充電式バッテリーを内蔵したデバイスや機器の正しい使い方と寿命を延ばす5つの方法
これは実際にあった話です。それまでボヤっとしか光らなかった懐中電灯に強力な接点復活剤を使ったら、驚くほど明るくなったことがあります。そこでホームページに掲載したところ、それに驚いた人から「これって良くはなったけど、こんなに明るくなるということは電池が早くなくなってしまいますよね?」と言われたことがあります。
接触が悪くなった懐中電灯のスイッチや電池の接点に接点復活剤を塗ると接触不良が改善されて明るく光るようになります。しかし、中には接点復活剤を使ったけど効能書きにあるような改善はしなかったという人もかなりいるようです。
接点復活剤に関する誤解や間違いというのは多く、ネット上でもその効果について議論が尽きません。しかし、ちょっと考えればそう難しいことではありません。そもそも接触不良とは何かを理解していないことが誤解や間違いの原因になっています。
※ホームセンターで購入可能な接点復活剤
さて、そこでいきなり質問です。
「強力な接点復活剤を使うと電気の流れが良くなって懐中電灯の電池は早く消耗すると思いますか?」
それに関連してもう一つ、質問です。
「強力な接点復活剤を使用すると懐中電灯の性能が一段とアップすると思いますか?」
皆さんはどう思いますか?その答えを出す前に、接触不良について今回は詳しく解説します。
QandAで接点について理解しよう
以下の図は乾電池を使用してフィラメント電球を光らせる回路です。普通の懐中電灯と思っていただいても良いです。
ここで、質問です。
スイッチA(接点A)は電球を光らせるのに必要十分な接触面積(導通面積)がある正常な接点の状態とします。
※配線の太さは図示の便宜上細いですが、電気を通すのに十分な太さがあるものとします。
スイッチB、つまり接点Bは接点Aの2倍の接触面積を持つ接点スイッチとします。
問1.接点Aだけを接続した(Bは開放)場合の明るさを基準とした場合、接点Bのみを接続(Aは開放)すると電球の明るさはどのようになるでしょうか?次の3つの中から選んでください。
1.Aだけ接続した場合より2倍明るくなる
2.Aだけ接続した場合と比べて明るさは半分になる
3.どちらもほとんど変わらない
正解:3.どちらもほとんど変わらない
解説:接点Aの接触面積だけで十分に電流が流れる仕様なので、接点BがAの2倍の接触面積を持っているとしても電流や電圧が2倍になるわけではありません。例えると、水道パイプの途中を一部大きく膨らませたからと言って蛇口の先から何倍も水が出るようなことがないのと同じことです。ですから明るさは2倍になるようなことはなくA,Bどちらのスイッチでもほぼ変わりません。ということは電池の消耗具合も変わりません。
次の問題です
問2.電池と電球は先の質問と同じものを使います。スイッチC、つまり接点Cは接点Aの半分の接触面積です。このスイッチCをつなぐと電球の明るさはスイッチAを入れた時の標準の明るさと比べてどうなりますか?次の3つの中から選んでください。
1.Aより明るく光る
2.Aより暗くなる
3.ほとんどかわらない
正解:2.Aより暗くなる
解説:接点CはAの半分しか接触面積がありません。ということは電流が流れるのに必要な通り道である接触面積が足りない状態です。ですからその部分は「抵抗」になって電球に流れる電流が少なくなり接点Aを接続したときより暗くなります。これは、水道ホースの途中を踏みつけて管路の大きさを小さくすると、蛇口から出る水の量が減る状態と同じです。
さて、皆さんは正解できましたか?
