討しましたが、今回は見送ります」だけでも、事務所の側は次に進めます。
相談料と資料の扱い
相談料は、依頼するかどうかとは関係なく、相談そのものに対して発生します。断ったから支払わなくてよくなるものでも、断ったから増えるものでもありません。
持参した資料は、その場で持ち帰ります。預けることになった場合は、いつ、どのような方法で返してもらうかをその場で決めておきます。原本を預けるときは特に重要です。
見積書や方針を書いた紙を受け取った場合は、返す必要はありません。自分の判断材料として手元に残しておくと、あとで比べるときに役立ちます。
その場で断る以外の選び方
断ると決めきれないときは、間の選択肢もあります。
- 保留する。「一週間以内にご連絡します」と自分から期限を示すと、双方が動きやすくなります
- 担当者や進め方の変更を相談する。複数の弁護士が在籍する事務所では、担当の組み替えができることがあります
- 別の事務所で二人目に会う。今日の相談で頭が整理されている分、二人目の相談は短く済むことが多くなります
二人目に会うときに気をつけたいこと
- 一人目と同じ事実を、同じ順序で伝える。話す内容が変わると、返ってくる見通しも変わります
- 前の弁護士の評価を求めない。答えにくい問いであるうえ、聞きたいはずの見立てから話がそれます
- 見通しが違ったときは、どこが違うのかを聞く。前提にしている事実が違うだけ、ということがあります
- すでに相談した事務所があることは、伝えても差し支えありません
断ったあとに起きること、起きないこと
起きないこと
断ったことを理由に不利益な扱いを受けることはありません。断った人として情報が他の事務所に回ることもありません。相談の内容についても、弁護士には秘密を守る義務があり、外に伝わることは想定されていません。
起きること
一方で、相談を受けたという事実自体は、その事務所に残ります。その結果として、その事務所は、同じ件について相手方からの相談や依頼を受けられなくなることがあります。これは断ったかどうかとは関係なく、相談した時点で生じるものです。仕組みの詳細は別のテーマになりますが、断ったことで何かが失われるわけではない、という点だけ押さえておけば足ります。
あとから同じ事務所に依頼することもできる
一度断ったから、もう頼めないということはありません。他をあたってみて考えが変わった、状況が動いて方針が変わったという理由で、後日あらためて連絡が来ることは珍しくありません。連絡するときに、断ったことを詫びる必要もありません。
窓口によって「断る」の意味が変わる
どこで相談したかによって、そもそも「その場で依頼する」という選択肢があるかどうかが変わります。
- 公的な費用援助の制度を使う無料相談では、決められた回数の範囲で別の弁護士に相談することができます。相談した弁護士に依頼しなければならない仕組みにはなっていません
- 弁護士会の紹介窓口は、紹介した弁護士がそのまま受任することを前提とした制度ではありません。紹介を受けたあとで依頼しないという選択も想定されています
- 自治体の相談窓口では、担当した弁護士にその場で依頼することができない運用が一般的です。断る断らない以前に、依頼は別の場で考えることになります
- 法律事務所での相談では、その場で依頼することもできますが、その日のうちに決めなければならない仕組みにはなっていません
すでに依頼している場合は、別の問題になる
委任契約を結んだあとに「合わない」と感じた場合は、断るかどうかの話ではなく、契約をどう続けるか、どう終えるかという話になります。
順序としては、まず不満の中身を具体的に伝え、次に進め方の変更を求め、それでも難しいときに契約の終わり方と精算を考える、という流れになります。すでに支払った費用の扱いや、資料と手続の引き継ぎが絡むため、相談前の段階とは判断の重さが違います。この点は別のテーマとして分けて考えたほうが整理しやすくなります。
おわりに
「相性が合わない」という感覚は、その場では一つの塊として現れます。しかし分けてみると、聞けば解けるもの、条件を変えれば済むもの、そして変わらないものに分かれます。変わらないものが残ったなら、その場で見送るという判断は、手続の上では特別なことではありません。
大切なのは、断らないことではなく、断ったうえで次に何をするかを自分で決めることです。相談は、答えをもらう場であると同時に、任せる相手を選ぶ場でもあります。合わないと感じたこと自体を、判断の材料の一つとして扱って構いません。


