『マージン・ミックス』、ほとんどの人が知らない戦略的・活用術【商人舎magazine7月号】原稿
文:新谷千里/サミットリテイリングセンター
スーパーの営業利益が伸びない根本原因は、売上・作業・人材育成を利益につなげる管理の仕組みに潜んでいます。
低い生産性や「人が育たない」状態を、個人の努力不足だけで片づけず、数値と現場の事実から見直すことが、業績の低位安定を抜け出す第一歩です。
「売上はあるのに、営業利益が残らない」
「従業員は毎日忙しいのに、生産性が上がらない」
「何度も教えているのに、人が育たない」
こうした問題が続くと、
「競争が厳しいから」
「人手不足だから」
「本人の意識が低いから」
と説明したくなります。
もちろん、商圏の変化や仕入価格の上昇など、外部環境の影響はあります。
しかし、それを考えているだけでは、自社で変えられることが見えません。
私が経営改善で重視しているのは、
「その結果を繰り返し生んでいる仕事の仕組みの真因は何か」という視点です。
本稿では、営業利益・生産性・人材育成の問題を、根本原因から考える方法を解説します。
以下の事例・数値は、問題の構造を説明するための、私が多くの現場で経験したことの仮定例であり、特定企業の実績ではありません。
目次
1.根本原因とは?「困っている状態」と「変えるべき仕組み」を分ける
3.生産性が低い事例――人が足りないと言いながら、手間を増やしている
4.人が育たない事例――「教えた」と「できる」を混同している
1.根本原因とは?「困っている状態」と「変えるべき仕組み」を分ける
根本原因とは、問題を繰り返し発生させている背景にあり、そこを変えることで再発を減らせる原因のことです。
例えば、惣菜の売れ残りが多い場合、「作り過ぎ」は直接的な原因の一つです。
しかし、それだけでは、翌日も同じことが起こります。
さらに調べると、製造数量がPOS実績の活用ではなく、ベテラン社員の経験値(感)で決まり、曜日・天候・時間帯別の販売状況などが反映されていないかもしれません。
また、販売途中で製造数量を見直す担当者の判断基準も決まっていないかもしれません。
この場合、改善すべき対象は、製造数量の決め方と途中で修正する仕組みです。
「ロスを減らせ」と指示するだけでは、ロスが生まれる仕組みは変わりません。
ただし、根本原因は必ず一つとは限りません。
商品のおいしさ、価格、売場の展開場所(時間)、製造時間なども確認し、仮説を「現場でおこっている事実」で確かめる必要があります。
2.営業利益が低迷する事例――売上が増えても、利益が減る
売上目標の達成だけで、販促を評価している
あるスーパーが、特売を増やして売上を伸ばしたとします。
しかし、値下げで粗利益率が下がり、追加の製造・補充・レジ対応によって経費も増えれば、営業利益は減ることがあります。
次の月次損益は、その構造を示す仮定例です。
【 項 目】 【特売拡大前】 【特売拡大後】
①売上高 1億円 1億300万円
②粗利益額 2,500万円 2,530万円
③販売費・一般管理費 2,400万円 2,460万円
④営業利益 100万円 70万円
売上は300万円増えましたが、粗利益の増加は30万円です。一方、経費が60万円増えたため、営業利益は30万円減っています。
ここで「もっと売れ」と指示すると、利益を圧迫する販促をさらに拡大するおそれがあります。
根本原因は、販促の判断基準に利益と追加コストが入っていないこと
売上だけで評価されるバイヤーや店長は、売上を作る行動を優先しやすくなります。
これは、個人の意識だけでは解決しにくい問題です。
改善には、販促ごとの粗利益額、値引き・廃棄、追加作業時間を確認し、関連商品の販売への効果も含めて検証することが必要です。
営業利益の基本式は、次の通りです。
営業利益=売上総利益(粗利益)-販売費・一般管理費
経営者が問うべきなのは、
「いくら売れたか」に加えて、
「その売上によって、最終的にいくら利益が増えたか」です。
3.生産性が低い事例――人が足りないと言いながら、手間を増やしている
補充の回数と移動が増え、売場を見る時間がなくなる
日配部門で、従業員がバックヤードと売場を何度も往復しているとします。
商品の保管場所が定まらず、台車への積み方も担当者によって違い、売場に着いてから補充順を考えています。