なぜ、このような質問をしたかと言うと接触不良の問題に直接関係しているからです。問2は実は接触不良になるとどういうことが起きるかということを理解するための問題です。そして、最初にした質問、「強力な接点復活剤を使うと電気の流れが良くなって懐中電灯の電池が早く消耗すると思いますか?」を解くカギになります。
接点復活剤の誤解や間違いが起きるわけとは
接触不良を接点復活剤で改善するということはいったいどういうことなのかを、前のA,B,C接点の話で考えてみます。
接点Aの状態を正常な状態とします。接触不良の状態というのは接点に付着したほこりや錆、酸化被膜などが電気の通り道を邪魔して必要な接触(導通)面積が足りなくなる状態です。つまり接点Aの半分の接触面積である接点Cと同じような状態になります。ですから電球の明るさは暗くなります。そこで、接触不良を接点復活剤で改善したとします。すると、接触面積が戻り接点Aの正常な状態になります。電球の明るさは元の明るさに回復します。
明るさが回復するのは確かですが、元の明るさより明るくなるわけではありません。単に元に戻っただけです。ましてや性能がアップしたわけでもありません。ところが、人間は物事がプラス方向に改善すると、元に戻っただけなのに「何かが起きたんだ」「すごいNASAの極秘技術か?」とか、どうかすると「奇跡が起きたのではないか」と思ってしまいます。
ですから、非常に状態が悪い接触不良個所に強力な接点復活剤を使うことで劇的に改善してしまうと、電気の流れまでもがウルトラスーパー良くなって電球の明るさもアップしたのでは?という勘違いが起きます。そして電池もその分モリモリ早く消耗するかもという誤解が生じることになります。しかし、問1で示したように接触面積を2倍にしても何かが2倍になるようなことはありません。導通面積を満たせばそれ以上何も起きないのです。
また、強力な接点復活剤を使用すれば性能がアップするのではないか?という勘違いは、お金を払った以上は元に戻すだけじゃなくそれ以上のパワーアップを期待しているからに他なりません。しかし、接点復活剤は「復活剤」であって「増強剤」ではありません。機器の性能を増強したりはしません。接点復活剤は、電気回路の接点を清掃して、電流がスムーズに流れるようにするものです。そのため、機械の性能を向上させる効果はありません。
接触不良が起きていない正常な状態の接点にいくら使用してもそれ以上のことは何も起きるわけがないのです。なぜかは先ほどの「問1」の問題で示しています。しかし、接点復活剤を塗りまくって「効果がない」「プラシーボだ」と散々言っているネットのレビューなどを良く見かけます。
例えばLANコネクタに塗ってネットの回線速度が上がらないとか、CPUやメモリに塗ってPCのベンチマークが向上しないだとか・・・それはまったくナンセンスな話で物事をよく理解していないことを自ら公表しているようなものです。高いお金を出して買った接点復活剤なのに性能が上がらないといっているのは、窓ガラスが透き通るようになるという高い洗剤を買ったのに手がガラスをすり抜けないじゃないかと言っているようなものです。
また、接点がすでに故障していたり、復旧改善できないほどのダメージがあって機能を失っている状態に使用し「効果がない」と言っているパターンもあります。そんなのはそもそも接点復活剤ではどうにもなりませんし本来その役目ではありません。
これは接点復活剤の話に限りません。「パソコンが速くなる」「パソコンをクリーンにする」などという詐欺ソフトに簡単に騙されてしまう背景も同様な心理があるからなのです。また、自動車用品では顕著でエンジンがパワーアップするというアイテムやグッズに消費者は無駄に一喜一憂しています。
簡単なようで意外とわかっていない接触不良の原理
最後に、接触不良がどのくらいデメリットになっているかを知るために次の質問をしたいと思います。接触不良のまま機器を使い続けると電池の消耗はどうなるのでしょうか?
問3.接触不良の状態つまり接点Cで電球が暗くなる状態の場合、電池の消耗はどうなるのでしょうか?
1.接点Aをつないだ時よりも電池はすぐに消耗する
2.接点Aをつないだ時よりも電池が長持ちする
3.ほとんど変わらない
4.接点Aをつないだ時よりも多少早く消耗する
正解:4.接点Aをつないだ時よりも多少早く消耗する
解説:接触不良の状態(接点C)では、前述のように電球は暗くなります。よくあるのは、暗いのでその分電池の電気をあまり消費しないから乾電池は長持ちするという誤解です。接触不良を起こして電球が暗くなるのは接触不良個所(回路図で言う接点C)が抵抗になるためだと前に言いました。その部分は電気の通り道が狭くなるので「抵抗」になります。
電気が抵抗を通る際には電子が狭いところで「おしくらまんじゅう」をするため摩擦を起こし「発熱」します。人間も真冬におしくらまんじゅうをすると暖かくなりますね。スイッチ部分が異様に熱くなる機器がたまにありますが、多少接触不良を起こしているか機器の設計がよろしくなかったりする場合があるからです。
要するに電球が暗くなる原因というのは接触不良が起きている部分、つまり「抵抗」部分が発熱することで電気が横取りされて消費されてしまうからなのです。ということは電球の明るさが暗いからと言って電池の消耗が少なくなっているということではありません。接点と電球双方で電気を消費していることになるので電池が長持ちすることはないということです。
接触不良になると必要な電流電圧が得られないため機器は電池が完全に消耗する前に動かなくなります。ということは、機器の性能を十分に活かしきれないばかりか、接触不良部分の発熱で奪われた電池の容量分を損してしまうことになります。二重のロスを発生させてしまうことになるわけです。
ですから、電気の接点は定期的なメンテナンスが必要です。接触不良を無くすことによって電力消費が改善し本来の機器の性能も維持されて正常な状態で使うことが可能になります。接触不良は電気で動く機器にとって百害あって一利なしと言えるでしょう。