「こんなことで相談していいのか」と迷っている人へ
暴力団やそれに近い立場の相手から金銭を求められた、脅すような言い方をされた。そういうとき、「警察に行くほどのことなのか」「弁護士に頼むような話なのか」と迷ったまま時間が過ぎてしまうことがあります。
その手前に置かれているのが、警視庁の「暴力ホットライン」と、各都道府県にある「暴力追放運動推進センター(暴追センター)」です。どちらも無料で、被害の形がはっきりする前の段階から使えます。
ただし、この2つは何でも引き受ける窓口ではありません。担っている役割と、担っていない役割がはっきり分かれています。そこを知らずにかけると、「相談したのに何も変わらなかった」という印象だけが残ってしまいます。この記事では、2つの窓口の位置づけ、実際に頼めること、どこから先は別の手段が必要になるのかを整理します。
性格の違う2つの窓口
並べて紹介されることが多い2つですが、立っている場所は違います。暴力ホットラインは警察組織の中にある専用電話で、暴追センターは法律に基づいて指定された民間の法人です。
| 項目 | 暴力ホットライン | 暴追センター |
|---|---|---|
| 運営主体 | 警視庁暴力団対策課(警察) | 公安委員会の指定を受けた公益法人 |
| 法的な位置づけ | 警察の相談受付 | 暴力団対策法32条の3 |
| 費用 | 無料 | 無料 |
| 受付 | 24時間(警視庁の案内) | 平日の日中 |
| 主な役割 | 被害や情報を警察が受ける | 助言、被害者の救援、関係機関への引継ぎ |
| 捜査・取締り | 警察として行う | 行わない |
この違いが、そのまま「何を頼めるか」の違いになります。
暴力ホットラインの使い方
どこにつながる電話か
警視庁の案内では、暴力ホットラインは暴力団対策課につながる24時間対応の電話で、番号は03-3580-2222です。同じような専用電話は各道府県警にも置かれていますが、名称も番号も異なります。東京以外にお住まいの方は、その県警のサイトで確認してください。
いま目の前で危険が生じている場合は、この番号ではなく110番です。ホットラインは、すでに起きたことや起きつつあることを警察に伝え、対応を相談するための窓口という位置づけになります。
伝えるのは評価ではなく事実
電話口で役に立つのは、「不当な要求をされている」という評価よりも、何があったのかという事実の並びです。次のような順序で話すと、警察の側も判断しやすくなります。
- いつ、どこで起きたか(日時・場所)
- 相手の名乗り方(組の名前、氏名、電話番号など、聞いた範囲のもの)
- 言われた言葉を、言い換えずそのまま
- 要求されている内容、金額、期限
- すでに払ったもの、書かされた書面があるか
- 残っている記録(録音、メッセージ、明細、写真など)
できること・できないこと
相談することで、刑事事件として扱える内容かどうかの検討、周辺の警戒、相手が指定暴力団員であれば暴力団対策法に基づく中止命令の検討といった道につながることがあります。
一方で、警察は支払義務があるかどうかを判断する機関ではありません。すでに渡したお金を取り返す手続や、相手との条件のやり取りを代わりに行うこともしません。また、相談すれば当然に立件される、命令が出るというものでもなく、そこは残っている記録の内容にも左右されます。
暴追センターはどういう組織か
暴力追放運動推進センターは、暴力団対策法32条の3に基づき、都道府県公安委員会が各都道府県に一つだけ指定する法人です。東京では公益財団法人 暴力団追放運動推進都民センター(暴追都民センター)が指定を受けています。
相談は無料で、助言を担当するのは「暴力追放相談委員」です。全国暴力追放運動推進センターの説明では、弁護士、少年指導委員、保護司、警察OBなど経験を持つ人が委員として置かれています。法律上も、相談事業における助言は相談委員に行わせなければならないとされています(同条3項)。
秘密の扱いについても定めがあります。同条7項は、センターの役員・職員・相談委員などが相談事業で知り得た秘密を漏らしてはならないと規定し、違反には罰則も置かれています。「相談したことが相手に伝わらないか」という不安に対して、制度の側で一定の手当てがされている部分です。
暴追センターに頼めること
助言と、次の窓口への引継ぎ
中心になるのは相談への助言です。法律は、住民から相談の申出があったときは相談に応じ、必要な助言をし、迅速かつ適切な解決に努めなければならないと定めています(32条の3第4項)。全国暴追センターの説明では、相談は相談室のほか電話やメールでも受け付けており、必要に応じて警察の援助や弁護士会などへの引継ぎが行われることもあるとされています。
「どこへ持っていけばよいか分からない」という段階で使える窓口だと考えると、位置づけがはっきりします。
見舞金と訴訟費用(東京の場合)
センターの事業には、被害者に対する見舞金の支給や民事訴訟の支援も含まれます(32条の3第2項9号)。ただし中身は都道府県ごとに異なります。
暴追都民センターが公表している内容では、暴力団員等から受けた傷害や器物損壊の被害に対する見舞金が10万円以内、暴力団員を相手方とする損害賠償請求などの訴訟費用の貸付が300万円以内とされています。
押さえておきたいのは、訴訟費用は貸付であって給付ではないという点と、見舞金の対象が傷害や器物損壊の被害とされており、脅されて支払ってしまった金額そのものを埋め合わせる制度ではないという点です。
暴力団事務所の使用差止め