品出しが終わらないため、残業が増えます。
それでも夕方の売れ筋商品は欠品し、お客さまの買いたい商品がありません。
この状態で「もっと速く動いてほしい」と求めても、移動・探す時間・手戻りは残ります。
根本原因は、作業を始める前の準備と段取りが設計されていないこと
確認すべきことは、保管位置(定位置管理)、補充順、台車の積み方、時間帯別の役割分担です。
売れる時間に必要な商品が並ぶよう、補充計画と人員配置も合わせます。
その土台になるのが、3Sです。
・標準化: 保管位置(定位置管理)、作業手順、仕上がりの基準をそろえる。
・単純化: 不要な移動、重複する確認、手戻りを減らす。
・専門化: 技能や役割に応じて作業を分担する。
技能が必要な作業は担当者を明確にし、標準化できた作業から複数の人が対応できるようにします。
生産性は、単に作業が速いことではありません。
投入した労働時間に対して、どれだけ売上や粗利益などの成果を生み出したかを見るものです。
人時売上高だけでなく、人時粗生産性(利益高)、欠品、鮮度、売場の状態を併せて確認します。
人を減らして数値だけが上がっても、欠品や品質低下が増えれば、継続的な利益改善にはつながりません。
4.人が育たない事例――「教えた」と「できる」を混同している
新人が、教える人によって違う指示を受けている
鮮魚部門の新人に、ある先輩は「見栄えを優先して」と教え、別の先輩は「とにかく早く」と教えています。
加工量や盛り付けの基準も曖昧で、新人は何を優先すべきか判断できません。
失敗するたびに注意され、やがて指示を待つようになります。
管理者は、その姿を見て「主体性がない」「覚えが悪い」と評価します。
しかし、本人が目指すべき到達点は、明確だったでしょうか。
根本原因は、教育内容と習得の確認方法がそろっていないこと
人材育成では、少なくとも次の四つを決めます。
①何ができれば合格か :品質、衛生、数量、時間などの基準。
②どの順番で覚えるか :作業を段階に分けた育成計画。
③誰が教え、誰が確認するか:指導と確認の担当者。
④ いつ振り返るか :実作業を見て確認する日程。
例えば、刺身の盛り付けであれば、完成写真、内容量、盛り付け手順、衛生上の注意点を共有します。
「説明する→見本を見せる→本人が実施する→基準に照らして確認する」
という流れで、習得を確かめます。
指導は、「遅い」ではなく、「器を取りに行く往復が増えているので、開始前に必要数を準備しよう」のように、本人が変えられる行動へ落とし込みます。
評価も、できなかった点の指摘だけで終わらせません。
できるようになった作業や改善の工夫を認め、次の役割につなげます。
教育を受けた回数と、独力で基準通りに仕事ができることは別です。
5.経営数値が低位で安定する事例――会議はあるが、改善が積み上がらない
毎月、同じ報告と同じ指示を繰り返している
会議では「粗利益率が低い」「残業が多い」「在庫を減らそう」と報告されます。
しかし、担当者、期限、具体的な変更内容、確認方法が決まっていません。
翌月も同じ問題が報告され、管理者は再び「徹底してください」と伝えます。
こうした状態では、現場の努力が改善成果として残りにくくなります。
根本原因は、改善を完了させる管理の仕組みがないこと
会議で決めるのは、掛け声ではなく、次の行動です。
例えば、「惣菜のロス削減」なら、
①チーフが翌日から対象品の製造数量と時間を見直し、
②日別の販売数・値引き・廃棄・欠品を記録して、
③1週間後に店長と確認する、と決めます。
私が重視するD-CAPは、Do(まず実行)→Check(確認)→Action(改善)→Plan(次の計画)の順で、現場の実践から次の計画を作る考え方です。
①実行した結果を確認し、うまくいけば標準に反映する。
②うまくいかなければ、原因の仮説や方法を見直す。
この積み重ねが、経営数値の改善につながります。
6.根本原因を見つけるために、経営者が行う五つの手順
① 問題を、比較できる数値と現象で表す
「利益が悪い」ではなく、
「売上は前年並みだが、惣菜の粗利益額が減り、残業時間が増えている」のように絞り込みます。
曜日、季節、特売など、比較条件の違いも確認します。
② 数値を部門・商品・時間帯に分ける
店舗全体の平均だけでは、問題の場所が分かりません。
POSデータ、発注・製造記録、勤務実績を突き合わせ、どこで利益や時間が失われているかを探します。
③ 現場で仕事の流れを見る
数字から立てた仮説を、実際の実地作業で確かめます。
「何を探しているのか」
「なぜ戻るのか」
「何を基準に数量を決めたのか」
を、担当者と確認します。
④ 原因の仮説に合う対策を、小さく試す
保管位置が原因なら位置を変え、数量の決め方が原因なら基準を変えます。
一部の商品や一つの部門で試し、変更内容と結果を記録します。
一度に多くを変えると、何が効いたのか分かりにくくなります。
⑤ 効果と副作用を確認し、標準に反映する
ロスが減っても欠品が増えていないか、
作業時間が短くなっても品質が落ちていないかを確認します。
効果が確認できた方法は手順書と教育に反映し、継続して結果を追います。
「なぜ」を繰り返すことは有効ですが、最後に「本人の意識が低い」で止めてしまうと、具体的な対策が作れません。
判断基準、情報、権限、教育、確認方法まで調べることが大切です。
7.営業利益改善に向けて、追うべき指標を絞る
最終的な成果を示すKGIには、営業利益額や営業利益率を置きます。
その達成に向けた日々の管理指標がKPIです。
人時生産性は、粗利益額÷投入人時(労働時間)で求めます。
総労働時間には、正社員、パート、アルバイトの実績を同じ範囲で集計します。
課題に応じたKPIの組み合わせは、例えば次のようになります。
・利益の課題 : 粗利益額と、値引き・廃棄による損失。
・生産性の課題 : 人時生産性と、作業時間・残業時間。
・販売機会の課題: 売れ筋商品の欠品発生件数と、発生時間帯。
・育成の課題 : 基準通りに独力で実施できる作業の数と、習得までの期間。
率を使う場合は分母を明確にし、期間や対象範囲をそろえます。
指標は増やし過ぎず、その数字を見て現場が何を変えるかまで決めてください。
8.低位安定から抜け出すには、経営者自身の判断基準を変える
営業利益の低迷、生産性の低さ、人が育たない状態は、別々の問題に見えて、つながっています。
段取りが悪ければ教育の時間を確保しにくくなり、育成が進まなければ仕事が特定の人に集中します。
管理者が目先の対応に追われると、利益の検証や作業の改善が後回しになります。
この循環を変えるには、経営者が
「売上だけで評価する」
「忙しさを頑張りとみなす」
「教えたからできるはずと考える」
という判断を見直す必要があります。
「もっと頑張れ」と求める前に、
「頑張りが成果につながる仕事になっているか」を確認してください。
まずは一つの部門、一つの作業から、結果と仕事の仕組みを結びつけてみる。
その小さな検証を積み重ねることが、営業利益を伸ばせる経営体質づくりの出発点です。
■よくある質問
Q.スーパーの営業利益が伸びないとき、最初に何を確認しますか?
A.営業利益を粗利益と販売費・一般管理費に分け、どちらが、どの部門で変化したかを確認します。そのうえで、商品別の販売・ロスと現場の作業実態を照合します。
Q.生産性を高めるには、人を減らす必要がありますか?
A.まず、不要な移動、探す時間、手戻りを減らし、売れる時間に合った配置を検討します。
削減できた時間を教育や訓練に回す選択肢もあります。
人員の判断は、品質・欠品・利益への影響を確認して行います。
Q.人が育たない職場では、何を見直すべきですか?
A.作業の合格基準、教える順序、指導担当者、習得の確認方法を見直します。
本人の課題も具体的に把握し、実作業を通じた指導と振り返りを行います。
営業利益・生産性・人材育成の改善をご相談ください
サミットリテイリングセンターでは、スーパーマーケットの売場とオペレーション、数値管理、人材育成を結びつけた経営改善を支援しています。
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と感じる経営者・管理者の方は、サミットリテイリングセンターのホームページの相談窓口からお問い合わせください。
■サミットリテイリングセンター代表 新谷千里
スーパーマーケットの営業利益改善、業務改善、売場づくり、管理者育成を支援する経営コンサルタント。
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