近隣に暴力団事務所があるという相談には、専用の制度があります。国家公安委員会の認定を受けた「適格都道府県センター」は、付近住民から委託を受けて、自らが原告となって事務所の使用差止めを求める訴訟などを行うことができます(32条の4)。暴追都民センターは、平成25年2月28日にこの認定を受けたと公表しています。
この制度には、誤解されやすい点が3つあります。
- 名前が一切出ないわけではない。暴追都民センターの説明では、訴状の原告名はセンター代表者の氏名になり、委託した住民は代理権を授与した者として訴状に記載される
- 申し出れば当然に受託されるわけではない。同センターは、民事介入暴力を担当する弁護士などの意見を聞いたうえで委託を検討し、役員会で決定すると説明している
- 費用がかからないわけではない。法律はセンターが委託者に報酬を請求することを禁じているが(32条の4第4項)、同センターは訴訟に要した費用は委託した住民に請求すると説明している
そして、この制度が扱うのは事務所の使用であって、金銭被害の回収ではありません。
どこまでを担い、どこから担わないのか
2つの窓口を、警察の捜査や弁護士の活動と並べると、境目が見えやすくなります。
| 求めたいこと | 暴力ホットライン | 暴追センター | 弁護士 |
|---|---|---|---|
| いま起きている危険への対応 | 110番へ | 110番へ | 駆けつけない |
| 刑事事件として扱うかの検討 | 警察が判断 | 行わない | 告訴などの支援 |
| 中止命令などの行政上の措置 | 警察・公安委員会が判断 | 助言・引継ぎ | 申出の支援 |
| 支払義務があるかの判断 | 行わない | 一般的な助言まで | 行う |
| 相手との交渉の代理 | 行わない | 行わない | 行う |
| 支払った金銭の回収 | 行わない | 訴訟費用の貸付など | 請求手続を行う |
| 連絡の窓口を移す | 行わない | 行わない | 行う |
誤解が生まれやすいのは、相談したことと、要求が止まったことは別だという点です。相談は状況を整理して次の手を選ぶための入口であり、それ自体が相手への働きかけになるわけではありません。相手からの連絡を止める、支払義務がないという立場を相手に伝える、すでに渡した分の返還を求める。こうした対外的な動きは代理人としての権限が必要になる場面が多く、弁護士の役割になります。
時間の問題もあります。相談をしただけでは、損害賠償請求の時効の進行が止まるわけではありません。年数が経つほど選べる手段は狭くなりますので、相談と並行して意識しておきたいところです。
相手が暴力団員かどうか分からないとき
「本物かどうか確かめてからでないと相談できない」と考える必要はありません。見極めは相談を受ける側の仕事で、自分で素性を確かめに行くほうがリスクは大きくなります。
制度の面では、暴力団対策法の中止命令などは指定暴力団員を相手方とする仕組みで、いわゆる半グレや匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)はこの枠の外にあります。ただし、枠の外だから何もできないということではありません。脅迫罪や恐喝罪といった刑法上の問題や、民事上の請求は、相手の属性にかかわらず同じように成り立ち得ます。
窓口の側も広がっています。暴追都民センターは、令和5年6月1日付の定款変更で事業目的に準暴力団やその他の犯罪集団を加え、相談事業や見舞金・民事訴訟の救援活動をこれらに関わる事案にも及ぼしたと公表しています。
名前を出さずに情報だけ伝えたいとき
自分の被害としてではなく、知っている事実を伝えたいという場合には、匿名通報ダイヤル(0120-924-839)という制度もあります。警察庁の委託を受けた民間団体が匿名の通報を受け付けて警察に提供する仕組みで、受付は平日の10時から17時です。暴力団や匿名・流動型犯罪グループが関与する犯罪などが対象とされ、内容によって情報料が支払われる場合があります。
ただし、これは通報であって相談ではありません。いま自分が受けている被害について助言を受けたり、その後の経過の連絡を受けたりする窓口ではない点は、区別しておく必要があります。急を要するときは110番です。
電話の前に用意しておくと進みやすいもの
- 出来事を時系列に並べたメモ(日付・時刻・場所)
- 言われた言葉を、要約せずそのまま書き出したもの
- 相手について分かっていること(名乗った組名、氏名、電話番号など)
- 要求の内容、金額、期限
- すでに払った金額、書いた書面、渡した物
- 残っている記録(録音、メッセージ、明細、写真)
やり取りのメッセージは消さずに残してください。相手側から削除される場合もありますので、画面を撮影しておく、別の場所に控えておくといった形が役に立つことがあります。
避けたい対応
- その場で支払う、書面にサインする
- 一人で相手の事務所や相手が指定した場所へ出向く
- 自分で相手の素性を確かめようとする
- 同じような力を持つ人に間へ入ってもらう(指定暴力団員に暴力的要求行為を依頼することは暴力団対策法10条で禁じられています)
- 「これで最後だから」と考えて応じる
窓口は一つに絞らなくてよい
どこか一つを選ばなければならない決まりはありません。危険が差し迫っていれば110番、当面の危険はないが状況を整理したいという段階であれば暴追センターや暴力ホットライン、支払義務の有無や金銭の回収が問題になっているのであれば弁護士というように、同時に使って構いません。
弁護士に依頼した場合は、相手からの連絡先を自分から代理人へ移すことができます。相手と直接やり取りをしなくてよくなること自体が、負担を下げる意味を持つ場面もあります。当事務所でも、金銭の要求や脅しを受けている方からのご相談を承っています。窓口の使い分けを含めて、状況に合わせた進め方をご案内します。


